法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「iPhone 7」現地レポート&ファーストインプレッション
まるで“Japan Day”なApple Special Event
2016年9月9日 16:56
9月7日、アップルは米国・サンフランシスコでApple Special Eventを開催し、防水防塵に対応した「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」、防水対応GPS搭載の「Apple Watch Series 2」などを発表した。
本誌ではすでに速報をお伝えしているが(※関連記事)、ここではSpecial Eventの内容と現地での様子などを解説しよう。後半では、「iPhone 7」や「iPhone 7 Plus」を一足早く試した感触もお届けする。
ショートムービーでスタート
サンフランシスコのビル・グラハム・シビックオーディトリアムで開催されるApple Special Event。ステージが暗くなると、スクリーンに会場へ向かうクルマに乗るティム・クックCEOが映し出される。
運転するのはコメディアンのジェームズ・コーデン。これは米国で放送されている「レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン」の人気コーナー「CarPool Karaoke」を再現したものだ。「CarPool Karaoke」は毎回、クルマに歌手などと同乗し、カラオケを熱唱するという内容で、ショートムービーでは笑いを誘うトークを交えながら、ティム・クックがいっしょにレーナード・スキナードの「Sweet Home Alabama」を熱唱するシーンが流れ、会場に到着したところで終わった。それを受ける形でステージに登場すると、会場からは大きな拍手が送られ、プレゼンテーションがスタートした。
プレゼンテーションの冒頭、まずはApple Musicのアップデートとして、購読者が1700万人に達したことが紹介された。今やアーティストが最初にタイトルをリリースする場所として選ばれるようになり、テイラー・スウィフトなど、70を超えるアーティストがすでに最初にApple Musicで先行公開しているという。また、ロンドンで開催されるApple Music Festivalも毎年行なわれるイベントとして定着。今年は10周年ということもあり、エルトン・ジョンをはじめ、著名なアーティストが数多く参加する予定だとした。ちなみに、このイベントはストリーミング配信が行なわれ、AppleTVなどのデバイスで視聴することが可能だった。
「マリオ生みの親」宮本茂氏が登場
次に、AppStoreについてのアップデートが紹介された。AppStoreにはさまざまなジャンルのアプリがあり、これまで1400億回もダウンロードされている。しかも毎年、記録が塗り替えられるほどの成長ぶりで、たとえば、この2カ月間は前年比106%を記録しているという。一番最近の四半期の売り上げを見ても2倍を記録しており、開発者にとっても有力なプラットフォームになっているとした。こうしたAppStoreの成功やiPhone、iPadの好調ぶりと相まって、今やiPhone、iPadは世界でもっともポピュラーなゲームデバイスになっており、AppStoreでも50万以上のゲームをダウンロードできるという。
ここでティム・クックCEOは「しかし、AppStoreに何かが欠けている。今度、“彼”が来てくれることになりました」と話すと、スクリーンには任天堂のスーパーマリオの画面が映し出された。会場からは大きな歓声が沸き起こる。
そして、スクリーン内でマリオがゴールすると、ステージには「マリオの生みの親」としても知られる任天堂の代表取締役クリエティブフェロー 宮本茂氏が登場。会場からはさらなる拍手と歓声が沸き起こった。
宮本氏がまず「この30年間、マリオが新しいプラットフォームに出会うたびに、いくつかの障害もありましたが、常にゴールに向けて、走り続けてきました。そして、マリオは次のゴールへ向けて走り始めました。iPhoneがマリオの次のゴールです」と話すと、会場からは再び拍手が送られた。
任天堂が今回、iPhone向けにアプリを開発するにあたり、まったく新しいマリオのタイトルとして、「スーパーマリオラン」というタイトルにしたと説明。これまでのマリオシリーズの良さが誰でも遊べることにあったとして、今回のスーパーマリオランでは自動的にマリオがコース上を走り、iPhoneをタップするだけでマリオがジャンプしたり、コインを取ったりできることを紹介。
