ルーターレンタルで海外でのスマホ利用がおトクに

「ビジョングローバルWiFi」の展望を聞く


 スマートフォンの普及やソーシャルサービスの浸透により、海外でもスマートフォンでデータ通信を快適に利用したいという要望が増えている。日本のキャリアにおいては、国際ローミングで1日単位の定額制を導入しているが、割高であることには変わりはない。そんな中、スマートフォンをはじめ、タブレットやノートパソコンが標準的に無線LAN機能を搭載していることもあり、現地で利用できるSIMカードを装着したモバイルWi-Fiルーターを、海外渡航者向けにレンタルするサービスが人気を集めている。

 本誌では、現地キャリアと積極的に提携を進め、エリアや品質にこだわった展開を行うビジョンモバイルの「ビジョングローバルWiFi」について、その特徴や今後の展望に関するインタビュー取材を行った。対応していただいたのは、ビジョン 代表取締役社長の佐野健一氏だ。


 

現地キャリアと直接交渉

――現在「ビジョングローバルWiFi」はどれぐらいの地域で利用できるのでしょうか。

 211の国と地域に対応しています。日本人の行くところは99%カバーできているのではないでしょうか。料金面では、ゾーンに分けて提供しています。例えば韓国は、定価は1日1770円ですが、現在キャンペーンで1日あたり620円となっています。台湾、中国、香港、タイ、マレーシアなども現在安くしています。

――韓国のほか、ハワイを含むアメリカでも、“4G”としてLTEにも対応していますが、アジア地域に特に力を入れているということでしょうか?

 渡航者数が多いので力を入れているのは事実です。ただ、最近はアメリカ、ヨーロッパでの利用も増えています。これらの地域は利用する期間が長くなるのが特徴です。また、TwitterやFacebookなどソーシャルメディアの普及も、利用率を上げています。遠くに旅行すれば「つぶやき」や写真を投稿したくなりますし、景色の綺麗な欧州では実際に投稿数は多いですね。欧米も、現在力を入れている部分です。

――地域別では、「ビジョングローバルWiFi」の利用の割合はどのようになっていますか?

 今一番利用されているエリアは、ハワイです。現地に事業所を設けた点も大きいですが、ハワイを含めると、アメリカが一番利用されていることになります。

 我々のサービスでは品質にこだわっているのも特徴で、例えばアメリカでの利用はLTEにも対応していますが、当初はT-Mobileでスタートしたものの、現地での評判も参考にし、評価の高いベライゾン・ワイヤレスに対応させました。日本のLTEより快適だという声もあるぐらいです。

――ユーザーからの問い合わせに何か傾向がありますか?

 渡航先では、接続の仕方が分からないといった問い合わせはあります。特にAndroidは端末の種類が多いので、接続の仕方について問い合わせをいただくケースがあります。このあたりは我々も努力が必要な部分です。

 問い合わせで一番多いのは、モバイルWi-Fiルーターそのものの使い方です。これは、国内でモバイルWi-Fiルーターを使ったことがあるかどうかで、分かれる部分ですね。

 ほかには、田舎では電波が弱いといった問い合わせもあります。こうした点は、複数のキャリアがカバーしているエリアならどちらが良いのか、検証していきます。とはいえ、日本国内で経験することは比較的少ないですが、海外では街中でもデッドスポット(スポット的に使えないエリア)が必ずといっていいほどあります。干渉などによるものでしょうが、想定していたようなスピードが出ない、という問い合わせもありますね。また、モバイルWi-Fiルーター自体の挙動として、何かの拍子に2Gを掴んでしまうと、3Gに復帰が難しかったり、復帰が遅かったりする場合があります。そういうケースでも問い合わせはあります。

――競合他社、あるいはキャリアのローミングと比較した場合、御社の強みとは何でしょうか。

 3Gや4GのLTEといった高速通信方式にこだわっており、回線の通信速度が圧倒的に違います。(キャリアの)国際ローミングでは、基本的に回線速度が絞られますし、我々の実測値では5~10倍の違いが出ています。

