法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

au WALLETとネットワークで新しい時代へ進む、auの2014夏モデル

 大型連休が明けた5月8日、auは2014年夏モデルとして、スマートフォン6機種、タブレット2機種、ウェアラブル端末及び周辺機のラインアップを発表した。

 スマートフォンの進化が落ち着き、iPhoneが主要3社から発売されたことで、携帯各社の差別化が難しいと言われる中、「auスマートパス」や「auスマートバリュー」、そして個性的なラインアップなどにより、auは好調な伸びを維持している。次なる成長戦略をどう描くか、ユーザーに何を体験させてくれるのかが注目されるが、今回の発表会では事前に予告していた「au WALLET」と「キャリアアグリゲーション」を軸にしていく姿勢を明らかにした。本誌記事(※参考)を参照していただきながら、今回の発表内容の捉え方と各製品の印象などについて、解説しよう。

次なる時代へ進むために

 携帯電話サービスの根幹と言えば、やはり、「つながる」ことだ。電波を使い、音声通話やデータ通信など、さまざまな形でユーザーを「つなぐ」ためのサービスを提供している。もう少し厳密に言えば、携帯電話サービスの基本は「電話」サービスであり、パケット通信(データ通信)サービスが成長していく中で、コンテンツサービスなどが普及し、それに付帯する決済サービスなども携帯電話会社が手がけることになった。

 しかし、ケータイの進化、スマートフォンの普及が進んでいく中、携帯電話会社は「携帯電話サービス」の基本、根幹を超える領域に進もうとしている。たとえば、ケータイ時代で言えば、NTTドコモはおサイフケータイを利用した「iD」でクレジットカードサービスをはじめ、auも三菱東京UFJ銀行と組んで「じぶん銀行」をスタートさせた。背景に決済サービスの存在などがあったとは言え、携帯電話サービスが始まったばかりの頃から考えれば、到底、携帯電話会社がクレジットカードや銀行サービスを手がけるとは予想だにしなかったはずだ。

 また、携帯電話サービスの根幹である「つなぐ」という部分も次なる世代への進化が見え始めている。いわゆる「もしもし」「はいはい」という音声通話の時代から「iモード」をはじめとする非音声利用の時代へと進み、2000年からはW-CDMA/CDMA2000 1xによる3Gサービスがスタートし、世界に先駆けて、大きく市場に普及させることに成功した。2010年末からNTTドコモ、2012年からはauとソフトバンク、イー・モバイルがLTEサービスを開始し、さらに昨年あたりからは各社の高速データ通信サービスの競争が一段と激しくなってきている。そして、2014年に入り、LTEの後継規格である「LTE-Advanced」を意識したデモや発表が相次いで行なわれ、いよいよ次の世代への展開が間近に迫ってきた印象だ。

新たなステージへの突入を宣言

 今回の「au 2014 SUMMER COLLECTION」と題された発表会は、まさにこうした市場環境を明確に反映したものだったと言えそうだ。昨年来、Androidスマートフォンの進化が落ち着き、3社がiPhoneを扱うようになったことで、モバイルの市場に停滞感や行き詰まり感があるように報じられてきたが、それは次の時代へ進むための下地ができたことを意味しており、その意味からも今年はモバイル業界のターニングポイントになる年であり、auをはじめ、各社の発表内容には非常に注目したいところだ。

キャリアアグリーションとWiMAX 2+でNo.1を目指す

 さて、今回のauの発表内容についてだが、発表会ではこれまでのauのエリア展開のおさらいからスタートした。800MHz帯のプラチナバンドを軸にした4G LTEネットワークの構築は、着実に拡がりを見せると共に、成果も上げてきており、今年3月には実人口カバー率99%を達成。2.1GHzのみのネットワークでも85%を達成している。元々、auは3Gの時代から800MHz帯を積極的に活用し、エリアを構築してきたが、今回の4G LTEネットワークの時代では、そのノウハウを活かしつつ、エリア展開をスピードアップしている。auがこれだけ4G LTEネットワークに積極的なのは、他社との競争という部分もあるが、それ以上に世界的にシェアを落とし、さまざまな面で影響が出始めているCDMA 1X方式を終了、もしくは最小限のリソースで運用できるようにしたいという目論見もある。今回の発表内容にも関係することだが、auに限らず、今後、各携帯電話事業者は割り当てられた周波数帯域の内、どれだけの帯域をLTEに使えるかが重要なテーマになってきており、その意味からも3G方式はユーザーに影響が出ないように、少しずつ縮小していく必要がある。

