新しいチャレンジが見える「CEATEC JAPAN 2009」

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるPRO BlackBerry サーバー構築」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 10月6日から10月10日まで、幕張メッセで開催されている最先端IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC JAPAN 2009」。ここ数年、展示会も数少なくなってしまった印象もあるが、ケータイ業界や通信業界にとっては、7月のWIRELESS JAPAN同様、重要なイベントの一つとなっている。本誌にはすでに会場のレポート記事が連日、掲載されているが、ここでは初日に筆者が見かけた製品や全体の傾向などについて、レポートしよう。

10周年を迎えたCEATEC JAPAN

 秋の展示会として、すっかり定着した感のあるCEATEC JAPAN。今年は10周年を迎えることになったが、この10年の間に、こうしたスタイルの展示会はかなり減ってしまい、ケータイ業界や通信業界に直接、関係するものとしては、7月のWIRELESS JAPANと10月のCEATEC JAPANが生き残った格好だ。

 すでに、毎年、触れていることなので、もうご存知の読者も多いだろうが、CEATEC JAPANは『最先端IT・エレクトロニクス総合展』と題されていることからもわかるように、パソコンやAV機器、通信サービス、ソフトウェア、電子部品など、非常に多岐に渡る製品が扱われており、ケータイはその内の一つに過ぎない。とは言うものの、ケータイはもっとも身近なデジタルツールの一つであるため、他の機器やサービスなどで利用されるケースも多く、会場のあちらこちらでケータイを利用した出品が見られる。

 また、CEATEC JAPANは、時期的に夏商戦と秋冬商戦の合間になるため、基本的には新機種の出品がなく、どちらかと言えば、将来的に実現されそうな技術やサービスについて、展示されるケースが多い。その一方で、電子部品にはほぼ毎回、何らかの新しい傾向が見受けられ、翌年以降のケータイを占う意味でも注目度は高い。ただ、今年は昨年来の景気低迷の影響もあり、ケータイに関連する企業の出展も減ってしまい、3Dテレビなどの参考出品が多かったAudio&Visual関連製品が目立つ印象だった。

NTTドコモ

 では、まず最初にNTTドコモからご紹介しよう。NTTドコモは昨年のCEATEC JAPANで、コンセプトモデル『セパレートケータイ』を出品し、来場者の注目を集めたが、今回のコンセプトは間伐材を活用した端末『TOUCH WOOD』を出品している。

 SH-04AベースのTOUCH WOODの試作品。仕上がりは非常にきれいで、質感も良い。左側の外部接続端子は開閉可能

 TOUCH WOODはデジタルカメラなどでおなじみのオリンパスによる技術で、ヒノキの間伐材を金型で圧縮成形することで、ケータイのボディに利用したものだ。今回は背面をラウンドさせたコンセプトモック、SH-04AのボディにTOUCH WOODのボディを装着した試作品の2種類が出品されていた。

 コンセプトモックは重量もかなり軽く、最終的な製品を意識したものではなかったが、SH-04Aベースのモデルは実際に動作する端末にTOUCH WOODによるボディ装着したものだ。木の質感も良く、使い込んでいくほどに味が出そうな印象だが、課題はコストと細かいパーツ類の対処をどうするかだろう。

 説明員によれば、現在、広く利用されている樹脂製のものに比べ、コストが高く、生産に時間も掛かるため、台数を限定するような形でなければ、商品化は難しいそうだ。細かいパーツというのは、外部接続端子のキャップなどのことで、SH-04Aベースの試作品では開閉可能なキャップの木製パーツが装備され、本体に格納できるワンセグアンテナの先端にも木製パーツが使われていたが、これだけ小さくなると、破損しやすくなるため、こうした部分をどう対処していくのかも課題になるという。ただ、質感や存在感は今までのケータイにないテイストであり、ぜひ、何らかの形で実現して欲しいところだ。

 LTEのデータ通信アダプタのコンセプトモデル。2010年度末のサービス開始当初はデータ通信アダプタから提供されることになる ZigBeeを利用した「ケータイホームシステム」のデモ。会場内は電波の干渉がひどいため、なかなかうまく動作しなかったが、通常の家庭内であれば、問題ないという

