10日、テレコムサービス協会(テレサ協)とMVNO協議会が主催する講演会「モバイルビジネス市場の活性化」が開催された。総務省 総合通信基盤局事業政策課課長の谷脇 康彦氏、野村総合研究所(NRI)上級コンサルタントの北 俊一氏、インデックス経営戦略局局長兼技術局局長の寺田 眞治氏、日本通信常務取締役CFOの福田 尚久氏がそれぞれのテーマで講演を行なった。
■ 三田氏「今日から再スタート」
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日本通信の三田氏
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冒頭に挨拶を行なった、MVNO協議会会長、日本通信代表取締役社長の三田 聖二氏は「過去1年ほど隠れていたが、今日が再スタートの日」と述べ、MVNO関連の活動に注力していくことを示唆したほか、「モバイルビジネス活性化プランが発表されたが、これはMVNOができればよいね、と夢を語るものではなく、日本の政策として決定されたこと」と意気を上げた。
■ 総務省が「モバイルビジネス」を研究した理由
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これまでの流れ
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ARPUは減少傾向にある
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続いて壇上に立った谷脇氏は、9月21日に発表されたばかりの「モバイルビジネス活性化プラン」の概要を説明した。
これまでの流れを振り返ると、2006年6月20日にネットワークのオープン化などを含む通信業界の公正競争ルールの整備などについて検討を行なうよう、政府・与党が合意したことを契機に、同年9月に「新競争促進プログラム2010」と題し、モバイル市場のビジネスモデルを検証する方針を策定。そしてモバイルビジネス研究会が発足し、ようやく活性化プランとしてまとまったことになる。「新競争促進プログラム2010」は、近く改定される予定とのことで、活性化プランは、その一環として運用されることになる。
ここに来て総務省が携帯市場を活性化させようとしている理由について、谷脇氏は「携帯電話が普及し、PHSを含むと1億加入に達する状況。3Gは8割近くまで普及し、まさに世界に冠たるモバイル先進国だが、右肩上がりの成長期から伸びが鈍る成熟期になってきた」と語る。
同氏は、ARPU(ユーザー1人あたりの月間平均収入額)が、2001年度は8,200円を超えていたのに対し、2006年度は6,672円と減少傾向に歯止めがかからないとして、「高速通信が普及して、どう成長させるか、活性化のポイントの1つになる」と説明。また、各社のシェアを長期的に見ると、ほとんど変動がなく、電波が有限資源であることを考慮しても「携帯市場は寡占的な状況」との認識を示した。
つまり、市場に動きが少なくなり、ユーザーが携帯電話利用に支払う額が減ってきていることが「活性化が必要」との判断を導いたことになる。谷脇氏はコンテンツ市場のうち、携帯向け配信が2004年時点で市場全体の2.3%に留まっていること、そして法人市場に潜在性が認められることなどを挙げ、この分野の活性化の必要性を訴える。
総務省では、携帯市場を端末・ネットワーク・通信サービス・プラットフォーム・コンテンツ/アプリケーションという5つのレイヤーに分離するという考え方を基本に据えている。その理由として、谷脇氏は「現状は垂直統合でクローズド。垂直統合が悪とは考えていないが、モバイルビジネス研究会報告書の副題にしたように、『オープン型ビジネス環境』がキーコンセプトになると思っている。固定網は各レイヤーがオープン。今までの携帯市場は、いわばデパート型。オープン環境はブティック型。両方あったほうが多様なビジネスモデルの誕生に、活性化に繋がり、最終的に消費者の利便性向上に繋がる」と述べた。
■ 奨励金とSIMロック、総務省の考えは?