「電車に乗って、つり革につかまっているときでも遊べる。ハンバーガーを食べながら、アップルを食べながらでも大丈夫」とアピールし、会場を笑わせた。また、このスーパーマリオランでは他のユーザーと競争できるバトルモードが用意されているとして、フィル・シラー(Apple Vice President)がプレイしたゴーストと対戦してみせた。宮本氏は「このスーパーマリオランは多くの人に安心して遊んでもらえるように、最初に一定の料金がかかりますが、その後はお金がかからないしくみにしたい」と紹介し、今年12月にリリースすることがアナウンスされた。また、これを記念して、スーパーマリオのiMessage向けのステッカーが提供されることも明らかにされた。
教育への取り組みを紹介
壇上には再びティム・クック氏が登壇し、Appleの教育への取り組みが説明された。Appleでは40周年を迎えたが、これまで教育にコミットしてきたとした。教育は良い方向へ変化をもたらす力を持っているが、すべての学校が同じようなインパクトを持っているわけではなく、それに対する策として、Appleは「ConnectED」と呼ばれる全米の学校をつなぐプロジェクトに参加しているという。
ConnectEDはAppleだけでなく、さまざまなIT企業や政府が協力し合い、あまり恵まれていない地域の学校も対象にしながら、教育を支援していくプロジェクト。そして、今回のSpecial Eventにはこのプロジェクトに参加する学校の生徒と教師が招かれていることを明らかにし、紹介された会場の子どもたちと教師に暖かい拍手が送られた。
現在、このプロジェクトでは114の学校があり、4500人の教師にMacやiPad、すべての教室にAppleTV、5万人以上の生徒にiPadを寄付しており、これに対し、生徒たちが楽しみながら学べるようになってきているという。これで終わりというわけでく、iPadのSwift Playgroundを使って、すべての生徒がコードを書けるようにするプロジェクトを進めており、すでに100の学校がこれを利用していると紹介した。
また、教育関係でもうひとつ重要な取り組みとして、iWorkが紹介された。iWorkは生産性向上のためのアプリだが、学校ではプレゼンテーションのために資料を作ったり、文書を作成したりするのに活用できる。単に文書などを作りだけでなく、複数の人でいっしょに制作できるというメリットがあり、今回は新たに「リアルタイムコラボレーション」という機能が発表され、そのデモが行なわれた。デモでは複数のユーザーが参加し、ひとつのスライドを制作するプロセスが見せられたが、この作業にはMacだけでなく、iPadやiPhoneなども参加できることもアピールされた。
防水仕様でGPS搭載の「Apple Watch Series 2」
続いて、Apple Watchが紹介された。Apple Watchは2年前のSpecial Eventで発表され、昨年春から販売されており、緊急の連絡を逃すこともなくなり、Apple Payで支払いをするなど、利用シーンも拡大しているという。
すでに多くの人がApple Watchを利用しているとして、発売からわずか8カ月で世界の腕時計の売り上げランキングでApple Watchは、Fossil、Omega、Cartier、Citizen、Seikoを抜いて、Rolexに次ぐ2位まで上昇し、スマートウォッチのジャンルではトップに位置しているとした。同時に、顧客満足度においてもNo.1を獲得しており、調査会社J.D.Powerのスマートウォッチの調査でも高い評価を得ているとアピールした。
そして、Apple COOのジェフ・ウィリアムス氏が登壇し、Apple Watchの新製品を紹介した。まずは今年6月のWWDC公開された「watchOS 3」だ。ウォッチフェイスを変更したり、アプリをすぐに起動したりといったことが簡単にできるようになる。
メッセージもこれまでのものと違い、グラフィカルなアニメーションが可能になり、ステッカーと呼ばれるグラフィックを送受信することもできる。特別なシーンでは画面全体にエフェクトを表示したり、Apple Watchの画面に手書きで文字や記号を入力するなどの機能も搭載される。