今回の発表会でも冒頭、エリアの拡充が紹介された

 そして、今回のauの発表会では、以前から予告されていた「キャリアアグリゲーション」によるサービスを開始し、WiMAX 2+対応スマートフォンも投入することが発表された。まず、キャリアアグリゲーションについてだが、これは同じ場所で800MHz帯と2.1GHz帯の両方でLTEの電波が発されているエリアにおいて、従来の端末であれば、いずれか片方の周波数帯の電波しか利用できないのに対し、キャリアアグリゲーションでは両方の電波を同時に利用し、より高速かつ効率良くデータを送受信しようという技術だ。この技術は次世代の標準規格と言われる「LTE-Advanced」を構成する技術のひとつであり、auではこれを先行して採用しようというわけだ。ちなみに、auのキャリアアグリゲーションでは仕様上、受信時最大150Mbpsのデータ通信が可能だが、5月15日発売された「GALAXY S5 SCL23」では、速度計測テストで100Mbps超の結果を記録している。ある程度の速度を超えてしまうと、ユーザーとしては速度計測でもしない限り、なかなか効果を実感しにくい面もあるが、それでも全体的な電波の利用効率も高くなるため、キャリアアグリゲーション対応端末は増えていくことは、auのユーザー全体にも影響を与えることになりそうだ。

 もうひとつのネットワーク面の新しいトピックとしては、「WiMAX 2+」が挙げられる。WiMAX 2+は2013年10月から、UQコミュニケーションズが提供を開始したサービス。受信時最大110Mbpsの高速通信を可能にする。2014年3月末まではエリアが東名阪に限られていたが、すでに全国へのエリア展開が始まっており、今年度末には2万局まで基地局を整備し、エリアを拡大する構えだ。かつて、auではWiMAX対応スマートフォンをラインアップしたことがあるが、従来のWiMAX対応スマートフォンはパケット定額サービスのほかに、月額500円(税抜)のWiMAX利用料が加算されたり、WiMAXのチップがベースバンドチップセットとは別に搭載されていたことにより、消費電力増などが影響し、あまり芳しい評価を得られなかった。しかし、今回のWiMAX 2+はTD-LTE互換であり、同じベースバンドチップで信号処理ができるため、従来のWiMAX対応スマートフォンのような消費電力増の心配はない。料金面でも同じパケット定額サービス「LTE」の範囲内で扱われるため、追加の負担はない(※参考記事)。ちなみに、WiMAX 2+対応スマートフォンはLTEの各周波数帯とWiMAX 2+の電波を送受信できるが、端末側で通信方式などを選ぶ設定は用意されていないため、実質的には端末任せ(ネットワーク任せ)で使うことになる。

 これまで各携帯電話会社のネットワークに関する競争は、エリアや繋がりやすさなどが中心に語られてきたが、auとしてはキャリアアグリゲーションとWiMAX 2+という2つの新しいサービスをスマートフォンに搭載することで、実効速度No.1を目指すとしている。ネットワークの評価は一朝一夕にできるものではないが、少なくともこの2つはモバイル業界にとっても注目度の高い技術であり、そういったものをいち早く体験でき、実際に使うことができるのは、ユーザーとしても非常に楽しみなところだ。もちろん、実効速度の競争だけでなく、実際にユーザーから「速いね」という評価が増えてくるように、au自身も積極的にエリアを充実させつつ、アピールして欲しいところだ。

電子マネー「au WALLET」は受け入れられるか?

 さて、今回のauの発表内容の中で、もっとも時間が割かれたのが電子マネーカードサービス「au WALLET」だ(※参考記事)。auに限ったことではないが、私たちが毎月、支払っている携帯電話の利用料金には、各携帯電話会社からポイントが付与されている。付与されたポイントはユーザーごと、あるいは家族ごとなどにまとめられ、次回の機種変更時の端末購入費やアクセサリー代金などに充てられている。auは早くから貯めたauポイントをコンテンツ購入に利用できるようにするなど、ポイントの積極活用に取り組んできた。

 今回のau WALLETは、これまでのauポイントをWALLETポイントにリニューアルし、貯めたポイントを電子マネーとして利用できるようにするものだ。ただ、これまでの携帯電話会社のサービスと少し異なるのは、ポイントを利用する手段として、スマートフォンのおサイフケータイ機能ではなく、一般的なプラスチックカードで提供する点だろう。多くの人が「なぜ、おサイフケータイじゃないの?」と考えたかもしれない。

