増収増益のソフトバンク、4000万回線を目指す方針示す
ソフトバンクの孫氏 |
ソフトバンクは2010年第2四半期決算を発表した。28日夕刻に行われた会見では、同社代表取締役社長の孫正義氏から、上期(2010年4月~9月)の業績が明らかにされたほか、携帯電話事業に関する、さまざまな数値が示されるとともに、今後10年以内にソフトバンクモバイルで4000万回線の獲得を目指す方針も明らかにされた。
2010年上期におけるソフトバンク全体での売上高(連結)は、1兆4650億2100万円で、前年同期比108.6%となった。営業利益は3155億2100万円(前年同期比136.8%)で増収増益を記録した。ソフトバンクとしては売上高は過去最高、営業利益は5期連続で過去最高を記録した。
上期を3つのポイントで総括 | 連結での業績 |
純有利子負債の状況 | 借入返済は予定より早めに |
■オペレーションデータ
携帯電話(移動体通信事業)の売上高は、9400億4400万円(前年同期比13%増)、営業利益は2072億300万円(前年同期比57.3%増)で、大幅な増益を記録した。純増数は159万7600件で、このうち通信モジュールの純増数は36万4000件。通信モジュールのうち、第2四半期だけの純増数は19万4200件となる。
解約率は0.96%(前四半期から0.28ポイント減)、買替率は1.67%(前四半期から0.14ポイント減)となった。また新規契約獲得の手数料平均は3万7500円(前四半期から1600円増加)。
28日の会見で孫氏は、他社よりも勢いのある純増を示していること、ARPU(1契約あたりの平均収入)が増加する方向となっていることを説明。純増数は、前年同期(2009年度上期)の68万件であったのに対し、この上半期では160万増となり、iPhoneの販売が好調な結果と分析されている。
また、第2四半期だけでのARPUは4300円で、前四半期から150円増加した。内訳を見ると、データARPUは2290円(前四半期から300円増)となる。業界的には減少傾向が続くARPUについて、孫氏は「反転して増加傾向になった会社はほとんどない。ユーザー増加とARPUの増加が増収増益の一番大きな理由」と指摘。ボーダフォン買収直後は「ホワイトプラン」をはじめ、安さを前面に打ち出した戦略であったのに対し、今回の決算後半でスマートフォン/スマートパッド(後述)へ注力する方針が強調されるなど、現在の移動体通信事業はデータ通信で収益増を図る戦略であることがあらためて紹介された。
また同氏は、ボーダフォン時代から現在までの移動体通信事業における営業利益の変遷を示したグラフを踏まえ、「ボーダフォンのときは加速度的に営業利益が減った。1年後には(営業利益が)ゼロ、という恐れがあるなかで、ボーダフォンを2兆円で買収した。携帯電話ポータビリティ制度(MNP)が開始される頃で、ボーダフォンは草刈り場になる、と見られており、今振り返るとぞっとする反面、良かったなとほっとしている」とも語っていた。
質疑応答で、通信速度向上への取り組みを尋ねられた孫氏は「ネットワークについては、いくつかの方法で速度を上げることに取り組んでいる。11月4日の新機種発表会で触れることになるだろう。いくつかのものは準備しているが、時期が来るまでコメントしない」とした。また、緊急地震速報については「ネットワークシステムが若干違っていて、取り組みが遅れていて準備中だが、目処が立ったので端末も準備していきたい」とコメント。なお、ソフトバンクモバイルでは10月7日より、緊急地震速報が利用できるようになったとアナウンスしている。
auが発表した「Skype au」については、「SkypeはiPhoneで利用できるので、ある意味、実施済みと言える。ソフトバンク同士は、21時までホワイトプランで通話無料であり、携帯電話での無料通話は先に我々が実現している。固定電話でもBBフォンが400万ユーザー規模で(ユーザー間の無料通話を)行っている」と語り、無料通話という側面では対応ユーザー数の規模で優位にあるとした。
さきごろ総務省がNTTドコモ系のマルチメディア放送(mmbi)に対して、携帯端末向けマルチメディア放送の受託事業者の免許を付与したことに関連し、ソフトバンクモバイルでの対応を尋ねられると「ワンセグが付いている機種では基本的に対応する。それに対するコンテンツ側や配信システムについても、いろいろ準備中で積極的に取り組んでいきたい。パケット増大を緩和することに役立つと思っている」と説明した。
■ウィルコムの基地局立地を活かす
