ケータイ Watch
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2002年

2001年

モバイラーズ★EYEタイトルGIF
同じ解像度でも、やっぱり液晶は大きい方が使いやすい
「NEC PocketGear」
山田道夫
1996年に開設したサイト「携帯電脳」を模様替えし、1999年1月スタートしたWeb&メールマガジン「MOBILE NEWS」編集長。モバイルノートPCからデジタルガジェットまで「小さくてデジタルなもの」にこだわった最新情報を提供している


非常に使い勝手が良いPDA

NEC「PocketGear」。スタイリッシュなデザインで大型液晶を搭載したPocket PC 2002機だ。3月15日発売予定で、店頭価格は5万8000円前後となる見込み
 何度か発売延期されたNECのPocketGearが、3月15日に発売されることになった。発表当時は液晶カバーが付いたスタイリッシュなデザインや、 当時としては比較的価格が安価なことなどから、ユーザー間でかなり期待が大きかったPDAだ。ただし、発売が延期されたこともあって、やや冷めてしまった人も多いのではないかと思う。PocketGearを買うつもりでいたが、待ちきれなくてGENIO eやjornada 568を購入してしまったユーザーもいるだろう。

 PocketGearは、SD/MMCスロットとCFカードType IIスロットを本体内に搭載し、3.8インチという、PDAとしては大画面の反射型TFT液晶ディスプレイを搭載していることが特長と言ってよいだろう。その一方で、競合機種では現在メモリ(RAM)容量がすべて64MBになっているのに対して、PocketGearでは32MB搭載という点を不満に思うユーザーも多いようだ。その他のスペックは、Pocket PC 2002をOSに搭載したマシンとしては標準的なものだ。

 筆者はiPAQ Pocket PCを発売以来使用しており、またGENIO eやjornada 568などのPocket PC 2002マシンも使用した後でもあるので、正直なところ新味はあまりないものだと思っていた。しかし、PocketGearの試作機を1カ月ほど借用して使ってみて、非常に使い勝手がいいマシンであることがわかった。


 筆者がPocketGearでもっとも気に入った点は、その液晶の大きさだ。解像度は240×320ドットで他機種と同等だが、ディスプレイが大きいため、非常に見やすく感じられる。

 また、32MBのメモリ容量も、筆者の使い方だとあまり気にならない。大きなデータやプログラムなどはSDカードに保存しているからだ。確かに、内蔵メモリ容量は大きいに越したことはないが、実際使ってみると32MBと64MBの差は致命的というほどではないと感じた。もっともこれについては、筆者がiPAQ Pocket PCの初期の32MBモデルを日常的に使っているため、落差を感じないということもあるかもしれない。

 使い方としては、特に変わった利用の仕方はしていない。Pocket PCとして、ごく普通にスケジュールやメーラを使い、たまにWebブラウズを行なうという感じだ。


クリエPEG-T600C(左)、iPAQ Pocket PC(右)との比較。中央がPocketGearだが、意外に筐体が小さい(ただし厚みはそれなりにある)。また、液晶ディスプレイが非常に大きいことがわかる

PocketGearは本体の細かなギミックが魅力的

 液晶ディスプレイが大きなPocketGearだが、フロントライトはまずまず明るい。最低輝度にしてもそれなりに見やすい。輝度の変更は、プログラムのPG 設定の中の「輝度設定」で行なう。ACアダプタ使用時とバッテリー駆動時でそれぞれ5段階の設定が可能だ。iPAQ Pocket PCやjornada 568のようにセンサで自動的に変更されたりはしないので、ユーザーが自分で変更する必要がある。最高だとかなり明るくて、低だと暗いが見えないことはないといったレベルだ。節電だとフロントライトはオフになる。


