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モバイラーズ★EYEタイトルGIF
iPAQ Pocket PC日本語版ファーストインプレッション(前編)
山田道夫
1996年に開設したサイト「携帯電脳」を模様替えし、1999年1月スタートしたWeb&メールマガジン「MOBILE NEWS」編集長。モバイルノートPCからデジタルガジェットまで「小さくてデジタルなもの」にこだわった最新情報を提供している


 この春に各社からさまざまなPDAが発表・販売開始されPDA好きとしてはどれを選択するか嬉しい悲鳴をあげている。個人的に購入した製品はまだないのだが、各社からさまざまな製品をお借りして試用する機会があった。その中で、今もっとも注目され熱い製品がiPAQ Pocket PC日本語版だと思う。簡単にそのファーストインプレッションを紹介する。


やや強気な価格とスタイリッシュなデザイン

「iPAQ Pocket PC」
オープンプライス

コンパックの直販サイト「Compaq DirectPlus」では、32MB RAM搭載の「H3630」が5万9800円で販売中。64MBの「H3660」は8万9800円で5月下旬より販売予定
 iPAQ Pocket PC日本語版を数日だけだが使用する機会があった。購入はすでに決めていたのだが(いつ頃入手できるかどうかはこの原稿執筆時点ではまだわからない)、実際に使ってみてさらに気に入った。製品の詳細なスペックなどは下のURLを見ていただくとして、ここでは私が感じた印象と使い勝手の感想を中心に紹介していく。なお、私は日常的に同じPocket PCのE-700とハンドヘルドPCのjornada 720を利用している。

 iPAQ Pocket PCには、内蔵RAM容量が32MBのモデル(H3630)と64MBのモデル(H3660)がある。両モデルとも価格はオープンプライスだが、コンパックコンピュータの直販サイト「コンパック ダイレクトプラス」では、H3630が5万9800円、H3660が8万9800円で販売する。H3660は5月末の出荷が予定されている。今時のPDAで同じ方向性のザウルスMI-E1が4万円前後、クリエPEG-N700Cが5万円前後で入手可能なことを考えると、はっきり言ってやや高い気がする。もっともアメリカでも入手困難な状態がいまだに続いているようで、そういった意味では強気の商売が可能ということなのかもしれない。

 日本語版では、ROMが日本語のデータ量の多さなどから16MBから32MBに増強されている。ROMはフラッシュROMを採用しているため、将来的にはOSのアップグレードもソフトウェアの書き換えだけで実行可能で、そういったサービスも予定されているようだ。また、海外などではLinuxを入れて楽しんでいるユーザーもいるようだ。

 iPAQ Pocket PCの特徴は、特異なデザインにジャケットコンセプトにより拡張パックを取り替えることでさまざまな拡張性を実現したことだろう。日本語版では、CF Type IIに対応したCFカード拡張パック(別売の場合は5,200円)が標準で付属する。また、別売で、本体に内蔵されているものと同じバッテリが内蔵されたPCカード拡張パック(1万5600円)が販売される。さらに、PCカードが2枚刺さるデュアルPCカード拡張パックもアメリカでは発表されている(日本での発売時期は未定)。

 コンパクトフラッシュでの対応機種はP-in Comp@ctをはじめとした各種のPHSデータ通信カードや携帯電話アダプタ、LANカード、モデムカード、Bluetoothカード、マイクロドライブなどが公開されている。


 CPUは、StrongARM 206MHzを搭載。MIPS系やSH3系に比べてフリーウェア・シェアウェアなどは多くはないが、iPAQ Pocket PCがアメリカで売れていることで、今後は増えていくものと思われる。また、ディスプレイは視認性に優れたフロントライトを搭載した反射型TFTカラー液晶を搭載した。特異なのは、明るさを輝度センサで感知してフロントライトを自動的に5段階調整しオンオフも可能な点だろう。もちろん手動による設定もできる。解像度は240×320ドットで、同時表示色は4096色とカラー写真を見る場合などはちょっとつらい。アルバムソフトも付属しているが、6万5000色同時発色が可能なE-700などと比較すると色味はかなり落ちる。ビジネス用途ではいいけれど美人の彼女を自慢したいといった用途には向かないかもしれない。

 iPAQ Pocket PCで語られる機会が多いのはその銀色なスタイリッシュなデザインだろう。確かにかっこいいし、180gと非常に軽量である。とはいってもPalmデバイスに比較するとやや重く大きくも感じられる。ポケットに入れて不自由のない大きさだろう。逆に胸ポケットに入れておくとしゃがんだ時に落ちそうでちょっと怖い。6色の簡単に取り付けられるカバーが別売されているので銀色に飽きたら他の色を使ってみることもできる。

 また、単体では拡張用のスロットなどもなくPIMや内蔵のソフトウェアやユーザーが追加しRAMディスクに搭載したソフトウェアしか使用することができない。価格から考えて32MBが主流になるだろうが、32MBの機種では16MB程度RAMを使用することになるわけで、16MB程度のRAMディスクでやりくりするしかない。

