法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
MWC 2014で見えてきたモバイル業界の次なる構図
(2014/3/10 15:54)
2月24日~27日まで、スペイン・バルセロナで開催されていた「Mobile World Congress 2014」(MWC 2014)。携帯電話・モバイル業界では世界最大のイベントであり、世界中の携帯電話事業者やメーカー、コンテンツプロバイダ、販社、関連企業などが集結し、さまざまな展示や商談が行なわれる。すでに、本誌では現地からの速報レポートが数多く掲載されているが、ここではMWC 2014から見えてきたモバイル業界の構図について、考えてみよう。
新しい市場を目指すスマートフォン
世界最大の携帯電話・モバイル関連の展示会として、広く知られている「Mobile World Congress」。携帯電話関連の業界団体であるGSMAの主催により、例年、スペイン・バルセロナで開催されている。本誌でも毎年、最新情報をレポートしているが、1月に米国・ラスベガスで開催される「Consumer Electronics Show(CES)」、9月にドイツ・ベルリンで開催される「IFA」などと並び、業界の最新動向を占ううえで、目の離せないイベントとなっている。
ただ、例年のレポートでも解説してきたように、MWCは、CESやIFAといった展示会と違い、基本的に一般消費者へのプロモーションなどを目的としておらず、基本的に業界関係者のみが参加する『プロフェッショナル』向けのイベントとして、位置付けられている。そのため、展示会に参加するには数万円から数十万円の登録費用がかかり、出展にも相応の費用が求められる。その分、内容は非常に濃密なものであり、世界の携帯電話・モバイル業界のトレンドや課題をいち早く知ることができる。
改めて説明するまでもないが、ここ数年の携帯電話・モバイル業界の主役がスマートフォンであることは、改めて説明するまでもないが、本誌に掲載されたMWCのレポート記事を振り返ってみてもわかるように、携帯電話を中心に展開されてきたMWCもスマートフォンやスマートフォン向けサービスなどが主役となっている。
しかし、世界的に見ると“スマートフォンがすでに十分普及した”という認識はなく、次なる市場へ向けての展開が明確になってきている。それは新興国やエントリー層に対し、いかにスマートフォンを展開していくかだ。つまり、欧米やアジアなどの先進国ではスマートフォンが普及し、新たなサービスも展開されたと認識されているが、南米やアフリカといったモバイル新興国や発展途上国、欧米やアジア各国の中でも所得があまり多くない層に対し、スマートフォンを展開していこうと考えているわけだ。
そのひとつの解として、今回は低価格ラインのスマートフォンへの取り組みが一段と明確になっている。たとえば、昨年のMWC 2013で注目を集めたMozilla FoundationのFirefox OSは、MWC 2014に合わせたレセプションで、中国のSPREADTRUMが開発する25ドル(約2500円)という超低価格スマートフォンを紹介している。現在、販売されているFirefox OS搭載スマートフォン「ZTE Open」は新興国をターゲットに開発されていたが、もう一段、安いモデルを登場させ、新興国市場に普及させようという狙いだ。ちなみに、Firefox OSはCPUやメモリーなどに高いスペックを必要としておらず、ZTE Openも1GHzのシングルコアCPUに、256MBのRAM、512MBのROMで動作している。後継モデルとされる「ZTE OPEN II」、ミッドレンジ向けの「ZTE OPEN C」も合わせて発表されたが、いずれもAndroidスマートフォンに比べると、かなりスペックが抑えられており、コストパフォーマンスの高さが際立っている。
同じくMWC 2014でプレスカンファレンスを催したMicrosoftは、同社のモバイル向けプラットフォーム「Windows Phone」の技術要件を大幅に緩和し、エントリー向けやミッドレンジ向けのモデルを開発しやすくしている。Windows Phoneについては、これまでCPUやメモリーなどの技術要件をある程度、揃えることで、安定したプラットフォームづくりを目指してきたが、その半面、採用するメーカーがなかなか増えず、日本市場向けも東芝製のau端末「Windows Phone IS12T」以降、新製品が登場していない。海外市場ではノキアがWindows Phoneを採用したLumiaシリーズを展開し、着実に支持を拡げているが、今後、新興市場や多彩なラインアップ展開を考慮し、今回の発表に至ったようだ。