輝度設定は、「設定」ではなく「PG 設定」の中の「輝度設定」で行なう 輝度は4段階とオフ設定が可能

青く光るボタンはなかなかかっこよい(写真は試作機)
 細かな仕様は結構楽しい。本体下の4つのボタンかカーソルボタンを押せば、本体下部の4つのボタンの底のダイオードが押している間だけ青く光り、かなりカッコいい。また、筐体の上部にさまざまな状況を教えてくれる携帯電話のようなイルミネーションも装備している。イルミネーションの設定??点灯時の色やどういった状況で点灯したり点滅するかは、やはり「MG設定」の「イルミネーション設定」で変更ができる。これもなかなかカッコいい。

 イルミネーションの点灯や点滅を指定できるのは、バッテリーが少なくなった時の警告、録音中、赤外線通信時、スケジュールに入力した予定時刻が来た時、USBシンクロナイズ時などだ。色は、赤・緑・黄・青・紫・シアンから選ぶことができる。光ったからといってどうだという人もいるだろうけれど、使った時にユーザーがどう感じるか見ている人がどう感じるかという要素もPDAの場合は大きいと思う。筆者の場合、光ることはかなり気に入っている。


三角の小窓がついているのはいいアイディアだ。ストラップ用のリングもさすがは日本メーカーと思わせる。しかし、CFスロットの蓋がめくれた感じになるのがちょっと気になる
 ボタン類は押しやすい。排水溝の蓋のような方向キーとスピーカーも個人的には気に入っている。音質は素晴らしいというほどでもないが、PDAとしては納得のいくレベルだ。やや音が小さい気もするが、筆者が利用しているのは試作機のため、製品版とは異なる可能性もある。使い勝手では、真ん中にリターンキーがないのはちょっと残念だ。ジョグダイヤル風のボタンは、ソニーのジョグダイヤルとは違い、360度回転はしないが使いやすい。録音ボタンは、ジョグのすぐ下のために、間違って押してしまう人も多いかもしれない。ボタンに割り当てるプログラムを「設定」→「ボタン」から他のものに変更してしまえばいい。

 筐体にはストラップ用の金具が1カ所だけ付属している。1カ所なので首からぶら下げたりするとバランスが悪いが、ストラップを取り付けられる金具があることは日本のメーカーらしい配慮だろう。

 MMC/SDカードスロットはザウルスMIシリーズのように筐体の真横にある。SDカードの頭を押せば、カードが少し飛び出すので簡単に取り出すことができる。なお、電源オフ時にCFカードスロットで抜き差しすると本体が起動するが、MMC/SDカードの出し入れでは本体は起動しないようになっている。MMC/SDカードは現在メモリカード以外の使い道はほとんどないためだと思われる。

 CFカードは、筐体の後ろの「CFカードイジェクトレバー」という棒を下げることで取り出す。筐体の裏面は、ちょうどCFカードスロットが入るところが三角のスリットになっているので、CFカードを入れたままかどうかをすぐに確認することができる。なお、CFカードスロットの蓋は、取り外しができない。PHSカードやGPSのようにスロット外に出る部分のあるカードの場合蓋を上げた状態になる。完全に取り外せるダミーカードなどの場合は紛失する可能性が高く、スロット部が開口したままだと埃も入るのでどちらがいいかいちがいには言えないが、PHSカードなどを挿したまま使うユーザーの場合には取り外せる蓋の方が使い勝手は良かったかもしれない。


スタイラスはかなり短く軽いタイプ。PEG-T600Cよりも短く(太さはあるが)、筆者としては少し不満
 筆者の場合、一番の不満点はスタイラスかもしれない。短くて軽いのだ。また、iPAQ Pocket PCのボタンを押すとぴょんと飛び出る使い勝手に慣れてしまうと、引っ張って出すという動作自体が面倒に感じられる。スタイラスの長さについては、好みによって、ボールペンタイプなどのスタイラスを別に使ってもよいだろう。

 液晶カバーは、ちょっと見にはVisor Edge風だがなかなかかっこよいと思う。試作機でもしっかりした作りで本体からずれることもない。なお、早い段階の試作機では金属の留め具が使われていたが、怪我などしないようにという配慮からか、製品版では丸いポッチが付いたものになるようだ。