さらに、活動量を測るアクティビティを友だちや家族の間でシェアリングしたり、「Breathe」というアプリを使い、深呼吸をすることで、ストレスを軽減させることができるとした。緊急時の対応のために、ボタンをタッチするだけで、警察や消防などにコンタクトできる機能も追加された。
また、watchOS 3に対応したアプリもすでに数多く開発が進められ、順次、提供される予定だ。たとえば、ワシントンポストのニュース、メジャーリーグサッカーの速報、ゲーム、ジャイロスコープを使ったゴルフのスイング分析などがあるが、「私が今日、ここで発表することを楽しみにしていた特別なアプリがある。それはPokémon GOだ」と紹介すると、会場からは大きな拍手と歓声が沸き起こった。
そして、ステージには「Pokémon GO」( ポケモンGO)を提供するナイアンティックのジョン・ハンケCEOが登壇し、拍手で迎えられた。ハンケ氏はナイアンティックにとって、この夏がたいへん忙しい夏だったと語り、「ポケモンGOの会社の方々にもたくさん手伝っていただいている」とした。
ポケモンGOはすでに5億ダウンロードに達し、ポケモントレーナーは46億kmもプレイしている(歩いている)という。ポケモンGOには今月、任天堂から「ポケモンGOプラス」というデバイスが発売され、iPhoneと連携することで、顔を上げた状態でプレイできる(歩きスマホをせずにプレイできる)ようになる。そして、新しい取り組みとなるのがApple WatchでプレイするポケモンGOだ。
デモではウォッチフェイスに次の卵がふ化するまでの距離を表示したり、ワンタッチでポケモントレーナーのステータスを確認したりといった様子が披露された。Apple Watchを身に着け、歩いていて、モンスターに遭遇すると、Apple Watchの画面にポケモンが表示されるので、ここでiPhoneを取り出してモンスターを捕獲するという流れになる。
ポケストップに近づけば、Apple Watchに情報が表示され、スワイプすれば、これもiPhoneのときと同じように、アイテムを拾うことができる。ふ化装置の卵がふ化しそうになると、Apple Watchに通知され、ポケモンのふ化が表示されるという。
ステージには再びジェフ・ウィリアムス氏が登壇し、Apple Watchの新モデル「Apple Watch Series 2」が紹介された。
Apple Watch Series 2は従来のApple Watchを再設計しており、従来モデルが防滴仕様だったのに対し、Apple Watch Series 2では水深50メートルの防水仕様に対応。水泳でもサーフィンでもいつでも水を気にすることなく、身に着けておくことができるとした。
防水に対応するため、Apple Watch Series 2ではさまざまな点が改良されているが、たとえば、音を伝えるスピーカーは水が入ったとき、吐き出すような構造を採用している。また、ときどき泳ぐ人だけでなく、毎日泳ぐような人のニーズにも応えられるように、シミュレーターを作り、何年も泳いだときにどうなるのかをテストしたという。さらに、水泳中の活動量の計測については、70人のスイマーを集め、さまざまなテストを重ねたことで、実際のカロリー消費や水泳のペースなどを算出できるように設計している。
Apple Watch Series 2のスペックについては、第二世代のSiP(System in Package)を開発し、従来よりも2倍高速なデュアルコアのプロセッサを内蔵していると紹介された。GPUのパフォーマンスも2倍になり、星座を表示する「Night Sky」のようなグラフィカルなアプリも快適に利用できるようにしている。
ディスプレイは従来モデルの2倍に相当する1000nitという高輝度で、屋外の太陽光の下でもハッキリと確認することができるという。また、GPSを内蔵したことで、ウォーキングやジョギングでは距離や移動速度などを正確に計測できるようになる。ここで「Viewranger」というアプリのデザイナーのHannah Catmur氏が登壇し、Apple Watch Series 2を使いながら、ヨセミテでのハイキングルートをトレースし、デモを行なった。
続いて、Apple Watch Series 2のラインナップが紹介された。従来モデルのステンレススチールとアルミケースに加え、新しい素材として、セラミックのケースが加わることが明らかにされた。ホワイトの美しい仕上がりで、Apple Watchのさまざまな種類のバンドともマッチする。また、従来モデルに引き続き、エルメスとのコラボレーションモデルもラインナップされ、新しいカラーとデザインのバンドで提供される。
