ケータイ Watch
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新CLIE、PEG-NR70はまったく新しいPDAライフを実現する?
山田道夫
1996年に開設したサイト「携帯電脳」を模様替えし、1999年1月スタートしたWeb&メールマガジン「MOBILE NEWS」編集長。モバイルノートPCからデジタルガジェットまで「小さくてデジタルなもの」にこだわった最新情報を提供している


右は開いた状態のPEG-NR70。左はPEG-T600C
 結局、発売日の3月23日にCLIE PEG-NR70を購入してしまった。『してしまった』というのは、何度か発表会やソニービルの展示などで触ってはいたが、ずっと購入を迷っていたからだ。さらに、PEG-NR70Vというデジタルカメラ内蔵モデルの発売が4月13日に予定されており、どうせならPEG-NR70Vにしようかと思っていたからでもある。

 PEG-NR70には数々のメリットがあるが、新しいコンセプトの製品ゆえに練り込まれていない部分も散見される。まだ5日ほど使っただけだが、筆者が見たPEG-NR70の長所と短所を簡単にご紹介しよう。なお、この原稿もマクドナルドのドライブスルーで、PEG-NR70とPDApex赤外線アダプタと小型のPS/2キーボードで入力したものが元になっている。

 PEG-NR70およびPEG-NR70Vの基本的なスペックなどはソニーのサイトなどを参照していただきたい。


CLIE PEG-NR70の長所

液晶は大型で非常に美しくなった。デジタルカメラによる撮影なため青みがかって見えるが、人の目にはもうちょっと自然な色合いに見える
 実際の使い勝手から言うと、最大の長所は液晶が大型なことだろう。ソニー製のソフトウェアでも、320×480ドットに対応しているのは、現状ではPhotoStandだけだが、シェアウェアのhrFontMapper(1000円)を利用することで、大画面で利用可能になるソフトウェアが増える。この文章も標準の「メモ」で320×480ドットで入力している。また、hrFontMapperを利用すれば、WebブラウザのXiinoでも大画面表示が可能となるので、Webブラウザの使い勝手は大幅に向上する。

 今後対応ソフトウェアが増えるに従って、グラフィックや写真の表示で威力を発揮すると思われる。液晶ディスプレイは、色味はやや青みがかっているが、PEG-T600Cなどとは異なり、赤が赤に見えないといったことはない。なかなか美しい発色であり、大きな液晶とあいまって人に見せられる画面になっていると思う。

 また、液晶が回転するギミックもおもしろい。私のPDA購入癖にすっかり慣れきってしまっているカミサンが思わず「かっこいい」と言ったくらいであるので、PDAに興味のない人をびっくりさせる場合などに有用だろう(これは、結構PDAを利用する場合は重要な要素だと筆者は思う。それで使い勝手が悪くなってしまっては本末転倒だが、遊びや驚きがある方が楽しいと思う)。また、液晶だけを表示できるようにも可能なので、ぼーっとブラウズするのにもなかなかいい感じだ。ただし、ハードウェアのボタンが利用できないので、使い勝手は今ひとつの部分もある。

 液晶ディスプレイが大きくより縦長になったことで、ソフトウェアGraffitiの下に、さまざまなリンクされたアイコンや情報アイコンが表示されるようになった。筆者は腕時計を付けなくなってずいぶん経つが、そんな筆者が時刻を知るために利用しているのが、携帯電話とPDAだ。Pocket PCでは、どの画面でも時刻を確認できたが、Palmデバイスやザウルスでは無理があった(Palmでは可能にするユーティリティソフトウェアもあったが、筆者の環境では動作が不安定になるため利用していなかった)。それが常時表示可能になっただけでも、筆者には使い勝手が大幅に向上したことになる。


回転するギミックは、我が家のカミサンご推奨のかっこよさ。液晶だけで完全に使えるように、ソフトウェアのボタンも欲しかったところだ PDAとしては大型のディスプレイに多数の文字を表示できる。視認性も非常に良い