 また、カバーエリアが広いのも特徴です。キャリアが提携しているローミング先は、必ずしも現地でナンバー1のキャリアとは限りません。また、我々は211の国と地域に対応していますが、このうち3Gは195の国と地域に対応しています。これも競合他社より多い数字です。加えて、端末を最新にするなどし、LTEや、3Gの下り最大21Mbpsのハイスピードの通信方式にも対応しています。

 こうした点から、通信速度、カバーエリアで明らかに差があります。もちろん、キャリアの国際ローミングと比べれば安い料金で済むのもメリットです。


米国向けにはベライゾン・ワイヤレスのLTE対応ルーターをラインナップ貸し出されるセット。ポータブルバッテリーはオプションで追加できる

 

――現地のキャリアと提携し、確実に事業を展開しているということでしょうか?

 そうですね。現地のキャリアと直接やり取りするのが基本です。世界中をカバーしているような大型のキャリア、上位5社とはすべて提携しています。中国はチャイナ・ユニコムと提携している関係でチャイナ・モバイルとは提携していませんが、それを除けば世界のトップキャリアとはほぼ関係を構築している形になります。

――実際に海外渡航者向けのレンタルサービスを利用していると、回線に対する帯域制限がリセットされていないのか、想像以上に早いタイミングで帯域制限の対象になるといったこともあるようです。こうした点で、現地キャリアとの調整は難しいものなのでしょうか。

 正直なところ、弊社でも当初はそういった事例がありました。国や地域、キャリアにより基準が違うという理由もあります。帯域制限が明記されている地域もあり、ユーザーには過度に利用した場合は制限される可能性があると案内はしています。一方、万が一何かの不備で利用できなくなっても、早期に復旧できるような体制を作っています。

――ほかにこだわっている部分はありますか?

 日本から海外へ行くユーザーだけでなく、世界中を飛び回っているユーザーに向けたものも提供したいですね。世界中のキャリアと提携し、その考え方も分かっている我々だから提供できる内容があると思います。品質を重視して日本でまずサービスを確立し、外国から外国へ行くユーザー向けにもやがてはサービスを提供したいですね。

――海外から日本に訪れるユーザー向けはどうでしょうか?

 MVNOという形で、そのサービスは4年前からてがけています。最近は1日だけ利用できるプランも提供しています。ネット上だけのプロモーションしか行っていませんが、毎月3000件以上とコンスタントに利用されていますね。海外に長く住んでいる日本人のユーザーにも利用されているようです。

――この種のサービスで苦労する部分はどういった点ですか?

 一番は法律です。もちろん、言語や文化の違いもありますが、通信関連の法律は国や地域に必ず存在しています。法に触れないように事業を進めなければならないですし、ライバル企業云々以前に、政府から締め出されるリスクがあります。例えばシンガポールは特に関連する法律が厳しく、通信端末の貸与や所有・把握に関連した法律も厳しくなっています。韓国も同様な傾向があり、現地に会社と実際の事業所、人員がいないとダメ、といった具合です。こうしたことから、通信事業者の免許を取得するといったことも行っています。

 ドバイやインドも法律は厳しいですが、インドは我々として力を入れられていないところでもあります。現地キャリアとも話を進めていますが、インドの法律の都合で、現在は日本国内で(インドの)端末を貸すことができません。早期解決したい部分です。

 世界的にプリペイドなども減少傾向にありますし、犯罪に使われるリスクを嫌って、厳しくなる傾向にはありますね。

女性ユーザーが増加

――ターゲットとしているユーザーや、現在多いユーザー層は?

 ユーザーにアンケート調査を行っているのですが、季節によって変化はあるものの、6割はビジネス用途ですね。もちろん国や地域によって違い、例えばハワイはほとんどが個人旅行です。韓国での利用は、個人旅行とビジネスが半々といったところでしょうか。

 特徴的なのは、女性の増加率がすごく上がっていることです。スマートフォンが女性にも浸透しているのと比例している形でしょう。女性は、海外ではGoogle Mapsや、観光案内のアプリ・Webサイトの利用が特に目立ちます。我々のサービスとしても、女性の利用は50%に近づいています。F1層でIT系など、リテラシーの高い層に選択していただくことが多いですね。