Pocket PC 2002の使い勝手とオリジナルソフトウェア

オリジナルのメニューが付属している。プログラムなので、切り替えるのが少し面倒だが、けっこう多機能だ
 いくつかのプログラムが追加されたことを除けば、基本的にはPocket PCから大きな変更ははない。インターフェイスは改良されているが、筆者の場合は、テキストのスタイラスによる選択がやりにくくなったと感じている(もっとも、この部分は個人の好みによる差が大きいだろう)。また、素のままのPocket PC 2002のインターフェイスでは機能的にかなり物足りないとも感じた。これについては、フリーウェアやシェアウェアを利用して使い勝手を良くしていくしかない。

 NEC独自のメニューとしては、「PGメニュー」が用意されている。完全にプログラムで切り替えて使用し、メニューから選択できるわけではないため、筆者の場合はさほど使いやすいとは感じなかった。ただ、メニューのアイコンの大きさなどもユーザーがカスタマイズできるのは珍しい。

 また、PocketGearオリジナルのソフトウェアもなかなか面白いものがある。定番のグラフィックビューア「EasyViewer for PocketGear」や路線検索ソフト「JRトラベルナビゲータ for Pocket PC 2002」だけではなく、高機能なWebブラウザ「WorldTALK/CE」、三省堂デイリーコンサイス英和・和英・国語辞典のPocketPC版「DTONIC」、電子ブックビューア「T-Time for PPC2002 ver.3.0」(1章分くらいのサンプルが20本ほど入っている)、iモードの勝手サイトを見ることができる「iディスプレイ for Pocket PC Version 2.00」、iアプリを動作可能な「i-enabler」など特色あるソフトウェアも多い。


 中でも、個人的にはWorldTALK/CEがなかなかおもしろかった。Pocket PCで利用可能なWebブラウザは、バンドルされているPocket Internet ExplorerとACCESSの「NetFront v3.0 for Pocket PC」があるが、WorldTALKは特色のあるWebブラウザだ。

 全般的にバンドルソフトウェアに派手さはないが、勘どころを押さえたバンドルだと思う。


WorldTALKでケータイWatchを見てみる。軽くて高速だ 縮小表示も可能だ。ただし、横スクロール操作はスタイラスではダメでボタンでしかできないのが少し残念

 iPAQ Pocket PCが登場した時、CPUがStrongARMだったため、対応ソフトウェアは少なかった。しかし、その後登場するPocket PCもすべてStrongARMを採用しているため、対応ソフトウェアは急激に増えている。筆者も、さまざまなフリーウェアを利用している。

 筆者の場合、入力に関しては、基本的にPOBox系のものをPalmでもPocket PCでも利用している。Pocket PC 2002では、POBoxのローマ字キーボードで入力している。

 また、Pocket PCでは、結構手書き入力を行なう(ちなみに筆者は手書き入力はもともと嫌いな方だ)。とくに、Pocket PC 2002になって、文字の種類が「半角」「英字」「数字」と「英字」が増えたため、さらに認識しやすくなった気がする。2文字連続して書けるのもいい。手書き認識としては、かなり高精度だと思う。また、一番いいのは、確定した文字の再変換が可能な点だろう。とりあえず、手書き認識のしやすいひらがなでばっと書いておき、後で漢字にするところだけ再変換したりしている。

 Today画面には、UKTodayを入れ、メモリの状況やバッテリーの状態、スケジュールの確認を行なっている。

 エディタはPocket PCでは、Pocket WZだ。これは、筆者がMS-DOSの時代からVzを使っていた(ベータ版も使っていた)というだけの理由からによる。別の製品なのだが、なんとなく香りくらいは残っている気がしている。フォントについては、ぱうフォントを導入することで視認性が向上した。表示される文字の量は減るが、筆者の場合は見やすさを優先している。ファイラはGSFinderで、慣れもあるが気に入って使っている。

