2002年はPDA不調の年だったとも言える。国内外でともに販売台数は大きく前年を割り込み、携帯電話に将来的には置き換わるのではないかといった論調も見られた(いや、筆者も少しそう感じていた)。しかし、2002年末になって登場してきた各種PDAによって、そういった心配は杞憂だったかもしれないと筆者は思い始めている。
ここでは、PDA購入の参考になるよう、各機種をご紹介しよう。なお、基本的に旧機種は取り上げない。さらに日本語化されていないものも一部の例外を除いて紹介しない。また、断るまでもないが、ここでの見方というのは、筆者個人の見方にすぎない。用途やこれまでに使って慣れている機種の好みなどにより、最適なマシンというのはユーザーによって千差万別だ。ここで紹介するマシンは筆者が実際に購入して使用したものか、ある程度の期間借りて試用したものが多い。購入機種選定にあたって、少しでもご参考になれば幸いだ。
Linuxザウルス
国内市場向けのLinuxザウルスは、シャープが3機種発売している。8月に発売されたSL-A300と比較すると、この冬に発売された新製品2機種はソフトウェアの作り込みもハードウェアの完成度も格段に進歩したという印象を受ける。
中でも、12月14日に発売されたばかりのSL-C700は、小型ながらキーボードを搭載し、640×480ドットの高解像度表示が可能なシステム液晶を採用するなど年末商戦では一番の話題製品だ。発売直後に入手したユーザー以外は、年内での入手が困難とも言われるほど、入手すること自体が難しいほどのヒット商品になりつつあるようだ。ただし新しい製品ゆえ、フリーウェアなどのソフトウェアの選択肢はまだ多くはない。標準ソフトウェアで利用する一般的なユーザーには問題にならないと思われるが、フリーソフトなどを多く利用したいややマニアックなユーザーの場合はその点注意が必要だろう。
シャープ ザウルスSL-C700
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ザウルス SL-C700。店頭価格は59,800円程度
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液晶が非常に美しく、キーボードを搭載しており、ブラウズに適したビュースタイルとノートPCのようなインプットスタイルの2スタイルに対応している。実際に使い出してからまだ短期間ではあるが、筆者は非常に気に入っている。サクサク動作するPDAを期待しているとちょっと物足りないかもしれないが、一昔前のハードディスクのないノートPCが小型化したものと考えると十分理想的に思えてくるから不思議だ。
超小型のLinuxマシンとして活用したいというマニアックなユーザーもいるとは思うが、大部分のユーザーにとっては単純にハンドヘルドとして十分な魅力を持つ。PIM機能だけを利用したいといった用途には、ややオーバースペックという感もあるが、PIMソフトなどの内蔵アプリケーションの出来も総じて良く、なにより液晶が大きく高解像度なため、予算に余裕があればPIMブラウザとしてのみの利用もアリだろう。PHSカードと組み合わせてWebブラウズやメーラーとしても使いたいといった用途には最適と思われる。WebブラウザはNetFront 3で、PDAに付属のWebブラウザとしては非常に使い勝手がいい。
メーラーはダウンロード可能なサイズに制限があるという報告もあるようだが、一般的な利用であれば十分な機能を持っている。音楽プレーヤーとしても利用可能だ(MP3再生など)。最大の欠点は現状では品薄で入手が難しいことかもしれない。
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・VGA表示が可能な美しい液晶ディスプレイを搭載
・バッテリーは取り外し可能
・親指で入力しやすいキーボードを搭載
・ディスプレイは縦表示と横表示に対応、自動認識・変更する
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・バッテリ駆動時間がPDAとしては短い(最大4時間50分(公称値)。通信時2時間30分程度(実測値))
・プログラムの起動に時間がかかる場合がある
・フリーウェアなどのソフトウェアが少ない
・マイクを内蔵していない
・メモリが32MBと多機能なわりに少ない
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・SL-C700製品情報
http://www.sharp.co.jp/products/slc700/
シャープ ザウルスSL-B500
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ザウルス SL-B500。店頭価格は59,800円前後
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米国で発売済みのSL-5500や従来のザウルスMI-E21などと外見はよく似ているが、細かな部分でかなり使い勝手の向上が図られている。スライド式のキーボードはより入力しやすくなった。また、キーボードを親指で入力している場合、指が大きかったり女性などで爪を伸ばしていたりすると親指がザウルスの縁にあたってしまいがちだったが、SL-B500ではそうしたことはない。
ディスプレイが240×320ドットのQVGAであることなどから、VGA表示のSL-C700ほどのインパクトはないが、バッテリーが大きく出っ張るほどになったこともあって、バッテリー駆動時間は最大18時間と大幅に向上した。バッテリー駆動時間を優先する人には候補のひとつとなるだろう。
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・バッテリ駆動時間がかなり長い
・キーボード周りが改善され入力しやすくなった
・ソフトウェアなどが従来機種に比べて改善された
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・従来機種から外観の変更がなく、インパクトには欠ける
・内蔵RAMが32MBしかない(他にフラッシュROM 64MB)
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・SL-B500製品情報
