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遅れてきた名機? iPAQ Pocket PC H3950/3970
山田道夫
1996年に開設したサイト「携帯電脳」を模様替えし、1999年1月スタートしたWeb&メールマガジン「MOBILE NEWS」編集長。モバイルノートPCからデジタルガジェットまで「小さくてデジタルなもの」にこだわった最新情報を提供している


従来機種のH3800シリーズから外観デザインの変更はない。CPUが変わり液晶が半透過型TFT液晶になっただけだ
 この連載の初回は、iPAQ Pocket PCについてのものだった。すでに1年半近く前のことになる。PDAの世界では1年半というのはとても長い年月だ。業界全体でもPalmが登場してからでさえ、まだ7年目なのだから。

 全世界的に見るとiPAQ Pocket PCは現在でもよく売れている。世界で2番目に売れているPDAメーカーということになる。日本においてのPDA販売台数は、ソニーと東芝がまずまずで、iPAQ Pocket PCはそれほどではない。この理由はひとつではないが、第一の理由としては初代モデルには何も拡張スロットがなかったことが挙げられる。初代モデルには日本国内販売モデルだけCFカードジャケットも付属し、サードパーティからもさまざまなジャケットが発売されているので、それらを使用すればPCカードを2枚同時に利用することも可能になる。しかし、どう考えても大きくなること、価格が安くはないことで日本の需要とは異なっていたようだ。

 日本においては、他国とは異なり、PHSがデータ通信の基本になっており、CFカードスロットさえあれば、それなりの速度でかなりの地域で無線通信が可能だ。そういった現状を考えると、CFカードスロットとSDカードスロットを1基ずつもつ製品が売れ筋となるのは必然と言えるかもしれない。

 2002年3月と4月には、デザインこそ従来モデルを踏襲しているものの、Pocket PC 2002をOSに採用し、SD I/O対応のSDカードスロットを搭載するなど、大幅に仕様変更されたH3800シリーズが日本でも発売開始されたが、円安のためか価格が高くなったこともあってさほど話題にはならかなったようだ。H3800シリーズの液晶は前モデルから大幅に改善され写真画像の再現性なども非常に良くなっている。また、iPAQ Pocket PCは同時代の同OSを採用したモデルに比べていずれも体感として速く感じられる。


iPAQ Pocket PC H3970を試用

H3800シリーズとH3900シリーズの液晶は決定的に違う。一度H3900シリーズに慣れるとH3800シリーズを使うのがつらいほどだ
 今回、H3970を試用する機会があった。まだ、使い始めて数日だが、非常にすばらしい製品だと感じている。まず、なんといっても半透過型のTFT液晶がすばらしい。初代とは比較にならないほどだし、美しいと評判のH3800シリーズよりもはるかに鮮明だ。最初に手に持ってディスプレイを見たときも明るく感じたのだが、それで光量は半分程度だった。最大にしたら確かに美しいのだが、まぶしすぎて目が疲れるかと思うほどだ。

 また、Pocket PC 2002になって残念な点は、Pocket PCよりも動作や細かな切り替えなどが遅くなったように感じられることだが、コンパックの製品では前モデルもそうだが、そういった感じはほとんどない。すぱっすぱっと画面が切り替わり心地よく使用することができる。細かな作り込み、完成度が非常に高いのだと思う。

 前モデルからの外見上の変化はないように見えるが、液晶が美しくなったことで非常に使い勝手が向上して感じられる。H3950は、4万9800円という戦略的な価格ですでに発売中で、Bluetoothユニットを内蔵したH3970も10月下旬に6万4800円で発売予定だ。前モデルに比べて価格は大幅に下がっている。今回はH3970を中心に、iPAQ Pocket PCの魅力と限界を紹介したいと思う。


ハードウェアについて

この液晶の美しさは特筆ものだ。ディスプレイが3.7インチとそれほど大きくないのは残念だが、この液晶のためだけにもH3900シリーズがほしくなった
 H3950を含むH3900シリーズでは、ハードウェアの外観上の変化は劇的に美しくなった液晶ディスプレイを除くと、ほとんど変わった印象はない。本体保護のための化学樹脂系のカバーが付属することも一緒なら、SD I/O搭載などスペック的なところも同様だ。