 確かに、おサイフケータイによる電子マネーやクレジットカードサービスは、サービス開始当初から考えれば、かなり普及し、地域による差はあるものの、コンビニエンスストアからデパート、量販店、交通機関などに至るまで、さまざまなシーンで活用できるようになってきた。しかし、スマートフォンや携帯電話で利用するがゆえの壁があるのも事実で、店舗には非接触ICカードリーダーを設置しなければならず、ユーザーもアプリを入れたり、機種変更の度にデータを移し替えるなど、それなりの手間がかかる。これに対し、プラスチックカードはすでにクレジットカードやポイントカードで多くの人が慣れ親しんでおり、店舗側も磁気式クレジットカードと同じしくみで決済できるため、扱いやすいというメリットがある。

 では、クレジットカードとして取り組む方法もあったはずだと考えられるが、クレジットカードは元々、国内での利用率があまり高くないうえ、小額決済での利用は店舗側にあまり好まれない傾向もあり、提供会社側の負担を考えると、今ひとつメリットが薄いという考えがあるようだ。もちろん、KDDIとしても過去にいくつかのクレジットカードを発行した実績があり、現在もauじぶんカードというクレジットカードを発行している(※2014年4月30日に新規受付を停止)が、これらはいずれも各クレジットカード会社との提携によって発行しているもので、NTTドコモのDCMX(iD)などとは少し意味合いが異なる。

 とは言うものの、電子マネーカードもすでに楽天Edyやnanaco、WAONをはじめ、SuicaなどのJR系カードもあり、各社の競争がくり広げられている。電子マネーカードは基本的にはチャージした分しか使えないため、使いすぎの心配もなく、比較的、手軽に使うことができるが、プラスチックカードのみでの提供となると、何らかの形で残高の確認やチャージなどの手段が必要になる。その点、au WALLETであれば、スマートフォンからチャージができ、残高も確認できる。ちなみに、チャージした金額は月々の携帯電話の利用料金といっしょに請求される。

 また、au WALLETではポイントプログラムも提供されるため、チャージした電子マネーで買い物をすれば、ポイントを獲得でき、その貯めたポイントを再び買い物をしたり、レストランで食事をすることもできる。このあたりは家電量販店などのポイントカードなどと同じしくみだが、セブン-イレブンをはじめ、いくつかの企業がau WALLETと提携することで、通常よりも多くポイントを付与するキャンペーンなどが実施される。au自身もauショップに「au WALLET ウェルカムガチャ」を設置するなど、ユーザーにau WALLETカードを使ってもらうための施策を打つ。

 実際の利用スタイルとしては、一般的なクレジットカードと同じで、基本的にはマスターカードが使える店舗であれば、そのまま使うことができる。ただし、利用できる金額はもちろんチャージした範囲なので、その点は留意する必要があるが、オートチャージのしくみも用意されるため、うっかりチャージし忘れるというリスクも避けることが可能だ。

 ちなみに、au WALLETは1つのau IDにつき、1枚を申し込むことができるため、家族で一括請求などをしているユーザーは、au IDの扱い方や請求などについて、十分に考慮する必要がある。詳しくは別の機会に説明したいが、家族で複数回線をまとめて契約しているような場合は、au IDの分割や統合、名義の変更などが必要になるケースもある。auとして、もう少していねいに契約や名義を含めた説明をして欲しいところだ。

 さて、読者のみなさんの感想はどうだろうか。発表会以降、テレビCMが積極的に打たれていることもあり、筆者も何度かau WALLETについて、質問を受けるのだが、反応はさまざまだ。「スマートフォンに入れなくていいなら、簡単かも」と興味を持つ人もいれば、「それって、結局、クレジットカードなの? 電子マネーなの?」となかなか理解してくれない人もいた。このあたりの反応は、これまでクレジットカードや電子マネーをどう使ってきたのかによって、大きく変わるようで、人によって、理解度というか、飲み込み具合いにかなり差があるように感じた。au WALLETカードの受付はすでに開始され、まもなく実際のカードが手元に届きはじめるはずだが、今後、新しい物好きのユーザーとそれに続く人だけでなく、市場にどのように受け入れられていくのか、あるいは受け入れられないのか、非常に興味深いところだ。

