【ワイヤレス・テクノロジー・パーク2011】
ドコモ、KDDIが次世代無線通信技術を展示


 神奈川県横浜市のパシフィコ横浜では、7月5日、6日の2日間、次世代の無線通信技術や研究開発をテーマにした展示会「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2011」が開催されている。

LTE-Advancedのヘテロジニアスネットワークシミュレータ

NTTドコモのブース(右)

 NTTドコモのブースでは、現在のLTE(サービス名はXi)を発展させた「LTE-Advanced」の特徴となるシステムを解説している。LTE-Advancedでは最大帯域幅100MHz、最大通信速度1Gbps以上という、大容量、高速化が図られるが、展示ブースでは、基地局と移動する端末の1対1の通信で、下り平均600Mbps、上り平均200Mbpsという高速な通信に成功したフィールド実験の模様が紹介されている。

 また、LTE-Advancedでは現在提供されているLTEとの互換性が保たれ、LTEの端末がLTE-Advancedの基地局に接続したり、LTE-Advancedの端末がLTEの基地局に接続したりできる。これにより、すでに構築しているLTEのネットワークを活用できるほか、LTE-Advancedとして拡大したエリアは、既存のLTEでも恩恵を受けられることになる。


LTE-Advancedの概要フィールド実験を開始している
LTE-Advancedの主要技術フィールド実験は、基地局と測定車の1対1の通信で実施。下り平均600Mbpsと高速な通信に成功している

 

「ヘテロジニアスネットワークシミュレータ」青いエリアは通信品質が低く、赤いほど高い。ピコセル周辺には電波干渉で青いエリアが発生するものの、マクロセル側の制御で減らすことができ、写真でもピコセル周辺が緑程度におさまっている様子が確認できる

 LTE-Advancedに関連して、「ヘテロジニアスネットワークシミュレータ」も公開されている。これは、LTE-Advancedが3GPP Release 10の仕様として標準規定された中の、セル間干渉制御技術をシミュレーションし、リアルタイムの処理で視覚的・直感的に動作・性能を確認できるというもの。ヘテロジニアスとは異種混合の意味で、さまざまな通信方式や基地局が混在する通信網はヘテロジニアスネットワークなどと呼ばれる。LTE-Advancedの世代では、マクロセル(基地局)に加えてピコセル(小型基地局)を設置することで、多数の、通信品質の高いエリアを広範囲に構築できる。しかし、大きな範囲をカバーするマクロセルのエリア内であっても、ピコセルのエリアの外周には、干渉により通信品質の低いエリアができてしまう。マクロセル側の出力を調整することで干渉は制御でき、シミュレータでは、ピコセル周辺のエリアの通信品質を落とさずにサービスを提供できる様子が確認できる。なお、ピコセルに接続できるLTEおよびLTE-Advanced端末が、ピコセルでオフロードされる形になれは、結果的にマクロセルに接続しているほかの端末にも、利用できる帯域が増えるなどの好影響をもたらすという。


 ドコモのブースではまた、複数の帯域を同時に通過させられるRFフィルタが開発中のものとして紹介されている。これは、これまで単バンドのRFフィルタを複数設置して対応していたところを、1つのRFフィルタで複数の周波数帯域を選択し、同時に利用できるというもの。RFフィルタを複数設置する場合と比べて、分配・合成回路が不要になり、回路による損失も回避できるようになるほか、RF回路の小型化も可能になる。同社では今後、端末に搭載できるような小型化をさらに進めていく方針だ。

複数帯域同時通過フィルタ1つのRFフィルタで複数の帯域を通過させられる。また、RFフィルタでは不必要な帯域の通過を適切に遮断すことも重要になるという
二種類が試作された複数帯域同時通過フィルタ。右側は0.5mmの隙間で2枚重ねになっている平面回路構成

 

 このほか、「基地局用広帯域線形電力増幅器」も展示されている。これは、主に基地局などに搭載される電力増幅器(アンプ)で発生するひずみ成分を、消費電力を増大させるという方法を取らずに低減させる技術で、「非線形ひずみ補償技術」として紹介されている。具体的には、非線形ひずみ補償回路(デジタルプリディストータ)にフィルタを追加することで、増幅させた周波数帯前後の非対称のひずみを解消し、目標値以下に抑えられるようになる。ひずみが抑えられると、アンプで増幅できる周波数の間隔を狭めることが可能になり、電波の有効利用につながるという。

基地局用広帯域線形電力増幅器新たに、デジタルプリディストータにフィルタを追加した
展示された装置の全体プリディストータ
非線形ひずみ補償が適用された波形。青の波形がひずみ補正前。増幅された帯域の前後では、非対称だったひずみが解消されている(黄の波形)

 

KDDI研究所「電波到来方向可視化システム」

KDDI研究所のブース

 KDDI研究所の展示ブースでは、電波が到来する方向を可視化する「電波到来方向可視化システム」が展示されている。これは、ピコセルなど小型基地局の設置が増加することをにらみ、従来の平面を中心としたエリア設計のみならず、上層など立体的なエリア設計において、電波伝搬調査ツールとして活用してセル設計を高度化するというもの。システムには9つのアンテナが搭載され、3次元のデータとして利用可能。8つのカメラで周囲の様子をパノラマ合成でき、GPSで現在地を特定する。AD変換器を通してパソコンに接続して操作を行う。会場のデモンストレーションでは、電波を発信しているオレンジ色のボールがブースに設置されており、装置が撮影したパノラマ画像上に電波到来方向が示される様子が確認できる。到来する電波は複数にも対応するという。

「電波到来方向可視化システム」の概要パソコン上で操作し、画像や地図で確認できる。写真では少しずれているが、オレンジ色のボールが電波の発信源で、赤い線で電波の到来方向が示されている
観測するシステム。GPSやカメラ(Webカメラ)は市販の製品を流用しているようだ

 

 KDDI研究所のブースではまた、「高速ヘテロジニアス無線ネットワーク」として、LTEやLTE-Advanced、WiMAX、Wi-Fiなど、複数の通信方式を同時に利用する技術が解説されており、高スループットを実現するための「リンク多重」や、無線リンク間で遅延差を補正する技術が紹介されている。ネットワーク側に加えて端末側での制御も含まれており、「htc EVO WiMAX ISW11HT」ではすでに、これらの技術の一端として、通信方式を環境に応じて自動的に切り替えるアプリが提供されている。

 同社ではこのほか、「切断耐性モバイル通信」という技術が展示されている。これは、「切断耐性サーバー」を経由して通信を行うことで、通信途中に接続が切断されても、圏内復帰後に再開できるというもの。「切断耐性サーバー」がキャッシュのような役割を果たし、再接続後の端末のIPアドレスにデータ送信を再開する仕組みになっている。

「高速ヘテロジニアス無線ネットワーク」
「切断耐性モバイル通信」

 

(太田 亮三)

2011/7/5 17:13