 ただし、CPUは、StrongARM SA-1110 206MHzから、XScaleテクノロジーを採用したPXA250 400MHzに変更されている。メモリも64MBで前モデル同様だ。また、フラッシュROMがH3970では48MBに増えている(他は32MB)。Pocket PC 2002ではまだ、XScaleのネイティブに対応していないようで、速度はPocket PCの方が速い機種が多い。しかし、H3900シリーズは、体感ではH3800シリーズとの差はあまり感じない。ベンチマークなどを行なえばまた異なった結果が出るのかもしれないが、使用していて画面の切り替えにストレスを感じたり、プログラムの起動が遅くていらつくといったことはまったくない。コンパックは、その時代で最速のPocket PCを作り続けてきたことになる。

 細かな使い勝手自体は、H3800シリーズとあまり変わりがない。筐体底部のナビゲーションボタンが左右に長く上下に短いため、多少上下が扱いにくく、真ん中の決定ボタンが少し押しにくく感じられる点もそのままだ。筐体底面の巨大な拡張パック用100ピンコネクタもそのままで、裸で持ち歩くとピンでも挟んでしまわないかと心配になってくる。


ソフトウェアについて

Nevoは非常に多機能でよく考えられたリモコンだが、デザインははっきりいってダサイと思う。日常的にリモコンが使えるというのは便利なものだ。もう少し日本の実情にあったものだとより便利だと思うが
 H3950では、バンドルされているソフトウェアは大幅に減っている。Pocket PC 2002で標準のソフトウェアを除けば、おもなソフトウェアでは赤外線リモコンのNevoがバンドルされたくらいだろう。

 赤外線リモコンのNevoはよくできていて、数多くのメーカーからTVやビデオなどを選択し、番号を選択し実際に使えるかどうかを試すといった方法で選択可能だ。ただし、アメリカのものをそのまま日本語対応した感じで、家電はともかく、衛星などは日本の実情とは異なって感じられる。まだそれほど使い込んでいないが、シンプルな家電であれば非常に簡単にリモコンとして利用できる。

 Nevoでは気になる点もいくつかある。多機能過ぎて他のページにジャンプしないと電源が切れなかったりする場合があるが、ユーザーが画面のデザインをカスタマイズできるので、使いやすいように変更することは可能だ。また、少し画面の書き換えが遅い気がする。デザインも洗練されてはいない。しかし、十分実用的でリモコンとしては及第点だろう。

 H3950にはそのほか、画像表示ソフトウェア「iPAQ Image Viewer」、バックアップ用ソフトウェア「iPAQ Backup」などのオリジナルソフトウェアが新たにROMに搭載された。iPAQ Image Viewerはよくあるタイプの画像表示ソフトウェアだが、けっこう多機能でH3900シリーズの美しいディスプレイで写真を表示するのに便利だ。ただし、当然ではあるが、デジタルカメラの大きな画像を表示させようとするとそれなりに待たされる場合がある。iPAQ Backupは、フォルダ単位でのバックアップが可能ななかなか多機能なバックアップソフトだ。


iPAQ Image Viewerは標準的な機能はある。液晶の美しさとあいまって非常に美しい画面を見ることができる iPAQ Backupはフォルダ単位でのバックアップの指定が可能など、非常に使い勝手は良くなっている印象だ。短時間で効率的なバックアップが可能なようだ

 また、前モデルから付属しているタスクマネージャiPAQ Task Managerはなかなか使い勝手がいい。Javaアプレットを動作させられるJeodeなどは従来通りだ。新たに、フラッシュプレーヤーを動作させられるMacromedia Flash Playerが付属した。