さらに、Apple Watch Series 2がコラボレーションするパートナーとして、これまでもApple製品と深く関わってきたNIKEが紹介された。Apple Watch Series 2にはアプリの「NIKE+」を標準で搭載したモデルがラインナップされ、オリジナルデザインのバンドが付属する。アプリではランナーが走るためのモチベーションを保てるように、さまざまなタイミングで「ARE WE RUNNING TODAY?」といったメッセージを表示する機能なども備える。
最後に、Apple Watch Series 2の価格が紹介された。標準モデルは369ドルからで、継続販売される従来モデルのApple Watch Series 1は269ドルからになる。予約開始は9月9日からで、販売は9月16日からであることが発表された。また、NIKEとのコラボレーションモデルは10月に発売される。
「iPhone 7」と「iPhone 7 Plus」、10の特徴
壇上には再びティム・クックCEOが登壇し、iPhoneの新モデルを発表するプレゼンテーションが行なわれた。iPhoneはすでに全世界で10億台以上を販売してきた実績があり、世界でもっとも多く販売されてきた製品のひとつになったとした。
そのiPhoneを支えるiOSだが、今回のiOS 10のリリースはこれまでのiOSでもっとも大きなものになるという。
例えば、Siriに「サンフランシスコ空港から帰りたいんだけど」と話しかければ、地図を含む状態で帰路が表示される。地図も今までよりも美しいデザインに進化し、Siriにレストランの予約を依頼できるようになる。
また、iOSでサポートされるHome Kitが説明された。Home Kitは家電製品をコントロールするためのプラットフォームで、非常に簡単にセットアップやコントロールができるようになるという。
iOS 10ではHome Kitのための「ホーム」アプリが用意されており、ガレージのドアやセキュリティなどをコントロールしたり、確認することができる。このHome Kitに対応した製品は、今年中に100以上、登場する予定となっており、今後、大きな市場へ成長することを期待しているとした。
メッセージ関係のアプリもiOS 10では変更される。たとえば、メッセージに加え、グラフィックを送ったり、フルスクリーンで表示できる花火のエフェクトを送ることも可能になる。
そして、いよいよiPhoneの次期モデルとなる「iPhone 7」が発表された。AppleのChief Design Officerのジョナサン・アイブ氏の解説によるムービーが流された後、ステージにはおなじみのVice President フィリップ・シラー氏が登場し、iPhone 7のプレゼンテーションがスタートした。今回のiPhone 7では10の新しい特徴を盛り込んだとして、ひとつずつ内容を説明しながら、プレゼンテーションが進められた。
まず、1つ目のデザイン。ジョナサン・アイブのムービーでも解説されたように、洗練された美しいデザインに仕上げられており、なかでも鏡面のように仕上げられたジェットブラックという新色が追加されている。もうひとつのブラックとして、マットな仕上げのブラックも用意される。この他に、従来同様、シルバー、ゴールド、ローズゴールドの3色もラインナップされる。
2つ目には、ホームボタンが挙げられた。ホームボタンはホームの表示のほかに、マルチタスクやSiriの起動、Touch ID、Apple Payなど、さまざまな機能を利用するときに使うが、今回はこれをもっとレスポンスが良く、信頼性が高く、カスタマイズできるものを開発したという。
アップルではこれまでもiPodのクリックホイールを機械式から静電容量式に進化させ、最近ではMacBook Proでフォースタッチトラックパッドを実現するなど、入力方式を進化させてきたが、これらで培った技術を活かして開発されたものが、iPhone 7のホームボタンに採用されている。感圧式センサーとタップティックエンジンを活かしたホームボタンで、iOSでの利用だけでなく、サードパーティのアプリでも利用できる仕様になっているという。