 また、企業からのまとまった申し込みも、けっこうな数の企業からきています。コスト意識や、快適に利用したいといった点が評価されているようです。ビジネス用途は全体の6割ですが、法人利用はリピート率にも影響がありますし、7割ぐらいまで増やしたいですね。

――スマートフォンで女性ユーザーの増加は、コミュニケーションが活発になるという意味でも影響は大きそうですね。

 大きいですね。アンケートでは、女性ユーザーではiPhoneの占める割合が大きく、iPadも多いですね。あとパソコンではMacが比較的多く、有線LAN端子の無いMacBook Airなども多いです。こうしたスマートデバイスの増加は、利用の追い風になっていると思います。3年前なら、成立しなかったサービスでしょう。

――レンタルされる端末はモバイルWi-Fiルーターだけでしょうか?

 今はそうです。ルーター以外の端末のレンタルは、検討していなくはないのですが、難しい面もあります。一方、外国のあるキャリアでは、こちらが話をする前にプランを考えてくれていたところもありましたよ(笑)。やるとしたら、タブレット端末を中心にしたいですね。もちろん、ニーズがもっと詳しく分かれば、それに対応していきたいですね。

――利用にあたっての注意点などはありますか?

 例えば、ユーザーの多いiPhoneなら、基本的にWi-Fiの接続が優先されますが、3Gのデータ通信とローミング設定をオフにするのは必須、といったところでしょうか。

 一方、音声通話の着信やSMSは、我々のサービスとは関係無く、料金がかかります。パケット通信料は安く抑えたのに、通話とSMSの料金で請求額が高額になってしまうケースはあります。メールの連絡は、GmailなどフリーのWebメールがオススメです。最近はLINEやカカオトーク、050 plusなどもありますから。

 あと、YouTubeなどでHD動画を見るのは遠慮してほしいとお願いしています。動画もHDになると非常に帯域を使いますので。

ソーシャルメディアをいつものように使って欲しい

――ユーザーの利用例や、こう使って欲しいといった提案はありますか?

 ソーシャルメディアをアクティブに、いつものように使ってもらいたいですね。ユーザー自身やユーザーに近いコミュニティでは、海外にいるのに普段のようにFacebookなどを使えていいね、となりますし、実際に、予想以上に快適に使えたという反応もいただいていいます。ビジネス用途なら、Skypeで会議ができたとか。そういった例で少しずつ広げていくしかないですね。とにかく、いつものようにソーシャルメディアを使ってもらいたい。

――今後の課題として認識しているのは、どういった点でしょうか。

 予想以上の申し込みがある国や地域もあり、一番迷惑をかけているのが、欠品です。どの国や地域で、どのくらいの需要があるのか、読み切れていないということです。キャリアや端末メーカーと交渉して体制を整えているところです。ここは最大限の努力で改善していきたいです。

 また、ユーザーの利用状況や意見を集めて、改善できるところは努めていきます。もしかしたら提携キャリアの変更といった事に及ぶかもしれませんが、今までよりも品質のよいサービスを作っていきたいですから。

――スマートフォンでもそうですが、モバイルWi-Fiルーターも電池の持ちは問題になることが多いと思います。

 最近は韓国メーカーの製品などで電池の持ちが改善されている製品も出ていますが、弊社ではオプションサービスで外付けバッテリーのエネループを用意しています。もっとも、モバイルWi-Fiルーターではなくスマートフォンに使っているユーザーもいるようですが(笑)。


 

――本誌の読者に向けてメッセージなどは。

 我々はこれまでも通信のプロとして事業を続けてきましたし、「ビジョングローバルWiFi」などのサービスは、(元々割高な)国際ローミングと比較してもあまり意味はありません。そのような比較で優位でも、世界のユーザーからは選ばれませんから。

 これまで弊社は法人向けのBtoBが主体で、コンシューマー向けという意味ではブランド力がまだまだです。より多くのユーザーに知ってもらいたいというのが、今の切なる思いです。今後は、サービスのOEM供給なども含めて、柔軟に展開を考えていきたいですね。

――本日はどうもありがとうございました。

 




(太田 亮三)

2012/8/3 06:00