スキャナ内蔵マウスを試す~キングジム「MSC10」

スタパ齋藤
1964年8月28日デビュー。中学生時代にマイコン野郎と化し、高校時代にコ ンピュータ野郎と化し、大学時代にコンピュータゲーム野郎となって道を誤る。特技は太股の肉離れや乱文乱筆や電池の液漏れと20時間以上の連続睡眠の自称 衝動買い技術者。収入のほとんどをカッコよいしサイバーだしナイスだしジョリーグッドなデバイスにつぎ込みつつライター稼業に勤しむ。


スキャナ内蔵マウスを試す

 2012年11月2日に発売されたキングジムのマウス型スキャナ「MSC10」。普段はマウスとして使えて、必要とあらばマウス底面のスキャナでカラースキャンが行えるという変わり種マウスだ。ちょっとオモシロげなので試用してみた。

キングジムのスキャナ内蔵マウス「MSC10」。通常はUSBマウスとして使用でき、底面のセンサで最大400dpiのカラースキャンを行える。2012年11月現在の実勢価格は8500円前後

 コンセプト的には、ちょっとしたスクラップのためのスキャナと思われる。雑誌や新聞や各種資料などの一部を、その場でササッとスキャン。最小限の手間でアナログ情報のデジタル化を行おうというイメージですな。常用のマウスがそのままちょっとしたスキャンに使えたら便利っすよね、的な。

シンプルなUSBマウスで、左右ボタンと押下可能なホイールを持つ。レーザー式マウスで、レーザーセンサの解像度は1200dpi。サイズは約幅6×奥行き11.5×高さ3.7cmで、重量は約110g
本体側面にスキャン開始のためのボタンを備える。読み取りのセンサーは本体底面にある。スキャン時は内蔵照明で原稿を照らすようだ

 マウスとしては至ってフツーのUSBマウスですな。マウスのセンサはレーザー式で、カーソルの追従性などは十分良好。サイズはあまり大きくないので、つまみ持ち派の俺にも快適に使えた。

 ちなみにこのマウス、発売時期がつい最近なのに、ナゼか日本語版Windows 7(32ビット版/64ビット版)のみにしか対応していない。ともあれ以降、このMSC10の機能や使用感を見ていこう。

 

マウスを手で動かして手動スキャン

 まずは、おもむろにスキャン。

 スキャン手順は簡単で、付属ソフトの「Scanner Mouse」をインストールして起動した状態で、マウスのスキャンボタンを押し、スキャンしたい対象の上でマウスを動かすだけ。スキャンできるサイズはA4まで。メーカーの製品紹介ページで「体感シミュレーション」を行えるが、それと非常に近い感覚でスキャンできる。

左は「Scanner Mouse」アプリのウィンドウ。マウスのスキャンボタンを押してスキャンを開始する。スキャン対象の上にマウスを置き、手でマウスを動かしてワイプしていくような感覚で「手動スキャン」を進める。わりと速めに動かしても大丈夫
もう一度スキャンボタンを押すとスキャン完了となる。スキャン後、画像のトリミングや色修正、傾き修正なども行える。その後、スキャン画像を保存したり共有したりして利用する
スキャン解像度を「最大」としてスキャンした結果。左は全体像で、赤枠部分のドットバイドット画像が中央と右。細部はやや甘いスキャン結果となるが、ちょっとしたクリッピングになら十分な品質だ

 使用感としては、意外なほどお手軽。マウスを動かすと対象がどんどんスキャンされていく。マウスはあまり正確に動かさなくても、ソフト側で正しいスキャンになるよう自動補正してくれるようだ。画質も発色もまあまあで、ちょっとした紙情報のデジタル・クリッピングになら問題ないレベルだと思う。

 ちなみに、上の画像はスキャン解像度を「最大」としてスキャンしたものだが、このほかに「高」「中」「低」にも設定にできる。以下にそのサンプルを掲載するが、後述のOCRの精度を考えると、なるべく解像度「最大」でスキャンしたいところだ。

