ポータブルヘッドホンアンプの新機軸「SR-71B」
Ray Samuels Audio「SR-71B」 |
筆者が2006年に本コーナーで「SR-71」を紹介してからすでに5年弱が経過してしまった。当時は個人輸入でしか手に入らなかったが、現在では日本のメーカーがポータブルヘッドホンアンプをラインナップしたり、海外メーカーの製品を扱う輸入代理店の登場したりと、幅広い種類の製品が、格段に入手しやすくなっている。
もっとも、今回紹介するRay Samuels Audioの「SR-71B」は、以前紹介した「SR-71」の頃と同様、日本にこのメーカー(というより個人なのだが)の正規輸入代理店は存在しないので、個人輸入や、並行輸入のような形で販売を行っている店舗から入手することになる。やや紹介しづらい製品だが、この分野にどっぷりと踏み込んでいる読者であれば、突撃する価値はあるかもしれないと思った次第だ。
初めて見る読者には「?」な状態だが、この製品は、iPhoneやiPodなどのデジタルオーディオプレーヤーと組み合わせて使う、ポータブルヘッドホンアンプだ。ヘッドホン/イヤホン専用のアンプに電源を内蔵し、持ち運べるようにした製品で、別途オーディオプレーヤーからラインアウトで音声を取り出すケーブルが必要になる。iPhoneやiPodなら、Dockケーブルとして豊富な種類から選べる。
「SR-71B」がこれまでのポータブルヘッドホンアンプと大きく異なる点は、入力、出力ともにバランス接続に対応している点。入力方法にかかわらずアンプ内部はバランス化されており、「フルバランス駆動が可能」と謳っている製品だ。ちなみにシリーズの特徴であるデュアルモノ構成も継承されている。据え置き型のヘッドホンアンプや大型のヘッドホンにおいて、バランス接続で楽しんでいるような斜め上の先端を行くユーザーには、気になる仕様といえるのではないだろうか。
一方で、「SR-71B」のバランス接続用端子はメーカーが独自に提唱している形状なので、入力、出力ともに対応するケーブルは数えるほどしかない。バランス接続端子を活用しようと思ったら、このアンプ以外にも出費がかさむことは覚悟しておきたい。
入力・出力でそれぞれバランスとシングルエンド(3.5mmの一般的なステレオミニジャック)の端子を備えているので、運用形態は4種類もあるのだが、このアンプのコンセプトからいっても、理想は入出力のどちらもバランスにすることだろう。しかし、ケーブルやポータブルDACのラインナップなど諸々の事情を考え、今のところ、あくまで筆者としての現実的な解として、入力はこれまでと同じDockケーブルを使ったシングルエンドで、出力はイヤホン用ケーブルを交換してバランスで、という構成で使っている。
気になる内容だが、バランス化により、クリアで音の存在感が増し、曖昧なエリアから音が出るのではなく、点音源になるような印象を持った。例えば、頭内の中心に定位するボーカルなら、ソフトボールぐらいの大きさからビー玉ぐらいになったような、指をさして場所を特定できるようなイメージだろうか。オーケストラの曲であれば、指揮台に立っているかのような空間の臨場感とともに、個々の楽器の存在感や演奏している様子も伝わってくるようだ。
やや大げさな印象と思われるかもしれないが、前モデルにあたる「SR-71A」を発売時からずっと使ってきた筆者としても、「SR-71B」のバランス出力は、これまで辿りつけなかった領域に到達したと感じたのは確かだ。
なお、音の傾向は「SR-71A」などと同様に、モニター向けというより“音楽的”と評されることが多い、SR-71シリーズの音を継承していると感じた。数あるポータブルヘッドホンアンプの中でもトップクラスに位置する優秀な製品だと思う。環境を揃えるのに必要な金額もトップクラスだが……。ポータブルヘッドホンアンプの、アナログアンプ部分の進化に閉塞感を感じている人なら、試してみる価値はあるかもしれない。
四角の端子が独自のバランス端子(出力)。その右はシングルエンドの出力(3.5mmのステレオミニジャック) | 後面は左から、内蔵バッテリーの充電端子、ゲインスイッチ、バランス端子(入力)、シングルエンドの入力 |
四角のバランス端子。この端子を選択できる、Whiplash AudioのUE用カスタムケーブルを別途購入した | 持ち運ぶにはそれなりに工夫が必要である…… |
製品名 | 製造元 | 購入価格 |
Emmeline SR-71B(シルバー) | Ray Samuels Audio | 650ドル |
2011/4/12 06:00