「SA002」「簡単ケータイ K005」開発者インタビュー

防水になったスリムスライドと簡単ケータイ


SA002(右)とK005(左)

 京セラは、今夏のau向けモデルとしてSANYOブランドの「SA002」とKYOCERAブランドの「簡単ケータイ K005」の2機種を発売する。

 SA002は昨冬モデルSA001の後継機種となる薄型スライド端末で、基本デザインは踏襲しつつも防水仕様を実現した。一方、簡単ケータイ K005はエルダー層をターゲットとした端末。こちらも従来モデルを踏襲しつつも、デザインも機能面も「使いやすさ」という点で進化をし、新たに防水・防塵仕様になっている。

 今回はSA002については京セラの通信機器関連事業本部 マーケティング部 黒木薫氏、移動体通信機器統括技術部 郡勝重氏に、簡単ケータイ K005については京セラのマーケティング部の大西克明氏に話を聞いた。

新技術で薄型スライド防水を実現した「SA002」

――まずはSA002のコンセプトからご説明をお願いします。

SA005
角の丸みが大きいラウンドフォルム形状

黒木氏
 SA002はこだわりの7色展開をするモデルになります。企画段階でのメインターゲットは、18~30歳の女性に設定しましたが、カラーバリエーションを見ての通り、年齢や性別を問わず使っていただける端末に仕上げています。

 使いやすさの面では、幅を抑えつつ、ラウンド形状とすることで持ちやすいデザインとしました。キーも凹凸を付けることで押しやすさにもこだわっています。SA001に引き続きスライドデザインと言うことで、液晶面は強化ガラスを採用し、クリーンクリアコートを施しています。

 また、SA002は防水仕様のスライド端末としては世界最薄となっています。

――スライドで防水というのは、同じau夏モデルのソニー・エリクソン「S003」もそうですが、非常に珍しいですね。

黒木氏
 開発途中で調査したところ、3月24日時点では、スライドで防水の端末はほかにはないということです。

――スライド防水はほぼ初ということで、技術的にも興味があるところです。やはり難しいのでしょうか。

スライド部を分解したモデル。テープ上のフレキ配線がボディに入る部分に防水のためのテープが貼ってある

郡氏
 薄型スライド防水のコンセプトには、2008年ごろから取り組んでいましたが、技術的な課題もあり、当時は商品化できませんでした。それから技術面での課題を解決し、今回、商品化したという経緯になります。

 一番のポイントは、ディスプレイ側筐体とキー側筐体を繋ぐ配線です。筐体間の配線部分は水に濡れても大丈夫ですが、その両端、配線が筐体内に入る部分の防水が問題となります。

 通常の折りたたみ型の防水端末では、ゴムのパッキンを付けて防水しています。しかしSA002の場合、ゴムのパッキンではなく、テープを貼っています。

 テープである以上、ある程度の力をかけて圧着しないと、十分な防水性を発揮できません。しかしディスプレイなどの部品が実装された筐体にどのように圧力をかけるか、というところが技術的な課題となり、開発に時間がかかってしまいました。詳細は言えませんが、今回は特別な組み立て方をしています。

――普通の端末と同じゴムのパッキンは使えないのでしょうか。

郡氏
 ゴムパッキンですと、厚みが出てしまうので、SA002のコンセプトである「薄型スライド」というところから外れてしまいます。

ジョグスティックタイプの方向キー
パーツのあいだから見える針金のようなトーションバーがバネの役割を果たす

――それ以外のボタン類や端子カバーは従来の防水技術、ということでしょうか。

郡氏
 ジョグスティックタイプの方向キーを防水にする部分は、新規の技術になっています。こちらもおそらく業界初ではないかと思います。ジョグキーは防水が苦手と言われていましたが、そこも克服しています。

――水が入らない防水処理以外の工夫は?