 これまで携帯電話会社が提供してきたサービスの多くは、携帯電話やスマートフォンでの利用を前提に考えられており、ある程度、携帯電話やスマートフォンを活用できるユーザー向けという印象が強かった。これに対し、au WALLETはスマートフォンをチャージと残高の確認程度にしか利用しておらず(クーポンも配布されるが……)、どちらかと言えば、裏方のような存在になっている。しかもそこには携帯電話会社の本分である「つながる」という要素は、必要最小限しか存在せず、むしろ、携帯電話の契約をベースに、ユーザーの生活シーンにもっと関わっていこうという姿勢が見え隠れする。奇しくもNTTドコモが「スマートライフのパートナーに」というコピーを掲げているが、今回のような展開を見ていると、「意外にauの方がユーザーの生活シーンのパートナーに近いかも……」と考えてしまった。

スマートフォン6機種とタブレット2機種をラインアップ

 さて、ここからは今回発表されたスマートフォン6機種とタブレット2機種について、それぞれの印象を踏まえながら説明しよう。ただし、いずれも開発中の製品を試用した範囲の印象であり、最終的な製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、各製品の詳しい内容については、本誌の速報レポート(※参考)を合わせて、ご覧いただきたい。

 まず、ラインアップ全体についてだが、auは2013年冬モデルでスマートフォン6機種(※参考)、2014年春モデルでスマートフォン4機種(※参考)を発表し、今回はスマートフォン6機種という構成になった。メーカー別ではこれまでauに端末を供給してきたソニーモバイルやシャープ、京セラ、LGエレクトロニクス、サムスンが名を連ねているが、過去にWi-Fiモデルでタブレットを提供したことがあるASUSがいよいよ4G LTE対応のタブレットを供給することになった。

 最新サービスへの対応という点については、スマートフォンの6機種中5機種、タブレットの1機種がキャリアアグリーゲーションとWiMAX 2+に対応する。これからのauのネットワークの展開を考えれば、両対応の端末を選ぶことが望ましいだろうが、キャリアアグリーゲーション/WiMAX 2+非対応の製品も独自の個性を持ち合わせており、その個性を重視するなら、そちらを優先するのも手だ。

 仕様面では発表会のテーマでも取り上げられたように、3日以上の実使用時間を実現した大容量バッテリー搭載に加え、クアルコムの最新急速充電技術「Qualcomm Quick Charge 2.0」に対応したACアダプターと組み合わせることで、30分で1日分の充電が環境な環境を実現している。ディスプレイサイズは6機種中5機種が5インチオーバーで、解像度については「isai FL LGL24」がついにWQHD(2560×1440ドット)対応ディスプレイを搭載し、国内で販売されるスマートフォンでは最高スペックを実現した。グローバル市場でも2014年~2015年にかけて、ハイエンドモデルはフルHDオーバーのディスプレイを搭載すると言われており、その先駆けになるモデルがいち早く日本市場向けに登場したことになる。

 また、CPUについては、クアルコムのSnapdragonがほぼ独占状態だったが、今回のラインアップに加わったASUSのタブレットにはインテル製「Atom Z3580」が搭載されている。今後、同じCPUを搭載したタブレットが数多く登場すると言われており、今回のモデルのパフォーマンスと夏商戦以降の各社の動向が気になるところだ。

isai FL LGL24(LG)

 2013年冬モデルに続き、LGとauのコラボレーションによって実現したオリジナルモデルであり、今夏のauのフラッグシップモデルに位置付けられる。発表会当時、ベースとなるモデルは未発表だったが、5月中にグローバル市場向けに発表されるLGの次期フラッグシップモデル「G3」であると予想される。最大の特長は前述の通り、フルHDの約1.8倍という高解像度を実現したWQHD(2560×1440ドット)対応5.5インチディスプレイだ。一般的に人間の眼で確認できる高精細さが300ppi程度と言われているため、このモデルの538ppiという密度はどこまで効果があるのかが気になるところだが、いくつかのデモ映像を見た範囲では、映像コンテンツによっては、立体感を感じてしまうほど、美しい映像が楽しめる。ケータイ時代を含め、もっとも高解像度のディスプレイを搭載した端末は必ず市場で高い人気を得ており、isai FLも夏商戦でもっとも注目される一台になりそうだ。機能面では本体を振るとクーポン情報などが得られる「isaiモーション」、ユーザーが設定したノックパターンでロックが解除できる「ノックコード」などが搭載されているが、個人的にもノックコードはかなり有用だと見ている。防水やワンセグ/フルセグ、おサイフケータイなど、日本仕様もしっかりと盛り込まれており、買って損のない実力派の一台と言えそうだ。