http://www.sharp.co.jp/products/slb500/
Palm OS搭載機
ハンドスプリングの日本市場からの撤退やIBMのPalm OS搭載機からの撤退により、日本においてはPalm OS搭載機を販売しているのは、ソニーとパームコンピューティングの2社だけとなってしまった。
ソニーには、Palm OS 5を搭載したCLIE PEG-NX70V/60といった製品や、愛らしいカラーリングモデルも登場したCLIE PEG-SJ30といった製品があるが、パームコンピューティングでは、2002年8月にPalm m515を発売して以来、日本国内では新製品は発売されていない(米国ではTungsten Tが発売されている)。パームコンピューティングの広報部門に問い合わせているのだが、Tungsten T日本語版が発売されるかどうかも現時点では未定のようだ。
ソニー CLIE PEG-NX70V
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CLIE PEG-NX70V。店頭価格は59,800円前後
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PEG-NX70Vについては本連載で紹介済みなので、興味のある方はそちらの記事も参照していただきたい。筆者もなかなか気に入っているマシンだ。320×480ドットとPDAとしては高解像度のディスプレイを採用。バンドルソフトウェアも、ようやく広い画面に対応し、シルクスクリーンを消したりすることが可能となった。
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・動作がきびきびと高速
・デジタルカメラやムービーは、割り切れば使い勝手がよい
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・ソフトウェアの旧機種との互換性が低い(ただし、主要な物は対応を終えつつある)
・バッテリー駆動時間がやや短い
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・CLIE PEG-NX70V製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/PEG/PEG-NX70V/index.html
ソニー CLIE PEG-SJ30
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CLIE PEG-SJ300。店頭価格は29,800円前後(限定モデルはケース付きで32,800円前後)。写真右は別売のゲームコントローラ「PEGA-GC10」を装着したところ
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11月30日より、愛らしいカラーリングの限定発売モデルが発売中だ。音楽プレーヤー機能は持たないが、320×320ドットの半透過型TFT液晶を搭載し、PIMブラウザ機能はもちろん、ゲームマシンとしても楽しむなどの用途に向いている。
OSは、日本語版Palm OS Ver.4.1、CPUはDragonball VZ 33MHzと従来機種並みだが、そのためにソフトウェアの互換性を心配する必要がなく多様なソフトウェアを選択できるメリットもある。好みにより、デザインが本機種とは異なり、音楽プレーヤーとしても利用可能なPEG-T650Cという選択もあるかもしれない。
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・小型軽量
・比較的安価
・スタイリッシュなカラーリングモデルがある
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・Webブラウザなどは試用版
・多機能を求めるにはやや基本性能面できびしい
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・CLIE PEG-SJ30製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/PEG/PEG-SJ30/index.html
Handsprig Treo 90
本連載でTreo 90を取り上げたのは、7月29日のことだ。それからかなりの期間使っていたが、現在は環境もすっかり安定してしまい、使いこなす過程を楽しむ筆者の場合、使う機会もめっきり減っていた。
Treo 90は日本市場からすでに撤退したHandspring社の製品なため、今後日本語化される可能性はほぼ100%なく、自力で日本語環境を構築する必要がある。日本語環境を構築すること自体は、山田達司氏のJ-OSを導入したり、推測変換が可能なPOBoxを利用したり、ATOK for Palmを使ったりすることで、Palm OS搭載機にフリーソフトを導入した経験のあるユーザーならさほど困難ではないと思う。しかし、日本語環境での動作保証は誰もしてくれないという点は覚悟しておく必要がある。
日本語対応していないTreo 90をここで取り上げるのは、DDIポケットのAirH"端末AH-S101Sが最近利用できるようになったためだ。Treo 90は出荷時の状態ではSD I/Oに非対応だが、アップデータを利用することでSD I/O対応となり、AH-S101Sを利用可能になる。
32kbpsの速度しか出ないので遅いことを覚悟して使ってみたが、メールの読み書き、掲示板などのWebブラウズ程度なら十分実用になると感じた。ただし、PDAで通信をしないユーザーにとっては、日本語非対応、液晶解像度も最新の携帯電話以下であるなど現在選択するメリットはほとんどない。非常に一部の層に限られるとは思うが、キーボード付きで小型軽量なPalm OS搭載機を求め、かつPDAで通信を行なうユーザーならば検討機種に入れてもよいだろう。
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・小型軽量
・入力しやすいキーボード搭載
・AH-S101Sが利用可能
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・日本語環境をユーザーが構築しなければならない
・やや入手しにくい
