【IFA2017】

欧州の研究開発を新規事業に生かす

ソニーが語るSAPヨーロッパの取り組み

2014年にスタートしたソニーのSAP。社長の平井氏直轄のプロジェクトで、ソニーモバイルの社長を務める十時氏が管轄する

 新規領域に挑戦しながら、スピーディーに製品化まで進めるためにソニーが立ち上げたのが「Seed Acceleration Program」(SAP)と呼ばれる新規事業創出プログラムだ。

 SAPは事業部の枠を超え、ソニー社内からアイデアを募り、審査を経たうえでプロジェクト化するのが特徴だ。これまでにFeliCa決済を可能にしたスマート腕時計バンド「wena wrist」や、学習型リモコンの「HUIS」、盤面デザインを自由に変更できる電子ペーパーの腕時計「FES Watch U」といった製品がSAPから生まれている。

「wena wrist」や「FES Watch U」など、独創性の高い製品を生み出してきた

 そのSAPも、設立から3年が過ぎ、製品、サービスのラインナップも厚みを増してきた。海外のソニーに所属する社員からも評価され、ぜひ日本以外でもSAPを始めてほしいという声が上がっていたという。こうした声に応える形で、ソニーは2016年4月にSAPヨーロッパをスタート。ソニーモバイルの研究開発拠点があるスウェーデン・ルンドに本拠地を置き、欧州内からも新規事業のアイデアを募るようになった。

2016年4月には、SAPの欧州版であるSAPヨーロッパが誕生

 その第一号案件である「Nimway」が、IFAに合わせサービスを開始した。Nimwayはいわゆる“スマートオフィス”のソリューション。会議室の予約状況に合わせて、次に入るべき部屋を大型のディスプレイに表示できるのが特徴だ。スマートフォンで会議室の空き状況なども確認できる。技術的には、Bluetoothのビーコンやスマートフォンのアプリなどを活用している。元々の開発はルンドのソニーモバイルで行われており、それをSAPとして、ソニー本体で事業化した格好だ。

欧州第一号の商用化サービス「Nimway」。スマートフォンやディスプレイで会議室の利用を効率化するサービスだ

 ソニーはSAPヨーロッパをどう生かしていくのか。ソニーで新規事業創出部、統括部長を務める小田島伸至氏と、SAPヨーロッパを統括するアンダース・アールグレン氏にお話を伺った。

SAPの統括部長、小田島氏(右)と、SAPヨーロッパのアールグレン氏(左)

――SAPヨーロッパの事業化第一号となる「Nimway」は、ソフトウェアを中心にしたソリューションですが、これまで日本のSAPから登場した製品はハードウェア中心というイメージが強くあります。日本はハードウェアで欧州はソフトウェアという棲み分けがあるのでしょうか。

小田島氏
 SAPはボトムアップ型でやっていて、社員の提案が軸にあります。日本はハードウェアのエンジニアが多いので、ハードウェア中心になります。一方、SAPヨーロッパの拠点はスウェーデンのルンドです。ここはソフトウェアエンジニアが非常に多い場所なので、結果としてソフトウェアが事業化第一号となりました。「Nimway」では、ハードウェアとしてセンサーを使ってはいますが、それは既製品で、主体はサービスです。

 ただ、日本でもソフトウェア中心の製品がないわけではなく、ライブ映像の撮影から編集までを自動で行う「isuca」では、既製品のハードウェアを使っています。

――欧州各国ではどういう人からの応募が多いのでしょうか。

小田島氏
 応募があったのはルンド、オランダ、ドイツ、あとはベルギーからの提案もありました。最初はやはり技術を持っている人からの提案が分かりやすく、R&D(研究開発)の拠点から来ることが多いですね。ルンドには大きなR&Dセンターがあり、マジョリティになってます。

 もちろん、セールスやマーケティングからも募集はしています。ただ、それらの部門とは製品化したものを広げるところで協力できるのではないでしょうか。「Nimway」は広げるフェーズなので、セールスやマーケティングの力を活かせるのではないかと思います。

――欧州には販売拠点も多いと思いますが、そこをもっと生かせないのでしょうか。

小田島氏
 今まで2回ほどオーディションをしていますが、結果として欧州でも開発サイドからの視点が多いですね。ただ、セールスは確かに拠点が多く、お客様には近い場所で動いていますので、カスタマーの課題も見えています。しかし、その課題の解き方が分からないと、提案には繋がらない。その意味では、エンジニアとセールスがうまくまとまらなければいけないと思います。

――Nimwayや今後登場するものも含めて、SAPヨーロッパ発の製品・サービスを日本で展開する可能性もあるのでしょうか。

小田島氏
 アンダースとは、Nimwayが欧州で上手くいったら日本に輸入しようという話をしています。ただ、日本ではスマートオフィスの市場がまだ温まっていない。

 日本でもリモートワークなど、仕事の効率化についての取り組みが意識されはじめています。とはいえ、そういった面では欧州の方が現状、一歩進んでます。そのため、Nimwayの立ち上げは欧州から進めるつもりです。こなれてきたところで、日本で一気に展開しようとは考えています。

 SAPヨーロッパの今後のサービスでも日本への展開を狙っています。今、アンダースが足しげく、いろいろなところに通ってワークショップをして、各部門の融合を始めています。

――アンダースさんはなぜ欧州の統括として手を挙げたのでしょうか。

アールグレン氏
 以前から日本のSAPを見て、とても参加したいと思っていました。SAPヨーロッパの立ち上げでは、多くの学びがありました。ソニーグループは欧州に色々な拠点があり、SAPの取り組みを通してそれらの拠点へ横断的に関わることができます。

――ルンドがSAPヨーロッパの拠点となった理由はなぜでしょうか。

小田島氏
 たまたまアンダースのようなやる気のあるメンバーがいたこともありますが、ソニーモバイルのR&Dがあったからです。SAPヨーロッパ初の製品となるNimwayも、ソニーモバイルで以前から検討されていたものです。

 ちなみに、今回発表したXperiaが搭載する新機能「3Dクリエイター」も、ルンドから生まれた製品です。SAPに持ち込まれましたが、最終的には事業部で取り組んだ方がいいという判断になり、「Xperia XZ1」「Xperia XZ1 Compact」の機能として組み込まれました。