ちなみに、今回、Microsoftから発表された技術要件の内、明確に新興国市場を目指した要件のひとつに、デュアルSIM(SIMカードを2枚、装着できる仕様)がサポートされたことが挙げられる。デュアルSIMは中国市場など、新興国市場向けの端末でサポートされる例が多く、サムスンやLGエレクトロニクス、ソニーモバイルなどのメーカーもこれらの市場向けには、デュアルSIM搭載端末を供給しているが、こうした仕様を、Windows Phoneという、どちらかと言えば、ビジネスユースに強いとされるプラットフォームが標準でサポートしてきたことは興味深い。デュアルSIMは日本市場であまりなじみのない仕様だが、格安SIMが着実に普及する中、効率良く通信コストを抑えたいというユーザーからのニーズがより明確になってくれば、SIMロックフリー端末などを中心に、採用されるケースが増えてくるかもしれない。
昨年のMWC 2013ではフィーチャーフォンながら、15ユーロという激安モデルを発表し、市場を驚かせたノキアだが、今年はかねてから噂のあったAndroidベースの新プラットフォームを採用したスマートフォン「Nokia X」シリーズを発表した。ディスプレイサイズやメモリー容量などの違いにより、3機種がラインアップされているが、89ユーロ、99ユーロ、109ユーロと、約1万5000円以下の価格が設定されており、アジア太平洋地域、欧州、インド、南米、中東、アフリカなどで順次、発売される。このNokia Xに採用されているAndroidベースのプラットフォームは「Nokia X Software Platform」と呼ばれ、Google Playには対応しておらず、地図は「Nokia Map」、メールは「Outlook.com」、ストレージは「One Drive(旧Sky Drive)」のアプリがそれぞれ搭載され、アプリ配信サービスもノキア独自のものが提供される。ユーザーインターフェイスはWindows Phoneと同じタイル画面を採用し、使い勝手も非常によく似ており、AndroidスマートフォンにWindows Phoneのホームアプリを移植したようなイメージだ。製品の仕上がりも非常に良く、このクオリティの製品であれば、日本市場でもある程度、受け入れられそうな印象を持った。
ここではFirefox OS、マイクロソフト、ノキアの低価格路線のスマートフォンへの取り組みを説明したが、MWC 2014開催に合わせた各社の発表や展示内容を見る限り、この路線は業界全体のトレンドとして明確になってきた印象だ。日本市場は高機能なフィーチャーフォンからスマートフォン市場が形成されたこともあり、こうした低価格路線のスマートフォンがすぐに投入されるとは考えにくいが、スマートフォンが市場の半数近くまで普及し、今後はコスト面でも厳しい眼を持つユーザー層に普及していかなければならないことを考えると、グローバル市場で展開される低価格路線のスマートフォンをベースにしたモデルや同様のコンセプトを持つ日本市場向けモデルが求められる状況になることも考えられる。MNP利用時にしか恩恵を受けられない「キャッシュバック」のような、見かけだけの安さとは別のものとして、今後の各社の動向が注目される。
「第3のOS」を巡る駆け引き
昨年のMWC 2013で発表されたFirefox OSとTizenで注目を集めた「第3のOS」を巡る争い。あれから約1年が経過した今回のMWC 2014では、それぞれのプラットフォームを採用したスマートフォンがいくつも登場するはずだったが、この約1年で、事態は思わぬ方向へ展開してしまった。
まず、「第3のOS」という呼び方について、おさらいを含めて、解説しておくと、現在のスマートフォンやタブレットは、Googleを中心に開発されている「Android」、iPhoneやiPadに採用されているAppleの「iOS」が二大勢力だと言われている。これに対し、他の選択肢として、Mozilla Foundationが推し進める「Firefox OS」、LiMo FoundationやLinux Foundation、サムスン、インテルなどを中心としたTizen Associationが推し進める「Tizen」が昨年発表され、第3のOSとして注目を集めた。ただ、AndroidとiOS以外のプラットフォームとしては、すでに前述のWindows PhoneがFirefox OSやTizenに比べ、十分すぎるほどの実績とシェアを持っており、「Windows Phoneこそ、『第3』と呼ぶに相応しい」という声が聞こえてきたり、その一方で、パソコン向けのLinuxとして広く利用されてきた「Ubuntu」がスマートフォン向けにも公開され、搭載モデルがリリースされるなど、「第3のOS」と呼べる存在の選択肢はかなり拡がってきている。