 次に気に入ったのは、内蔵のキーボードだ。両手で筐体の底部を持ち、親指で入力する。慣れてくるとかなり高速な入力も可能だ(まあ、高速というのは手書きとの比較での話だが)。キーも親指での入力によく配慮されており、非常に入力しやすい。タッチタイプは筆者には無理だが、ちょっとしたメモなどではまったく困らない。Graffitiというよりは手書き嫌いの筆者にはまさに福音といえる。

 さらに、メモリースティックの有無や、バッテリーの状況がアイコンで確認できる。ここから、各種のユーティリティの設定にジャンプできればさらに使い勝手はよくなると思う。

 また、これはPEG-NR70だけではなく、PEG-Tシリーズでも利用可能だが、別売で乾電池アダプタが用意された。PEG-NR70は、バッテリーが持たないことでは定評があったPEG-T600Cよりもさらにカタログ値でのバッテリー駆動時間が減って10日ということになっている。これは、1日30分、バックライトオフでメモリースティックを内蔵しないという非現実的な状況で利用した場合のことで、連続駆動時間はたったの5時間ということになる。バックライトをつけないということは、一般的な状況では考えにくいので、かなり短い時間しか持たないと思われる。

 しかし、乾電池アダプタ(筆者の購入価格は3800円)を利用することで、バッテリーの充電だけでなく、PEG-NR70を利用しながらの充電も可能だ。充電池を日常的に使い、緊急時に乾電池を購入すればよく、いざというときは乾電池を買えばいいという安心感は普段使う上で大きいだろう。

 また、CPUがDragonball Super VZ 66MHzとなったことで、それなりの速度で利用可能なようだ。地図ビューアであるNY Pocketは、PEG-T600Cでは検索や地図のスクロールをすると、はっきりと遅いと感じるほどだったが、PEG-NR70では、やや遅いかなと思える程度になっている。液晶が大きくなっているのにもかかわらず、ほとんどのシーンでPEG-T600Cよりも高速な利用が可能なようだ。


乾電池アダプタが登場したことで、バッテリの持ち時間をあまり気にせずに利用可能になった。電源を消しての充電だけでなく利用しながらの充電も可能 この原稿をを書いた時のスタイル。液晶の角度が調整でき、結構見やすい。ただし、キーボードを使うとやはりPalmデバイスの入力の遅さが気になる

多少青みがかっている気はするが、非常に快適なディスプレイだ キーボードは押しやすく、非常に快適に入力が可能。今少し日本語の文字の入力に配慮してあればさらに良かったのだが

PEG-NR70の欠点

 まずは、なんといっても大きいことだろう。PDAをブラウザとして利用する場合、確かにある程度液晶などが大きい方が見やすいが、特に開いた状態では非常に大きな印象を与える。横幅もかなりあるので、手の小さな人などは持った時に横幅がありすぎるように感じるかもしれない。特に、液晶を開いてキーボードを利用している場合、かなり大きく見える。もっとも、筆者は数日使っていてあまり気にならなくなった。

 また、液晶ディスプレイだけの状態だとアプリケーションボタンやスクロールボタンなどが利用できない。Graffitiエリアを小さくしても、ソフトウェアによって代用したアプリケーションボタンを用意するべきだったのではないかと思う。ジョグダイヤルで代用できる場合も多いが、ゲームなどではどうしてもスクロールボタンを使いたい場合も多い。液晶ディスプレイだけの状態というのも、結構ブラウズする場合に使い勝手がいいので、今少しの配慮が欲しかったところだ。

 さらに、スタイラスが底部にあるため、ポケットなどから取り出す場合、スタイラスの羽根の部分を引っかけてしまうことがある。早くもその影響かどうか、筆者はスタイラスを紛失してしまった。クレードルに載せている時は、スタイラスが取り出せないため、あらかじめ外しておくか、別に用意しておく必要がある。

 また、BACKボタンが押しにくい。BACKボタンは非常に小さくかなり押しにくく感じる。さらに液晶の上部にややバックライトのムラが見られる。筆者などはこんなに大きな液晶だからしょうがないかなと思っているのだが、気になる人は気になるかもしれない。

