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トヨタはクルマを売る会社から顧客との接点を創出する会社に

コネクティッドカー事業戦略を発表

トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー プレジデントの友山茂樹氏

 トヨタ自動車は11月1日、都内で記者会見を行い、コネクティッドカー事業における戦略を発表した。

 トヨタでは、2016年4月に戦略企画や車載機開発、インフラ開発など、それぞれ独立していた部署を一つのカンパニーとして集約した「コネクティッドカンパニー」を設立。これにより「コネクティッドカーを車載システムから開発できるようになった」(トヨタ自動車・コネクティッドカンパニー、友山茂樹プレジデント)という。

 コネクティッドカンパニーでは、3つの戦略を中心に開発を進めている。まず一つは「あらゆるクルマをコネクティッド化していく」という戦略だ。

 トヨタでは、2020年までに日米のほぼ全ての乗用車に、車載通信機「DCM」(Data Communication Module)を搭載する計画がある。世界で販売されるトヨタ車には統一仕様の通信機を載せ、車両の位置情報から国や地域などを把握し、現地の通信事業者に自動接続していく。この時、通信状況の監視を行ったり、現地のキャリアとの接続を統合管理していくのがKDDIだ。

 友山氏は「KDDIは通信プラットフォームとしてアグリゲーター的な存在となっている。実際の通信は、アメリカではあればベライゾンだったするが、これまではトヨタがそれぞれの国で現地のキャリアと契約して、インフラを構築していたが、個別にキャリアと契約して、トヨタのセンターにつないでいくのは負担感があった。しかし、これからその役目は世界的にKDDIが担い、トヨタはKDDIだけを見ていれば良くなった。車載通信機の中にeSIMが入り、通信事業者によって書き換えていく。機材の調達面でも競争力が出てくるのではないか」と語る。

ビッグデータの活用でライフスタイルを変える

初雪が降った札幌市内で、外気温とABSが使われた場所の情報を組み合わせ、どの道が凍結しているかを抽出

 2020年以降のトヨタ車は、KDDIが提供するプラットフォームを経由して、走行データがトヨタのデータセンターに集積されていく。集まったビッグデータは、トヨタとマイクロソフトが共同で北米に設立したTBDC(Toyota Big Data Center)など、さまざまなところで活用されていく。

 また、スマホとの連携には、フォード社が提唱するSDL(Smart Device Link)を採用する。クルマをネットにつなげるという発想は、すでにスマートフォンのプラットフォームを開発するグーグルやアップルが強い分野だ。その点、トヨタでは「クルマを一つの情報端末と位置付けている。トヨタとしては、そこから情報を取集して、安心・安全で便利なクルマを提供していきたい」(友山氏)という。クルマという得意分野では、グーグルやアップルとライバル関係となるが、「コンテンツなどでは協調していきたい」(友山氏)として、グーグルやアップルとは完全に袂を別つ気はないようだ。

 コネクティッドカンパニーとして2つ目の戦略が、ビッグデータの活用だ。すでに車載通信機に対応したレクサスなどが日本全国を走り回っており、リアルタイムの渋滞情報を生成するなどビッグデータ活用が進みつつあるという。例えば、札幌で初雪が降った日においては、クルマの外気温とABSが使われた場所を組み合わせることで、街中のどの道が凍結しているかといったデータも抽出できるようになっているという。トヨタでは、走行データをもとに、個々のクルマの故障なや整備の必要性を予知し、販売店への入庫を促進する仕組みづくりを目指しているという。

フィンテックやシェアリングエコノミーを下支え

「モビリティサービス・プラットフォーム」(MSPF)の構築を推進し、異業種とも連携を図っていく

 3つ目の戦略は、コネクティッドカーを事業につなげるという取り組みだ。トヨタでは、コネクティッドカーを中心としたビジネスを展開する上で必要な機能を備えた「モビリティサービス・プラットフォーム」(MSPF)の構築を推進していくという。MSPFは、第三者の企業がカーシェアやライドシェア、テレマティクス保険などのサービスを提供する際、さまざまな機能を組み合わせることで、ユーザーに便利で細やかなサービスを迅速に提供できるようになるという。

 例えば、コネクティッドカーから走行データを集め、解析し、保険のアルゴリズムと組み合わせて「運転スコア」を弾き出すことで、保険会社はユーザーにとって最適な保険を提供できるようになるという。まさにコネクティッドカーと走行データを組み合わせることで、新しい保険ビジネスが誕生する可能性があるのだ。

 アメリカでは、「ライドシェア」というサービスが花盛りだ。UBERやLIFTといった会社が有名で、どこかへ行きたいと考えている人がアプリで周辺に走っているクルマを検索。目的地まで運んでくれる人を探し出し、乗せてもらうというサービスだ。クルマを運転する人は、タクシードライバーではなく、一般の人が自分のクルマを活用している場合が多い。クルマの所有者が暇な時間を使って、小遣い稼ぎができるとあって、多くの国で普及しつつあるのだ。

 トヨタでは、ライドシェア最大手のUBERに出資をしているが、年内にもユーザーにクルマをリースし、ライドシェアのドライバーとして得た収入の一部で、月々のリース料金を支払っいくというプログラムも開始する。このサービスを提供するのにも、MSPFが土台となっているという。

 ほかにも、駐車場に止めてあるクルマを第三者に貸し出す「カーシェア」が広まりつつあるが、トヨタではSKB(スマートキーボックス)を開発。SKBをクルマの中に設置しておけば、クルマを改造することなく、トヨタのMSPFを経由して、スマホアプリからドアの開閉やエンジンの始動を行えるようになるという。これにより、クルマのオーナーは自分が乗らない時間帯は、他人にクルマを貸して、小遣い稼ぎができるようになる。操作可能な時間や期間はカーシェア事業者のサービスに合わせて対応できるのが魅力になるのだという。

発表会後、通信関連の記者の質問に答える友山氏

 すでにトヨタでは、レクサスユーザーに向けて初回3年間は無料のコネクティッドサービスを提供している。「4年目からは年間1万7000円が必要となるが、7割の継続率を誇っている」(友山氏)という。

 同氏は「トヨタはこれまで年間数百万台のクルマを売ってきたが、これからは数百万の顧客との接点を毎年、全世界で創出する会社になる」と語る。若者のクルマ離れが進む中、クルマを売るだけではクルマメーカーは生き残っていけないという危機感の表れが、トヨタをコネクティッドカー開発に邁進させるようだ。