 標準でコンパクトフラッシュジャケットが付属するが、ストレージとしてメモリを入れてしまうと、P-in Comp@ctなどの周辺機器は利用できなくなってしまう。また、カシオ計算機のやはり同じPocket PCであるE-700のようにケーブル接続だけで通信が可能だとか、ジョグダイヤルなどがついていて片手で操作しやすいというわけでもない。そういった意味では、本体だけで使用した場合とジャケットを利用した場合で拡張性が大幅に異なってくる(サイズや重量もだが)。


iPAQ Pocket PCとE-700を太陽光の下で比較してみた。反射型TFT液晶の威力がわかる。写真のiPAQ Pocket PCは英語版ものも ME-E1と比較してみた。大きさや厚みはかなり異なる。共に反射型TFT液晶を搭載しフロントライトを使用することができる。フロントライトをつけた状態

iPAQ Pocket PCは銀色で非常にスタイリッシュな特異な形状をしている。筐体下部のナビゲーションボタンが特徴的だ。中央はスピーカーにもなっている iPAQ Pocket PCの内部構造。かなりシンプルでモジュール化されていることがわかる。実際、スタイラスの穴から基盤が見えたりもする

何がそんなに魅力的なのだろうか

底面。ジャケットとのコネクタが巨大であることがわかる。その下は右からAC、ハードウェアリセット用のスイッチ(蓋付き)、通信ポート、リセットボタンが見える。ポート類はこれだけ剥き出しだとかえって大丈夫かもという気になってくる
 そんな製品だが、なぜかアメリカではバックオーダー60万台とも70万台とも言われ、日本においても発売前から入手が困難なのではないかと噂が飛び交ったほどだ。Palmキラーとして何度か海外のニュースを読んだ人もいるだろう。実際、私の知人のアメリカ人でも、PalmからiPAQ Pocket PCに乗り換えてしまった人がいる。

 PDAに何を求めるかはユーザーの数だけ異なっているだろう。高速なPIMブラウザでPCとはデータの互換性だけを求めたいといったユーザーには、Palmデバイスのどれかがいいだろう。また、日本にはザウルスやクリエといったなんでもありのPDA文化もある。そういった機種からすると、メールのやりとりやWebブラウズひとつとっても追加の周辺機器の拡張や自分で設定する必要があって、やや敷居が高いといえるかもしれない。

 実際にiPAQ Pocket PC日本語版使ってみた印象だが、あまり何も考えずにそのまま使えるのが私が気に入った点だろうか。PDAを使うという場合、普通は何かを犠牲にしている。表示速度だったりデータ容量だったり周辺機器の拡張性などを犠牲にして一点豪華主義で使うのがPDAだという気がする。iPAQ Pocket PCの場合は、そういった犠牲があまりない。速度は画面の切り換えも、実際のWebブラウズの速度もなかなか快適だ。PalmであればPIMの表示速度は速くても、Webブラウズはなかなかきびしかったりする。Pocket PCの場合は、PIMの表示速度がそれなりだったりする。iPAQ Pocket PCでは両方とも実用的な速度だ。唯一の不満点はディスプレイの表示領域が240×320ドットしかないことだろう。


 また、拡張の自由度も高い。PCカードをそのまま使えるというのは意外に使い勝手がいいものだ。確かにノートPCなどにおいてはPCカードはあまり使われなくなりつつある。Windows CEマシンにおいてもCFカードの利用の方が一般的なようだ。しかし、従来のさまざまなPCカードがそのまま使えるというのは、逆に何も考えずに不自由なく使えるということなのだと思う。ちょっとデジタルカメラの画像をコピーしたり、複数見たいといった用途で使うこともできる。PCカードタイプの2GBのハードディスクドライブカードをそのまま利用することもできる。辞書や地図ソフトをCFカードを入れ替えることなく簡単に利用することができる(はずだ。まだ、対応ソフトがそれほど多くはないのが欠点だけれど)。

 iPAQ Pocket PC日本語版をわずかな期間使用し、いざ返すとなるとすごく残念に思えてきた。すでに、PCカードジャケットを使った利用というのが、私の中では日常になっていた。私は日常的にはハンドヘルドPCのjornada 720をメインで使っている。iPAQ Pocket PCとjornada 720は、私の場合は、基本的には同じような使い方をした。iPAQ Pocket PCがjornada 720に優る点は、立ちながら入力しやすいこと、太陽光の下でも液晶ディスプレイが見やすいこと、相対的には小さいこと、Stowaway Portable Keyboardが使いやすいことなどだろうか。短所としては、PCカードジャケットを使う場合は厚みと重さがあること、カードスロットが1つしかないこと(デュアルPCカードジャケットを利用しない場合は)、バッテリ駆動時間がjornada 720よりは短いことなどが挙げられる。

 1週間弱使っただけだが、非常に気に入った。PCカードスロットが使える(余分に1万5000円支払う必要が出てくるわけだけれど)のは非常にいい。確かにすごく分厚くなってしまうけれど、私はすぐに慣れてしまった。不満は、使えるフリーウェアが少ないことだろうか。良いファイラやランチャがない。良いというよりは、私が使い慣れたインターフェイスの、と正しく言うべきかもしれないが。