Xperia ZL2 SOL25(ソニーモバイル)

 2013年冬モデルのXperia Z1、2014年春モデルのXperia Z Ultraに続く、au向けXperiaシリーズの最新モデル。ボディはXperia Zから採用されているオムニバランスデザインの流れはくんでいるものの、Xperia Z2/Z1/Zのようなフラットなデザインではなく、昨年、NTTドコモ向けとして登場した「Xperia A」のような、背面がラウンドしたデザインを採用する。仕上げもすりガラスのようなマット調で、ボディサイズはXperia Z1よりひと回りコンパクトだ。Xperia Z2/Z1/Zのようなメタルっぽさも感じさせない。ディスプレイやメインカメラ、CPU、メモリー、デジタルノイズキャンセリングヘッドホン対応などは、グローバル向けの最新モデルであるXperia Z2などとほぼ共通だが、サブカメラが31万画素に抑えられるなど、細かい部分で仕様が異なる。ユーザーとしてはグローバル向けのフラッグシップモデルのXperia Z2のau向けモデルを期待したかったが、ソニーモバイルがXperia Z2とは別のラインとして、もう少しスペックを抑え、ワンランク安いものを検討していたようで、そのモデルがau向けに供給されたというのが実状のようだ。Xperia Z1や他機種では、グローバル向けフラッグシップモデルがほぼ同じ仕様のまま、au向けとNTTドコモ向けに提供され、一定の支持を得ていただけに、ディフュージョンモデルのような性格のXperia ZL2が受け入れられるのかが気になるところだ。

GALAXY S5 SCL23(サムスン)

 今年2月のMWC 2014で発表されたサムスンのグローバル向けフラッグシップモデル。基本仕様はグローバル向けモデルと同じだが、ワンセグやおサイフケータイなどの日本仕様をサポートする。過去にグローバル向けで一部に防水モデルが存在したが、今回ははじめてフラッグシップモデルのGALAXY Sシリーズで防水防塵に対応。カメラは一眼レフなどで採用される位相差方式によるオートフォーカスを採用し、約0.3秒の高速オートフォーカス、リアルタイムHDRなどの機能を搭載する。背面のカメラ横には心拍数モニター、前面のホームボタン付近に指紋認証センサーを搭載するなど、新しい機能も充実する。容量が30MB以上のファイルに限られるが、Wi-FiとLTEで同時にダウンロードできるハイブリッドダウンロードも、コンテンツを数多くダウンロードするユーザーにはうれしい。グローバル向けモデルにはない機能として、本体側面に小さな端子を備え、付属の卓上ホルダに置いて、充電することが可能。卓上ホルダーは背面にS Viewカバーを装着したままの充電もできる。背面はグローバル向けモデルと同じ、ドットをあしらったデザインで、指紋などが付きにくい仕上げとなっている。ボディカラーはshimmery WHITE、charcoal BLACKのほかに、日本向けオリジナルとして、au向けにはChampagne PINKが供給される。グローバル向けフラッグシップモデルと同じ仕様やデザインを継承しつつ、日本向けの独自機能を盛り込むなど、かなり魅力的なモデルに仕上がった印象だ。

AQUOS SERIE SHL25(シャープ)

 他キャリア向けをはじめ、auの2014年春モデルの「AQUOS PHONE SERIE mini SHL24」でも採用された三辺狭額縁のEDGESTデザインをハイエンドモデルで実現。省電力性能に優れたIGZO搭載液晶は5.2インチという大画面ながら、ボディ幅を71mmに抑え、厚みも10mmを切るなど、スリムで持ちやすいデザインに仕上げられている。従来の「AQUOS PHONE SERIE SHL23」でも好評を得たグリップマジックも進化を遂げ、持つだけで画面がONになるだけでなく、ポケットに入れた状態で握ると着信の有無がわかるなど、便利な機能が追加されている。秀逸なのはカメラで、逆光などにも強い「リアルタイムHDR」、シーンに合わせ、ファインダーにガイドを表示する「フレーミングアドバイザー」など、実用的な機能が豊富に揃う。なかでも自分の周囲を撮影することで、360度パノラマ写真が作成できる全天球カメラは、ストリートビューのように再生できるため、かなり楽しめる。シャープ製端末でおなじみのホームアプリ「Feel UX」が大幅に変更され、デスクトップとアプリの2画面で構成される。デザイン的にはフラットな印象で、EDGESTデザインのインパクトを除けば、あまり強い個性を感じないが、逆にその分、幅広いユーザーが持ちやすいハイエンドモデルとして仕上げられている印象だ。

