MediaFLO推進団体、世界各国での取り組みやエコシステムを解説


 携帯端末向けマルチメディア放送のMediaFLOを推進する団体FLO Forumは31日、都内で「FLO Forum Mobie Media Summit 2010」と題した定例の講演イベントを開催した。会場を訪れたコンテンツプロバイダーや通信事業関連の多数の関係者に向けて、MediaFLOの現状や世界各国での取り組みが紹介された。

 日本国内では現在、ISDB-TmmとMediaFLOの2つの方式が携帯マルチメディア放送の候補となっている。いずれも携帯マルチメディア放送として、映像のリアルタイム放送に加え、オンデマンド提供、デジタルコンテンツ配信などのサービスが実現される見込み。今回のVHF帯ハイバンドにおいてはどちらか1つの方式に免許割り当てが実施される予定で、この帯域でMediaFLOが提供できるかどうかが決まる直前の時期でのイベントとなった。このため、講演内容はこれまでに実施している実験内容などの取り組みに加えて、北米での現状、さらには台湾、ブラジルの関連企業の担当者も登壇し、世界各国でMediaFLOが推進されている様子が紹介された。


 

放送型でインタラクティビティ、パーソナライズを実現

米クアルコム CEOのポール・E・ジェイコブス氏

 MediaFLOの推進で中心的な役割を担っているクアルコムからは、米クアルコム CEOのポール・E・ジェイコブス氏が登壇した。同氏は、無線通信が人類史上かつてない速さと規模で普及している、唯一の技術であることを紹介し、端末の爆発的な進化やソフトウェアの発展にも言及。AT&TのデータトラフィックはiPhoneの投入で従来比5000%に増加したことを紹介し、「その多くはビデオだ」と携帯端末においても映像コンテンツがトラフィックの多くを占めているとした。

 MediaFLOは北米でホールセール型として商用サービスが開始されているが、ジェイコブス氏からはコンテンツをユーザーに提供するサービス「FLO TV」も紹介された。米国で一般的といわれるケーブルテレビのモバイル版のような位置づけで、スポーツからエンターテイメントまでさまざまなチャンネルを用意している。同氏が「ライブが重要」と語るように、スポーツや大統領選挙など、大きなイベントと関連した生放送番組が多くの人気を集めているデータを示し、「大統領選挙では現地の携帯網も麻痺していたが、放送型のサービスで見ることができた」と放送型サービスの優位点を体験談を交えて語った。端末の展開についても、携帯電話型だけでなく、単体の受信端末やiPhoneに装着できるアタッチメント型など、バリエーションが増加している様子を紹介した。

 同氏はMediaFLOサービスを受ける上でのパーソナライズにも言及し、ユーザーに最適化されたコンテンツや広告の表示といった機能も提供できるとした。また、リアルタイムに提供できることに加えて、ユーザーからの反応をフィードバックできるインタラクティビティも重要であるとアピールし、投票できるテレビ番組などの仕組みを紹介。日本で実験されているデジタルサイネージなど非映像系での利用方法についても触れた。

 同氏は「実際の世界と関わることができ、興味のあるものだけを取り出せる、というのが重要なトレンドになる」と語り、これらをMediaFLOでつなげることができるとアピールした。

 北米ですでに商用化されている点などについては、「通信事業者と協力し、広告クライアントもエコシステムの中に入った上で、いろいろな企業と関係を持っており、ビジネスとして立ち上がろうとしている」と語り、多くの企業と関連しながら良い循環を生み出そうとしている姿勢が示された。

FLO TVのコンテンツ大きなイベントでは、ライブコンテンツも注目を集める

 

「コンテンツの楽しみ方が大きく変わる」

メディアフロージャパン企画 代表取締役社長の増田和彦氏

 メディアフロージャパン企画 代表取締役社長の増田和彦氏は、日本におけるMediaFLOの取り組みを紹介した。報道陣向けではない、一般の関係者向けイベントということもあり、これまでの取り組みを総括した内容が紹介され、携帯マルチメディア放送として方式が決定するまでの今後のスケジュールや、ユビキタス特区での実証実験の模様、アンケート調査の結果による潜在的な需要の存在などがそれぞれ解説された。

 増田氏はスケジュールについて、インフラの構築を手がけることになる受託放送事業者の申請受付が4~5月にも開始されるのではないかと予測し、複数が立候補した場合は比較審査で1カ月程度を要し、遅くとも7月には受託放送事業者が決定するだろうとの見通しを示した。また、受託放送事業者が確定した後は、実際のサービスを提供する委託放送事業者が同様のプロセスで決定されるだろうとし、最終的に、2010年末から2010年度末(2011年3月)までには、受託・委託を含めたすべての枠組みが確定するとの見方を示した。その後、アナログテレビ停波を受けてサービス提供の準備を行い、2011年度末に新しいサービスとしての展開を目指すとした。

 サービス面では、放送型サービスで実現できる特徴を挙げ、「通信と放送を同時に扱えることで、コンテンツの楽しみ方が大きく変わるだろう。モバイルリテラシーの高い、低いに関わらず、いつでも誰でもリッチなコンテンツを楽しめる。年代を問わず幅広いユーザーにコンテンツを提供でき、さらにコンテンツ市場が拡大する。MediaFLOはこれに大きく寄与できるものと期待している」と放送と通信のメリットを融合させた仕組みに自信を見せた。