こうした動きの背景には、当然ことながら、GoogleとAppleという2社にスマートフォンやタブレットの動向を握られたくない、この2つのプラットフォームではやりたいことができないという業界各社の思いがあるが、逆にそういった他の選択肢を受け入れるだけの土壌が海外市場にあることも関係している。どうしても画一的な市場に動いてしまいがちな日本市場とは、少し様子が異なる。
そんな各社の思惑が入り乱れる第3のOSを巡る争いだが、今年に入り、Tizen陣営ではNTTドコモが1月に搭載モデルの発表中止をアナウンスされ、市場を驚かせた。ところが、MWC 2014会期直前、サムスンから発表された「Samsung Gear2」と「Samsung Gear2 Neo」にはTizenが搭載されており、再び関係者を驚かせることになった。
MWC 2014開催中、Tizen AssociationのChairmanでもあるNTTドコモの杉村領一氏にお話をうかがったところ、「NTTドコモがTizen搭載端末を出すことを見送った件について、グローバルでの影響はほとんどない」「Tizenに限らず、新しいプラットフォームを安価な携帯電話やスマートフォンに搭載して、薄利多売を狙いながら、育てていくのはなかなか難しい」「Gear2のようなウェアラブル端末に搭載されることで、Tizenが一段とブラッシュアップされ、幅広いジャンルの製品も応用されていくだろう」と答えている。一部ではTizenの搭載製品が増えてこない背景に、サムスンがTizen Association内で自由に振る舞い、他社が敬遠していると噂されている件については、「実は、サムスンはあまり物を言わない」「ファーウェイ(Huawei)も当初はサムスン色を警戒していたが、陣営に加わってみたら、まったくイメージが違ったと話していた」としている。この発言を100%、額面通りに受け取るわけにはいかないが、Tizen陣営はAndroidやiOSなどのように、特定の企業が旗振りをしているわけでもなければ、Firefox OSのように、いろいろな開発者や賛同者によって支えられているような構成でもなく、さまざまな企業や団体が寄り合う形で構成されているため、各社の思惑をどうコントロールさせていくのかが難しい状況にあると言えるのかもしれない。しかし、杉村氏が言うように、今回、Gear2/Gear2 Neoという商用製品であり、もっともホットなジャンルであるウェアラブル端末に搭載されたことで、今後、Tizenがスマートフォンを超えたプラットフォームとして、拡がっていく可能性は十分に考えられるだろう。
一方、Firefox OS陣営については、前述の通り、ZTE OPENをはじめ、すでに市場に製品を送り出しながら、新たに25ドルという強烈に安価なスマートフォンを投入できる体制を整えるなど、着実に拡がりを見せている。日本市場については、昨年のMWC2013の段階で、KDDIがFirefox OS搭載端末の開発意向を示し、今年1月のauの発表会では2014年度中の発売を検討していることを明らかにしている。現状のFirefox OSは新興国や途上国向けの安価な端末のプラットフォームであり、ハイスペック指向の強い日本市場ではとても受け入れられそうにないが、KDDIとしては「ギーク層に受け入れられる面白い端末を目指す」としている。この「ギーク層に受け入れられる」という表現がなかなかイメージしにくいところだが、おそらく、かつてのPDAのPalmシリーズのように、CPUやディスプレイといったスペックよりもアプリやツールなどのソフトウェア的なカスタマイズやサービス連携による楽しみがある製品を目指しているのではないかと推察される。ただ、それでも現状のFirefox OS搭載端末は日本市場の主流とされる製品群とスペック的に開きがあるため、auとしては搭載端末の開発を進めながら、必要に応じて、ソフトウェアや技術面でのコントリビュート(貢献)などもしつつ、ある程度、プラットフォームが幅広いデバイスをサポートし、進化を遂げてくるのを待っている部分もあるようだ。ちなみに、今回のMWC 2014に合わせ、Mozillaが催したプレス向けイベントでは、TCLのALCATEL onetouchの新ラインアップにFirefox OS搭載タブレットが加わったことをはじめ、今年1月にパナソニックがFirefox 搭載スマートテレビ開発推進でMozillaと提携したことなども紹介されており、スマートフォンの領域からインターネットに接続される他のデバイスにもFirefox OSが拡大しつつあることをうかがわせた。
ソニーの新製品
業界の世界的な動向として、低価格路線のスマートフォンや各携帯電話事業者が『土管化』しないために、さまざまな対策を打とうとしていることは、今回のMWC 2014で見えてきたが、日本のユーザーにとって、これからの日本市場で登場しそうな端末が気になるところだろう。