 将来的な技術や取り組みという点では、2010年度中にサービスが開始されるLTEに対応したデータ通信端末のコンセプトモデル、端末に採用されるベースバンドチップのエンジニアリングサンプルが公開された。LTEは下り方向で最大100Mbpsを実現する次世代の通信規格で、NTTドコモでは世界の先頭集団として、2010年度末にサービスを開始する予定だ。従来は基地局などの設備や概念の説明が中心だったが、コンセプトモデルではあるものの、端末も公開され、ユーザーにとってもいよいよLTEを意識できる時期に入ったことになる。

 もう少し身近な将来という点では、WIRELESS JAPAN 2009でも公開されていた「拡張現実アプリ」や「投げメール」、「フェムトセル」のデモが行なわれている。拡張現実については、後述するKDDIもデモを行なっているが、実空間に情報を映し出すという新しい表現方法として、注目を集めている。フェムトセルについては年内にもサービスが開始される予定だが、家庭内との連携という点では、新たに外出先から家電の制御などができる「ケータイホームシステム」のデモも公開された。

 ケータイホームシステムは9月24日に発表されたもので、各家庭のブロードバンド回線に宅内制御装置(親機)を設置し、エアコンなどの家電品に家電制御アダプタ(子機)を装着することで、外出先からエアコンのスイッチを入れたり、電動シャッターの開閉を操作するといったことができる。この親機と子機間の通信には家電向けの短距離通信規格の一つである「ZigBee」が採用されており、子機に搭載された中継機能などを利用することで、戸建てや比較的広いマンションなどでも電波を届きやすくしている。

 ちなみに、家電制御アダプタと家電の接続については、現在、販売されている多くの家電製品に装備されている「JEM-A端子」を使っているため、比較的、新しい製品であれば、ケータイホームシステムのために別途、エアコンなどを買い替えなくても済みそうだという。

 この他にもiコンシェルで使われているマチキャラを拡張し、画面メッセージを大幅に増やした「マチキャラの親密度向上計画」、「目の動きで操作できるイヤホン」など、ユニークな展示も多く、全体的に見て、派手さこそないものの、現実感のある展示内容だったと言えそうだ。

KDDI

 KDDIはNTTドコモと違い、9月はじめにiidaの新モデルを発表したこともあり、早くも販売が開始された「PLY」、年内に発売予定の「PRISMOID」、周辺機器の「LIFESTYLE PRODUCTS」などを前面に展示している。PLYとPRISMOIDについては、実機を試用することができる。

 東芝製の燃料電池内蔵ケータイ。端末は新たにデザインされたもののようだ 背面に装着していた燃料電池ユニットを外すと、通常の端末で電池パックを外したときと同じ状態。電池パックを装着して、利用することも可能

 KDDIブースで来場者の高い関心を集めていたのは、東芝と共同で開発が進められている「燃料電池内蔵ケータイ」だ。燃料電池については、ほぼ毎年、何らかの形でデモが行われてきたが、今回は実際に動作するものを触れるようになっているうえ、端末にきっちりと合わせるように装着できる構造になっているなど、かなり、実用化に近い状態になっている。

 端末も既存製品を改造したようなものではなく、このために新たにデザインされたような印象だ。端末の構造としては、背面部分に燃料電池ユニットが装着できるようになっており、燃料電池ユニットを取り外し、通常のリチウムイオン電池パックも装着することが可能だ。通常は電池パックで使っておき、通話などで長時間の利用をする場合は燃料電池ユニットを装着して、利用するシーンを想定しているそうだ。

 ちなみに、燃料となるメタノールは左側面から注入する仕様になっており、背面には反応後に出る水蒸気と二酸化炭素を排出するため、網目のフィルターのようなものが装備されている。実際に触ってみると、濡れているというより、わずかに湿っているような触り心地となっている。メタノールの販売方法など、まだ導入の課題はいくつか残されているが、そう遠くない時期に燃料電池内蔵ケータイを使えるようになりそうな印象だ。