スキャン解像度は「最大」「高」「中」「低」から選べる。中央が「最大」で右が「高」の解像度でスキャンした(ドットバイドットの)画像
左は「中」で中央が「低」の解像度。OCR処理するには無理がある解像度ですな。なお、スキャン解像度とは関係ないが、スキャン結果のJPEG保存時の圧縮率なども調節できる

 ちなみに、これらスキャン画像は「DOS/V POWER REPORT」誌面をスキャンしたもの。カラー写真を掲載するにはあまり紙質が良いとは言えない雑誌ということもあり、スキャン結果が「よりネムい」ものになっているかもしれない。

 

スキャン結果の利用法

 スキャン結果は、前述の付属ソフト「Scanner Mouse」でイロイロと活用できる。具体的には、ほかのアプリに対しての画像やテキストデータの貼り付け、メールへの添付、Evernoteアプリへのコピー、各種ファイル形式での保存、印刷、スキャン結果の再調整などを行える。なお、保存形式はPDF/JPG/TIFF/BMP/PNG/XLS/DOCから選べる。

 このソフトの全体的な使用感としては、「スキャン結果をシンプルにほかのアプリへと渡して使える」という感じで、手っ取り早くてイイですな。たとえば多くのプリンタ複合機のスキャナ機能のように、スキャン後に目的のアイコンなどをクリックする程度で、スキャン結果を活用できる感じ。まずまずのコナレ感である。

「Scanner Mouse」の表示例。スキャン後、スキャンされた画像がウィンドウ上側に表示される。この状態でウィンドウ下側にあるボタンをクリックすれば、たとえばメールに添付したり、Evernote(Windowsアプリ)にコピーしたりできる

 なかなか便利な「Scanner Mouse」だが、欲を言えばもう少し活用幅が増えて欲しいところ。たとえば、アプリへの受け渡しはEvernoteにしか対応していないが、DropBoxやPogoplugなどにも対応してくれたらと思う。

 また、次のスキャンを行うと、前のスキャン結果は失われてしまう。「Scanner Mouse」のウィンドウに表示されているスキャン結果は、スキャン直後に行える「スキャン結果の微調整」を何度もやり直せる。が、次のスキャンを行うとこれができなくなるんですな。このあたりも、スキャン結果を履歴的に保存して、後々から再利用できるようにしてもらえると有り難い。

 のだが、「Scanner Mouse」が持つ、けっこースゴめ&利用価値大の日本語OCR機能を体験すると、前述のような細かなコトがどーでもよくなってきたりする。

 

そーとー使える度が高いMSC10のOCRスキャン

 MSC10のスキャン結果は、前述の付属ソフト「Scanner Mouse」に渡された直後、自動的にOCRされる。紙の原稿の上の日本語や英語などを自動認識してテキスト化してくれるわけですな。

 なので、「Scanner Mouse」上にあるスキャン結果は、既にテキスト情報を持っているデータとなる。そして、たとえばこのスキャン結果をデスクトップ上にドラッグ&ドロップすると、Microsoft Wordファイルが生成され、そのファイル内容はスキャン画像のOCR結果となる。

 つまり、MSC10のスキャンボタン押して、ツツツッとスキャンして、その結果をデスクトップにポンと落とせば、手元にある紙資料上のアナログ文字情報を、サクッとテキストデータに変換できるのだ。しかも、その変換精度がかな~り高い。

スキャン結果をデスクトップにドラッグ&ドロップすると、スキャン原稿内の文字がOCRされたテキストデータがWordファイルになる。OCR結果であるテキストを、「Scanner Mouse」からほかの各種ソフトにワンクリックでペーストすることもできる

 もちろん、OCRでテキスト化されたデータを、「Scanner Mouse」からほかの各種ソフトへ直接ペーストすることもできる。MSC10でスキャンした原稿にある文字は、パソコン上のテキストデータとして、非常に手軽に取り出せるというわけだ。なお、横組みだけでなく、縦組みにもしっかり対応している。

 このOCR処理の精度の高さを見て、「あっ、アレに使ったら便利かも!!」と思った俺。名刺にあるメールアドレスのOCRだ。名刺に印刷された小さなメールアドレスを見て、チマチマとPCに入力するの面倒じゃないスか? MSC10で名刺をサッとスキャンして、手っ取り早くメールアドレスデータを取り出せたら良くないですか? と思って試したら、ズギャッとデキたのであり、テンション上がりましたマジで。

