700MHz帯割当、周波数オークションや端末などイー・モバイルに聞く


 ソフトバンクモバイルが獲得した900MHz帯に続き、携帯電話用の新たな電波として700MHz帯の割当が予定されている。総務省では、今後の割当方針のベースとなる「開設指針案」に対する意見を3月30日まで募集。この方針案では、今夏を目処に、10MHz幅(上下)を3者へ割り当てることなどが示されていた。各社から意見が寄せられたと見られる中、イー・モバイル(イー・アクセス)は、自社が提出した意見を公表。その考え方について、執行役員企画部長の大橋功氏に聞いた。

開設指針案のポイント、今後の流れ

 携帯電話業界において、電波の割り当ては最も大きなトピックの1つ。電波があるからこそ通信サービスを展開でき、サービスを提供できるユーザー数などにも影響する。携帯電話各社には、既に多くの電波が割り当てられる中、700MHz帯や800MHz帯、900MHz帯といった帯域は、建物が多く建ち並ぶ都心部といった場所で建物にまわりこんで電波が届く、といった説明が行われ、「使い勝手の良い周波数帯」と言われることが多い。

総務省による700MHz帯割当の方針案概要

 これまでは、NTTドコモとKDDIが利用できる状況だったが、今年2月末、900MHz帯の割当が行われ、ソフトバンクモバイルに免許が交付された。さらに、700MHz帯(上り718~748MHz、下り773MHz~803MHz)の割当も今夏を目処に行われる予定で、イー・アクセスでは、「この帯域がこうした形でまとまって割り当てられることは今後5年はないのでは」と見ているという。ちなみに、携帯用となる773MHz~803MHzは、マラソンのテレビ中継などに用いられるFPU(Field Pickup Unit)や、劇場などのマイク(ラジオマイク)に利用されており、これらの用途においては機器の買い替えなど新たな周波数帯への引っ越しが必要とされる。この引っ越し費用(移行費用)は携帯電話事業者が負担することになっている。

 3社以上の立候補があった場合、あるいは3つの帯域のうち使いたい電波が重複した場合は、「移行費用をより多く負担できる者」「2019年度末時点の3.9Gの人口カバー率がより大きい者」「3つの項目で、より適合している者」という基準で審査が行われる。3点目の“3つの項目”とは、既存の700MHz帯利用者の引っ越しに向けた体制などを問うもので、こうした基準は900MHz帯の割当でも用いられ、700MHz帯の方針案では、いわゆる周波数オークションの導入は触れられていない。

周波数オークションを牽制、他社と同等の周波数を求める

 総務省が示す700MHz帯の方針案では、3者に割り当てられる予定で、しかも900MHz帯を得た事業者は他社より優先度が下がる方針とされている。ソフトバンク社長の孫正義氏も700MHz帯には名乗りでない方針を示している。新規参入を目指す事業者の存在も現在は見聞されておらず、このままでいけば、NTTドコモやKDDI、イー・モバイルに割り当てられる可能性が高いように見える。

 こうした方針案に対して、イー・アクセスでは、スピーディな割当と、市場競争の促進に繋がる形になることを求める意見書を提出した。割当の可能性の多寡での行動ではなく、実際に通信事業を展開する企業として意見を申し出る必要があると判断したためで、意見のうちスピーディな割当については、周波数オークションへの牽制と、割当後の既存利用者(FPU、ラジオマイク)の引っ越しに2年はかかるとの見通しがあるためだ。

 ちなみに周波数オークションは、3月9日に閣議で決定され、総務省からの法案として今国会に提出されている。周波数オークション法案(電波法改正案)では通信事業において、必要に応じて周波数オークションを実施して、最も高い入札を行った者に免許を割り当てることなどが示され、公布から1年以内に施行、となっている。総務省の議事録によれば、閣議後の記者会見で、川端達夫総務大臣は、「周波数オークションが2014年中頃以降に導入でき、そこで入札額は一般財源になる」といった説明を行っている。こうした法案の流れから、周波数オークションが700MHz帯の割当に適用される可能性は低いと見られるが、イー・アクセスの意見書では、周波数オークションは700MHz帯で導入せず、900MHz帯と同じ手続きの枠組みですすめるよう求めている。