 一方、将来的な展開としては、2012年にもサービスを開始する予定のLTEを使ったデモも公開されていた。一つはハイビジョン動画、もう一つはネットワーク対戦ゲームで、どちらも伝送時の遅延の少なさなどを確認することができた。周波数再編の兼ね合いもあり、KDDIはNTTドコモに比べ、LTEの導入スケジュールが遅くなっているため、NTTドコモが製品版に近いデータ通信端末のコンセプトモックを展示しているのに対し、KDDIは「LTE時代に何を提供するのか」を見せながら(模索しながら)、準備を進めているという印象だ。

 直感コントローラ2は端末背面のカメラ部分にスティックを付けて利用する。磁石で固定されているので、いつでも着脱が可能

 少し変わったアプローチとしては、端末のカメラにスティックを取り付け、ゲームなどの操作に利用する「直感コントローラ2」も面白いインターフェイスだ。KDDIは昨年、昨年のCEATEC JAPAN 2008で端末の加速度センサーを利用した「直感コントローラー」のデモを公開していたが、こちらはスティック先端の裏側に付けられた赤と青の模様を内蔵カメラで捉え、その動きに合わせて、上下左右や拡大縮小などの操作をできるようにするものだ。

 また、ケータイと固定網の両サービスを提供するKDDIは、従来からFMBCをキーワードに掲げ、さまざまな取り組みをしてきたが、今回は「FMBCスマートプラットフォーム」と題し、ケータイとテレビの利用を連携させたサービスのデモを行っている。たとえば、帰宅時にケータイで読んでいたニュースの映像を帰宅後にセットトップボックスで視聴できるようにしたり、テレビの近くにいる家族に合わせた映像コンテンツを表示するといったサービスが公開されている。

 実際のサービスとしては、まだまだ将来的な話でしかないが、ケータイの世界の中で着うたなどのコンテンツをうまくレコメンドしてきた同社らしい取り組みであり、今後、どのような形でサービスに結びつけていくのかが注目される。

UQコミュニケーションズ

 WiMAX内蔵のモバイルインターネット端末。今後、ノートPCとは別の市場として、起ち上がることが期待される

 今年7月からWiMAXの正式サービスを開始した同社は、WIRELESS JAPAN 2009に続く出展で、WiMAX対応機器や活用事例を数多く展示している。ユーザーにとって、もっとも身近なノートPCについては、さらにWiMAX内蔵モデルのラインアップが増えてきており、10月22日発売のWindows 7搭載モデルも含め、数多くのモデルを試用できるようにしている。

 ノートPCに続くように、今後、市場の伸びが期待されているMID(Mobile Internet端末)についてもWiMAX内蔵モデルが参考出品されている。新しいジャンルとしては、WiMAXを内蔵したモバイルルーターが2機種、参考出品されている。NECアクセステクニカ製とソフトアンドハード製のもので、いずれもバッテリーで動作するという。モバイルルーターは3G対応のデータ通信端末を接続するものが増えているが、エリアの問題は別として、通信機能を内蔵しているという点ではWiMAXに一日の長があり、今後はWiMAX内蔵モデルとの競争が拡がることになるかもしれない。

 NECアクセステクニカのWiMAX内蔵モバイルルータ。参考出品だが、型番も明記されており、発売が近いことがうかがえる ソフトハンドハード製のWiMAX内蔵モバイルルータ。ホワイトとピンクの2種類が用意される予定。こちらも型番が確定済みのようだ

今後が期待される太陽電池パネルとAV連携

 さて、キャリア以外のブースについても少し紹介しておこう。前述のように、CEATEC JAPANはコンシューマーが実際に購入する商品やサービス以外に、メーカーなどが製品に搭載する電子部品も数多く展示される。ここ数年で言えば、VGA対応ディスプレイなどはCEATEC JAPANの展示から翌年以降の流れをうかがい知ることができた。今年は目立った展示を見かけなかったが、意外に多くのブースでケータイ向けの太陽電池パネルを見ることができた。

