UQが330MbpsのWiMAX2を説明、イー・モバイルのDC-HSDPAを牽制


野坂氏
要海氏

 UQコミュニケーションズは、報道関係者向けの説明会「UQコミュニケーションサロン」を開催した。通信速度330Mbps(理論値)というWiMAX2(IEEE 802.16m)や、帯域制限についての考え方などが説明された。

 UQコミュニケーションズの代表取締役社長である野坂章雄氏は、イー・モバイルが今秋より開始予定の下り最大42MbpsのDC-HSDPA方式のデータ通信サービスを展開することに言及し、「WiMAXは大丈夫なのか? といった声をいただいている」と話し、今回の説明会や、目前に控えた展示会「CEATEC JAPAN 2010」などで積極的にアピールしていく方針であるとした。同社は、CEATEC JAPANにおいてブースを出展し、WiMAX 2のデモを披露するほか、新端末も展示する予定。イベントでは野坂氏の講演なども開催される。

 UQの直近の状況は、9月末で33万契約に達する見込み。2010年度末80万契約に向けて予定通り進んでいるという。利用されている端末は現在、データ通信端末が半数以上で、モバイルWi-Fiルーター、WiMAXモジュール搭載パソコンがそれに続いている。2010年度末にはデータ端末が5割程度に落ち着くと見られ、モバイルWi-Fiルーター3割、パソコンが2割程度と主流になるとしている。

 野坂氏はモバイルWi-Fiルーターが想定よりも好調なセールスを記録しているとし、iPadなどの流行を要因として挙げていた。このほか、WiMAXの基地局数は9月末で1万1000局に達する見込み。こちらも2010年度末の1万5000局に向けて順調に推移しているという。

 サービス関連では、10月1日より提供するWiMAX内蔵パソコン向けの割引サービス「WiMAX PCバリューセット」について説明。段階制料金プランでは、WiMAXを全く使わなければ0円、使った月でも上限額は4600円とアピールした。

 さらに、米WiMAX事業者であるClearwireのエリアで利用できる、相互利用サービスについても紹介。対象がWiMAXパソコンに限定されているのは、インテル製のWiMAXモジュールでは、複数のキャリア情報が保存できるためであるとした。

 つまり、WiMAXパソコンでは、UQとの契約状態を維持したまま、Clearwireの体験プランが契約できる。データ通信端末などのチップにはこの機能がないため、Clearwire網に接続する場合は、UQの契約を解除しなければならない。



UQが下り40MBpsなら、イー・モバイルは35Mbps?



 このほか野坂氏は、WiMAXにおいて高速化が大きな差別化要素であるとした。現在、UQでは、理論値速度を下り最大40Mbpsとアナウンスしている。これは通信時のエラー訂正を含めた64QAM 5/6(1/6がエラー訂正に使われる)の数値という。

 これに対して、イー・モバイルのDC-HSDPAの数値はエラー訂正を含まない、下り最大42Mbpsという数値が使われている。標準化組織である3GPPでは、エラー訂正を含まない形で表記するため、携帯電話各社では通信速度についてエラー訂正を含めていない。だが、野坂氏によれば、無線通信においてエラー訂正が発生しないことは実際にはないという。

 仮にイー・モバイルと同じように表記した場合、UQの速度は下り最大48Mbpsということになる。また、UQと同じように表記した場合、イー・モバイルの通信速度表記は下り最大35Mbpsになるとした。

 ネットワーク技術に関しては、UQのネットワーク技術部長である要海敏和氏も言及し、WiMAXがMIMOやOFDMAの技術を適用する一方で、DC-HSDPAにはないとした。また、信号処理の精度についても、CDMA系のDC-HSDPAよりもOFDMAの方が圧倒的に有利であるとした。

帯域制限

 野坂氏は、携帯電話各社が導入している帯域制限についても言及し、できるかぎり帯域制限をしない方針で展開するとした。同氏はUQを「高速道路専用の会社」と表現し、一般道を拡張してデータ通信サービスを提供している携帯電話各社とは異なるとの立場を示した。

