キーパーソンインタビュー

「お客に選んでもらえるように」KDDI田中氏のiPhoneへの思い


自分のiPhone 5を手にする田中氏。赤いiPhoneケースが気にいっているという
KDDI調査によるスマートフォンの購入重視ポイント

 9月21日、「iPhone 5」が発売され、これまで同様かそれ以上にユーザーの注目を集めている。国内でiPhone 5を発売する携帯事業者はauとソフトバンク。アップルの発表から両社の競争が激化し、一部情報が錯綜している部分もあるようだ。今回、KDDIの代表取締役社長である田中孝司氏がインタビューに応じ、iPhone 5への取り組みやLTEネットワークの状況、今後のKDDIの今後の戦略について語った。

スマートフォンユーザーの重視するポイント

 「お客さんに選んでもらえるようにしなければいけない」――田中氏は、iPhoneの発表会と同様、利用者のニーズをしっかりフォローしていこうとする姿勢を見せた。

 KDDIは6月、NTTドコモやソフトバンクなどのユーザーも含め、スマートフォン利用者に購入時に重視するポイントを調査、3000サンプルの回答を集計した。この調査では、44.7%の利用者がバッテリーの持ちを気にしていることがわかったという。以下、エリアや通信速度が23.2%、タッチパネルの反応が18.5%、必要な機能の搭載が16.9%、毎月の通信料が16.4%と続く。

電池の持ち、KDDIのチューニング

 田中氏は「電池の持ちをよくするためにはどうするべきか。iPhoneの発売日にはネットワークを“チューンした”と話したが、ネットワークには気合いを入れて相当手を入れた。僕らはきっと電池の持ちはよくなると思っていたが、発売後、実際にどうなったのか調べさせた」と語った。

 アップルは発表会において、「iPhone 4S」よりも薄く、軽くなり、さらにバッテリーも持つことをアピールした。発表では、3GやLTEの通信時間が8時間、連続待受時間が225時間とされた。

 田中氏の説明によると、iPhoneがネットワークに接続する際に、余計なサーチをさせず電波を捕まえられるよう、ネットワークをiPhoneに最適化したという。これによりLTE網に接続されている場合の連続待受時間は、約260時間になったという。



 KDDIでは自社調べながら、同じ環境においてソフトバンクモバイルのLTE網では連続待受時間は160時間だったとした。さらに、測定から約70時間後のバッテリー残量はauが82%に対して、ソフトバンクは68%だったという。田中氏はネットワークに最適化した効果が出ていることをアピールし、「この結果が、僕らが頑張ってチューニングしたということ。やってきたことがうまくいった」と語った。


緊急地震速報の設定メニュー。左の画像がソフトバンクで右がKDDI

 このほか、緊急地震速報についてもau版は消費電力が変わらないとする。実際、設定メニューの「通知」設定で緊急地震速報の項目を見ると、au版に記載はないがソフトバンク版には、緊急速報を設定するとバッテリーの持ちが悪くなる場合があると記載されている。

 田中氏は、「こうしたバッテリーの部分はしっかり伝えていきたい。(測定について)えぐいことはしていないし事実。なかなか信じられないかもしれないが、これだけ差がある。マジで自慢したいと思う」と話した。

 auはテザリング機能についても、Webサイトなどの閲覧中、通信が発生しないタイミングでは電波をアイドル状態にすることで通信を効率化し、省エネ運用できる仕組みを設けた。関西出身の田中氏は「テザリングについても結構いけまっせとアピールしたい」と話す。


iPhone 5の発売記念セレモニー

LTEと3Gの同時通信について

 LTEのネットワークについては、各社が今後さらにエリアを拡充させていくとしている。

 「うちは正しくやりたい。どこかと違って嘘は言わない。今後、LTEのネットワークはどんどん広がっていく。auは通話が終了するとすぐにLTEに戻るが、ソフトバンクは3Gから戻らない」



 LTEで通信中、電話がかかってくると、両社ともに3G網に切り替わって通話する。電話を切ると、auはすぐにLTEでのデータ通信に切り替わるが、ソフトバンクは約1分間3G網に接続した状態になるという。auでは、アップルと交渉し、端末にセットするネットワークのプロファイルデータについても最適化した。

 さらに田中氏は、「同時通信についていろいろとメディアに書かれているが、そもそもアップルはLTEについて、“Single chip”“Single radio”と言っており、LTEと3Gを同時通信しないと考えている。我々は、そのあたりもちゃんとチューニングしている」と話す。