 シャープは最大出力を1.5倍に高めた高効率ソーラーモジュールを参考出品 京セラも携帯機器向けソーラーセルモジュールを参考出品。こちらは最大出力が350mW
 TDKの色素増感型太陽電池はカラフルなグラフィックデザインが可能 NTTドコモのブースに展示されていた太陽電池充電器は、補助充電池と組み合わせることで、昼間に蓄えたエネルギーを夜間、ケータイの充電に利用できる

 ケータイ向けのソーラー充電と言えば、今年、シャープがau、ソフトバンク、NTTドコモの3事業者向けに、ソーラーパネルを搭載した端末を供給したが、シャープのブースではこれら3機種に搭載されていたものよりも新しいソーラーパネルが参考出品という形で展示されていた。詳しい仕様や将来的な採用については、明らかにされていないが、基本的には既存のものと同じサイズながら、出力を300mWから400mWに向上させている。

 また、シャープと並び、家庭用向けや産業向けなどで太陽電池パネルを数多く生産している京セラもケータイ向けソーラーパネルを出品している。サイズ的にはシャープ製のものとほぼ同じで、端末のトップパネルに内蔵できそうなものだったが、今のところ、コスト的な制限もあり、いずれかの端末に搭載する計画はないという。

 このほかにもTDKや太陽誘電などが「携帯電話向け」と明記して、太陽電池パネルを参考出品しており、ここ数年の内に何らかの形でソーラー充電に対応したケータイが増えてきそうな印象を受けた。もっとも現実的な解としては、NTTドコモがソーラーパネルを使い、既存の外部充電池に充電するデモを行っていた。

 政権が交代し、温室効果ガスを1990年比で2020年までに25%削減するという目標が掲げられているが、ケータイ業界も一段とエコに対する意識が高まり、環境に配慮した商品ラインアップが増えてくることになるかもしれない。

 シャープはAQUOSブルーレイで録画した映像とワンセグで録画した映像の比較をデモ。実際に見比べると、かなり差は大きい

 昨年に引き続き、CEATEC JAPAN全体を通して見ると、厳しいと言われながらも活気づいているのは、AV機器ということになるだろう。昨年、KDDIが3D液晶とVGA対応有機ELディスプレイを先行で展示し、話題を集めたが、今年は家庭用テレビの方で3Dがトレンドのようで、シャープ、ソニー、パナソニックなどが3Dテレビのデモンストレーションを行っていた。もっとも各社の家庭用3DテレビはH001に採用された3D液晶と違い、専用メガネを掛けて、視聴するもので、ケータイ向けとは少し趣が異なる。

 ケータイとAV機器の関わりという点では、今冬以降、注目を集めそうなのがレコーダーとの連動だ。今夏はシャープが同社のAQUOSブルーレイで録画した番組を持ち出せるようにしたが、auもソニー製レコーダーと連携することが明らかになっており、パナソニックもSDカード経由ながら、レコーダーで録画したワンセグの番組をダビング10でコピーできるようにしている。

 ソニー製レコーダーについては、ケータイだけでなく、PSPやウォークマンで視聴できるようにしているうえ、アクトビラやスカパーHDといった他の放送サービス(アクトビラは放送サービスというより、ネットワークサービスだが)の番組もコピーできるため、今まで以上に利用シーンが拡大しそうな印象だ。番組をコピーできるか否かについては、放送業者やコンテンツホルダーの判断になるが、きちんとしたDRMが整備されているケータイやゲーム機、専用AV機器は、コンテンツを持つ側に取っても取り組みやすい環境と言えるのかもしれない。

 ソニーはブルーレイディスクレコーダー「BDZ-RX50」を使い、PSPやウォークマンへの転送をデモ。対応端末であれば、ケータイにも転送可能 レコーダーのメニュー画面内で、「おでかけ転送機器」の設定をする。映像はビットレート768kbps/384kbpsのQVGAサイズになる

 以上、かなり駆け足で、著者の気になるジャンルのみに限った紹介になってしまったが、出展社が少なくなったとは言うものの、じっくりと見れば、見応えのある内容の展示会となっている。今年は10月10日(土)まで幕張メッセで開催されているので、時間が許すのであれば、ぜひ会場で各社の新しいチャレンジや取り組みに触れてみて欲しい。




(法林岳之)

2009/10/8 11:44