3つ目は新しい筐体。iPhone 7は水とホコリに対する耐性を持ち、IP67の防水防塵に対応する。この機能を実現するため、密封材や接着剤などを見直すなど、筐体全体の仕様が新しくなっている。
4つ目として、カメラが紹介された。カメラはもっとも多くの人が利用する機能で、これまでも多くの人がカメラで撮影した写真を提供してきたが、今回のiPhone 7では大きく進化を遂げたという。
光学手ぶれ補正が搭載され、露出は3倍まで向上し、6群で構成されるレンズはF値1.8という明るさを実現する。イメージセンサーは12メガピクセルの新しいモジュールを採用し、従来よりも60%高速化され、30%の省電力効果を持つ。フラッシュは4つのLEDで構成されたツートーンフラッシュに、フリッカーセンサーを組み合わせた。
新たに、アップルがデザインしたISP(Image Signal Processor/画像処理エンジン)が搭載される。ISPは写真を撮影したとき、被写体を認識し、露出の補正やフォーカスの調整、ホワイトバランス、ワイドカラーの調整、トーンのイメージマッピング、ノイズ除去、複数の画像を組み合わせた画像の生成といった処理をわずか25ミリ秒で行なう。
iPhone 7をプロのカメラマンに渡し、実際にテストをしてもらったところ、「プロのレパートリーを作るカメラになるだろう」といったコメントが得られたという。この他にもハイスピードカメラによる撮影、ワイドカラーによる撮影、暗いところでの撮影、ライブフォトでの撮影などが紹介された。
また、RAW形式での保存にも対応。iPhone上で動作する画像処理アプリを使って、美しい写真を生成することが可能だ。フロントカメラについても新設計の7メガピクセルのカメラが搭載されており、ワイドカラー撮影や自動手ぶれ補正などの機能を搭載し、手軽に美しい自分撮りができる。
そして、iPhone 7 Plusには背面に2つの12メガピクセルのカメラを搭載し、片方には56mmの倍率が異なるレンズが装着される。1つのレンズだけを搭載するレンズいままでの多くのスマートフォンでは、画質を落としたデジタルズームしか利用できなかったが、iPhone 7 Plusでは片方にワイド、もう片方に望遠という2つのレンズを搭載することで、画質を落とさずに離れた被写体を撮影できるようにしている。
ワイド側のレンズに対し、望遠側が2倍のズームが可能で、これに画質が劣化しないデジタルズームを組み合わせることで、最大10倍のズームを可能にするという。この2つのカメラは単純に切り替えをしているわけではなく、それぞれのセンサーに入ってきた光の信号を元に、露出やホワイトバランスなどを調整し、撮影するしくみになっている。
そして、もうひとつの機能として、いわゆるボケ味を活かした写真の撮影を可能にしている。一眼レフなどで撮影するとき、被写界深度を変更し、対象となる主な被写体のみを浮き上がらせるような撮影ができるが、これをiPhone 7 Plusに搭載された2つのカメラで被写体を分析し、撮影できるようにしている。この撮影機能は年内のアップデートで利用できるようになるという。
5つ目として、Retina HDディスプレイが取り上げられた。従来のiPhone 6sに比べ、明るさが25%アップし、ワイドカラーの表示が可能になり、映画クラスのスタンダードやカラーマネージメントにも対応する。従来モデル同様、3D Touchにも対応する。ここでこれらの機能を活かしたデモンストレーションとして、InstagramのIan Spalter氏が登壇し、Instagramのアプリによる撮影や写真のフィルターによる補正、投稿などの流れが説明された。
6つ目にはスピーカーが挙げられた。iPhone 7とiPhone 7 Plusでは筐体の上部と下部にそれぞれスピーカーが内蔵されており、これらを使って、ステレオ再生が可能になる。しかもiPhone 6sと6s Plusに比べ、ダイナミックレンジが広くなり、より迫力のあるサウンドを楽しめるようにしている。
7つ目は「EarPods」だ。iPhoneのパッケージにも付属するEarPodsは、もっともポピュラーなイヤホンだが、iPhone 7とiPhone 7 PlusのでEarPodsは底面のLightningコネクターを利用する。
Lightningコネクターは元々、デジタルオーディオと電源の両方の機能を兼ね備えて設計されたものだという。ユーザーが好みのイヤホンでコントロールができるようにしようという考えから、イヤホンジャックではなく、デジタルデジタルオーディオに対応したLightningコネクターを活用することになったとしている。ちなみに、Lightningコネクターに対応したデバイスはすでに9億を超えており、デジタルオーディオのコネクターとしては世界一普及しているコネクターだという。
