第444回:多孔質セラミックス とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


変幻自在に性質を変えるセラミックス

 「多孔質セラミックス」とは、内部に無数の微細な孔(あな)が空いている“ファインセラミックス”のことです。

 セラミックスとは、粘土などの無機物を焼いて固め、その性質を変化させた物質のことです。高温を使って材質を固め、その性質を変えることを「焼成」といいます。いわゆる縄文・弥生式土器の言われるようなものから、有田焼きや伊万里などの陶器など古くからセラミックスは作られてきました。

 近代に入ってからは、アルミナ(酸化アルミニウム)やジルコニア、炭化ケイ素といった精製された材料を使って、形状や工程などを精密にコントロールして製造することで、新機能や新特性を持たせたセラミックスが作られるようになりました。このようなセラミックスは“ファインセラミックス”と呼ばれています。

 セラミックスで使う材質は焼成すると、その粒と粒が焼き固まる「焼結」と呼ばれる現象が起こります。ファインセラミックスは、使用する原料の種類や粒子の細かさ、焼き方などを変えることで、それぞれ硬度、耐磨性、耐熱性、耐食性、導電性など、さまざまな特性を持たせられることが大きな特徴のひとつです。

 たとえば、ジルコニアなど結晶粒子が小さい材質をぎゅっと焼き固めると、緻密に密接した形で焼結されます。その結果、ステンレスよりも硬いにも関わらず、金属のように錆びたり溶けたりすることがない、便利な材質を作ることが可能です。

 逆に、焼成するときに、粒子と粒子の間に間隔をあけて焼き固めることもできます。粒子と粒子の間に間隔をあけて材質中に多くの孔(あな)が空くように焼結させたファインセラミックスが「多孔質セラミックス」です。

 たくさんの孔(あな)を持つということは、焼き固めて硬くなる以上に、便利な性質をもたらします。

多孔質がもたらす、便利な性質

 セラミックスに孔(あな)が空いていると、どのような性質になるのでしょう。多孔質セラミックスは、セラミックスの全体積中に占めるすき間の割合(気孔率)や孔(あな)の空き方などで、性質が変わってきます。

多孔質セラミックスの孔(あな)の空き方のよる性質の違いを模式的に示した図。貫通孔は、孔(あな)より小さいものだけを通す「フィルタ」となる。閉じた孔(あな)で構成されていると空気や液体だけでなく音や熱も通しにくくなる。入口(出口)のみが空いた孔は液体や気体を保つ

 たとえば、孔(あな)が材質を貫通しており、液体や気体がある程度通るようになっていると、このセラミックスは孔(あな)の直径より小さなものだけを通したり、吸い込んだりできる、という性質を示すようになります。つまり、セラミックスをフィルターとして使うことができるわけです。セラミックスを応用したフィルターは、たとえば水のろ過材などに使われています。紙のコーヒーフィルターなしで、直接コーヒーの粉を入れてお湯を注げば、美味しいコーヒーを楽しめる「セラミックコーヒーフィルター」などもセラミックスフィルターを使った製品の1つです。

 また、内部に孔(あな)はあるものの、外部に通じていない場合、このセラミックの中を何も通過することができず、熱や音も遮断するようになります。このようなセラミックスは、断熱タイルや防音材などに使うことができます。特殊な加工で、内部をほぼ真空にできれば、断熱性に優れたタイルを作ることもできます。こういった素材は、大気圏再突入時、高温にさらされるスペースシャトルの外装として使われます。

 その中間で、“貫通はしていないが、入口(出口)のある孔(あな)が多い”、つまりくぼみが多くあるセラミックスでは、くぼみで液体や気体などを吸い取ったり、保っていることができます。

F-02B

 最近では、香水をつけられるというNTTドコモのFOMA端末「F-02B」で、香水をつける「フラグランスパネル」で、多孔質セラミックスが使われています。

 香水は腐食性の強いアルコールが含まれるうえに、その性質上、非公開の成分が含まれており、金属に触れるのは好ましくありません。販売されている香水を見ると、ガラス瓶に入れて液体が触れる部分はプラスチックなどになっている場合がほとんどです。そこで、腐食に強い材質を使った、多孔質セラミックスが使われているのです。

 多孔質セラミックスは、製造の際に、材料をアルミナやコーディエライトなど、さまざまに変えたりできます。また、材質が緻密化しない温度を調整して焼成したり、有機高分子や水分を含むゲルを材質にまぜて焼成して孔(あな)を利用したりするなど、製造放送を変えることで、孔の数や大きさ、形などを変えることができます。その結果、「便利な性質」もコントロールできます。そのため、多孔質セラミックスは、目的に合わせて、身の回りの多くの場面で使われています。

 



(大和 哲)

2009/11/17 12:37