筐体の向かって左側。右側に録音ボタンが見える。シンプルな作りだ 筐体の向かって右側。さらにシンプルな作りでスイッチやボタン類はなにもない

筐体上部。左からスタイラス、スタイラス取り出しボタン、赤外線ポート、ステレオ対応ヘッドホン端子。ヘッドホン端子が上部にある方が使いやすいことは確かなことだろう 筐体下部には、左から予定表、連絡先、Qメニュー(優れたメニュー)、Qスタート(アプリケーションを登録してある)がある

ソフトウェアについて

起動時に表示される「Today」
 iPAQ Pocket PCでは、なかなか興味深いソフトウェアが多い。Pocket PCに標準で付属しているPocket Excel、Pocket Word、Pocket Internet Exploer、予定表、連絡先、仕事(時々なんというネーミングだと思わないでもない)などの他に、日本語版独自のソフトウェアがCD-ROMで提供されている。

 MPEG-4の動画ストリーミングに対応した「PVPlayer v2.0」、JavaScript、SSl1.1/1.2に対応したWebブラウザ「NetFront 2.6 for Pocket PC」、デジタルカメラなどの画像管理ソフト「EasyViewer for iPAQ」、MP3、MIDI、RMFなどのサウンドファイルに対応した音楽プレーヤー「Beatnik Player for Pocket PC」、小遣い帳ソフトの定番「DMoney V3.5」、鉄道ルート検索ソフト「JRトラベルナビゲータ Pocket PC対応版」、Web検索支援ユーティリティ「WordLinker for PocketPC」などだ。



CD-ROMからインストールする必要があるが、MP3、MIDI、RMFなどのサウンドファイルに対応した音楽プレーヤー「Beatnik Player for Pocket PC」 PEG-4の動画ストリーミングに対応した「PVPlayer v2.0」 「Qスタート」。左上をタップすれば登録したプログラムなどがメニュー表示される。

 ただ、結構ダブりも多い印象も与える。たとえば、音楽プレーヤーであればWindows Media Playerで十分な気がする。また、Pocket IEがあるのにNetFrontなんているんだろうかと思ったが、NetFrontは意外に使えるWebブラウザだ。ハンドヘルドPC 2000に付属するPocket IEは、IE 4.0相当になったようだが、Pocket PCに付属するPocket IEはそこまでの機能はなく、NetFrontでなければ使えないWebサイトも結構多いようだ。逆にNetFrontでは画像を縮小して1ページで見たりといったことはできず、スクロールする必要があるようで、そういった部分というのはユーザーが使い分けていくしかないようだ。使えないよりは多少見にくくても使いたいという場合も多いと思うので、NetFrontの搭載は歓迎するべきことだろう。


筆者のWebサイトをPocket IEで表示してみた。それなりに高速なアクセスが可能だ 同じくPocket IEで表示した筆者のサイト。写真などはそれなりにしか見えない ただし、Pocket IEの場合は、すべてのページが見やすく表示されるとは限らない。たとえば、ODNのWeatherページでは、アニメーションの雨の状態が表示されない

そういった場合は、JavaScript、SSl1.1/1.2に対応したWebブラウザ「NetFront 2.6 for Pocket PC」を利用すればいい ケータイWatchをNetFrontで表示してみた。今度は、NetFrontでは一部しか見ることができない ケータイWatchをPocket IEで表示。サイトにより、Pocket IEでダメだったり、逆にNetFrontではダメだったりするので、両者を適時使い分ける必要があるだろう

 そのほか、定番の感もある鉄道ルート検索ソフトも付属している。EasyViewerはなかなか手軽に使えて使い勝手のいい画像ビューアだと思う。おしむらくは、iPAQ Pocket PCが4096色にしか対応していないことだろう。定番のDMoneyはなかなか嬉しいソフトだ。初めてマニュアルをじっくり読んだ私は、こんなに多機能だったのかと正直なところびっくりしたくらいだ。


定番の鉄道路線探索ソフトウェアJRトラベルナビゲータ 定番の小遣い帳の1つDMoney。マニュアルを読んだら非常に多機能でちょっとびっくり

 音楽データをCFカードに入れてWindows Media Playerで聞いてみた。なかなか音質はいいようだ。結構気に入った。内蔵スピーカーは、筐体の底部にあり割と大きな音は出るが音質は今ひとつだ。まあ、これはしかたないだろう。

(明日の後編につづく。後編では、追加して使ったフリーウェア・シェアウェアについて、試用した周辺機器、総合的な評価をお送りします。)


・ 「Compaq iPAQ Pocket PC」ニュースリリース
  http://www.compaq.co.jp/press/press627.html
・ iPAQ製品情報
  http://www.compaq.co.jp/products/handhelds/pocketpc/
・ iPAQ サードパーティ製品リスト
  http://www.compaq.co.jp/products/handhelds/pocketpc/partners.html
・ iPAQfan.com(公式のiPAQユーザー向け情報提供サイト)
  http://www.ipaqfan.com/
・ iPAQnet(iPAQでの閲覧に最適化されたWebニュースサイト)
  http://www.ipaqnet.ne.jp/


(山田道夫)
2001/05/23 00:00

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