URBANO L03(京セラ)

 オトナ向け、シニア向けのスマートフォンとして、すっかり定着した感のある「URBANO」シリーズの最新モデル。ディスプレイが4.7インチから5.0インチへと大きくなり、電池容量も2700mAhから3000mAhに大容量化したこともあり、ボディは全体的に数mmずつ大きくなり、重量もわずかに増えたが、厚さは約1.1mm薄くまとめられている。今となっては数少ないハードウェアキーによるホームキーなどを前面に備え、上質感のあるデザインもしっかりと継承されており、落ち着きと品のあるスマートフォンに仕上げられている。京セラならではのスマートソニックレシーバーなども継承されているが、新たにTORQUEと同等の耐衝撃性能を備えたこともあり、表面のガラスにはAGC旭硝子製「Dragontrail X」を採用する。発表会では一般的なガラスとの差を体験するデモが行なわれていたが、一般的なガラスが上からの力であっさりと割れてしまうのに対し、同じ状態でもDragontrail Xはガラスが驚くほどたわみ、力を吸収していた。余談だが、このDragontrail Xは2014年FIFAワールドカップのスタジアムのベンチのガラスにも公式採用されている。また、ホームアプリは従来モデルに搭載してきた標準ホーム、シニア向けのかんたんメニュー、京セラ製のエントリーホームに加え、auベーシックホームが追加された。従来モデルではホームアプリの切り替えで混乱しそうな印象があったが、今回は専用の切り替えアプリを提供する。オトナ向け、シニア向けというベースのコンセプトは変わらないが、ハードウェアのスペックをはじめ、全体的な仕上がりと機能は今夏のハイエンドモデルにまったくひけを取っておらず、質感のいいスマートフォンを求める幅広いユーザーにおすすめできるモデルだ。

TORQUE G01(京セラ)

 auの2014年夏モデルのラインアップにおいて、もっとも際立った存在と言えば、やはり、このモデルだろう。京セラが北米向けに展開するTORQUEの最新モデルで、MIL-STD-810Gに準拠した高耐久性スマートフォンだ。ちなみに、SIMフリー版として国内に販売されたTORQUE(※参考)とは世代が違い、今回のau向けモデル投入を皮切りに、欧米市場に展開する計画のようだ。高耐久性については、防水、防塵、耐衝撃、温度耐久、耐振動、防湿、耐日射、低圧対応などがあるが、なかでも塩水耐久が含まれている点は、海水の近くで仕事をする人、趣味で楽しむ人にとって、大きな魅力だろう。スペックではディスプレイの解像度がHD対応であることが気になるが、3000mAhの大容量バッテリーを搭載し、ボディ幅は70mmを切るなど、意外にコンパクトで持ちやすいサイズ感にまとめられている。京セラ製端末ではおなじみのスマートソニックレシーバーに加え、大容量を実現するデュアルスピーカーを搭載するなど、厳しい現場環境での利用にも応えられる性能を持つ。auとしてはNECカシオがスマートフォンの開発から撤退したことで、伝統のG'zOneシリーズをどう継承するのかが課題になっていたが、実力、実績とも申し分のないモデルが登場したことになる。かつてのG'zOneシリーズがそうであったように、タフネスモデルは個人ユーザーだけでなく、法人市場にも一定の支持があり、そちらでの需要にも応えることになりそうだ。

Xperia Z2 Tablet SOT21(ソニーモバイル)