まず、最初に挙げられるのはソニーモバイルが発表した「Xperia Z2」「Xperia Z2 Tablet」「Xperia M2」「SmartBand」だ。詳細は本誌の速報レポートを参照していただきたいが、Xperia Z2は国内で昨年の冬モデルとして発売された「Xperia Z1」の後継モデルであり、グローバル市場レベルで見ても昨年9月のIFA 2013で発表されてから、わずか半年で新製品が発表されたことになる。ボディはXperia Z以降、ソニーが共通のデザインとして採用してきたオムニバランスデザインを継承したもので、外見は従来のXperia Z1に非常に似通っている。サイズもわずか数mm程度の差しかないが、ディスプレイサイズは従来よりも0.2インチ大きい5.2インチを採用し、新たに4K動画の撮影、デジタルのイズキャンセリングヘッドホンへの対応などが機能として、盛り込まれている。新機能の内、4K動画については技術的に興味深いものの、ほとんどの家庭用テレビはフルHD対応で、Xperia Z2本体のディスプレイもフルHDであることを考慮すると、多くのユーザーは4K動画を撮影しても4Kで再生する環境がないことになる。先行投資という見方もできるが、家庭用テレビは早々買い替えるものではなく、PC用ディスプレイでもまだ価格が高いため、ややスペックに走りすぎた感は否めない。今のところ、Xperia Z2の日本市場での展開は「未定」とされているが、過去の経緯から考えて、順当に行けば、NTTドコモとauの夏モデルとして発売されることが濃厚であり、Xperia Z以前のユーザーの買い換えに適したモデルと言えそうだ。
また、同時に発表されたXperia Z2 Tabletは、昨年発売された「Xperia Tablet Z」の後継モデルに位置付けられ、従来モデル同様、発表時の世界最軽量・最薄を実現している。実際に、実機を手に持った印象もかなり軽く、iPad Airをはじめとする10インチクラスのタブレット市場に強力なモデルが登場することになる。Bluetooth対応充電機能付きスピーカーやカバー一体型Bluetoothキーボードなど、アクセサリー類も最近のトレンドに合うものが用意されており、楽しく使うことができそうだ。
同時発表の「SmartBand」は、2014 International CESで予告されていた「Core」と呼ばれるセンサーを内蔵したモジュールを利用したもので、腕に装着しておくことで、ライフログを取れるというものだ。同様の製品は各社から数多く販売されているが、ウェルネスを強く意識したものではなく、独自のLifeLogアプリと連携することで、一日の行動を記録するためのツールという意味合いが強い。たとえば、この時間に音楽を聴いていた、メールが届いたといった情報もスマートフォン側のLifeLogアプリに記録され、それと連動する形で、アプリ上に表現される。Coreモジュールそのものは非常に小さなもので、標準ではSmartBandという形で提供されるようだが、ネックレスタイプなど、アクセサリー類も豊富に揃えるようで、すでにエレコムなどのアクセサリーメーカーからも試作品が公開されていた。実際の製品展開やサービス内容がどういう形になるのかはまだわからないが、ソニーとしてはこのCoreモジュールを利用するためのAPIなどを明らかにして、他のソフトウェアベンダーやサービスプロバイダーにも参入してもらうことで、ひとつのサービスプラットフォームとして展開していくことを考えているようだ。
ちなみに、プレス向けイベントではCoreモジュールを内蔵したカメラ付きモデルのコンセプトモデルが明らかにされたが、単純にコンセプトを示すためだけに制作したものではなく、明確に商品化の方向を目指して開発されているものだという。こうした『予告』を織り込みながら、製品ラインアップを展開する手法は、ユーザーとしても楽しみが増える印象だ。
GALAXY S5とウェアラブル端末を発表したサムスン
一方、サムスンは今回のMWC 2014に合わせ、『SAMSUNG UNPACKED 2014 EPISODE 1』を催し、同社のフラッグシップ「GALAXY S」シリーズの最新モデルとなる「GALAXY S5」とウェアラブルデバイスを発表した。こちらも製品の詳しい内容は速報レポートを参照していただきたいが、注目点はやはり、GALAXY Sシリーズとして、はじめて防水防塵に対応し、指紋認証機能を搭載したことだろう。国内で販売されるスマートフォンではほぼ標準機能となりつつある防水防塵だが、グローバル市場ではなかなか必要性が認知されず、以前はサムスン関係者も「防水防塵を必須としているのは、日本市場くらいだろう」と話していた。しかし、スマートフォンが幅広い層に普及し、ソニーモバイルをはじめとするライバルメーカーも防水防塵対応モデルをグローバル市場に展開し始めたことで、いよいよGALAXY Sシリーズでも対応することになったようだ。「SAMSUNG UNPACKED 2014 EPISODE 1」や「MWC 2014」会場内でプレス向けに公開されたデモ機は、いずれもセキュリティ用ケーブルが接続され、背面カバーが外せない状態だったため、どういった形でパッキンなどが装着されているのかがわかりにくいが、S Viewカバーなどのアクセサリーを見る限り、背面カバーの外周ではなく、少し内側の部分にパッキンが装着される構造で、外部接続端子にはキャップが備えられているようだ。
