キーパーソン・インタビュー
スマートフォン時代の広告戦略をD2C宝珠山氏に聞く
この夏、各キャリアはスマートフォンを本格的にラインナップし、日本国内でもスマートフォン・カテゴリーが注目を集めている。一方、モバイル向けの広告という側面においては、スマートフォン向けの広告市場はこれから立ち上がるという段階だ。iモードのモバイル広告・マーケティングを扱うディーツー コミュニケーションズ(D2C)の代表取締役社長に就任した宝珠山卓志氏に、スマートフォン時代の広告戦略を聞いた。
――御社は7月15日にMTIとの協業でスマートフォン向けの展開を発表しました。今後も各社のスマートフォンのラインナップは拡大する見込みですが、スマートフォンに対する需要はどうなのでしょうか?
携帯電話では、広告主の数はパソコン向けの10分の1程度で、年間約1000億円の市場になっています。ただし、いわゆる「アダルト」や「出会い系」などに分類される広告も多いという業界的な問題は抱えており、それらを含めての1000億円です。市場としては、おサイフケータイやGPSなどを活用すればさらに拡大するでしょうし、まだそういった取り組みをマーケティングに組み込み切れていない会社は多くあります。今までの携帯電話でも、まだまだ広告市場は成長していくでしょう。
その延長線上、トライアル段階にあるのが現在のスマートフォンだと思います。
iPhoneの登場は、携帯電話(の広告業界)にとっていいことだと思いました。iPhoneは携帯電話の進化系と捉えられており、広告業界からすると心躍るものだったのです。例えば、モンブランの万年筆を再現したアプリがありますが、これは、(モンブランからすると)ノベルティを配っているようなものです。業界が一生懸命口説き落としたがっているブランド広告主が、iPhoneで広告・マーケティングを展開しているのです。ビジネスの規模としてはまだ大きくはないものの、インパクトとして大きいですね。
――Webサイトとアプリ、どちらが有望ということはあるのでしょうか?
iアプリでも企業のロゴやキャラクターなどを表示するようなアプリの展開を行なったことがありますが、アプリをダウンロードしなければいけないのはハードルが高いですね。アプリは、使われていてもiモード全体から比較すると少ない。マーケティングへの活用の視点で考えると、携帯のWeb、アプリが9:1の比率だとすると、スマートフォンではWeb、アプリが6:4ぐらいまでいけるかもしれないですね。それぐらいアプリの可能性は高まっていると思います。
従来の携帯電話でもやりきっていないことは、山ほどあるのです。らくらくホンなどにしても、アクティブシニアの層に1000万台ぐらいは普及しているでしょうし、そういうシニア向けの市場は全く開拓できていない。携帯電話の広告のこれまでの10年は、メール、HTML、アプリのレイヤーでしたが、ユーザーが携帯電話を見て、使っているいるシーンにおいて、広告が表示されていないスペースはたくさんあるのです。待受画面もそのひとつでしょう。
iPhoneを始めとしたスマートフォンも、アプリ内広告やwebだけではなく、ホーム画面そのものを広告として活用する余地があると思います。その場合の一番の課題は、その画面をだれがコントロールするかという点です。明確に決まっていることではありません。あるメーカーの端末の画面は、そのメーカー自身が広告を配信する、ということになるかもしれません。そうなると我々は直接入りにくいですが、メーカーごとに広告枠を取りまとめる役としてなら入る余地はあるでしょう。
――地域ごとの開拓とか、かなり本格的に取り組まないと成立しないですよね。
そうですね。例えばGoogleのAdWordsが登場した時、大手の広告代理店は「広告」とはみなさなかった。バナーではなくテキストを見せるだけだったことから、「広く知らしめる広告ではない」「情を動かすものなのだろうか?」という考えで、結果的に取り組みが遅れました。AdWordsは、広告主からすれば「広告」かどうかはともかく、マーケティングのひとつであることに変わりはありません。現在でも、業界にはAdWordsはプロモーションであって広告とはみなさないという人もいます。
Adwords的なアプローチがある一方で、iAdは「広告」でしょう。クリックすれば拡大され、「広告」がコンテンツ的に扱われています。このように、スマートフォン向け広告といってもアプローチが全く異なっています。もし我々が手掛けるなら、どちらも有りうると思います。
――スマートフォンの市場は拡大傾向にありますが、一般的な携帯電話はまだまだ大多数を占めています。これらの広告はアップデートされていくのでしょうか。
スマートフォンは、今の勢いで売れていくなら今後2年で20%ぐらいの割合を占めているかもしれません。大まかに考えて、らくらくホンとキッズケータイで2000万台、スマートフォンが2000万台になったとすると、そのほかの一般的な携帯電話は6000万台です。6000万台あれば十分に広告として成長・拡大していくでしょう。