エリア展開

KDDI調査による、山手線におけるauのLTE電波状況。青い方が電界強度が高い
オムニ方式と3セクター方式

 田中氏は、KDDIが「4G LTE」を展開する上で、重点エリアに位置づける山手線についても言及した。山手線エリアは、各社ともにもっともネットワークが混み合うエリアとしている。

 9月20日以降も順次エリアを拡充し、24日の時点で山手線のほぼ全てでLTEのエリア化を達成したという。山手線以外の通勤エリアについても順次展開しているところだという。KDDIではこの1週間で1200局程度を展開しており、年末までに1万局弱まで敷設していく計画だ。

 田中氏が語気を強めたのは、基地局について。「ソフトバンクはオムニがほとんどで、我々は3セクター。基地局数は同じでもうちの方がきれいにエリアができている」と語る。

【注記 2012/10/10】
 ソフトバンクモバイルでは、iPhone 5が利用している2.1GHz帯のLTEについては、大半が3セクター方式の基地局で、一部オムニ方式の基地局だと主張している。

 3セクター方式は、1カ所の基地局で3つの電波を送信する方式で、オムニセクターは1つの基地局で1つの電波を送信する方式となる。1カ所で3つの電波を送信できるため、3セクター方式はより多くのユーザーを収容可能で、オムニセクターは電波は1つで収容数はより少なくなるが、簡単に敷設できるとされる。たとえば、収容数の多い都心部は3セクター、収容数の少ない地方ではオムニ方式などと組み合わせて利用される。

 田中氏は常々自身を技術屋と語っており、UQコミュニケーションズ時代はWiMAXの基地局展開において、3セクターとオムニを組み合わせる方法を採用した。同氏は、「オムニの基地局は、各基地局を離して設置すれば、基地局を中心に円状に電波が送信されるが、近づくと干渉してしまう」と話し、基地局を中心に花びらが重なるように電波が送信される3セクターのエリア設計の方が優位であるとする。「オムニと基地局数は同じでも、KDDIの方がエリア設計はきれい。3Gでもほとんど3セクターで展開している」とアピールした。

テザリング

 テザリングについては、「発表の時、“世界標準”という言葉を入れさせた。それは世界のキャリアの95%がテザリングを導入しているから。使うとやっぱり便利だよね」と話した。

 さらに田中氏は「テザリング使うときはiPhoneのID(「設定」メニュー「情報」の名前のこと)をちゃんと英語で設定しておいた方がいい。“iPhone”にしておくと、みんな同じ名前になるし、自分の名前を入れておくと周りに名前を読まれちゃうから気をつけて。ヘビーな使い方ならモバイルルーターの方がいいけど、ちょっとした使い方ならテザリングはすごく有効。とくにゲームユーザーにはいい」と語った。

 LTEのサービス内容を見ると、今回定額でLTEの高速通信が利用できるのは7GBまでとなっている。そこを超えるユーザーはいるのか。

 「超える人もいると思うけど、実際使ってみるとなかなかいかない。家の固定回線として使うなら別だけども。逆に言うと、7GBを超えるユーザーは、とめどなく使うユーザーで、ネットワークに対してやたらリソースを使ってしまう。どちらかというと、他の人のための規制という意味が強い」

利用料、情報の錯綜、謝罪

 このほか、毎月の利用料金を重視するユーザーも多くいることだろう。田中氏は、「ソフトバンクと同じ料金になり、スマートバリューもあるので僕はauの方が安いと思っている。しかし、いろいろねじ込まれていて、店頭では有効でない値段が比較されている。店舗で下取りの価格を引いた値段を出したり、ほとんど対象者のいないスマホBB割を適用して並べていたりする。正直気になっている」

 KDDIとソフトバンクの利用料やサービス内容にまつわる攻防は、9月14日の予約開始時点から激しいものがあった。まず、KDDIは16時の予約開始直前にメディア各社に価格などを案内し、発表文が掲載されたWebサイトがアクセス集中により確認できない事態をまねいた。ソフトバンクは予約が開始されてから価格を案内した。

 これにより、予約するために並んだ人、予約するための整理券を求めて並んだ人、その多くが販売価格が明確でないままに予約を強いられたのだ。店舗によってはおおよその価格を案内したり、一括購入価格を提示せずに予約を受け付けたりと、現場レベルでさまざまな判断がなされた。ユーザーは情報が錯綜する中で期待の新モデルを選ぶことになった。