モバイルビジネス研究会で話題になった販売奨励金については、「奨励金は、ARPUの1/4を占めているが、携帯以外にも奨励金モデルがあり、『悪いもので廃止すべき』とは考えていないし、その権限もない。奨励金のおかげで、ハイエンド端末が入手しやすくなり、サービスとバンドルされることで、新機種での新サービス導入が実現できたのも事実」と、その功績を認める。
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総務省の谷脇氏
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その一方で、「成熟期では販売モデルの見直しが必要だろう。現状の形では、通信サービスと端末が一体となって、端末がいくらか、通信サービスがいくらか不透明だ。また長期間買い換えない人と短期間で機種変更する人、ヘビーユーザーとライトユーザー、ハイエンド端末ユーザーとローエンド端末ユーザーの間に不公平感がある。これは一般ユーザーにも認知されてきたのではないか。もちろんキャリアにとってはクリティカルな部分で料金プランは押しつけられない。そこで要請することになった」と述べ、2010年に改めて議論するとした。
また会計上は、奨励金が営業費用として計上され、MVNOなどに向けた回線卸料金・接続料に上乗せされているため、会計規則を見直し、通信サービス関連の奨励金はそのままで、端末販売にかかる奨励金だけは分離する方針になると説明。ただし、「奨励金のうち、端末分と通信サービス分をどう分けるかという点も課題。今後議論して方針を出す」と述べた。
SIMロックについては「料金プランに関して、2年契約など期間付き契約は問題ないという見解を示している。端末を一定期間利用することが前提にあれば、奨励金はその期間で回収され、SIMロックすることの意味がなくなる」と述べ、今後、SIMロックが意味をなさなくなるとの認識を示した。
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奨励金は、通信サービスと端末販売に分離
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谷脇氏は「SIMロックは2010年に解除の方向」と述べた
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谷脇氏は「SIMロックは、原則解除が望ましいが、現時点で行なってもドコモ・ソフトバンクとauが異なる通信方式で競争を歪める可能性がある。また、W-CDMA間だけで実現しても利用できるサービスが音声通話とSMS程度になると聞いている。原則解除とは言え、検討課題はあり、慎重に見極める必要がある」としながらも、「モバイルビジネス活性化プランでは、2010年時点でSIMロック解除を義務化する方向で結論を出す考え」と、3年後にはSIMロック解除を義務づける考えを示した。
■ MVNO受入計画が「周波数割当の原則」
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今後のロードマップ
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MVNO関連の説明において、谷脇氏は「周波数割当では、MVNOを受け入れる計画があるかどうかということを原則にする。2.5GHz帯の割当はその試金石と位置付けている。今後、新規システムの割当には、同じような発想をとっていきたい」とした。
また、各レイヤーのうち、「プラットフォームレイヤー」の役割を「課金・認証にかかる部分」と定義し、「モバイルビジネス研究会では最終結論が出ていないが主要な課題。NGNでもセッション制御や認証セキュリティなどが含まれ、FMC(固定・移動の融合)サービスでもシームレスな連携に必要。1つ考えられるのは“IDポータビリティ”だ。GPSを使った情報やプッシュ配信などもMVNOが利用できるようになれば、サービスが多様化するのではないか。プラットフォームのあり方は、特に注力して検討していきたい。今年度中に、新しい研究会を開催したい」とした。
端末プラットフォームについては、各キャリアが独自規格の策定を進めていることに対し「動向を注視する。そこに手を入れるのは出過ぎ。ただ、SIMロック解除を踏まえて、コンテンツの記述言語などは議論対象になり得るだろうが、現時点で確定的な考えはない」とした。ただ、IP化対応後の相互運用性確保という点からテストベッド(実験・検証設備)については、来年度の予算案で要求しているという。
■ DisneyやESPN、期待の海外MVNOはなぜ撤退したか
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北氏の示した資料。米国ではMVNO撤退事例が相次いだ
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北氏からは、モバイルビジネス研究会最終会合で紹介されたMVNO市場規模のデータが、寺田氏や福田氏からは、実際に手掛けているMVNO関連サービスの事例が紹介された。北氏や寺田氏の講演で話題になったのは、米国でのMVNO事例で撤退が相次いだことだ。
米国では、若年層向けMVNOとして著名になりつつあったAmp'd Mobileが6月に破産法を申請し、年内には家族向けサービスを掲げたDisney Mobileが撤退予定を表明。同じくDisney傘下でスポーツファン層向けMVNOだったMobile ESPNは2006年末に撤退している。
これらの事例について、北氏は「欧州では小規模なMVNOが活発で、そのCEOたちと話をすると必ずESPNの話題になるが、『あれは例外だ。MVNOがダメなのではなく、彼ら(Disney)がダメだった』と言う。マーケティングも端末調達もダメだった。単品販売とネットワークサービスは本質的に異なり、最後まで責任を持って面倒見ることが必要。Disneyのやり方を見ているとそう思う」と語り、手法に問題があったとの認識を示した。
