ケータイソリューション探訪

オープン化するモバゲータウンの狙い


 国内の大手SNSが、オープン化に向け大きく舵を切りはじめている。ケータイ専用SNSとしてスタートし、現在約1547万人の会員を擁するモバゲータウンも、2010年1月から徐々にオープン化にシフトしていく。モバイルのアクセスが大半を占める日本のSNSを考えると、この影響は非常に大きい。そこで、モバゲータウンを運営するディー・エヌ・エー(DeNA)、取締役ポータル事業本部長兼COOの守安功氏に、同サイトでの取り組みを聞いた。

ソーシャルゲームのうねりをオープン化で拡大

 DeNAがモバゲータウンのオープン化に踏み切った理由は、ソーシャルゲームの拡大にある。守安氏はこの市場を次のように話す。

DeNA 取締役ポータル事業本部長兼COO 守安功氏

「2~3年前からソーシャルアプリ、特にゲームがFacebookを中心に盛り上がってきた。日本でもここ1~2年で、同じようにソーシャルゲームが増えている。ただ、欧米とは異なり、日本のSNSのトラフィックは9割がケータイ。必然的にこの流れはケータイで大きく伸びていくことは間違いない」

 同社ではソーシャルゲーム市場全体を「1000億円になる」(同氏)とにらんでおり、国内では大手3社(モバゲータウン、mixi、GREE)でこのパイを奪い合うことになる。「大手が3社あるので最低でも33%、取れれば取れるだけいい」(同氏)と意気込みも十分だ。この市場動向を受け、同社では10月(一部は9月からユーザー限定で開放)に4本の内製ソーシャルゲームを投入。『海賊トレジャー』『ホシツク』『怪盗ロワイヤル』『セトルリン』がそれで、狙いどおりユーザーのアクセスが殺到した。結果、モバゲータウンの月間ページビューは11月に突出して伸び、対10月比で約1.4倍の327億5200となった。売上も順調に伸びており、「課金ゲーム3タイトルで月間3億円以上」(同氏)だったという。

広告や課金の売上をシェアしていく

 ただ、同社では「ゲームにも流行り廃りがあり、ユーザー属性も幅広いので、趣味趣向に合わせたもの多数作る必要がある」(同氏)と考えている。オープン化に踏み切るのは「内製はリソースに限界がある」という理由からだ。そうはいっても、守安氏が「オープンにしてもゲームが集まらないと意味がない」と話すように、デベロッパー側にもうまみがなければビジネスは成立しない。

 そこで、同社では、プラットフォーム側とデベロッパー側の収益分配比率を7対3に設定。課金や広告、アバターの収入をシェアしていく。ゲーム内での課金には「大手ゲーム会社とはじめたゲームポータルで導入したモバコインの流通量が上がってきているので、それを利用する」(同氏)。ゲーム内でのキャンペーン的な広告も、一切禁止していない。広告は「CPA、CPC、CPMと3タイプを用意し、前者2つは売上のシェアを7対3でやっていく」(同氏)という。モバコインはキャリアの一般サイト(勝手サイト)課金を利用しているため、売上から手数料を除いた金額を、デベロッパーと分配する。

パートナー体制やゲームの審査は?

オープンプラットフォーム用にサイトをオープン

 現状では80社の先行パートナーと開発に取り組んでおり、来年1月下旬には第1弾のゲームが登場する。パートナーは2月から徐々に拡大。2月には200社、3月には全てのデベロッパーに開放する予定だ。一方で、開放後も審査は最低限にとどめる。守安氏によると、理由はこうだ。

「こちらで面白いと思ったものが当たるとは限らないし、つまらないと思っていても流行ることはある。一見同じようなゲームでも、ゲーム性ややり込み要素など、細かい点で違いは出るもの。『これはほかがやっているから出さないでくれ』というようなコントロールはしない。もちろん、若いユーザーも多いので、青少年が遊んで問題ないかという観点での審査はするし、我々も『オススメ枠』のようなものは設けるが、公序良俗に反していない限りストップするようなことはない」