 今年2月のMWC 2014で発表されたソニーモバイルのグローバル市場向けタブレットの日本向けモデルだ。従来のXperia Tablet Zも発表時は世界最薄だったが、今回は10インチクラスの防水対応タブレットとして、世界最薄最軽量を実現している。ボディはわずか6.4mmしかなく、手に持つと、その薄さに驚かされる。日本仕様としては防水防塵のほか、ワンセグ/フルセグチューナーを搭載し、放送波を受信するためのアンテナも本体に内蔵する。Xperia ZL2にも搭載されたノイズキャンセリング機能にも対応しており、対応ヘッドセットを接続すれば、周囲の音をカットした状態で、音楽や映像コンテンツを楽しむことができる。ただ、auの方針なのか、グローバル向けモデルや他キャリア向けモデルでサポートされている音声通話機能が削除されており、音声通話は利用できない。キーボードなどの周辺機器も充実しており、製品の完成度は極めて高いと言えるが、MVNOによる格安SIMカードの普及により、各携帯電話事業者のタブレット端末の売れ行きに変化が見えるという指摘もあるうえ、ソニーからもWi-Fiモデルが登場することもあり、どの程度、10インチクラスのモバイル通信対応タブレットがユーザーをひきつけられるのかは未知数だ。音楽や映像、電子書籍といったコンテンツを移動中にも存分に楽しみたいユーザーのための一台と言えるだろう。

ASUS MeMO Pad 8(ASUS)

 Nexus 7をはじめ、タブレットでは高い人気を得ているASUSの8インチタブレットだ。au向けにはWi-Fiモデルを供給したことがあるが、回線契約を伴う4G LTE対応タブレットは初の供給となる。今回は残念ながら、モックアップのみに展示に留まったが、注目すべきは前述のように、国内向けとしてははじめてインテル製のクアッドコアプロセッサー「Atom Z3580」を採用していることが挙げられる。実機での動作が確認できていないため、現時点では何とも評価のしようがないが、インテル製Atom搭載のタブレットは他のプラットフォームも含め、市場で急速に存在感を増しており、今後の展開次第ではタブレット市場での大きな勢力になる可能性を秘めている。ちなみに、今回のASUS MeMO Pad 8は女性ユーザーなど、カジュアルなニーズを考慮し、カラーバリエーションもパールホワイト、パウダーピンク、メタリックブルーの3色をラインアップしている。重量も暫定値ながら、305gに抑えられており、軽量で持ちやすく仕上げられている。女性ユーザーやカジュアルに使いたいユーザーなら、チェックしておきたい一台だ。

どこまでユーザーにアプローチできるか

 これまで携帯電話会社は1つでも多くの契約数を獲得し、そこでいかに多くのトラフィックを発生させ、企業として成長していくかを追求してきた。しかし、市場が成熟し、端末の進化がある程度、落ち着き、サービスが拡がってきた現状において、どのように今後の成長戦略を描いていくかが重要なテーマとなっている。他業種を見れば、海外市場に展開する企業もあれば、合併や買収で成長戦略を描く企業もある。ただ、ユーザーの視点で考えれば、携帯電話会社の成長する必要性は認めるものの、やはり、どれだけユーザーの利便性を高めてくれるかがもっとも重要なテーマということになる。そうした意味において、auが開始する「au WALLET」というサービスはまだ未知数の部分が多いものの、生活を便利にする、楽しくする、快適にするものとして、期待できるサービスと言えそうだ。au IDや契約、名義の扱いなど、まだ説明を求めていかなければならないことも多いが、単純な決済サービスのひとつで終わらないのであれば、今後の市場展開にも大きな影響を与えることになるかもしれない。

 こうした生活に入り込むサービスに取り組む一方、ネットワークについては次世代の技術であるキャリアアグリゲーションにいち早く取り組み、UQコミュニケーションズのWiMAX 2+に対応したスマートフォンをラインアップするなど、かなり強力な環境を構築しつつある。ネットワークの評価はなかなか一朝一夕に決まるものではないが、少なくともデータ通信環境については、かなり優位性のある状況を作り出せているのではないだろうか。もっともその分、音声通話にはもっと注力を期待したいところだが……。

 そして、端末についても個性的かつバランスの取れたラインアップを取り揃えており、ユーザーとしても選び甲斐のモデルが並んでいる印象だ。正直なところ、なかにはちょっと期待とは違ったモデルがラインアップされた感も残るが、市場の幅広いニーズに応えていくためには、いろいろなバリエーションが必要という見方もできる。

 今回発表されたモデルはすでに一部のモデルが発売され、その他のモデルもauの直営店や東京・原宿のKDDI DESIGNING STUDIOなどで展示が開始されている。本誌でも今後、各機種の開発者インタビューやレビュー記事を掲載する予定なので、こちらもご覧いただき、店頭などでデモ機も試しながら、お気に入りの一台をぜひ見つけていただきたい。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。