 900MHz帯と同じ手続きの流れを求めつつ、「(他社よりユーザー数が少ないため)逼迫度が0点と採点されるのは厳しい」とするイー・アクセスは、700~900MHz帯を持っていないことへの配慮も求める。これは、先述の通り「700~900MHz帯といった帯域がまとまった形で割り当てられる機会は今後少ない」と見ているためで、他社と同等の環境(周波数のイコールフッティング)を求めていく。

 このほかやっかいな課題となりそうなのが、テレビのブースター(増幅器)だ。今回の700MHz帯が携帯電話で利用されるようになると、家庭などで導入されているテレビのブースターへ影響がある。通信サービスには影響はないと見られているが、テレビ視聴に障害が発生するとのことで、その対策は携帯電話事業者が行うことになっているのだが、テレビ用ブースターは、電気工事の事業者がすぐ設置できるもので、どこにどれだけのブースターが存在するか、「総務省からも実態がわからないと言われている」(大橋氏)と、どこまで対策の費用と時間がかかるか、不透明な状況だ。ここに対して、イー・アクセスでは「ブースター対策はもちろん行うが、今年の7月で全国におけるテレビの周波数移行(リパック)は完了する。たとえばそれ以前のブースターへ対策は行うが、それ以降は除外するなど、ある程度、官主導で効率的かつ合理的に対処できる方針を示して欲しい」と説明する。免許が割り当てられた後の話となるため、まだ時間的な余裕がある課題と言えるが、こうした点も事業者にとっては気になる部分だ。

700MHz帯の端末は?

 電波の割当は、一見すると、一般のユーザーに関わりのないことのように思える。だが、免許交付後の設備投資などが大きく左右するところはあるものの、電波の割当がエリアの繋がりやすさやサービスの使いやすさ、端末ラインナップに影響する可能性はある。そして700MHz帯は、3.9G、つまりほとんどの携帯事業者にとってLTEが導入されると見られている。LTEそのものは、世界的に今後導入と期待される通信方式ながら、その一方で国や地域によって使う周波数帯が異なる可能性があり、700MHz帯が日本以外で利用されるかどうか、現時点では不透明だ。

 こうした点に対して、イー・アクセスは「端末の調達は課題の1つ。国際協調をとらなければならない点だが、今回、日本で700MHz帯が3社に利用される、ということになるのはメリットになるのではないか」とする。つまり、もしNTTドコモやKDDI、イー・アクセスに割り当てられれば、1億以上の契約数がある日本市場において多くのユーザーが700MHz帯のサービスを使うことになり、国内外の端末メーカーにとってもサポートする動機になるのでは、と期待しているのだ。また、これまで海外では利用されていない、1.7GHz帯での3Gサービスを展開してきた同社だが、主に欧州で2G(GSM方式)からLTEへ切り替える動きがある、としており、700MHz帯のみならず、1.7GHz帯もLTEサービスの端末調達では有利に働く可能性がある、とする。

 ちなみに基地局について、イー・アクセスではまだ700MHz帯での展開をどうするか、検討中とのこと。メーカー次第の部分もあるが、これも端末調達と同じように、日本市場として700MHz帯という1つにまとまった帯域が生まれることが有利に働くのではないか、と見ているという。

 2007年にイー・モバイルとして新規参入した同社では、他社と比べ、利用できる周波数帯が少ないことから、「700MHz帯割当の重要性、意味が他社と全く違う」として意見書を公表した。エンドユーザーにとっては、より繋がりやすくなり、競争が促進されるような電波の割当が望ましいところ。イー・アクセスでは今後のスケジュールとして、早ければ4月11日の電波監理審議会で方針が決定、大型連休を挟んで700MHz帯の割当申請を受付、6月下旬にも割当が決まると見ている。




(関口 聖)

2012/4/2 16:49