ゲーム公開にはガイドラインの遵守が必要

 ただし、SNS運営などを行う同業他社など、DeNAのビジネスモデルを崩す可能性のあるデベロッパーに関しては「まだ対応は決めていないが、その都度検討していく」(同氏)という。ゲーム以外のアプリケーションに関しても、当初は原則NGにする。その反面、「線引きは非常に難しいので、100人中10人ぐらいがゲームだと思うようなものなら大丈夫」(同氏)といい、この点に関しての審査は柔軟に行っていく。

 ソーシャルゲームに不慣れなデベロッパーのサポートも、DeNAの仕事だ。1500万以上の会員を抱えるモバゲータウンでゲームが当たれば、「1日で数千万から1億を超えるページビューも十分ありえる数字」(同氏)だといい、このトラフィックをさばかなければならない。突然ヒットしてしまった場合、経験のない事業者だとシステムをダウンさせてしまう可能性が高く、機会損失につながりかねない。そこで、DeNA側でサポートを用意する。守安氏は「まだメニューは決まっていない」としながらも、「データセンターやサーバーをこちらで用意し、対価をいただくことも検討している」と話す。カスタマーサポートの請負も計画している。参入を考えているデベロッパーが、利用を検討してみる価値はありそうだ。

モバゲータウンでヒットするソーシャルゲームとは

 では、オープンプラットフォーム化したモバゲータウンで、どのようなゲームが求められているのか。この疑問に、守安氏は「コミュニケーション好きなユーザーがかなりいるので、それを意識してみては」と答え、こう説明する。

「スタンドアロン型のゲームがダメというわけではないが、やはりコミュニケーションを絡めた方がいい。モバゲーのユーザーは、そもそも『ゲームが無料』といううたい文句に食いついて集まっており、新しいゲームに対する反応は非常に活発。まずはゲームとして認知させ、自然とコミュニケーションに広がるようなものがモバゲー内では盛り上がるのではないか」

 このような要素を盛り込めるのは、ゲーム専業の会社だけではない。むしろ、「ゲームを作ったところがない会社にも積極的に参入してもらいたい」(同氏)という。DeNAの内製ゲームチームにも「ゲーム製作未経験者が多い」(同氏)が、先に述べたように、同社のソーシャルゲームはページビューや売上の増加に貢献している。こうした経験をふまえ、「いわゆるコミュニティやネットサービスを運営してきた経験の方が活きるはず」と守安氏は分析する。

モーションアバターの利用が可能

 モバゲータウンが火をつけたアバターの活用も、ヒットの鍵になるだろう。同社は春先に一部のユーザーに向け3Dの「モーションアバター」を開始。順次対象ユーザーを増やしていき、今では全員に開放している。3Dで製作されており、このアバターは、ゲームの中に登場させることが可能だ。守安氏は狙いを説明する。

「銃やシールドなどのパーツにパラメーターを設けられるようにし、アバターをゲームで上手く使っていきましょうと提案している。ゲーム内で購入すればアバターも変化するという形で、コミュニティとも連動できる。アバターの仕様は公開し、デベロッパーが販売できるようにする予定」

 こうしたゲームが増えると、アバターの組み合わせを内容に応じて変えたいというニーズが出てくるかもしれない。今後は、「分身を複数持てる形にして、このゲームにはこのアバターと使い分けられるような仕組みも考えていきたい」(同氏)という。

 さらに、「mixiアプリ」とは異なり、モバゲータウンのゲームに、PC版は存在しない。逆にいえば、ケータイでの作り込みが重要になってくる。守安氏によると「PCのサービスは分かるが、ケータイは全く知らない人も多い」そうだ。

「エンジニアはPCに向かっていることもあり、実機でやりこむことが少なくなりがち。まずケータイサイトを、特に流行っているものを利用者の視点に立って使う。そうすれば、良いところや悪いところがおのずと見えてくる。ケータイ向けだからといって、特段技術的に難しいわけではない」

 アイデアが良いだけで、必ず成功するとは限らない。ネットの世界では、集客やマネタイズに苦労している事業者も多いが、モバゲータウンのプラットフォーム上であれば、大規模なユーザーを相手にできる。守安氏はデベロッパーに対し、「ゼロベースで立ち上げるより、相当楽になる。そういった会社にはぜひ参加してもらいたい」とエールを送る。3月の全開放まであとわずかだが、まだチャンスはある。今から準備を始めても、決して遅くはなさそうだ。




(石野 純也)

2009/12/24 06:00