 前モデルに比べて辞書や、地図、鉄道時刻表ソフト、ゲームなどのソフトウェアが減っているが価格を考えればしかたのないところだろう。もちろん、バンドルされている方が嬉しいが、必ずしも自分の好みとはあわなかったり、またすでに持っているソフトウェアの場合もある。本体のマシンを比較的安価にすることでユーザーが自分で選択できる方が嬉しいユーザーも多いだろう。一からセットアップするのが面倒な場合にはなんとも言えないが。


iPAQ Pocket PC本体だけでの通信とBluetoothで通信

アダプタをつけるとどうしても不格好になって取り回しに苦労する。ずっと付けっぱなしというのはバッテリーの関係で難しいだろう
 現状では、拡張パックを使用せずにiPAQ Pocket PC本体だけで通信を行なう手段は、IrDAを利用して赤外線アダプタを取り付けた携帯電話などで行なうか、H3970の場合はBluetoothモジュールが内蔵されているので、auの携帯電話にBluetoothアダプタを取り付けて使用するか、H3950にSDカードタイプのBluetoothモジュールを取り付けて、同様の方法で行なうか、NTTドコモのBluetooth 1.1内蔵PHS「ブラウザホン633S」を経由して利用するしかない。

 ただし、その日本での利用からするとやや不自由な状況もDDIポケットがSD I/OタイプのAirH"カードを今年中に発売することを明言しているので、速度が32kbpsまでということを除けば改善されることになる。iPAQ Pocket PCでもさほど不自由なくメールのやりとりや、Webブラウズが可能となる。

 現状でもauの携帯電話とBluetoothアダプタ(すでにauのBluetooth内蔵携帯電話C413Sの入手は難しいようだ)を利用すれば、特にH3970の場合は手軽に可能だが(ただし、auの対応機種にはiPAQ Pocket PCは入っていないのでユーザーが自己責任で利用することになる)、Bluetoothアダプタが2万円弱すること、PacketOneがプロバイダーの接続料を含めてあまり安価とは言えない(定額で可能なプロバイダーはおそらくなく、従量課金だけだと思う)ので、長時間利用するといった用途には向かないと思う。

 ここでは、一例としてBluetoothアダプタをauの携帯電話に取り付け、Bluetoothを使った通信を試してみた。実際の設定や通信はPocket PCで通信の設定をしたことがある人だったら驚くほど簡単だ。設定は、iPAQ Pocket PC側で行なうだけだ。

 まず、auの対応した携帯電話にBluetoothアダプタを取り付ける。Bluetoothアダプタは、携帯電話とはバッテリーが別なので先に充電しておく必要がある。向きが逆の場合もあるのでその点に注意しながら、カチッとはめ込み、抜けないことを確認する。アダプタの底部の電源ボタンを入れれば、赤く点滅し始め、次に赤く点灯し続けるのでBluetooth通信の準備ができたことがわかる。

 H3970の場合、まず、「Today」画面で右下の○に上下矢印アイコンをタップして「無線電波オン」をタップしてBluetoothをオンにする必要がある。筐体左上の黒いプラスチック系の端が青く点滅するようになる。次にメニューより「Bluetooth Manager」を選択する。画面下の「検索」メニューをタップし、デバイスを検索する。ここでは携帯電話が認識されている。初回だけアダプタに固有のパスキーを入力する必要がある。


Bluetoothを利用する場合は、Today画面で「無線電波オン」にする Bluetooth Managerで検索すると検索されたデバイスが表示される

 また、設定では「設定」→「接続」→「接続」でインターネット設定をあらかじめ変更しておく。プロバイダの設定に合わせて設定すればよく、名称を適当につけ、通信速度を「115200」にし、「詳細設定」をタップする。「ネームサーバ」をタップし、「指定されたサーバーアドレス」をチェックする。次に「ok」をタップし、「次へ」をタップする。電話番号を入力する(例では9999)。「次へ」をタップし「完了」をタップする。

 さて、筆者が試した範囲では、どうもここでリセットする必要があるようだ。筆者の環境ではそのまま続けたら、認識はするのだが接続できずに悩んだが、万病の特効薬(である場合もある)リセットを行なうことで簡単に接続できるようになった。