 筆者の環境ではフリーズはほとんどないが、PEG-NR70系の掲示板を見ているとフリーズしやすいという人もいるようだ。まったく新しいハードウェアであるので、フリーウェアやシェアウェアが対応しきれていない場合も多いだろうし、また、細かなバグが残っている可能性もある。たとえば、筆者のお気に入りの画面底部の時刻やバッテリーの状態を表すアイコンがまったく変わらなかったりする場合もある。なんらかのソフトウェアを使った後に起きるような気もするのだが、原因はよくわからない。

 また、先ほど押しやすいことを長所として挙げたキーボードだが、キー配列はあまり関心しない。数字キーがNumキーを押すか、Fnとの組み合わせで入力しないといけないのは使いにくい。キーを1列増やすことも不可能ではなさそうに見えるので、ちょっと残念な部分だ。また、ワンタッチで数字キーにならないのもどうかと思う。Fnの位置も気に入らない。Ctrlキーのコンビネーションはほとんど使う機会がないと思うので、もうちょっと場所や大きさの配慮が必要だったと思う。セミコロン「;」が1キーで入力できるのに対して音引き「ー」がFn+Nというのはちょっといただけない。使用頻度を考えれば音引きを1キーで入力可能にするべきだったと思う。


筆者は慣れてしまったが、持った感じはかなり大きいと思わせる 片手で持った感じだとかなり横幅があることは気になる。キーボードで入力するのであれば両手打ちだろう

通信アダプタを使った通信を行なう

 発売前だが、通信アダプタをお借りすることができた。ちょっと使用してみた感想を簡単に紹介する。通信アダプタを付けると、その厚みと大きさにはさらにびっくりする。PEG-T600Cの場合も通信アダプタをつけるとかなり大きな気がしたが、大人と子供の親子を見ているようだ(色は違うが形態は相似形なので)。実際に持ってみると、PEG-NR70も通信アダプタもそれなりに軽量なのだが、合体させて持つと意外に重く感じられる。PEG-NR70を利用して通信を行ないたい場合というのは、立ちながら両手で持ってという場合も多いと思うのでちょっと心配になってくる。

 通信自体は特に難しいということはない。通信アダプタを介して行なう場合は、PHSカードを挿入した後、通信アダプタでBATT CHECHKを行えばいい。設定も通常インターネットへ行う設定を行なえばいいだけだ。クリエの場合、PEG-NR70で入力するだけでなく、PC側でも設定可能だ。PEG-NR70の場合はキーボードで入力できるので、さほど苦痛ではないと思うが、PC側で行っておいた方が簡単だろう。


通信アダプタをつけた状態だとさらに巨大だ。ちなみに、筆者の手はかなり大きい方だ PEG-T600Cにも通信アダプタをつけてみた。大人と子供くらいの差はある

 WebブラウザのXiinoは2.0となったが、今回より90日間の試用版に変更された。ソニーへの登録ユーザーには、2480円の優待販売も行なわれる(通常価格は2980円)。hrFontMapperと組み合わせることで、PDAとしてはかなり広大な表示が可能になる。もっとも、Webブラウザ自体はそれほど高速だとはいえないので、それなりに忍耐が必要かもしれない。今回よりXiinoは6万5000色表示が可能となり、液晶もなかなか美しくなったため、写真の美しさは特筆に値する(これまでがイマイチだったからという話もあるが)。テキストブラウズはかなり高速に可能なので、グラフィックを表示しないモードと使い分けた方がいいかもしれない。

 CLIE Mailはシンプルなメーラだがマルチアカウントに対応するなど基本的な機能は押さえている。キーボードの利用とhfFontMapperと組み合わせることで快適なメーラーとして利用可能だ。本体での利用だけのようなので、メモリースティックなどに多量にメールを保存したいというユーザーは、シェアウェアのメーラーなどを利用した方がいいかもしれない。


WebブラウザのXiino 2.0でhrFontMapperを利用して画面を広く使いケータイWatchを見ている。フレームがあると表示は崩れてしまう フリーウェアのテキストビューアPookは、まだ320×480ドット表示には対応していないがhrFontMapperを利用することで幅広い表示が可能 テキストの表示(hrFontMapperで小さなフォントに変更してある)やグラフィックの表示はなかなか美しい

どういった人に向くか?

