遥かなるザンジバル
ザンジバルといえば……音楽ライブ「ザンジバルナイト」か、アップテンポなピアノが弾むビリー・ジョエルの「Zanzibar」、或いはQUEENの偉大なヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーの出身地、そしてガンダムファンならジオンの巡洋艦を思い浮かべるかもしれない。アフリカ東部、インド洋に浮かぶザンジバル諸島は、サンゴ礁に囲まれた白い砂浜と美しい夕日で知られる観光名所。タンザニアの大都市ダルエスサラームからフェリーで2~3時間。市の中心部「ストーンタウン」は、2000年に世界遺産(文化遺産)に登録されている。
スルタンの宮殿(現在は博物館)(筆者撮影) | ストーンタウンの路地裏(筆者撮影) |
中東のオマーンから遷都したスルタンの宮殿やアラブの砦、そして迷路のような狭い路地にはポルトガル植民地時代のカトリック教会やエキゾチックな趣の民家・商店がひしめく。悲しい歴史(奴隷貿易、日本人女性「からゆきさん」)もあるが、今では観光で賑わう南の楽園だ。
ザンジバルはタンザニアの一部なのに、タンザニア本土から島に渡るには、ザンジバル側での入国(?)手続きが必要だ。同じ国でもパスポートが無いとザンジバルには入れない(本土側では手続き不要)。正式国名「タンザニア連合共和国」の“連合”がミソで、「タンガニーカ」と「ザンジバル」の2つの国が1964年に連合して成立。ザンジバルには今でも“独立国”の気概が残っているのだ。
エキゾチックなコラムネタを持ち帰ろうと目論んでいたのだが、時間の都合でダルエスサラームへとんぼ返り。今度は観光でゆっくり来たいものだと未練を残しつつ、ストーンタウンの波止場で“出国”手続きを済ませフェリーに乗り込む。出発までの待ち時間、西洋・アフリカ・アラブが交錯した歴史に思いを馳せつつ窓辺に映る青い海を眺めていると、突然、大きな叫び声が客室内に響き渡った。「Zain, Zantel, Vodacom, Tigo...」フェリーの中で携帯電話各社のプリペイドカードを売る髭面男が乗り込んできたのだ(つまみのカシューナッツも売りにきた)。ビジネス利用は別として、アフリカでは個人が使う携帯はプリペイドが主流だ。
アフリカでも携帯電話会社は激しい競争を繰り広げている。その中の一つ、Zain(現地では「ゼイン」と発音)は、中東クウェート系の会社だが、そのサービス「One Network」は先進的だ。中東・アフリカの21カ国を対象に、国を跨いでもローミングチャージが発生せず、着信も無料。本国への国際通話もローカル通話と同じ扱い。SIMカードを差し替える必要もなく、SMSもネットへのアクセスも自国での使い勝手と変わらない。つまり国を跨ぐ「ボーダーレス」なサービスだ。「One Network」対象国の間に“国境”は無い。今では他社も追随してボーダーレスサービスを提供している。
ザンジバルの波止場(筆者撮影) |
実はZainは、サハラ以南のアフリカ15カ国の携帯電話事業をそっくりインドの携帯電話会社Bharti Airtelに売却したばかり。間もなくアフリカでのブランドもZainからAirtelに変わるそうだ。元をたどればZainのアフリカ参入もオランダのCeltel買収により手に入れたのだが、ややこしくなるので経緯はこれぐらいに。ザンジバルのフェリーで売られるプリペイドカードのブランドが変わっても、ボーダーレスサービスが引き継がれるのは間違いない。
グローバル化の波が激しく押し寄せるアフリカの携帯電話市場。国境が残るザンジバルと国境が消えゆく通信サービス。統治者が変われどもインド洋交易の拠点として栄えたザンジバルは、昔も今も世界の様々な地域から人々を引き寄せ魅了し、インスピレーションを与えている。洋楽も日本のアニメもザンジバルの縁でつながり、国境を越えて、世代を越えて広がっていく。
【お詫びと訂正】
初出時、ダルエスサラームをタンザニアの首都と記載しておりましたが、法律上の首都はドドマとなります。お詫びして訂正いたします。
2010/9/22 12:37