指紋認証はホームキーの位置に内蔵されており、指をスライドさせて読み取る方法を採用する。ロック解除時にはディスプレイの最下段部分にもガイドが表示され、端末のロック解除以外に、モバイル決済などにも利用できるように作り込まれている。
デザインについては、基本的にGALAXY Sシリーズの流れをくんでいるが、背面カバーはドットデザインが施されており、カラーも定番の「charcoal Black」や「shimmery White」以外に、「electric Blue」と「copper Gold」というアクセントのあるカラーをラインアップに加えている。カラーは販売する国と地域によって違ってくるかもしれないが、今までにない雰囲気のカラーで注目される。ただ、背面のドットデザインについては、少し好みが分かれるかもしれない。
ユーザーインターフェイスは従来よりも手が入れられた印象で、設定画面などもアイコンで表示するなど、はじめてのユーザーでもわかりやすい画面を実現している。機能面で面白そうなのが「Download Booster」で、LTEによるモバイルデータ通信とWi-Fiが利用できる環境ではその両方を利用して、ダウンロードをより高速にするというものだ。動画などのコンテンツを頻繁にダウンロードするユーザーにとっては便利な機能だが、LTEネットワークもWi-Fiスポットも充実する日本では、さらに役立つことになりそうだ。
ウェアラブル端末については、前述のように、MWC 2014の会期直前に「Samsung Gear2」「Samsung Gear2 Neo」が発表されていたが、SAMSUNG UNPACKED 2014 EPISODE 1では「Samsung Gear Fit」が加えて発表された。Samsung Gear2 NeoはSamsung Gear2からカメラを省いたもので、その他のスペックはほぼ共通だ。プラットフォームにTizenを採用していることもあり、サムスンのAndroidプラットフォーム製品のブランドである「GALAXY」の名は冠されていない。Samsung Gear2は従来のGALAXY GEARの後継で、タッチやフリックで操作するユーザーインターフェイスも継承しているが、連携するGALAXYにインストールされているアプリの通知を表示できるようにするなど、機能面でも改良されている。Samsung Gear Fitについてはその名の通り、フィットネスユースを意識したモデルで、Samsung Gear2よりもスリムにまとめられている。ディスプレイは432×128ドット表示が可能な約1.8インチの曲面型有機ELディスプレイを採用する。基本的な操作はSamsung Gear2などと同じだが、プレスリリースにはプラットフォームが明記されておらず、Tizenが搭載されていないかもしれない。機能面はGear2に準じており、心拍センサーも搭載し、IP67の防水防塵にも対応する。
2014 International CESのレポートでも説明したように、今年、もっとも注目度の高いジャンルはウェアラブル端末だと言われており、そこに3モデルを投入してきたことは、サムスンとしての意気込みを感じさせる。ただ、従来のGALAXY GEARは価格が3万円台と高く、スマートフォンのオプションとしてはなかなか手を出しにくかったが、今回のSamsung Gear2シリーズとSamsung Gear Fitがどういう価格設定で販売されるのかによって、市場への展開力は大きく違ってくるだろう。
国内の販売については、今のところ、何も正式にアナウンスされていないが、Xperia Z2同様、こちらも順当に行けば、NTTドコモやauの夏モデルとして販売される見込みで、Samsung Gear2シリーズとSamsung Gear Fitもいっしょに発売されることが期待される。グローバル市場で強さを発揮するサムスンは、昨年、国内市場でやや苦戦した印象があったが、今年に入って、日本市場向けの体制が再び強化されており、どのような形で国内市場に展開されてくるのかが非常に注目される。
LG、京セラなどが存在感
ソニーモバイルとサムスン以外のメーカーでは、LG エレクトロニクス、ファーウェイ、ZTE、京セラ、レノボなど、日本でもおなじみのメーカーが存在感を示していた。
