NHN、スマートフォン向けサービス強化へ


 ポータルサイト「NAVER」やオンラインゲームサイト「ハンゲーム」の運営で知られる韓国NHN。昨年はlivedoorも傘下に収めている。同社は、2010年3月に完成し、同年5月より使用している韓国・盆唐(ブンダン)の本社ビル「Green Factory」を日本の報道陣向けに公開するとともに、スマートフォン向けサービスの事業戦略などについて説明した。

ローカライズ戦略

NHN LSO室のウォン・ユンシク氏
NHNグループ代表のキム・サンホン氏

 NHN LSO室のウォン・ユンシク氏は、NAVERやハンゲームのほか、韓国国内で展開しているSNSサービス「me2day」や子供向けのポータル「ジュニアネイバー」などの事業を紹介。同社の売上の49%を検索事業で、33%をゲーム事業で上げていることなどを示した。

 同氏は、「会社の規模としては、Yahoo! JAPANの半分程度。世界の検索市場では、Google、Yahoo!、Baidu、MSNに次ぐ第5位に位置付けている」とした上で、「韓国には『鵜のまねをすると溺れて死ぬ』ということわざがあるが、グーグルは当社の20倍の規模があるため、全世界で同じようにサービスを展開できるが、それと同じ戦略を採用することはできない。そこで、我々は日本では日本人向けのカスタマイズを施すなど、サービスのローカライズに注力している」と述べた。

 同氏のプレゼンテーションの終わりにはNHNグループ代表のキム・サンホン氏が登場し、「日本のユーザーに愛していただけるよう、PCのみならずモバイルのユーザーにも積極的にサービスを提供していきたい」と、日本市場への意気込みを語った。

スマートフォンゲームに1000億ウォンを投資

NHN スマートフォンゲーム事業グループ グループ長のチェ・ユラ氏

 スマートフォン関連の事業については、NHN スマートフォンゲーム事業グループ グループ長のチェ・ユラ氏から説明があった。

 同氏によれば、韓国のゲーム市場は年間6兆5806億ウォン規模。その81.8%はPC向けのオンラインゲームが占めている一方、モバイルは5.7%でしかない。しかし、韓国においても、4カ月で売上が8倍以上になるなど、ソーシャルゲーム市場の成長は著しい。同氏は「PC向けのオンラインゲームではコアユーザーが中心になっていたが、モバイルではライトユーザーが多く、ゲームの内容が多様化している」と、その様子を表現する。

 韓国では、iPhoneの販売は日本より遅かったものの、スマートフォンへのシフトは日本以上に急速で、同社では、2011年からスマートフォンへの取り組みを本格化させた。同社は、スマートフォン向けのゲームを開発する子会社「オレンジクルー」を設立するなど、この分野に1000億ウォンを投資している。

 また、同社ではスマートフォン向けにゲームとコミュニケーションを融合したサービスを提供できるプラットフォーム「Fun CONNECT」を開発。アドレス帳の中の友人をゲームに誘い、ランキングを競うといった仕組みを用意した。このプラットフォーム向けには、年内に30タイトルの配信を予定しているという。

 こうした仕組みを利用して日本と韓国で対戦できるようにすることも考えられるが、同氏は「ゲームに対する意識にも地域性があり、日本では協力してプレイすることや達成感を重視する傾向があるが、韓国ではランキングのような競争を重視する傾向がある。システム的にはもちろん可能だが、どういう風にすれば各国のユーザーに楽しんでもらえるのか、慎重に検討している」と述べた。

 昨今、話題になることが多いタブレット型端末の存在については、「スマートフォンとあわせてスマートデバイスと表現してあわせて取り組んでいるが、スマートフォンよりもコアゲームをプレイするPCユーザーに近い印象もある。韓国では、ポータブルゲームの市場がそれほど大きくないため、タブレットに期待している」と語った。

モバイルには正解型検索がマッチする

NHN 検索本部 本部長のリー・ユンシク氏

 NHNのゲーム以外の柱の一つとなる検索事業においても、モバイルの重要性は高まっている。NHN 検索本部 本部長のリー・ユンシク氏によれば、「これまでPCで推進してきた『正解型検索』が、モバイルでより求められている」という。