 メーラはnPOP、メモ互換はHPC Notes、PIMは、さいすけとPocket Informantなどのシェアウェアも利用している。面白いと思ったのは同じくシェアウェアのぽけっと付箋。まだ試用している段階で、ドネーションの支払いは現在迷っている状態だ。PCのOutlookのメモのようにウィンドウ表示できるし、つねに一番前に表示されるのでToDoがわりにもいい。Pocket Wordやメモとも互換性が保てたりする。テキスト入力も手書き(グラフィック)も可能(ボイスメモはだめなようだ)。なかなか面白い。それでなぜ迷っているかというと、筆者の使い方ではテキスト入力とボイスメモが中心で、実はあまり使わないんじゃないかという気がしているからだ。もうちょっと試用を続けることになる。

 もちろん、データベースはTCardだ。Webサイトなどからさまざまなデータを落としてきて楽しませていただいている。最近の個人的なヒットは、1992年から2001年1月1日までのJリーグの全試合結果だろう。1年分まるまる空いてしまったが、自分で入力すればいい(たぶんやらないだろうけれど)。また、さまざまなグルメ情報もある。


周辺機器はこれから

PDApexを使えば非常に高速に入力が可能。タッチタイプができるなら、キーボードを奥に置いた方が使いやすいだろう
 PocketGear用の周辺機器は、今回は使用できていないが、本体とは逆向きにカードを装着するPCカードアダプタなどが用意されている。ただし、jornada 568やiPAQ Pocket PCとは異なって、キーボードは用意されていない。本体に取り付けるタイプのキーボードがあると、かなり高速に入力できるため、立って入力する場合には非常に使い勝手がいい。

 PalmデバイスやPocket PCで赤外線を使ってPS/2キーボードを利用可能にするアダプタPDApexを購入したので、PocketGearで使ってみた。CLIE PEG-T600Cでは、かなり遅くていらいらさせられたが、iPAQ Pocket PCやPocketGearではまったくストレスなく入力可能だった。

 非常に高速な入力が可能だが(特に市販のエディタPocket WZとの組み合わせは絶品だ。Ctrlキーなどのキーコンビネーションも利用可能なのがありがたい)、どういったシチュエーションで使うかは難しい。机がないとまず利用は無理。電車の中とかでは、新幹線であっても難しいと思うので、実際使えるシーンはかなり限られると思われる。


PocketGearは買いか?

 次世代CPU搭載機種の噂もにぎわっている。正直なところ、「そんなときに32MBメモリの新製品の魅力はどれほどなんだろう」と思っていた部分はある。だが、1カ月ほど使ってみて、そういったことは新製品が出た後でまた考えればいいではないかと思うようになった。今現在無いものはどんなに魅力的でも結局買えないのだ(PocketGearも15日までは買えないが)。液晶が大きいだけで、こんなに見やすく使い勝手がいいのかと正直驚いている。不満といえば、スタイラスの小ささなど前述した点の他に、Pocket PC 2002のフォントが美しくはないことだろう。ただし、これは、シャープのザウルスシリーズやソニーのクリエシリーズを除けばほとんどのPDAに当てはまる不満だ。

 筆者の場合は、実際使ってみて思っていた以上に気に入った。だが、PDAの常として、万人に勧められるかと聞かれると少し躊躇する。とくに、すでにPocket PCを使っているユーザーは難しい選択だが、これからPocket PCを使ってみようかという、新たなユーザーには面白い製品だと思う。ただし、NECはMS-DOS版のMobileGear発売前にも、完成度を高めるために何度も発売を延期したメーカーでもある。そのこだわりは敬服に値すると思う。筆者は大いに期待している。


・ PocketGear製品情報
  http://121ware.com/pg/
・ IrKB101製品情報
  http://www.jtt.ne.jp/product/pda/periph/irkb101/index.html


(山田道夫)
2002/02/28 17:37

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