名刺をスキャンし、そのOCR結果をテキストエディタに「テキストにして貼り付け」した様子。電話番号の「5213」が「521 3」と誤認識された(と言っても半角スペースがひとつ入った)だけで、ほかはパーフェクトなOCR処理結果となった

 このほか、ソフトウェアCDケースに書かれたアクティベーションコードとか、パンフレットに印刷されたURLとか、あるいはパッケージにあるJANコードなんかも高い精度でテキスト化してくれる。目で見つつ手でPCに入力するのが面倒なデータの多くを、MSC10でサクッとテキスト化でき、コピペで入力できるのは実に有り難い。

 あらまあ超便利だわコレ~と思ったところで、気になるコトを思いついた。MSC10のスキャン結果は、さまざまなファイル形式で保存できる。具体的には「PDF」「JPG」「TIFF」「BMP」「PNG」「XLS」「DOC」となる。……えっ? 「XLS」ってナニ?

 この「XLS」はMicrosoft Excelのスプレッドシートなわけで、表ですな。ってコトは、も~しかしちゃったら、MSC10って紙の上の表組みをスキャンして、エクセルの表として使えちゃったりする?

 ……まさかなぁ。でもデキればいいなあ。ソレができたら、紙資料の表組みを物凄く手軽にデジタル化できるなあ。とか思いつつ試したみたら、デキた!! スゲ!! ヤベ!!

雑誌の表組みをスキャンし、それを「XLS」形式で保存してみた……ズギャッ!! 表組みになってるぅ~。紙の上の表をエクセルデータに変換できるなんて超ステキである。テキスト認識結果もなかなかのもの。これは実用的だ

 いや、紙の上の表をスキャンして、それをエクセルの表にするソフトウェアは、けっこーある。のだが、通常そういうソフトはフラットベッドスキャナなどの外付けスキャナを使い、紙原稿をスキャンし、スキャン結果をそのソフトで処理して、表データにするといった感じ。若干手間がかかり、作業もやや大げさになる。

 のだがこのMSC10、表が印刷されたトコロをマウスでサササッと撫でるだけっスよ。そしたらMicrosoft Excelのファイルが作れて、ソレ開いたらキッチリOCRまでされて表として扱えるなんざぁ、これは聞き捨てならねぇ便利さと言えよう。

 ちなみに、MSC10でスキャンしてPDFで保存することもできるが、この場合はOCR処理されたテキストがPDF内に埋め込まれたりはしなかった。OCR結果のテキスト埋め込みPDFまで生成したら超大したモンだが、そこまではデキないもよう。

 いや~ビックリしましたMSC10。一見、低機能マウスにアイデア勝負のスキャナが埋め込まれた、実勢価格8500円前後の一発屋的なオモシロガジェットだと思ったが、じつは「かなりデキるコ」であった。

 マウスってところもイイですな。「これスキャンするか」と思ったとき、スキャナとマウスを持ち替える必要ナシなのだ。実際、左手で原稿を押さえ、右手でMSC10でスキャン操作~マウスポインタ操作をシームレスに続けられるのは快適。よく考えられた製品だと思う。

 スキャンの解像度から、あくまでもスクラップ用途のスキャナではあるが、意外なほど活用幅が広いことがわかった。マウスとしては低機能だが、サイズや感度については使いやすい部類に入ると思う。

 あるいは、これを常用のマウスにしてもいいかもしれない、とは思ったが、一点、マウスとしての難点がある。それは、使用中にマウスのスキャンボタンがわりと明るめで青く光り続けていること。常にこの青くて明るめの光が視野に入るのは、けっこーなフラストレーションになる。

 でもそれ以外は非常にイイ感じ、意外なほど実用的なマウス型スキャナだ。活用幅を考えると、実勢価格8500円はリーズナブルかもしれない。紙の上のちょっとした情報を、サッとPCに取り込んで、手っ取り早く活用したいというなら、ぜひ一度チェックしてみてほしい。

2012/11/26 06:00