・ディスプレイがSTN液晶で解像度が160×160ドットしかない
・全体にPalm OS搭載機としては動作がきびきびとしていない
・裏面が傷つきやすい
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・Treo 90製品情報(英文)
http://www.handspring.com/products/treo90/index.jhtml
Pocket PC
Pocket PCの2002年はやや進歩がゆっくりとした年という印象が強いかもしれない。確実にスペックや機能は向上しているが、元々マルチメディアを指向したPDAなため、大幅に機能向上したという印象はあまりない。2003年には、新しいOSと新しい製品の登場を期待したいところだ。
日本国内においては、Pocket PCといえば東芝といったイメージが現在は強い。この連載でも取り上げてきたが、日本のユーザーのニーズをうまく製品に反映させてきた結果と言えるだろう。
一方、米国ではデルコンピュータが低価格のPocket PC 2002マシンを発売して話題になっている。日本国内での発売は、現時点では検討はしているが残念ながら未定のようだ。
東芝 GENIO e550GS/GX
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GENIO e550GS。店頭価格は69,800円前後
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今年のPocket PCプラットフォームの製品では、日本国内においては東芝が一人勝ちという状況だった。販売台数のベスト10などでもつねに上位を維持し続けている。基本的なコンセプトは、2002年5月に発売されてから変わってはいない。4インチの大きな反射型TFT液晶と、SD I/O対応スロット、CFカードType IIスロットを搭載するなど日本の現状に合ったPDAを作り上げてきた。多機能な分、価格は比較的高かったが、128MBのメモリを搭載したGENIO e550GXは現在も69,800円前後の店頭価格となっており、PDA全体の低価格化の中で比較的高い価格を維持している。なお、e550GS/GXについても本連載で取り上げているので、興味のある方はそちらをご参照いただきたい。
PHSカードAH-N401Cを利用すれば、音声通話も可能だ。Wake on Ringに対応しており、専用のソフトウェアを利用すればサスペンド状態で待ち受けできる点などは、非常に良くできている。筆者が試した限りでは、待ち受け状態でのバッテリー駆動時間は100時間近い。待ち受け時間だけ見れば、都市部であれば十分携帯電話がわりの利用も可能と思われる。しかし、GENIOで聞いている分にはPDC携帯電話よりもいいかもとも思える通話品質も、相手先が指向性のないスピーカーで話しているため、二重に聞こえてしまうことがあり、ビジネス用途での利用は難しいかもしれない。
非常に魅力的なPDAだが、液晶が現在のPDAとしてはやや暗く感じられることと、筆者個人の好みとしては本体に取り付ける小型キーボードがない点などが惜しいところだ。
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・大型の反射型TFT液晶を搭載
・USBホストなど高い拡張性
・PHSを使った本体だけでの音声通話が可能
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・液晶がやや暗い
・液晶の解像度が240×320ドットしかない
・本体に取り付けるタイプの小型キーボードがない
・バッテリーが内蔵タイプ
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・GENIO e550GS/GX製品情報
http://www.toshiba.co.jp/toshiba/ef-genio_j.htm
iPAQ Pocket PC H3950
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iPAQ Pocket PC H3950。店頭価格は49,800円前後
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iPAQ Pocket PC自体はワールドワイドで見れば、もっとも売れているPocket PC端末だろう。日本ではそれなりの販売台数のようで、取扱店モバイル系の専門ショップかHPによる直販に限られているようだ。
iPAQ Pocket PC H3900シリーズは、非常に美しい半透過型のTFT液晶ディスプレイを搭載している(本連載でのレビューはこちら)。半透過型液晶のため、屋内でも直射日光の下でも表示が見やすい。価格も49,800円程度と、PDAとしては平均的な価格に抑えられている。
また、Pocket PCでは唯一、本体に取り付けるタイプの小型キーボードを周辺機器として用意している。幅広い拡張性を持ったジャケットシステムと共に、iPAQ Pocket PCの自由度を高めていると言える。ただし、そういった周辺機器を取り付けるとかなり大きくなってしまうので、PDAに小型軽量を求めるユーザーにはそうした利用方法はお勧めできない。
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・幅広い拡張性から選択可能
・本体取り付けタイプの外付けキーボードがある
・液晶が美しい
・Pocket PCとしては安価
・Pocket PCの中では描画や切り替えが高速
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・拡張性と高めると大きく重くなってしまう
・バッテリーが内蔵タイプ
・液晶の解像度が240×320ドットしかない
・実機の展示・販売ショップが少ない
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・iPAQ Pocket PC製品情報
http://www.compaq.co.jp/products/handhelds/pocketpc/
(山田道夫)
2002/12/27 03:28
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