ソフトバンクがドコモと接続料の協議、紛争処理委に情報開示
ソフトバンクモバイルの弓削氏 |
ソフトバンクモバイルは、接続料の算定に関してNTTドコモが電気通信事業紛争処理委員会へ「あっせん」申請している件について、ドコモと協議する。9日、紛争処理委員会に対して協議に応じる旨を報告するとともに、同委員会に接続料を検証するために必要な情報を開示することを明らかにした。
■接続料とガイドライン
NTTドコモは、5月18日、ソフトバンクモバイルが提案した2010年度適用の相互接続料水準について、総務省所管の電気通信事業紛争処理委員会に対し、算定に必要な情報の開示を求めて「あっせん」の申請を行った。
相互接続料とは、携帯電話事業者間でやりとりされる関連費用のことで、アクセスチャージなどとも呼ばれる。たとえば、A社の携帯電話からB社へ電話をかけた場合、A社の通信網からB社の通信網に接続した形になるため、A社はB社に両者間で取り決めた接続料を支払う。
電気通信事業法では、接続料について適正な原価を適正な利潤の上で算定されると規定するのみで、接続料の算定基準は各社独自のものだった。特に、ドコモとソフトバンクの間では互いの主張に乖離があるため、2007年以降は接続料の合意に達しないまま、毎年度接続料の精算が行われている状況となっている。
こうした中で総務省では、2010年3月、通信各社からヒアリングなどを実施し、接続料の算定方法を定義するガイドラインを公表した。接続料は「ネットワークコスト+適正な利潤」÷「総通話時間」であると明文化された。また、ネットワークコストに含まれていた営業費用などが原則、コストに含まれない形になった。
なお、ガイドラインは二種指定の通信事業者に対して適用されるため、ドコモとKDDIがその対象となる。都道府県毎にそれぞれ25%以上のシェアがあるドコモとKDDIは、接続料の公開が義務付けられている。シェア25%に満たないソフトバンクやイー・モバイルらに公開義務はないものの、ガイドラインでは接続料や会計の公表が「望ましい」とされている。「望ましい」には拘束力はない。
■これまでの経緯
ガイドライン公開後最初の接続料開示となる今回(2010年度適用分)、ドコモはガイドラインに即した形として2011年1月に接続料を公表した。公開義務のないソフトバンクモバイルも3月4日、ガイドラインに即した形として接続料を公表している。
情報開示義務のあるドコモは、接続料算定に必要な情報も公開する義務がある一方で、ソフトバンクの公表した接続料には、算定の根拠となるデータが含まれない。ドコモの「あっせん」申請は、ソフトバンクが公表した接続料を検証するために必要な情報の開示を求めたものだ。ドコモ側ではソフトバンク側の算定した接続料が高すぎるとの見解を示している。
なお、紛争処理委員会への「あっせん」は、両者の合意形成を目的として委員会の立会いの下で協議を行うもので、紛争処理としては穏便な手法だ。委員会側が判断を下すものではなく、協議にも拘束力は伴わない、協議自体も拒否できる。
6月9日、紛争処理委員会に対して、ソフトバンクモバイル側よりNTTドコモとの協議に応じるとの回答があった。この回答はドコモ側にもすでに伝えられており、ドコモでは「これによりあっせん手続きが進む。紛争処理委員会へ情報が開示され合意形成を期待する」とコメントしている。
■ソフトバンクは紛争処理委員会に情報開示
ソフトバンクモバイルは、9日、ソフトバンクBBとソフトバンクテレコムと連名で説明会を開催した。
ソフトバンクはドコモからの「あっせん」申請に対し、紛争処理委員会に対案を出す形で、第三者機関である同委員会のみに情報を開示し、接続料算定の検証を求めた。ソフトバンクモバイルの常務執行役員で渉外本部長である弓削哲也氏は、ドコモ側の求めた情報開示については競合他社ということもあり、「直接、情報開示することはない」と語った。紛争処理委員会がこの対案を受け入れれば、協議が進むことになる。
なお、紛争処理委員会では、ドコモの「あっせん」申請に対して、「ソフトバンクより申請を受けると回答があった」と話している。今後の協議結果については、協議終了後に両者合意の上で委員会側から発表することもあるが、現段階では発表はないとしている。
このため、ソフトバンク側が対案として出した情報開示と、その検証についてはコメントを得ていない。前述したとおり「あっせん」は、紛争処理委員会側がなんらかの判断を下すようなものではない。ただし、両者の合意形成を促すために、紛争処理委員会が妥協点を提案することはあるという。この提案を事実上の裁定と捕らえる見方もあるようだ。
