第472回:帯域制御とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 帯域制御とは、「ある回線上で、その回線を使っているユーザーが誰か、サービスやアプリケーションは何か」など、その利用状況などを区別し、事前に掲げた基準に応じて、そうした利用に対する通信速度やデータ転送量をコントロールすることです。

 携帯電話やモバイル通信だけに限った話ではなく、インターネットなどの公共のネットワークや、プライベートなネットワークでも行われています。

 最近、特にこのキーワードが取り上げられるようになったのは、モバイル通信を含むインターネット全般において、ヘビーユーザーが通信量の急速な増加をもたらす要因の1つとなっていると考えられているためです。そのため、インターネットサービスプロバイダー(ISP)などが帯域制御を実施するようになりました。

 ISPや携帯電話事業者、MVNOといった通信事業者が帯域制御を行う際の指針である、「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」という資料(日本インターネットプロバイダー協会、電気通信事業者協会などの共同発行)によれば、全体の約1%のユーザーが「ISPからインターネットに接続する帯域」の50%を消費しているという調査結果もあります。

 このように一部のヘビーユーザーによって通信帯域が占有されてしまうと、他のほとんどの一般ユーザーを含め、全体の通信速度が低下してしまうことになります。このような現象を回避して、全てのユーザーがネットワークを問題なく利用できる環境を確保するために、通信事業者は帯域制御を行っているのです。

モバイル通信・携帯電話での帯域制御の実際

 モバイル通信や携帯電話といった移動体通信サービスでも、「通信速度の制限」という形でいくつかの事業者が帯域制御を行っています。「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」では、このような制御をする場合、帯域制御の内容を具体的に周知することが定められており、各事業者は、ホームページなどでその内容を告知しています。

 2010年6月現在、制御が実施される目安を見てみると、NTTドコモの場合、定額制データ通信利用時に「当日を含む直近3日間のパケット通信量が300万パケット以上」を基準として、これ以上通信するユーザーに対して通信速度を低下させることがあるとしています。また、一定時間内または一回の接続で大量のデータ通信があった場合、あるいは長時間接続した場合、一定時間内に連続で接続した場合は、その通信が中断されることがある、としています。

 KDDIの場合、パケット通信料定額サービスへの加入にかかわらず、前々月の1カ月間で300万パケット以上通信すると、21時~翌日1時の時間帯に通信速度を制限するとしています。

 ソフトバンクでは「パケットし放題」「パケットし放題S」「パケット定額ライト」「パケット定額」の場合、前々月の月間パケット数が、300万パケット以上(PCサイトブラウザ、PCサイトダイレクト利用時は1000万パケット以上)、「パケット定額フル」の場合、1000万パケット以上になると、1カ月間、これらのパケット定額サービスが適用されるパケット通信では、速度制御することがあるとしています。ただし、通信の切断は行われません。

 イー・モバイルは、「EMモバイルブロードバンド」「EMnet」、それにプリペイドサービスの「EMチャージ」で前々月の月間データ通信量が300GB以上であったユーザーを対象に、通信速度を制御していましたが、6月に新たな方針が発表されています。それによれば、2010年8月24日以降は、計測の単位が変わり「24時間ごと」に300万パケット以上、これらのデータ通信を利用すると、当日21時~翌日2時まで通信速度の制御を行う、としています。

 なお、300万パケットはバイトに換算すると約366MB、携帯電話では着うたフル約250~300曲分に相当するデータ量(KDDI発表資料による)になります。また、1000万パケットは約1.2GBで、CD-R換算では約1.7~2枚分に相当するデータ量です。

 MVNOについても、回線卸元の実施する帯域制御によってMVNOユーザーに制御の影響がある場合は、適切に周知する必要がある、とされています。

 たとえば日本通信のb-mobile SIMの場合、利用しているドコモの回線と同様で、当日を含む直近3日間のパケット通信量が300万パケット以上となるユーザーについては、「それ以外のユーザーより通信の速度を制限する場合がある」としています。

現在は「総量規制方式」、そのほかの方法も

 ここまで具体例として挙げたように、国内の携帯電話事業者では、帯域制御は、個々のユーザーの通信量を測定して、特定の期間に一定量を超えたユーザーに対して通信速度を抑えるといった手法で通信量を制御する「総量規制方式」という手法が主になっています。

 一方、ISPなどでは、他の手法も利用されています。たとえば、アプリケーション規制方式と呼ばれる方式がその1つで、これは、特定の利用方法や特定のソフトの通信を制御するやり方です。具体的には、たとえば、P2Pというクライアント同士でデータ交換を行う仕組みのファイル交換ソフトの通信量が多いので、パケット内のそのソフトに特徴的なデータや、通信ポートの利用を検知した場合、通信速度を低下させるということが実際に行われています。ドコモでも、定額データ通信サービスで利用できない通信があるとしており、たとえばパケット通信で音声をやり取りできるVoIPサービス(SkypeやGoogle Talkなど)、オンラインゲームなどが利用できません。

 なお、日本国外の場合、国によって帯域制御に関する取り決めが違ったり、あるいはなかったりすることがあり、ヘビーユーザーの帯域占有に対する対応はさまざまです。予告なく通信速度の低下、遮断を行うケースもあります。また、帯域制御ではなく、たとえば、米AT&Tのようにスマートフォン向けの定額制プランを廃止して、データ量の増加を防ごうというケースもあるようです。

 



(大和 哲)

2010/6/22 12:02