悔しさをバネに着実に、au版「iPhone 5」の差別化ポイント


KDDIの門脇氏
iPhone 5

 9月21日、注目の新機種「iPhone 5」が登場する。「iPhone 4S」と同様、auとソフトバンクから同日発売される予定の「iPhone 5」だが、9月14日の予約開始前後からネット上でさまざまな情報が錯綜し、早くも注目が集まっている。今回、au版の「iPhone 5」について、KDDIのLTE担当者からコメントが得られたのでご紹介したい。

 なお、KDDIのコメントは、14日に掲載したソフトバンクの宮川氏のコメントを受けたものも含まれている。あわせてご覧いただきたい。

iPhone 4Sでは「激しくやられた」

 au版とソフトバンク版の「iPhone 5」は、対応するネットワークが異なり仕様も少し異なっている。両社は「iPhone 5」を皮切りにauは「4G LTE」、ソフトバンクは「SoftBank 4G LTE」の名称でLTEサービスを開始するが、同じLTEでも事業者毎に置かれた事情が異なり、サービス内容やエリア展開について違いが見られる。

 国内でいち早くiPhoneシリーズを投入したソフトバンクモバイルは、iPhoneに注力することで多くの契約者を獲得し、ブランド力を高めてきた。これまでに国内でiPhoneシリーズをもっとも多く販売してきたのはソフトバンクであり、現在も多くのiPhone利用者がソフトバンクの回線で利用していると予想される。

 これに対するauは、昨年10月の「iPhone 4S」からアップル製品の取り扱いを開始した。当初、ソフトバンク版で利用できるが、au版「iPhone 4S」では非対応の機能やサービスも多く、auは2012年春まで段階的にアップデートを重ね、ソフトバンク版との機能・サービス差を埋める作業に追われた。

 「昨年、あれだけ激しくやられたが、機能的に劣る部分があったのは事実。この1年、着実に準備を進めてきた。なるべく差別化できる部分、我々の強みが活かせる部分を充実させてきた」

 そう語るのは、KDDIのコンシューマ事業企画本部 次世代ビジネス戦略部 LTE戦略グループリーダー 課長の門脇誠氏だ。

 読者の中にも記憶に新しい方がいるかもしれない。au版「iPhone 4S」は、当初の機能的に見劣りした部分を強く印象づけられ、アップデート対応した後もその印象を引きずることになる。KDDI陣営からそうした声を聞くことは多く、「やられた」の中にさまざまな思いがこめられていることを窺わせる。門脇氏は、「ソフトバンクの宮川さんは追いかけていくと話されたようだが、iPhoneに関してはむしろ我々が追いついていかなければならない立場」と話す。

4G LTE

 14日、KDDIが発表したLTEサービス「4G LTE」は、当初の予定(12月1日)を3カ月前倒ししてサービスが開始される。

 「12月1日に予定していたものを前倒しして、9月21日から開始する。発表会ではiPhoneの名前は出せなかったが、対応モデルは当初1機種と案内した。我々としても大きなのトピックの1つだ。ただ、我々のLTEが他社のLTEと違うのかと言えば、実はあまり違いはない。基地局もほとんどが併設で、鍵になるのは周波数とエリア展開のスピードだと思う」(門脇氏)

 KDDIは2.1GHz帯については9月から運用できるよう急ピッチで進めてきた。サービス開始予定日を2012年12月1日としていたのは、800MHzの再編が関係している。7月に800MHz帯の再編が終了し、そこから800MHz帯でのLTEの電波が送信できるようになる。準備期間を用意して800MHzのエリア展開を考えた上での12月1日だった。

 auの「4G LTE」は、KDDIに割り当てられている2.1GHz帯、1.5GHz帯、800MHz帯の3バンドでLTEサービスを提供する計画だ。9月21日の時点では、まず2.1GHz帯でサービスが開始される。これに続いて2012年中には、1.5GHz帯と800MHz帯でLTEがスタートする。

 このうち、iPhone 5は2.1GHz帯に対応する。LTE対応のAndroid端末は当初800MHzおよび1.5GHz帯でサービス提供される予定で、2.1GHz帯は当面iPhone 5の専用バンドとして運用される。

 なお、CDMA方式を採用するauは、LTEを導入するにあたって基地局設備にハードウェアの変更が必要になる。KDDIでは大がかりな基地局設備の再配置ではなく、「既存の基地局のカードを差し替えるイメージ」(門脇氏)で、スピード重視の方法をとるという。

周波数に余裕のあるau

 auは2.1GHz帯において、まずは5MHz幅×2の帯域幅を利用して、下り最大37.5MbpsのLTEサービスをスタートする。その後順次、通信に余裕のある地域から10MHz幅×2、下り最大75MbpsのLTEサービスを展開させていく計画だ。

 ソフトバンクは、3Gで使っている現行の2GHz帯の利用状況を見ながら、3Gの利用帯域を削ってLTEサービスへ移行しなければならない。これに対し、PHSとの干渉防止用としてこれまで使えなかった空いた周波数(5MHz幅×2)がauでは利用できる。メインで利用している周波数が800MHz帯ということもあるため、LTEの導入についてはauの方が余裕があると想像される。

 門脇氏は「PHSのガードバンドが使えるようになり、そこに3Gのユーザーを逃がせることが大きい。バランスよくきちんとやっていける。トラフィックが厳しいと言われる都心部でソフトバンクとの差が顕著に出るのではないかと見ている」と語った。