今後登場するLTEや常時接続であるクラウドなどは、その成長の大きなきっかけになるはずです。これらが普及すれば、広告が入り込める「瞬間」が非常に増えます。
――アドレス帳やカレンダーなどは、携帯電話でもソーシャル機能との連携がもっとあっていいように思います。
そうですね。個人的には文字入力中の辞書変換も広告になるのではないかと思っています。もはや携帯電話やパソコンといった分野とは関係ないかもしれないですが、検索のキーワードを入れる前に広告を出すことも可能になるかもしれません。
端末の販売台数などが伸びなくなると、広告市場に対しても懐疑論が出てきますが、そもそも、やりきっていないことがたくさんあります。例えばドコモのiメニューには、まだまだ広告枠として可能性の高い場所があります。しかし一方で、広告枠だけを過剰に供給してもダメで、広告主の増加に合わせて適切にバランスをとりながら広告枠を供給していくことが重要になると思います。
1点懸案事項があるとすれば、エコシステムの課題です。スマートフォンが増加すると、携帯電話の課金システムで利益を出しているコンテンプロバイダーの売上が、今までと同じように上がっていくか? という点です。携帯電話ユーザーは課金コンテンツなどでお金を使っていますが、現在、スマートフォンユーザーはそこまで追加のコンテンツにお金を使っていないようです。広告主が儲かるシステムになっていなければ、出稿は減り、現在の市場は縮小していくかもしれません。
――位置情報を使ったものはどうでしょうか?
概念上は成立しています。しかし、海外の関係者から状況を聞かれた時、「苦戦している」と説明しています。位置情報は普通に取得できますが、使いこなせるサービスがまだ少ないですね。これまでも試験的に行われるサービスはありましたが、情報を位置に紐付けすぎると、取得できる情報や広告が多すぎて、ユーザーから敬遠されることになります。現在はいくつかのサービスが自然に立ち上がってきているので、普及はこれからでしょう。
ARについても、似たようなサービスを過去に検討したことはありますが、関連情報がどの程度あるかどうかが分からなかったり、情報を集めすぎた場合に過剰に表示しすぎたりするといった課題がありました。「セカイカメラ」のようなARは、見た目の面白さがあるので、広告やマーケティング利用と言うよりも、まずは利用するユーザーが増えてくればと思っています。
実は、ARと近いかもしれませんが、画像認識技術を使ったサービスを提供したことがあります。ロゴなどの写真を撮影するとリンク先が表示されるといったサービスを広告主向けに出しましたが、良い結果ではありませんでした。似た技術を使い、違うサービスとして他社から提供されたのが「顔ちぇき」です。つまり、まずはサービスありきということです。その後に、広告やマーケティング活動への応用があると思っています。
位置情報とかAR的な世界観が今後来るとか、話はたくさん聞いていますし、来ると思っています。
――そのほかに、注目の技術はありますか?
たくさんありますし、考えていますよ。スマートフォンにおいては、マーケティングメソッドとしては携帯で、実際に表示しているWebはパソコン向け、という混在している状況ですが、携帯電話とスマートフォンは持ち歩くという意味で非常に近い存在なので、横断できるようなものを考えていきたいですね。アプリやWebなどよりももっと深いレイヤーですね。
――モバイル広告の市場は大きくなるでしょうか?
そう信じています。少なくとも3000億円ぐらいのポテンシャルはあると思います。広告・マーケティングツールとして考えると、携帯はまだまだ活かしきれていないですし、プランニングできる会社もほとんどありません。我々もまだ努力が足りません。まだまだ市場は拡大するはずです。
――代表的な成功例はマクドナルドの「トクするアプリ」でしょうか?
そうですね。私は週に1回、ベーコンレタスバーガーを食べていますが、あのクーポンの仕組みを使えば、例えば究極的には、私だけにビッグマックのクーポンを送ったり、夜間限定のクーポンを送ったりすることも可能なのです。究極のCRMとは、モバイルでしか実現できないのではないでしょうか?
――モバイル広告の拡大で、日本の広告市場全体は大きくなりますか?
広告市場はすでに、7兆円から1兆円減って6兆円になっています。これは単純な減少で、パイ自体が減っています。そうした中で、モバイル広告はゆっくり増えていくのではないかと思います。5年後ぐらい(2015年ぐらい)、LTEが全国津々浦々に普及したころ、2000億円、3000億円の市場になっているのではないでしょうか。そう信じていますし、市場の拡大に向けて努力したいと思います。
――どうもありがとうございました。
2010/8/9 14:28