■ソフトバンクの反論
ソフトバンクモバイルの弓削氏は、あっせん申請に伴いドコモが5月に開催した説明会の内容について、「逐一議論するにはデータが足りない」として詳細な反論は避けたが、一部を抜粋する形でドコモ側が試算した内容の不備を指摘した。
ドコモ側がソフトバンクモバイル側の総通話時間を約3.8兆秒と推計したことについて、データに不確定要素があると説明し、ドコモ側の過大な推計値であるとした。推計するための元データについて弓削氏は「どういう数字かわからない。推計は不確かなのではないか」などと語った。
なお、ソフトバンクではそもそも、トラフィックデータを公開しておらず、公開しない理由についても明らかにしていない。このため弓削氏はドコモ側の不備を指摘しつつも、「我々はトラフィックデータ自体を公開していない」と語り、ソフトバンクの総通話時間についてコメントを控えた。
今回の説明会は、ドコモの推計に対して、ソフトバンク側がその過剰な試算や不備、算定過程の不透明さを指摘するものとなった。しかし、その一方で、反論するソフトバンク側は自社のトラフィックデータを公開しない方針であり、反論の根拠が提示されないまま進んだ。こうした状況から、反論するためのデータは理論上の数値から導きだされる傾向というあいまいなものとなった。
■ソフトバンク、ドコモに対し「あっせん」
なおソフトバンクでは、9日、紛争処理委員会に対し、ドコモを向こうに回す形で逆に「あっせん」の申請を行っている。
その内容は、ガイドライン策定以前の接続料に含まれていた販売奨励金などの営業費について、2009年度以前にさかのぼって返金するよう求めたものだ。ソフトバンクでは、ドコモが2009年度以前の各年度に含めていた接続料について、営業費を含めない形で見直した上で、過剰に支払っていた分を再精算する必要があるとしている。
その根拠となるのは、ガイドライン策定以前も電気通信事業者法において、「適正な原価」で接続料を取り決めるよう規定されている点という。ソフトバンクでは、営業費はこの「適正な原価」には含まれないとの考えから再精算が必要とする。ただし、これまで同社は営業費を含めた接続料を支払ってきており、弓削氏は「営業費が接続料に入っていたとは認識していなかった。想定外」とコメントしている。
なお、ガイドラインではソフトバンクがこれまで接続料に含めていた「ネットワーク外部性追加料金」についても、接続料には含まれないとされている。「ネットワーク外部性追加料金」は、ソフトバンクが新規ユーザーを獲得する際、キャンペーンや割り引きなどで費やされるコストを反映したもので、現在のソフトバンクモバイルがボーダフォン時代に接続料の中に含められたものだ。ソフトバンクでは今回の2010年度接続料から、この「ネットワーク外部性追加料金」を除外して接続料を公表している。
「営業費」の返金と同様に、ドコモから「ネットワーク外部性追加料金」の返金を求められた場合、事業者間で再び水掛け論になる可能性がある。報道関係者からこう指摘を受けると、弓削氏は「営業費とネットワーク外部性コストでは概念的に全く違う。ボーダフォン時代からのやり方にならったもの。ドコモの営業費は諸外国の中で例がない」と話した。
なお、ドコモでは、ソフトバンクからの「あっせん」申請について、紛争処理委員会から内容が届いていないためコメントを保留しており、「内容を確認した上で適切に判断したい」とするにとどまっている。
■ソフトバンク「問題は、接続料だけではない」
説明会でソフトバンクは「問題は、接続料だけではない」とし、通信の競争環境にはハンディキャップが多数あると訴えた。接続料や携帯電話のローミング、MNP手続きなど携帯電話関連もあるものの、同社が問題とする内容の多くはNTT東西を対象としたもので、固定ブロードバンド回線の工事や中継接続、営業手法によるものだ。
この中でソフトバンクテレコムは、NTT東西を対象に「あっせん」の申請を行っている。その内容は、ドライカッパー(未使用の回線)電話のジャンパ工事費が1回線あたり1200円かかるところ、NTT加入電話の場合は1000円と200円安い価格を提示しており、同水準にするよう求めるものだ。
このほか、ソフトバンクBBは、NTT東西が「116窓口」において、光ファイバー通信の勧誘行為をしているとして、総務大臣宛に意見書が提出したという。
2011/6/9 20:00