 技術的な観点からも特徴が解説され、省電力性とその恩恵、伝送効率の高さ、伝送品質の柔軟な設定などが解説された。また、世界の複数の国で導入が検討されていることから、現時点で「実質的に唯一のグローバルスタンダードになる可能性を秘めている」と語り、エコシステムや規模の経済、海外進出といったチャンスがあるとアピールした。

インフラを担当する受託放送事業者は1社に絞られる見込み予測を含めた今後のスケジュール
MediaFLOのメリット、コンテンツの楽しみ方が大きく変わるとした実質的にグローバルスタンダードとした
沖縄の実験で用いられたMediaFLOのUI調査結果では前向きな利用意向だという

 

台湾・ブラジルでMediaFLOが有力候補に

LinkMedia ジェネラル・マネージャーのランディ・リー氏

 台湾LinkMedia ジェネラル・マネージャーのランディ・リー氏は、台湾でMediaFLOのサービスインがほぼ確実になっているという様子を紹介した。LinkMediaは、台湾のFoxlinkと米クアルコムによる合弁企業。台湾で実施されるマルチメディア放送の2つの免許付与の1つにMediaFLOが採用されるよう、ロビー活動を展開してきたとのことで、「ロビー活動は成功した」とほぼ免許付与が確実になっている様子を紹介。免許付与後は、2011年第3四半期にも商用サービスを提供する見込みであるとした。

 同氏は台湾におけるエンターテイメントコンテンツの人気ぶりや、携帯電話の普及率の高さに触れ、有料コンテンツでも需要があるとしたほか、ビジネスモデルについても、多くの企業と接触し、台湾大手のテレビ局と話し合いを行っている様子や、大手の新聞社から関心が集まっている様子を紹介。「確実に成功するよう進めていきたい」と自信を見せた。

 同氏は、台湾に多い世界的なデバイス・ハードウェアメーカーにより、簡単に製品化を行えるとし、「グローバルなエコシステムを作っていきたい」と語った。また、興味のある企業には「沖縄の実験地区を紹介したい」と、MediaFLOを通じて各国の企業と連携していく姿勢を見せた。

台湾では有料放送も大きな需要があるとした今後予測されるMediaFLO商用サービス開始までのスケジュール
世界的なハードウェアメーカーが集中する台湾では、素早い製品化が見込まれる

 

Participe TV プレジデント兼CEOのアルベルト・ブランコ氏

 ブラジルのメディア企業、Participe TVのプレジデント兼CEOのアルベルト・ブランコ氏は、ブラジルにおけるMediaFLOの可能性を語った。同氏は、テレビが好きなブラジルの国民性を紹介した上で、サービスが開始された3Gサービスは1200万人程度にとどまっているものの、映像コンテンツですでにトラフィックが逼迫していると指摘。日本のワンセグ(ISDB-T)方式でモバイル向け放送が一部で開始されているブラジルだが、同氏は、テレビ放送のコンテンツはそれほどリッチではないとし、有料コンテンツを放送できるMediaFLOの需要性を体験談を交えながら紹介した。ISDB-TとMediaFLOは補完関係にあるサービスとして訴求するとし、2010年の秋にも試験的な商用サービスを開始出来る見込みであるとした。

ブラジルにおけるモバイルテレビ放送の戦略ISDB-TとMediaFLOが補完関係を構築できるとする

 

端末は「すぐにでも実用化できるレベル」

京セラ 機器研究開発本部 MediaFLOプロジェクトリーダーの井上仁志氏

 イベントの最後には、沖縄のユビキタス特区での実験に端末を提供した京セラから、技術的なポイントが語られた。京セラ 機器研究開発本部 MediaFLOプロジェクトリーダーの井上仁志氏は、W64SAをベースに、外観の変更なしでMediaFLO受信機能を実装できたことを紹介。基板上のワンセグ回路と同規模の実装面積で、MediaFLOとワンセグの両方に対応したことも解説した。加えて北米向けのUHF帯もサポートしていたことで、UHF帯を利用していた実験初期段階から実験できたことをアピール。省電力性、周波数利用効率について実験結果のグラフとともに解説したほか、端末パフォーマンスにおいても、MediaFLOのサービスが現行端末で問題なく利用できる様子を示した。

 同氏はこれらのことから、携帯端末側では「すぐにでも実用化できるレベルに達しており、実装できることも確認した」と語り、「MediaFLOのようなエコシステム、(海外で導入されることによる)量産効果は消費者にメリットをもたらす。関連企業の海外進出も果たせるだろう」と、ハードウェア面についてグローバルな環境が整いつつある様子を示した。

ワンセグ回路にMediaFLOを実装し、なおかつワンセグにも対応したMediaFLOでは、地デジなどと比べて低消費電力を実現
周波数利用効率の高さを示した結果ストリーミングを受信中にクリップキャストなどを処理できたという

 

会場でのデモ

沖縄の実験でも用いられた端末でMediaFLOを利用する様子こちらは米国のFLO TVに対応した端末や、iPhone用アタッチメントなど

 



(太田 亮三)

2010/3/31 21:30