 要海氏は、トラフィックの現状についてより詳細に説明し、携帯電話事業者を含め、ヘビーユーザーがネットワークトラフィックの多くを占有していることを紹介した。

 上位2割のユーザーが80%のトラフィックを占有しており、ヘビーユーザーではない8割の利用者が、そのヘビーユーザーの使ったネットワークコストも支払う構造になっている。これに対して通信事業者は、無線リソースが有限であるため、さまざまな形で通信を規制して公平なネットワーク利用の実現を目指している。

 この状況は、UQコミュニケーションズにとっても当てはまる。しかし、UQでは、データ通信専用に30MHz幅もの広帯域を総務省から付与されており、柔軟な運用が可能な立場にある。要海氏は、WiMAXの周波数利用効率は3G技術の3~5倍ほど高いとしたほか、WiMAX2などさらに効率の高いシステムを導入することで、帯域制限を当面先送りする方針であるとした。

 同氏は、将来的な帯域制限の導入については否定しなかったものの、「できる限りやらない」と語った。6月に行われた総務省のヒアリングでは、携帯電話各社とともにさらなる帯域の付与を求め、UQでは現在利用している2.595~2.625GHz帯の隣にある、モバイル放送用の25MHz幅を要求したという。

WiMAX2

 WiMAX2は、WiMAXを高度化させた仕様である「IEEE 802 16m」の高速データ通信規格。規格上の通信速度は下り330Mbps、上り112Mbpsと高速で、UQでは提供に向けて実験開発を行っている。

 WiMAX2については、2011年3月にフィールド実験を予定しているという。UQでは2012年にも実用化したい考え。

 UQの要海氏は、同社がWiMAX2とする16m規格について説明。現状の光回線以上に高速な無線通信規格で、さらに伝送遅延も光と同等、かつ時速350kmでの通信が可能とした。また後方互換性があり、WiMAX2となっても現行のWiMAXのユーザーはこれまで通りのサービスが約束されるほか、逆にWiMAX2のエリア外でも、16m対応端末はWiMAX網が利用できる。

 要海氏は、高速大容量となるメリットについて、ある程度大きなコンテンツであってもダウンロードが早く終わる点を挙げる。無線基地局は1つの基地局に収容するユーザー数が多ければ、帯域をシェアするために速度低下を引き起こす。回線
が高速、かつ占有できる帯域が広くなれば、車の車線数が多いと渋滞しにくくなるのと同じように、通信回線の混雑は少なくなる。また、ダウンロードにかかる時間が短くなるために、結果的にユーザーは、回線を占有しているかのような快適な通信が可能になるという。

 要海氏は、高速大容量の世界について、動画サービス「YouTube」を例に説明した。

 たとえば、YouTubeで100MBの動画ダウンロードする場合、現行のWiMAX(平均伝送速度は8.5Mbpsに設定)では94秒かかる。これは、山手線で東京駅を出発すると、次の駅である有楽町に到着する直前にダウンロードが完了することになる。対してWiMAX2(平均100Mbpsに設定)では、東京駅を出た直後、8秒でダウンロードが完了する。

 さらに、YouTube HDで2GBの動画をダウンロードした場合には、現行WiMAXでは31分かかるため、ストリーミングに頼る形になる。その一方WiMAX2では、160秒でダウンロードが完了し、有楽町駅~新橋駅間でダウンロードが完了する。

 要海氏は、固定を上回るような無線通信速度が実現することで、世の中のあらゆる機器がワイヤレスになるのではないかと話す。16mは2011年末に認証プログラムが完了し、メーカー各社が認証プログラムを通じて製品開発できる段階に入る。このため
UQでは2012年にも16mであるWiMAX2がサービス提供できるとしている。

 UQのライバルとなる携帯電話事業者の中には、W-CDMAを高度化したHSPA、そこからさらにデュアルセル化したDC-HSDPAを提供する予定の事業者がいる一方で、NTTドコモでは、新たにLTE方式の高速データ通信サービスを2010年12月から展開することを明らかにしている。要海氏は、説明する中でLTEの通信速度がWiMAX2並になるのは、LTEのRelease.10が投入される2014年頃になると語った。

 CEATEC JAPANでは、おそらくこれが世界で初めてという、WiMAX2の動態デモ実施される。さらに、UQでは年度末までに実車を使ったドライブデモも計画されているという。




 



(津田 啓夢)

2010/9/29 20:41