ソフトバンクモバイルにおいて、過去半年間、最もユーザーへ訴えかけた取り組みの1つは「電波改善宣言」だ。今回の決算会見でも、孫氏は、ARPU増とユーザー増の一方で「電波が弱点」とし、エリア拡充を喫緊の課題とする。たとえばWebサイトで基地局設置数を毎月報告するようにしたほか、フェムトセル(宅内をカバーする超小型基地局)の申込受付件数が9月末時点で5万4000件となり、フェムトセルが設置された個人ユーザー1276人に対して行ったアンケート調査の結果として「(電波状況が)改善した」という回答が92%に達したことを明らかにした。
エリア対策の一環として、会社更生手続き中のウィルコムに触れた孫氏は「ウィルコム救済にはいくつもの意味がある」と述べる。
「基地局を増やすのに、ネックとなるのは基地局の場所の確保。ウィルコムが持っている場所は、(ソフトバンクモバイルの)基地局を建設する上で貢献できる。ウィルコムにいる優れたエンジニアは、日本でたくさん無線基地局を建設した経験、ノウハウを持っている」(孫氏)。
ウィルコム救済がソフトバンクモバイルへ大きなメリットとなるとする孫氏だが、ウィルコムが抱える約380万契約についても触れ、「急激に減っては経営的に良くない。なんとかこれを良い方向に持って行けるような目安をつけている最中」として、11月にも更生計画が認可されれば、新たな展開が見込めることを示唆した。
■4000万回線を目指す
「今後も勝ち続けられるのか」という疑問に答える、と孫氏 |
ソフトバンク 勝利の方程式 |
「一言で言えば順調だ」と、にこやかに会見をスタートした孫氏は、携帯電話(移動体通信事業)の成長を背景に、おだやかな語り口でプレゼンテーションを行う。移動体通信事業の業績を一通り説明した同氏は、「みな同じ疑問を抱くのではないか。ソフトバンクは最近順調だが、『今後も勝ち続けられるのだろうか』と」と語り、“ソフトバンク勝利の方程式”を紹介する。
これは、「スマートフォン」「スマートパッド(タブレット端末)」の組み合わせが、ソフトバンクの成長をもたらすという孫氏が描くシナリオのこと。スマートフォンはiPhoneを、スマートパッドはiPadを中心に据えながら、他のデバイスも揃えて、それらのデバイスに対するニーズとトレンドをキャッチアップして成長を図る。
スマートフォンの成長性については、iPhoneの販売が好調に推移しており、調査会社のデータでは今年度上期におけるスマートフォン新規販売数のうち、8割を占めていること、あるいはiPhone新規契約のうちの女性ユーザー比率が増加し、ニッチな商品からより一般的な商品へ変貌しつつあること、法人契約数が2008年夏と比べて約40倍に成長したことを根拠にする。
グローバル市場向けのデバイスながら、日本ではワンセグチューナーの投入や絵文字入りメールへの対応なども行われたiPhoneだが、孫氏は「当初、絵文字やワンセグがないものが売れるわけはないと評価されたが、加速度的に売れている。一度体験すると従来端末には戻れない」と語り、iPhoneがもたらすユーザー体験は、他の携帯電話を圧倒していると指摘。その一方で、質疑応答で日本の携帯電話に搭載されてきた機能を取り入れたスマートフォンについて問われると「(グローバルモデルと日本独自のモデル)両方だと思う。グローバルモデルで最先端、あるいは(出荷数の)ボリュームを活かした安い機種がある一方、日本の携帯電話文化のニーズを(スマートフォンに)取り入れた進化は十分に需要があると考えている」と分析する。ただ、今後のラインナップでの取り組みについては、11月4日に新製品発表会を行うとして、「先だっていろんな情報が漏れないようにする。小出しにはしない」と語り、詳細には触れなかった。
「スマートフォン」に続き、「スマートパッド」についてもパソコンの代替デバイスとしてニーズが高まると分析。ソフトバンクグループ内における普及率は、iPhone、iPad、Wi-Fiは100%、Twitterが96%に達しているとした。
こうした取り組みにより、孫氏は「ソフトバンクモバイル4000万回線構想」を今回の会見で掲げた。これは、増益を保ち、純有利子負債をゼロのままにしながら、2010年代中に達成するというもの。
2010年9月末時点でソフトバンクモバイルの契約数は2347万4200件だが、ここに救済する予定のウィルコムの契約数377万7700件を加え、残りの約1200万強の契約を今後10年以内に獲得し、4000万契約達成を目指す。孫氏は、質疑応答で4000万契約達成の要点を尋ねられると「現在の約2400万回線、ウィルコムの400万回線がある。我々自身、純増ナンバーワンを続けており、iPhoneやiPadが牽引しているが、スマートフォンやスマートパッドの比率は、携帯電話やパソコンに比べて増えていくと思う。それぞれでナンバーワンなら、4000万回線は十分射程距離に入るのではないか」と実現可能な目標とした。
2010/10/28 20:33