テザリング

 auとソフトバンク、2つのiPhone 5のうち、au版はテザリング機能が利用できると案内されている。「テザリングやWi-Fiについても準備してきた。同じiPhone 5だが、事業者ならではの強みを出していきたい」と門脇氏は語る。

 なお、9月19日にソフトバンクモバイルがテザリングについて発表会を開催しており、そちらは別記事を確認していただきたい。

 「2.1GHz、1.5GHz、800MHzの3つのバンドでLTEのインフラを一気に立ち上げ、データの容量をしっかり確保し、自信を持ってテザリングがやっていける。+WiMAXの時もそうだったが、一部のユーザーが非常に多くのデータを利用し、インフラを圧迫してしまうことがあるので、総量規制を実施して、ほんの一握りのユーザーの利用をコントロールすることで、残りの多くのユーザーが快適に使えるようになる」(門脇氏)

 auの「4G LTE」は、1カ月あたり7GBのデータ通信を行うと、通信速度が128kbpsに制限される。1カ月あたり7GBという数字はあまりピンとこないところもあるが、auのスマートフォンユーザーのうち、3%程度が7GB以上のデータを利用するユーザーで、残りの97%のユーザーのデータ通信量は7GBに収まるという。KDDIは+WiMAXの経験を踏まえ、これまでよりも高速通信が可能なLTEサービスでも、7GBの範囲に収まると見ている。

 「ネット上では、ソフトバンクのiPhone 5はネット使い放題といった声もあるが、いわゆる通常のヘビーユーザー規制はあると思う。通信規制について横並びとも言われるが、どの事業者も結果的にたくさん通信を使われたら厳しいというのは同じ状況にある」という。

3Gのデータ&通話の同時通信はできない

 それでは、ソフトバンクがLTEで有利な点はあるのか。この質問に門脇氏は「LTEではないが、3Gとの同時通信というのはある」と話す。

 「iPhone 4S」の時に話題になったが、au版のiPhoneは3Gにおいてデータ通信を使いながら音声通話(VoIPはできる)をするといった使い方ができない。ソフトバンク版は、3Gのデータ通信を行いながら電話がかけられる。

 LTEは技術的にデータ通信を行いながら、3Gの通話を行うといった使い方ができない。このためソフトバンク版の「iPhone 5」は、LTEのデータ通信を3Gに切り替え、データ通信と通話を3Gにした状態で同時通信を行うとKDDIは見ている。米国の事業者などは、LTEにおいてデータと通話の同時通信を実現している場合もあるが、これはLTEのモデムを2つ搭載した状態で、バッテリー消費が激しく、端末サイズも大きくなってしまう。

 「同時通信が可能な場合、電話が終わると、LTEの標準上では3GからLTEに再びデータ通信が戻ると規定されているが、まだその機能は実装されておらず、データ通信は3Gに接続されたままになる。これは推測になるが、主なチップベンダーがサポートし始めた段階で、おそらくソフトバンク版もLTEには繋がらないはず。電話を切っても遅い3Gでそのまま通信している状態が本当にいいのかなとは思う」という。



3Gが下り最大9.2Mbpsへ、Wi-Fiは5GHz対応

 なお、au版「iPhone 5」は、3Gの通信速度が従来の下り最大3.1Mbpsから、下り最大9.2Mbpsに拡張した。

 門脇氏は「iPhone 4Sでは体感上、ソフトバンク版とそれほど差はなかったと思うが、理論値ながら3.1Mbpsから9.2Mbpsに3倍になった。おそらく3Gの体感速度は我々の方が速くなるのではないか」と話す。

 「iPhone 5」では、Wi-Fi機能が拡充し、これまでの2.4GHz帯だけでなく、5GHz帯が利用できるようになった。auの公衆無線LANサービス「au Wi-Fi SPOT」は、2.4GHz帯よりも繋がりやすいとされる5GHz帯をサポートしているほか、マルチデバイスをサポートしているため、iPhone 5だけでなくパソコンやタブレットなどもう1台で通信することも可能だ。Wi-Fiルーターのレンタルサービス「HOME SPOT CUBE」も5GHz帯に対応している。



 さらに今回、au版「iPhone 5」にはちょっとした変化があるという。

 「iPhone 4Sでは、Wi-Fiのプロファイルをダウンロードして設定する必要があった。今回は工場出荷時にauのプロファイルが設定されている。ユーザーは手間なく簡単にWi-Fiが使えて、2.4GHzで同じことをするとネットワークが混雑しており、つかんだはいいが繋がらない状態になる。5GHzだからこそやっているし、できるだけ無線通信をオフロードしたいという思惑もある。アップル側でも優先で5GHzに接続する仕様になっている」という。

 このほか、緊急地震速報の設定項目には、通常、バッテリー消費が大きくなる旨が案内されるが、au版ではこの表示がない。これは、アップル側にauの採用する緊急地震速報の仕組みがバッテリー消費の少ない仕組みだと説明したためだ。

 門脇氏は「我々のiPhoneは、提供した当初、技術的にも負けていたと思う。その悔しさをバネにこの1年やってきたところもある。追いつくために準備をしつつ、今回はポイントを絞って勝てている部分もあるかな、と思えるところまできた。我々は真面目にやり、アップルさんを説得するところは説得した。iPhoneに関しては我々が追いついていく立場、まだまだ挑戦者だ。テザリングなど少し騒ぎにはなっているが、ソフトバンクさんはそこまで焦ってはないと思う。彼らを焦らせていきたい」と語った。

 




(津田 啓夢)

2012/9/19 18:16