郡氏
 スライド部のバネ機構に、SA001では圧縮コイルを使っていましたが、SA002ではコイル状にはなっていないトーションバーを使っています。

――これはなぜなのでしょうか。

郡氏
 設計の段階では、あらゆる条件下での操作について検討を行います。圧縮コイルバネの場合、バネとバネの間に水分や汚れが溜まることで、動きが渋くなることが考えられるため、防水機種であるSA002では、バネの重なりのないトーションバーを採用しました。

――スライドの防水となると、スマートフォンや海外でもニーズがありそうですが、応用できるものなのでしょうか。

郡氏
 スマートフォンで同じ技術がそのまま載せられる、ということはできないかと思いますが、これまで積み重ねた技術は応用できるかと思います。

黒木氏
 海外展開についても、ニーズを踏まえて検討していきたいと思います。

――SA001との違いで言うと、カメラの画素数が8メガに増えていますね。

京セラの黒木氏

黒木氏
 画素数だけでなく、顔検出AFや笑顔検出、さらに連写して、一番笑顔になっている写真を知らせる機能などが追加されました。フォーカスポイントを示すアイコンをリラックマなどに変えられるようにもなっています。リラックマはデコレーションメール用の素材データなど、プリセットコンテンツ全体で充実しています。

 写真関連では、フォトブックという写真ブラウザを搭載しました。拡大縮小もスムーズに表示されます。また、充電台に置いた際、フォトフレームとしても使えるようになっています。

――そのほかSA001から変わったポイントは?

黒木氏
 スペック面で言うと、データフォルダ容量が約700MBまで増えました。コミュニケーションを重視されるユーザーさんを想定していますので、搭載するデコメ絵文字とau絵文字は合わせて3000種類搭載しています。

 あとは細かい使いやすさ部分を改善しました。たとえばSA001ではシートキーでしたが、SA002では立体形状の樹脂キーを使い、押しやすさに配慮しています。また、ジョグキーもSA001では軽いという意見をいただいていたので、再度チューニングを施しています。

――SA001もそうでしたが、キーのことでいうと、メールやEZwebキーがディスプレイ側でなくキー側筐体にありますよね。閉じたまま、これらの機能を呼び出したい、というシーンはありませんか?

黒木氏
 閉じたまま通話することを考えると、ディスプレイ側に発話・終話キーがあった方が良い、という配慮で、こういった配置になりました。メールに関しては、デスクトップにショートカットを設定することで、閉じたままでもお使いいただけます。

――幅が49mmとスペック上でもコンパクトですが、実際に手に取ってみるとラウンドフォルムのおかげでさらに小さく感じますね。

黒木氏
 ここは社内でも企画担当と設計担当との間でせめぎ合いがあったところです。しかし、持ちやすさを考慮すると50mmを切らないと、ということで設計しました。

――ラウンドフォルムというのは大変なのでしょうか?

京セラの郡氏

郡氏
 本当はカタログスペックにある寸法をギリギリまで使えるよう、角張った形の方が有利です。しかしカタログスペックに表れない使いやすさ、というのが今回のポイントになっています。技術的には難しいところもありますが、やらなければいけない、と考えました。

――コネクターが上にあるというのは、スライド端末としては珍しいですね。

郡氏
 側面だと本体の幅やラウンドフォルムに影響が出てしまいます。下だとアンテナを配置しているため無線性能に影響が出てしまいます。そこで上面に配置することで、コンパクト化を実現しています。

――カラーも7色というのは多いですね。

黒木氏
 単純な7色ではなく、ディスプレイ側とキー側の色を変えたり、キー面も質感や配色のバリエーション、文字フォントを変えたりと、デザイナーもこだわったポイントです。ジョグキーも7色それぞれ違うのですが、SA001よりも高輝度な材質を使っています。

防水・防塵仕様となった「簡単ケータイ K005」

――では、続いて「簡単ケータイ K005」についてご紹介をお願いします。

K005

大西氏
 商品の概要としては、簡単ケータイということで、ターゲットは60代を中心に想定しています。ただ、これまでの簡単ケータイでは「初めてケータイを持つ人」がターゲットでしたが、高齢者の方にもケータイ経験者が増え、機種変更の方もいらっしゃるので、初めての人にも不便なく使ってもらえることを想定しつつも、かつケータイ経験者にも不自由がないように、と考えました。

 ポイントは大きく3つあります。1つめは防水防塵による安心感。2つめは使いやすさの改善で、たとえばディスプレイを2.8インチから3インチにしたり、キーも押しやすく改善しました。3つめとしては、健康機能として、歩数計を搭載しました。