細かなところだが、付属している画像ビューアPG Pocketのサムネイルは、PEG-T600C内蔵のものより実物に近く再現されるようになった。最下行時刻やバッテリーの状態(例では充電中)が表示される
 正直言って、この原稿を書いている時点では使い出してまだ5日目なので、使っていない機能がかなりある。音楽環境などもPEG-N750などとはまた異なり、MP3への対応の幅も広がっているので紹介したかったところだが、筆者がまだそこまでたどりついていない。

 ソフトウェアなどは、多少のバージョンアップを除けば基本的にPEG-T600Cとさほど変わっていないものばかりだと思う。もっとも、PG Pocketでサムネイルがよりわかりやすく表示されるなど、バージョンアップしたものは細かな改良が行なわれているようだ。ソフトウェアGraffitiは、なかなか面白いが、せっかくキーボードをつけたのだから、もう少しキーボードに配慮してもよかったかなと思う。ソニーの内蔵ソフトウェアが320×480ドットに対応していないのは残念なことだ。

 どういった人に向くかといえば、なんといっても、キーボード愛好者だろう。親指での入力だが、なかなか快適な入力が可能だ。閉じた時も多少大きいが、ディスプレイを開いた状態では、倍近く大きく見えるわけで、その大きさを許容できるかどうかというのは大きいと思う。

 なお、バッテリーは意外に持つ雰囲気だ。バックライトの輝度を最低にして2時間程度赤外線アダプタを通してPS/2キーボードで入力してみたが、バッテリーは3分の2程度になっただけのようだ。

 赤外線アダプタを介したキーボードからの入力は、液晶を見やすい角度に立てることができるので、やりやすくなっている。ただし筆者の場合、赤外線通信アダプタを使った入力そのものが、だんだん苦痛になってきている。Palmデバイスの場合は、やはり入力が高速というわけにはいかないという点が大きい。液晶の大きなPEG-NR70では、かなりの表示が可能なのだが。

 トータルして言えば、筆者はとても気に入っている。小型のキーボード利用により、またメモを頻繁に取るようになった。もはやキーボードなしのPDAは、筆者の場合は考えられないと思う。大型になった液晶の表示も美しく見やすい。しかし、だからといって万人に向くとは思えない。これまでのPalmユーザーにはなかなか気に入らないという人もいるかもしれない。しかし、キーボードが付属し大画面になっただけで買いという人も多いだろう。

 筆者が唯一後悔しているとすれば、PEG-NR70Vにすればよかったという1点だけだ。PEG-NR70Vにしてもデジタルカメラの解像度は大したことはないが、それよりもいつでもどこでも撮れる、それを大型のディスプレイですぐに見ることが可能だというメリットは計りしれないと思う。メモリースティックに保存しようとかなり時間がかかるようなので、当分、筆者はメモリースティックカメラでいいや、とイソップ童話の狐じゃないけれど自分をごまかすことにした。

 また、PEG-NR70の320×480ドットに対応したソフトウェアもわずかだが増えつつあるのも嬉しいところだ。筆者が知る限り、最初に公開されたのは、テキストビューアのCrosMeDocだったと思う。hrFontMapperがベータ版ながら対応したことで、画面を広く使うことができるソフトウェアが増えて、非常に使い勝手が良くなった。また、画面キャプチャソフトウェアは2つも対応していたりする。今後もますますの対応を期待したい。


テキストだけの表示であれば1画面でこれだけ表示できる これだけ表示できると、情報を読む上での使い勝手は大幅に向上する

・ Xiino 2.0製品情報(イリンクス)
  http://www.ilinx.co.jp/products/xiino/index.html

ソニー、キーボード搭載・大画面液晶が回転する新型CLIE

・ CLIE PEG-NR70/70Vニュースリリース(ソニー)
  http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200203/02-0311B/


(山田道夫)
2002/03/29 17:04

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