 この件を指摘すると田中氏は「そうだね、それは本当に申し訳ない、スイマセン。去年は真面目に出したが、発表すると(ソフトバンクに)かぶされるので気分が悪かった。ゴメンナサイと言っていたと書いて欲しい」と話した。

iPhone版「auスマートパス」でアプリ提供へ

 また、iPhone 5の発売に伴ってauは、「auスマートパス」についてもiPhone向けにWebサービスを提供すると発表した。今回田中氏はその先の展開についても言及し、「それはWebだけじゃないよね」と語った。

 「やっぱり、アプリも出てくるに決まってますよね? Xデーに向けて相当がんばっているところ。今回、3カ月無料にしているが、3カ月以上(Xデーが)遅れることはないよね、というメッセージ。auスマートパスは現在も伸びているサービス。あれはスターターキットになる。たくさんあるアプリの中で、たった500アプリしかないがそれが非常に低料金で使える。無料のアプリしか使わない人がほとんどの中で、それでは本当のスマートフォンの力を見ずに納得している。アプリのダウンロードを怖がる人へ、そうじゃないんだよというメッセージになればいいなと思っている」

田中氏「もっと正確に伝えたい」

 iPhone 4Sの発売時について、KDDI関係者からソフトバンクに「やられた」とする声を聞く。同社はiPhone 5ではこの反省を踏まえたか、積極的にメッセージを出し続けている。田中氏は積極的な展開について以下のようにコメントした。


「ちゃんとやってきた、という思いがある」と田中氏

 「やっぱりちゃんとやってきた、という思いがある。(ソフトバンクとの)機能差は相当出てきたし、ネットワークについてもマジメにやって、料金についてもマジメにやってきた。それなのに、いろいろなバズが起こってうまく伝わらず、すごく不本意。せっかく技術屋さんとか、みんながこうしてやってきたのに、それがゆがんで伝わるのがすごく嫌だ。もっと正確に伝えたいと思う」

 田中氏はそう言うと、「結構マジメでしょ? 一応マジメで通ってますから」とおちゃらけて見せた。

iPhone 5の好調をアピール、供給体制についても言及

 「iPhone 5」はiPhone 4Sよりも好調に推移しているという。電話番号を変更せずに携帯電話会社を乗り換えるMNPについては、iPhone 4Sと比較するとポートイン(転入)が5.5倍になっているという。

 また、au版iPhone 5を予約したユーザーの4割が新規契約者で、そのうち8割がMNPを占めているとした。田中氏は「ソフトバンクから相当流入している」と漏らした。

 それでは端末の供給体制はどうか? 田中氏は「なんとか予約してから2~3週間以内には届けられるというところ。アップルと交渉している。部品メーカーの話を聞いても、たぶん大丈夫だろう」と話した。

秋冬モデルはAndroid、WiMAXの今後

 iPhone 5の狂想曲は、iPhoneだけのものなのか。例年通りであれば、携帯各社はこれから、秋冬モデルの発表を控えている。今回、iPhone 5を皮切りに各社がLTEを展開し、auはネットワークを最適化することで電池の持ちを改善している。こうした恩恵がAndroidスマートフォンなど、iPhone以外の端末にも適用されるのだろうか。

 田中氏は「目先のことを毎日やっているのは、あまり本意ではないが、いろいろ言われるので。大きな流れを説明する」と切り出し、「KDDIは3M戦略をやっていくと決めて、固定とモバイルをセットで展開していくことになった。ネットワークもマルチ化して、Wi-FiもLTEもWiMAXもやっていく。この後、セットトップボックスが出てきてやっといろいろなものが揃ってきた。全部気合いを入れてやってきたが、もっともっとこれからはuse(使う)の方に訴求していける。秋のLTEも相当、Androidの機種を出すつもりでいる。3M戦略はこれまで3つステップがあると話してきたが、秋でほぼ完成する。来年以降は新たな3M戦略の第2弾が打てる」とコメントした。

 このほか、田中氏は今後の展開について、「スマートフォンはLTEの方に向かっていく。WiMAXは固定の代替サービスという形でモバイルルーターを展開する。固定の代替で利用している人はWiMAXで吸収する。そういうユーザーをLTEに載せると7GBの問題も出てくるし、ネットワークが混んでしまう」とコメントした。最後に「実はまだいろいろなことを進歩させる。口を濁して言うのは、これからいろいろなことを言うつもりでいるということだと思っていただきたい」と話した。

 




(津田 啓夢)

2012/9/26 20:07