LGエレクトロニクスは日本のプレス向けのイベントを行なわなかったものの、直前に発表されたばかりの「LG G Pro 2」や「LG G2 mini」を展示していた。今のところ、これらのモデルが日本市場向けに展開されるかどうかはわからないが、「knock code」や画面を縮小表示など、実用的な機能が新たに搭載されている。knock codeは画面に表示された4つのマス目をタップして登録した順序をロック解除時に使うというもので、たとえば、左上、右上、左下、右下の順にタップして登録すると、画面表示が消えた状態からロック解除するときに、この順でタップすれば、すぐにホーム画面が表示される。ちなみに、タップする場所は必ずしも画面中央である必要がなく、画面の右下隅のあたりで、左上、右上、左下、右下の順にタップしても解除できる。なかなか言葉では説明しにくいが、実用的にはかなり便利な印象だ。
ファーウェイは今回のMWC 2014に合わせ、タブレットやスマートフォン、モバイルWi-Fiルーターの新機種を発表した。新機種の内、7インチタブレットの「MediaPad X1」、8インチタブレットの「MediaPad M1」は、いずれもデザインや仕上げが非常に良く、デザイン性に優れるとされる他メーカーの製品にもまったくひけを取らない仕上がりだ。発売される地域には日本にも含まれており、いずれかの国内の携帯電話事業者から発売されることになりそうだが、できることなら、グローバル仕様と同じように、幅広い周波数と通信方式に対応したままの発売を期待したいところだ。
海外市場では主に北米向けにスマートフォンを展開する京セラも出展し、国内向けにも発売が発表された「TORQUE(トルク)」を展示するなど、防水や防塵、耐衝撃性などの独自性をアピールしていた。同社の通信機器関連事業本部マーケティング部長の能原隆氏にも話を聞くことができたが、「日本や北米では防水や防塵が定着しているが、欧州はMWCでようやく防水が増えてきたなという段階」「TORQUEは北米の法人向けに受け入れられ、MWCでもいろいろなクライアントから話をいただいている」と手応えを感じているようだった。
また、昨年、国内のコンシューマ向けスマートフォンから撤退したパナソニックは、発表したばかりの法人向けスマートフォン「TOUGHPAD」のWindows Phone版とAndroid版を出品していた。はじめて実機を見たが、5インチのディスプレイを搭載し、耐衝撃構造を採用しているため、サイズ的にはかなり大きく、特定業務向けの端末という印象だ。この製品を足掛りに、パナソニックが再び国内外のコンシューマ向け市場でスマートフォンを展開してくれるようになると面白いのだが……。
拡大する低価格路線、難しくなってきたハイエンドモデル
ここ数年のモバイル市場を振り返ってみると、スマートフォンやタブレットの普及、プラットフォームの争い、インターネット上で展開される各社のサービスなど、さまざまな動きが見られた。ただ、昨年あたりからスマートフォンを中心とした世界は、ひとつの完成の領域に達したと言われ、製品ごとの明確な差別化が示しにくくなりつつある。市場への普及についてもある程度のユーザー層までスマートフォンが行き渡り、ひとつのターニングポイントを迎えつつあるという見方もある。
今回のMWC 2014ではこうした状況を乗り越えるため、新たに低価格路線のスマートフォンに対する取り組みが注目を集めた。これまでスマートフォンに縁がなかったエリア、手が出せなかったユーザー層に対し、できるだけリーズナブルで信頼できる製品やサービスを送り出したいという業界全体の動向が見えてきた。
しかし、その一方で、Xperia Z2やGALAXY S5といったハイエンドモデルは、スペックこそ向上しているものの、これまでの既定路線を継承するのみで、今ひとつ斬新さに欠けていたのも事実だ。以前にも増して、ハイエンドモデルの差別化が難しくなってきたと言えるのかもしれない。新しい取り組みとしては昨年来、継続しているウェアラブル端末との連携が挙げられるが、2014 International CESやIFA 2013のレポートなどでも触れたように、多くの人がひとつ身につけている腕時計やメガネといったアイテムを置き換えるほどのインパクトはなく、まだユーザーのニーズを模索している印象だ。
本稿でも触れたように、正式発表こそないものの、今回のMWC 2014で発表されたXperia Z2、Xperia Z2 Tablet、GALAXY S5などは、いずれも日本市場への投入が確実視されている。本番はおそらく5月の夏モデル発表会シーズンということになりそうだが、新モデルへの期待を持ちつつ、各携帯電話会社やメーカーの動向をチェックしていきたい。