ケータイソリューション探訪

モバイルサイトの投稿を24時間監視するガイアックス


 インターネットのコミュティ・サービスの企画、開発、運営、コンサルティングなどの業務を展開しているガイアックス。2007年からはコミュニティサイトなどの監視サービスを始め、さらに業績を伸ばしている。ブログやSNSなどにはケータイからのアクセスが急増していると言われるが、万全な監視体制を敷くためにどのような技術が導入されているのか? 利用するにはどれくらいの予算が必要なのか? ソリューション事業本部 オンラインマーケティング部の江戸浩樹部長に話を伺った。

――まず、御社の監視サービスの概要について教えてください。

 ブログ、SNS、掲示板などを監視する「コミュニティパトロール」というサービスを提供しておりまして、これまで100社以上にご利用いただいています。24時間体制で有人監視を行うのですが、弊社が開発した「Police」という監視ツールを用いることにより、効率よくスピーディーに監視することができ、お客様からはリーズナブルにご利用いただけると好評をいただいております。

ガイアックス ソリューション事業本部 オンラインマーケティング部 部長 江戸浩樹氏

――「Police」とは、どのようなツールなのでしょうか?

 ウェブサイトのインターフェイスは多種多様ですが、どのようなサイトでも対応できる共通監視ツールになっています。監視スタッフは、いちいち個々のサイトにログインすることなく複数のサイトを同時に監視でき、投稿があった場合に即座にチェックして、内容を判断した上で表示/非表示(削除)の作業を行います。クライアント側のシステムとAPI連動しますので、クライアント様も、どういう投稿をチェックしたかを確認することができます。

 自社で監視体制を構築するには、それなりの費用がかかりますし、人件費もかかります。「Police」はお客様のニーズやインターフェイスの変化に応じて、常に細かい改善を重ねています。実際、1年半の間に500以上の機能改善を行っており、そうした開発体制もこのサービスの強みだと認識しております。

――実際には、どのようなサイトを監視しているのですか?

 名前を出せない企業が多いのですが、大規模SNSや大手ブログポータルサイト、モバイルコミュニティ、企業サイトの掲示板など、さまざまなサイトにご利用いただいています。名前を出せるものとしては、朝日新聞のモバイルコミュニティ「参考ピープル」、ドコモとauの公式SNSである「きき放題!うた仲間♪」(元住友商事、アイ・シー・エージェンシー)なども弊社が監視させていただいているサイトです。

監視センターの様子。共通監視ツール「Police」を用いて、24時間体制で有人監視を行う

――ケータイ向けサイトの監視依頼は増えていますか?

 未成年者向けのフィルタリングの影響だと思いますが、ここ1~2年、モバイルサイトからの依頼が急増しています。フィルタリング(ブラックリスト方式)されたケータイからもアクセスできる健全なサイトと認められるためには、第三者機関であるEMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)の審査を受ける必要がありますが、その対策として利用されるケースが増えています。どのような監視体制をとっているかということだけではなく、不適切な投稿などがスピーディに削除されているか否かといった成果も審査されるので、EMAの認定を取得するのは非常に難しいと聞いています。具体的な数は申し上げにくいのですが、2009年11月時点でEMA認定サイトの約3割のサイトに弊社のサービスをご利用いただいています。

――削除対象となる投稿で、最近増えているものはありますか?

 サイトの種別によっても異なりますが、社会的な注目度が高まっていることもあり、「出会い系」の対策を強化したいという要望は増えています。とくに若年向けの出会いに対するチェックは厳しくなりつつあります。掲示板では、アダルトやスパムの類も相変わらず多いようです。今度、問題となってきそうなのは「児童ポルノ」対策。まだ法整備が十分とは言えず、さまざまな議論がなされていますが、弊社の監視基準としても強化すべきだと考えております。

――削除対象となる投稿があった場合、監視ツールが未然に発見するようになっているのでしょうか?

 はい、システム的にはそれも可能です。しかし、日本語の表現は非常に難しくて、キーワードだけで内容を判断できるわけではありません。例えば「出会い」という言葉でも、いろんなニュアンスで使われますし、逆に言葉としては問題がなくても、文章全体として未成年に有害と思われる投稿もあります。ですので、最終的には人の目によって内容で判断していくしかありません。削除すべき投稿をシステム的に抽出してハイライトさせるような仕組みは取り入れていますが、その精度をさらに高めていく必要性も感じています。

――最終的には人による目視が欠かせないわけですね。となると、監視スタッフの判断力が問われますね?

 東京と福岡に監視センターがあり、監視スタッフを「247部」と呼んでいます。「24時間7日間、つまり連日連夜監視を続ける」ということが由来です。年内には200人体制になる見通しです。

 監視スタッフは採用後に研修があり、研修中に2回の試験に合格しないと実際の業務に就くことはできません。また、監視スタッフになってからしばらくの間は経験者と共に2人体制で監視を行い、標準的なルールで監視できる案件から担当させるようにしています。

――監視スタッフの教育は、どのような方が担当されていますか?

 ポリシーアーキテクトという専任がいて、そこで弊社としての統一した監視基準を決めています。また、クライアントによって監視基準が異なりますので、要望に合わせた調整を行います。それに基づいて、247部は研修を受け、開発スタッフは「Police」の機能改善にあたっています。ポリシーアーキテクトの中心となっているのは、弊社に入社する以前から大手コミュニケーションサイトの投稿基準の策定に関わるなど、非常に経験豊かな人間です。

依頼主側は、監視レポートで成果を確認でき、削除された投稿の内容をあとから確認することもできる

――企業によって、監視基準が異なることもあるのですね?

 例えば、競合他社の製品に関する投稿があった場合、それを削除するかどうかは依頼主によって判断が異なります。他社の製品を誹謗中傷する投稿があった場合、それを公開したくない企業もあれば、削除せずに公開したいという企業もあります。自社製品に対する投稿の場合も、どういった内容であれば公開しないという基準はそれぞれ異なります。導入前の打ち合わせの段階で、細かいルールを決めています。

――監視による成果を、クライアントはどのように知ることができますか?

 監視スタッフが目視するものと同じ画面で、どのような投稿があり、どれを表示して、どれを非表示にしたかを確認できますし、非表示にした投稿の内容も確認できます。監視スタッフによって投稿を100%監視したことを確認できるようになっています。

――「コミュニティパトロール」の導入には、いくらくらいかかりますか?

 どれだけの投稿を監視したかという従量制なので、一概には申し上げにくいのですが、おおよそ月額3~5万円程度からと考えていただきたいです。もちろん、国内有数のSNSですと百万円を超えるような請求額になることもありますが、弊社が担当させていただいているサイトで、最も多いのは月額10~15万円くらいです。さほど投稿が多くないサイトですと、5万円以下でまかなえます。営業時間内は自社で監視されていて、営業時間外の監視だけをご依頼される企業もあります。

――導入には、どれくらいの期間を要し、企業側はどのような準備が必要なのでしょうか?

 弊社の監視ツールをご利用いただくか、クライアント様が所有するツールを使うのかによって異なります。弊社のツールを使わせていただく場合は、クライアント側のシステムとの連動は1週間ほどで完了します。ただし、先ほど申し上げましたように監視基準を細かく決める作業がありますし、スタッフの研修も必要ですので、トータルで約3週間と思っていただければいいと思います。

――ありがとうございました。


(村元正剛)

2009/12/3 06:00