ウィルコムが会社更生手続き開始、XGP事業は別会社に


 ウィルコムは、会社更生手続きを開始したと発表した。企業再生支援機構は、ウィルコムに対して支援を決定したほか、ウィルコム、ソフトバンク、アドバンテッジパートナーズの3社は、ウィルコム再生支援に向けて基本合意書を交わした。

 基本合意書には、ウィルコムがPHS事業を継続し、アドバンテッジパートナーズのファンド(APファンド)がウィルコムに出資すること、APファンドとソフトバンク等がウィルコムのXGP事業、基地局ロケーションを譲り受けること、企業再生支援機構がウィルコムに対して資金融資することなどが盛り込まれた。

 新会社には、APファンド、ソフトバンク、その他の企業から30億円ずつ出資されるほか、APファンドが議決権のない優先株20億円分を別途出資する。なお、新会社の設立スケジュールは決定されていない。そのほかの企業が1/3出資する予定だが、そのほかの企業については現在交渉中とのこと。

 XGP事業を分離し、ウィルコムは現行PHS事業を継続するという計画だが、これらの計画はまだ合意にいたった段階で、具体的に動き出すスケジュールは定まっていない。ただし企業再生支援機構では、「関係者の希望としては夏ごろに(新会社へXGP事業などを)譲渡できる、新会社を設立できればいいと考えている」としている。

企業再生支援機構による再生スキーム図。基地局のバックボーン回線にソフトバンク網を利用するといった手法でコストダウンを図る

企業再生支援機構が会見

 12日夕刻、ウィルコムを支援することを決定した企業再生支援機構が記者説明会を開催した。会見は、同機構の支援計画などを検討・決定する企業再生支援委員会の委員長を務める社外取締役の瀬戸 英雄氏と、プロフェッショナル・オフィス マネージング・ディレクターの渡邊准氏が出席。同機構による計画が説明されたほか、これまでの経緯や今後の見通しが明らかにされた。

 渡邊氏は、今回の支援を「関係者調整型再生スキーム」と紹介する。機構がウィルコムへ最大120億円融資する可能性はあるものの、出資は行わず、「機構はあくまで利害関係者の調整役」というスタンスを取っているためだ。

 企業再生支援機構の資料によれば、ウィルコムの財務状況(2008年度)は、連結ベースで見ると、営業収益が2030億円、営業利益が89億円7400万円、経常利益が66億円で、単体ベースでは営業収益が2025億700万円、営業利益が87億5500万円、経常利益が64億円となる。更生計画は正式に決定していないものの、ウィルコムに対する債権総額1494億8700万円のうち、1144億8700億円については、放棄される見込みとなっている。ただし、正式な金額は今後の手続きで定まる。債務額が多大で、単独での再建をあきらめたウィルコムに対し、スポンサー候補が存在したため、調整役で済んだ、としている。

瀬戸氏

 民間の調整で再建が進められたのではないか、という指摘に対して瀬戸氏は「機構にはいくつか機能がある。出資や融資、債権者の調整などだ。フルメニューで提供するのはJALに対する支援。今回はスポンサー候補が見つかっていた。JALに対する支援とは対極にある事例だ」と説明する。また「(会見後の質疑応答を通して)“支援”という言葉が重いと印象を持っている。ウィルコムや金融機関、スポンサー候補との間でまとめられるのであれば、機構が関与しなくてよかった。民間でできるのでは、と当事者へ申し上げたこともある。しかし機構が核になることで、扇の要のようなポジションを果たすことで、全体がまとめられた」と述べ、中立的な立場での調整役が求められた結果とした。

 また、中小企業向け支援を主目的に設立された機構が、JAL、ウィルコムと続けて大規模な企業の支援を決めたことに対しては、「地方の中小企業を後回しにしているということはない。JAL、それからウィルコムへの支援の準備が早くできたというだけのこと。短期間で判断せず、(機構は設立から2年以内に支援を決定することを踏まえ)2年の活動期間があるので、長い目で判断して欲しい」と述べた。また、医療などで多く使われていることや、取引先などへの影響を考えると、ウィルコムが破綻すれば影響が甚大といったことなどが、機構が手をさしのべるべき正当な理由とされている。

 このほか、コストダウンによる財務健全化も再生に欠かせない。基準として、有利子負債(現在は1345億円)を、キャッシュフローに対して10倍以内にすることが求められているが、計画上では3年後に-1.6倍(キャッシュフローの6割)となるとされ、基準をクリアするという。また経常収入が経常支出を上回ることとされている。もし清算してしまうと、何も回収できないが、再生計画通りであれば、保全されない債権であってもその21.3%を回収できると見込まれている。なお、3年後には営業収益1485億3200万円、営業利益123億500万円にするとされている。なお、商取引に関する債権は25億円まで支払えるとされており、京セラのウィルコムに対する債権は「かなりの部分がカットの対象になる」(企業再生支援機構)とのこと。

XGP事業の移管について

 再生計画の詳細は今後詰められる見込みだが、現時点で明らかにされている概要では、現在提供されているPHS事業と、試験的に提供されていたXGP事業を分割し、XGP事業をスポンサーによる新会社へ移す。

 新会社はAPファンド、ソフトバンクが30億円ずつ、その他企業が30億円を出資する。ただし、その他企業はまだ決定していない。この部分は、ソフトバンクが協議を行っているとのことで、企業再生支援機構から明らかにされておらず、ソフトバンクも交渉中として、まだ決定していない。ただし、その他企業は1社ではなく、複数社であるとのこと。また、その他の企業が決まらなければどうなるのか、という問いに対して同機構は「見通しがなければ支援スキームが成り立たない」(渡邊氏)などと説明し、30億円出す企業が登場する可能性が高いとの見方を示した。

渡邊氏

 XGPの免許を返上するという選択肢が採られなかった理由として、渡邊氏は「ソフトバンクの関心が高かった。わざわざ返上するよりも続けてもらうほうがいいと考えた」と説明した。

 ソフトバンク、APファンド、その他企業が設立する新会社に対して、XGP事業、基地局ロケーション(基地局が設置されている場所の貸与権など)が10億円で譲られる予定だが、事業譲渡になるのか、会社分割になるのか、手続き面はまだ決まっていない。新会社がXGPをスタートした後には、ウィルコムがMVNOとしてXGPによる通信サービスを提供する可能性もあるという。

 XGPなしでもウィルコムが再生できるか、という指摘について、渡邊氏は「現在国内シェア4%程度というPHSを7~8%にするには、相当苦労がいるし、現実的に考えていない。ただ、現行ユーザー400万を確保すべく、さまざまな手法を考えている。コストを削減していくため、キャッシュフローは創出できる。XGPを分離しても、現在データ通信はそれほど加入者がいるわけではなく、むしろ、音声サービスのユーザーのほうが多い。XGPがなければウィルコムは再生しないというわけではない」とした。

 なお、企業再生支援機構のリリースには、ウィルコムの事業に関する大臣からコメントが寄せられている。総務大臣からは、今回の支援決定には異存がないこと、PHSは400万以上のユーザーが存在し、医療機関などでも利用されていることから、安定的なサービスの提供を確保できるよう配慮して欲しいと意見が出された。XGPについて総務大臣からのコメントは付けられていないが、これは支援対象のウィルコムではなく、新会社へ移管されるためだという。また、2.5GHz帯の免許割当時には、いわゆる1/3ルール(既存の3Gキャリアの資本は1/3以下にするという方針)が定められていたが、支援の調整にあたって、総務省側から支援機構に対して意見などは寄せられなかったとのこと。

 



(関口 聖)

2010/3/12 16:30