 PacketOneを利用してもBluetoothアダプタを使った接続の制限で最大64kbpsしか出ないこと、パケット通信であること、Pocket PCの場合はアクセス速度がそれほど高速ではないことなどで、使用感はそれなりの速度でしかないが、iPAQ Pocket PCの本体だけで通信できるというのは結構快適に感じられる。



一般的なPocket PCでネットワークに接続するのに必要な情報を接続から作成する このときプロバイダーの情報も用意しておく必要がある

早すぎる結論に代えて。iPAQ Pocket PCの魅力と限界

Webブラウズの速度などは、さまざまな要件があるだろうが、それほど高速というわけにはいかないようだ
 最大の魅力はその使い勝手だろう。半透過型のTFT液晶を採用したことで、屋内だろうと屋外だろうと、きわめて視認性が良くかつまた美しいディスプレイを利用可能だということはすばらしいことだと思う。初代とは雲泥の差だし、H3800シリーズよりも格段の進歩だ。

 また、環境が逆にiPAQ Pocket PCに追いついてきたという点も見逃せない。これまでは本体にはSD I/Oスロットしかないということは、特に日本においては、通信をするためには拡張パックが必須ということを意味していた。それが、Bluetooth内蔵モデルやSDカードタイプのBluetoothモジュールによって、本体だけでも通信が可能となったわけだ。また、DDIポケットのSDカードタイプのAirH"の発売が間近でもある。本体RAMが64kbpsあることもあって、本体だけで十分にメールのやりとりが可能な環境が整ったといえる。H3600シリーズが登場した時には、ARMといえばサードパーティなどのソフトウェアで未対応のものが多いことで有名なCPUだったが、この点については、1年半弱ですっかり状況が変わり、今となってはPalm機でも採用されるほどメジャーなCPUとなってしまった。現在では数多くのフリーウェア、シェアウェアが選択できる。

 だが、残念な点もある。まず、なんといってもPocket PCではXscaleはネイティブでサポートされているわけではないという点だろう。iPAQ Pocket PCは独自のがんばりで、ストレスのない使い勝手を実現しているが、それでもアプリケーションソフトウェアがもう少し高速だったらと思うシーンもある。

 また、ディスプレイは3.7インチ240×320ドット表示で、前述の通り非常に鮮明ではあるが、今となっては解像度が他OSの最新PDAに比べると見劣りするようになってきた。他機種では、320×480ドットの解像度のソニー CLIEや、640×480ドットを実現した、キーボード搭載で横型のシャープ製Linuxザウルスなどが登場したり発表されたりしている。iPAQ Pocket PCの制限というよりは、Pocket PC 2002の限界のようなものが、ハードウェアの大幅な発達と低価格化によって見えてきたというところだろう。通信がきわめて容易に利用可能で、AirH"のように定額のサービスが登場したことで、PDAにおいてもメールやWebブラウズが日常的に可能になったという環境の変化も見逃せない。

 試用してみての感想としては、筆者自身はH3970は非常に気に入った。リモコンなども画面の切り替えが遅いこととインターフェイス、デザインの格好悪さを除けば手軽で多機能で非常に使い勝手がいいと思う。一度H3970を使用するとH3850を買い換えたいという気持ちが強くなったほどだ。もっとも、筆者の用途ではBluetoothを内蔵している必要はないので、H3970より安価なH3950にしようかと思っている。もう少し画面の解像度が高くなるのであればまず間違いなく買い換えたと思う。現状のスペックでも非常に魅力的であるが、基本的な指向自体は変わってはいないため、どうするか悩んでいるところだ。

 フリーウェアやシェアウェアを使った環境構築についても紹介したかったが、時間と紙数がつきた。それらについては、また別の機会にご紹介できればと思う。


・ iPAQ Pocket PC H3900シリーズニュースリリース(コンパック)
  http://www.compaq.co.jp/press/press872.html
・ iPAQ Pocket PC製品情報
  http://www.compaq.co.jp/products/handhelds/pocketpc/


(山田道夫)
2002/10/29 11:00

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