 正解型検索は、検索結果をただ羅列するGoogleのようなスタイルではなく、関連する画像や動画、イベントなど、さまざまな視点から一つのキーワードに結びつくと考えられる情報を整理して表示してくれるというもの。例えば、「少女時代」というキーワードで検索をかけると、メンバー構成やデビュー時期、コンサートの予定などを1ページの中で確認できる。

 同氏は、「画面が狭く、操作性もそれほど良くないモバイルにおいては、目的とする情報にすぐにたどり着ける正解型検索のメリットは大きい」と語る。

 その一方で、同氏は「スマートフォンユーザーのニーズの本質がどこにあるのか理解しきれていないところもある。街に繰り出した若者が携帯電話で『お酒』とだけキーワードを入力して周辺の飲み屋を探す、といった利用法は、検索エンジンとしては当初想定していなかったもので、こうしたニーズにどう応えていくのか、よく考えながら取り組んでいきたい」と述べ、モバイル向け検索の難しさを説明した。

スマートフォンではクオリティ重視

NHN Japan株式会社 代表取締役社長の森川亮氏

 日本でのスマートフォンへの取り組みについて説明を求められたNHN Japan株式会社 代表取締役社長の森川亮氏は、「現在、他社(大手SNS)が行っているアプローチは、アップルやグーグルのマーケットと同じで、同じようなことをするのでは意味がない。スマートフォンについては、クオリティを重視してやっていきたい。定番ゲームは50タイトル出す予定で、ここではナンバーワンを目指す」と語った。

本社ビル「Green Factory」

 なお、報道陣向けには同社の本社ビル「Green Factory」の内部が公開された。

NHN本社ビル「Green Factory」約2800人のスタッフがこのビルで働く
NHN Space Experience Teamのイ・ウンジェ氏

 Green Factoryのコンセプトデザインを作り上げたNHN Space Experience Teamのイ・ウンジェ氏によれば、同ビルにはNHNが理想とするコミュニケーション文化が反映されているという。同氏は「サムスンに代表される製造メーカーなどの企業はユーザーに対して一方的に価値(製品)を提供する形だが、NAVERはユーザーとのコミュニケーションを通じて新たな価値を作り出す」とした上で、さまざまな場面でのコミュニケーションが重要だと語る。

 同氏はGreen Factoryの設計コンセプトとして、「外」と「内」の2つのコミュニケーションを表現したと説明する。「外」については、1階と2階を周辺住民に開放し、ITやデザインに関する2万冊の専門書を所蔵する図書館を設置したり、セミナーなどを開催できるホールを用意したりしている。その一方で「内」のコミュニケーションが自然に増える施策として、スタッフの導線上に「Hive」(巣)と呼ばれる集会場のようなスペースを設置した。エレベーターホールから業務スペースに向かう途中に、コミュニケーションが発生するようになっている。

オンライン企業のNHNだが、オフライン知識も積極的に取り入れる努力をしている
「Hive」のような場は、韓国の古い町によく見られたという社内のあるHiveスペースでは、偶然スタッフの誕生会が行われていた
ビルの4Fは丸ごとカフェスペースになっている

 また、「重要な意思決定は、実はお酒の席やスターバックスで行われることが多い」と語る同氏。これにヒントを得て、ビル内に多数のカフェスペースを用意したという。

 このほか、トイレで歯を磨くのは気分的に嫌だ、という社員からの意見を反映し、「CHI KA, CHI KA」(歯磨きのシャカシャカという音を韓国語で表現した擬音語)という歯磨き専用スペースを設置するといったことも行われている。

カフェの中にはレゴで遊べるテーブルもGALAXY S IIやXPERIA playなど、最新のデバイスに触れられるゾーンも
歯磨きスペース「CHI KA, CHI KA」個性豊かな歯ブラシやカップが並ぶ

(湯野 康隆)

2011/7/22 19:11