――防水だけでなく防塵にも対応しているのですね。

京セラの大西氏
従来から大きかったキー部の盛り上がりが、さらに増している。

大西氏
 防塵は今回が初めてになります。防水のIPX5/7と同様に、IPX5の防塵も試験があり、粉じんが入っても動くようになっています。

――ディスプレイとキーも大型化しているのですか。

大西氏
 ディスプレイは大型化のニーズに応えました。もともと「でか文字」や「でか時計」といった機能に対応していましたが、ディスプレイ自体が3インチと大きくなることでより見やすくなっています。

 キーについては、防水となっているわけですが、だからといって押しにくくなることはあり得ない、ということで、従来モデルよりもキーの出っ張りが大きくなっています。実際にご覧いただければわかりやすいのですが、かなり使いやすいキーになっているかと思います。

――簡単ケータイというと、やはりキーへのこだわりがあるかと思いますが、まだまだ進化しているのですね。

大西氏
 これまで簡単ケータイはK003、K004とやってきましたが、毎回改善を施しています。

 たとえばカーソルキーは、K003ではセパレート型にして押しやすさを考慮しましたが、離れすぎていてもわかりにくい、という意見をいただきました。K004ではカーソルキーの回りにダミーのデザインを入れ、さらにそれぞれのキーをより大きく、中央に近く配置しました。K005ではそれをさらに発展させ、視認性をさらに向上しています。

 細かいところでは、ディスプレイ側にある3つのワンタッチキー、K003から搭載していますが、親指で押すときにヒンジが邪魔になるので、K004からヒンジ構造を変え、ヒンジ軸を下げることで押しやすくしています。

歴代の簡単ケータイ。左からK003、K004、K005

――一見すると同じようなデザインに見えますが、実はいろいろ変わっているのですね。

大西氏
 高評価いただいたところは継続していますが、改善するべきところは改善しています。

――簡単ケータイを防水にするというのは難しいところがあるのでしょうか。

大西氏
 難しさはほかのモデルと変わりません。サイズに影響が出るので、そのサイズをどこまで増やせるか、という問題がありますが、今回くらいのサイズならば問題がないと考えています。

K005のカラバリ。柄付きも用意される

――なぜ簡単ケータイまで防水になったのでしょうか。

大西氏
 10代、20代の若い層には、お風呂などで積極的に使うために防水のニーズがありますが、エルダー層には、「さまざまな場面で積極的に使う」と言うより、安心感のために防水のニーズがあります。積極的に水回りで使ってください、というより、安心して使ってください、という考え方です。

――歩数計機能も搭載されていますが、どのようなものなのでしょうか。

大西氏
 これまでの簡単ケータイ、K003とK004でも歩数計アプリは搭載していましたが、今回は「健康」という切り口で、この歩数計を強化しました。これまで通りの通常の歩数カウントやカロリー管理に加え、肥満対策など目的別に13種類のメニューを用意し、そのメニューに従ってナビゲーションしてくれるようになっています。

 歩数計連動の待受Flashにも力を入れていまして、K003では東海道五十三次、K004では日本名山登頂といったコンテンツを搭載していましたが、K005ではウォーキングメニューの達成度を待受Flashで確認できるようになっています。

――そのほか従来の簡単ケータイから進化したポイントは?

ワンタッチキーに割り当てられた名前が待受画面に表示される

大西氏
 ソフトキーや決定キーを押す場面でキーが光る「光で操作ナビ」も進化し、EZweb操作中にも対応しました。たとえばカーソルがリンクにあたっているときだけ決定キーが光るようになっています。

 ディスプレイ下に3つ搭載されているワンタッチキーも進化しました。キー自体は従来から搭載されているのですが、K005では登録されている人の名前や写真が待受画面に表示されるようになっています。

――おサイフケータイやワンセグなどの機能は簡単ケータイには入らないのでしょうか。

大西氏
 そういった機能のニーズは徐々に増えつつありますが、まだ搭載するタイミングではないと考えています。現在のところ、簡単ケータイのターゲット層では、機種変更でも1X端末や簡単ケータイから、というパターンが多いです。そのため、前のケータイがワンセグ対応だった、という人が少ない状況です。ワンセグ対応からの機種変更希望がもっと増えれば、対応する必要があるかな、と思っています。

――本日はお忙しいところありがとうございました。



(白根 雅彦)

2010/6/14 12:26