インデックスでは、欧州でMVNE事業を展開しており、寺田氏は、「DisneyやESPNは、我々から見ると失敗して当然。ブランドだけではビジネスできない。それを活かして何のサービスをするのか。これじゃ面白くない、使えないというMVNOは失敗する」と、北氏と同じ考えを示した。Amp'd Mobileについては「Disneyとは理由が別。利用動向は比較的良かったが、課金の仕組みが機能しておらず、利用料の回収がまともにできていなかった」と説明した。
■ MVNOは成り立つのか
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NRI北氏
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国内でのMVNO事業の採算性について、北氏は「ちょうど2年前にもMVNO協議会のイベントで講演したが、結局変化なかった。当時は、旧ボーダフォンが英国本社から『儲かるなら問題なし』と言われ、MVNO担当部署ができて交渉がスムーズに進み、まとまりそうとの話を聞いていた。そこで前回講演時には『MVNOが始まるな』と思っていた。ところが、ソフトバンクによる買収で全ていったん白紙となり、本日に至ると……」と、2006年で大きく事情が変わったと説明した。
「MVNOは本当に儲かるのか、成り立つのかと懐疑的な見方が出てきている。欧州のVirginが400万契約で、それほどの大物はなかなか出現してこないが、欧州でのMVNOプレーヤーは増えており、活性化に意味があるのは間違いない。個人的には、携帯ゲーム機やデジタル音楽プレーヤーへのモジュール搭載に期待している。欧州のMVNO事業者と話をすると、法人向けやブランド力のあるコンテンツでのMVNOなどのジャンルは日欧ともにあるが、携帯ゲーム機などは日本だけ。たとえば“DSケータイ”が出ても、それで通話するとは思えないし、1台目としての置き換えは経済効果としてはプラスでもマイナスでもない。2台目、3台目の需要が狙えるだろう。1社でもまとまれば、MVNO参入が相次ぐのではないか」と予測した。
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いくつか考えられるMVNOのサービス体系のうち、携帯ゲーム機などへの通信対応に期待できるという
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1社出れば、次々とMVNOに参入するとの見方が示された
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インデックスの寺田氏
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海外での事例
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寺田氏は、インデックスが手掛ける事例として、欧州でのMVNE事業を紹介。現地法人のIndex EuropeがM6というMVNOを支援しているとのことだが、M6では端末をテレビの通販番組で販売。端末がなければテレビ連携のサービスが受けられないとのことで「日本では法制度の都合上、同じようなことは難しいだろうが、M6は1年で100万契約に達し、ARPUも高い。放送と通信の融合、それぞれの強みを活かしている」と説明。
また、ドイツ在住日本人向けのMVNO事業者というberry mobile(ベリーモバイル)とは、資本的な関係はないものの、親密なパートナーとのことで、「契約数が約1万あればビジネス的には軌道に乗り、採算ラインに届くと聞いている。日本でどうなるかわからないが、我々の試算でも、何十万ユーザーが必要とは思えない」と説明した。ただ、同氏は「MVNOだけ、MVNEだけでは難しい。無線LANやWiMAXなどとうまく繋がっていかないとまずいと思う。最終的にユーザーがどう思うかがポイント」とも語っていた。
なお、寺田氏は、「今後、いくつかキャリアからMVNO開始と発表されるだろう。ただ、我々はその相当数が『MVNOではない』と見ている。つまり、MVNOとは企画端末ではなく、卸契約・回線接続が前提になる。少しネットワークに仕掛けが入って、キャリアが主導権を握らないMVNOが出てきそうな気配だが、我々(MVNO協議会)はそれをMVNOと認めたくない。そうしないと本来のMVNOがスタートする前に潰されかねないと思っている」とも述べていた。
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日本通信の福田氏
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このほか、日本通信の福田氏からは、プリクラ事業を展開するFURYUに対して通信網を提供する事業を展開していることが紹介されたほか、ウィルコムとの回線借受を例にして「現在、ウィルコムから月間8MBで3,000万円の2年契約という帯域幅課金で利用している。これでもウィルコムより回線利用効率を向上させればコストを安くできる。たとえば、自販機などに当社端末を取り付けてあれば、個人・法人が利用しない夜間に通信させて利用効率を上げられる。ドコモに対しても帯域幅課金を要望している。データ通信ならば、効率を高めていければ特殊な苦労をすることはない。IP化が進めば、音声通話もデータ通信と同じように成り立つだろう。ただし、ウィルコムに2年で7億2,000万円支払っており、端末調達分も考えれば、2~3億円ではMVNOに参入できない」と説明し、MVNO事業の展開にはある程度の資金が必要との考えを示した。
■ URL
テレコムサービス協会 講演会案内
http://www.telesa.or.jp/committee/mvno/20071010.htm
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(関口 聖)
2007/10/10 20:50
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