今回のiPhone 7と7 Plusに合わせ、サードパーティからもLightning対応のヘッドホンが登場する。例えば、JBLはワークアウト用のヘッドフォンがリリースする。iPhone 7とiPhone 7 Plusのパッケージに同梱されるEarPodsもLightning対応のものになるが、既存の3.5mm径のイヤホンを使いたいユーザーのために、Lightningコネクタからの変換アダプタも同梱される。
8つ目として、ワイヤレスが取り上げられ、新しいアクセサリーとなる「AirPods」が紹介された。AirPodsはBluetoothを利用したワイヤレスのステレオイヤホンで、左右それぞれの耳に装着して、利用する。
一般的に、Bluetoothの機器を利用するときはペアリングなどの操作が必要になるが、AirPodsは本体のカバーを開いた状態でiPhoneに近づけると、iPhoneに画面が表示されるので、そこで画面をタップすれば、接続されるため、非常に簡単に使うことができる。AirPodsのイヤホン部分にはW1と名付けられたチップが搭載されており、これを活かすことにより、今までになかったインテリジェンスや高効率のコントロール、信頼できる接続が実現できたという。
ユーザーがAirPodsを装着すると、耳に装着されたことを感知し、自動的に利用できるようになる。ユーザーが話せば、音声を認識し、ビームフォーミング機能を持つマイクが利用できるようになるという。両耳に入れて、音楽などを再生することもできれば、片耳だけでイヤホンマイクとして通話に利用することもできる。
音楽再生時に片耳のAirPodsを外せば、音楽再生を停止し、装着すれば、音楽再生を再開するといった使い方もできる。連続で5時間の利用が可能で、バッテリーを内蔵したケースに入れれば、充電し、24時間の利用が可能になる。この他に、Apple傘下のBeatsからも3種類のワイヤレスイヤホンやヘッドホンが登場する。
9つ目はApple Payだ。これまで米国をはじめ、各国でApple Payのサービスが展開されてきたが、日本でもサービスが提供されることになり、日本向けのモデルには非接触ICのFeliCaが搭載されることになった。
来場者の多くが日本以外の国と地域の人であるため、会場ではあまり大きな歓声は上がらなかったが、交通系サービスとして、JR東日本のSuicaが利用できるうえ、iDやマスターカードのクレジットカードも利用できるという。ちなみに、Suicaについては10月のサービス開始を予定しているが、この時期に合わせ、iPhoneに搭載される地図アプリが強化され、交通費の計算結果なども表示されるようになる。
最後となる10個目の特徴として、iPhone 7とiPhone 7 Plusのパフォーマンスが挙げられた。
今回のiPhone 7とiPhone 7 Plusでは、新たに開発されたA10 Fusionと名付けられた64ビットチップが搭載される。A10 Fusionチップは3億3000万のトランジスタを含む4つのコアを持つチップだが、2つのハイパフォーマンスコアはA9チップよりも40%高速、A8チップの2倍高速で、初代iPhoneから比較すると、120倍も高速化されているという。
残りの2つのコアは1/5の消費電力で動作する省電力コアで、メールの確認など、軽い動作のときはこちらが利用される。グラフィックスについてはA9よりも50%、A8よりも3倍の高性能化が図られているが、消費電力はA9の2/3、A8の半分に抑えられているという。
A10 Fusionチップはスマートフォン向けのチップとしてもっともパワフルなものだが、これを活かす使い道のひとつとして、ゲームが挙げられた。たとえば、F1 2016というレーシングゲームはコンソールゲーム並みのグラフィックで再現され、ステレオサウンドとタップティックエンジンによるフォースフィードバックなどが楽しめるという。また、Adobeのグラフィックソフト「Lightroom」もA10のパフォーマンスを最大限に活かせるアプリとして紹介された。
A10 Fusionチップを搭載したiPhone 7とiPhone 7 Plusだが、これまでのiPhoneでもっともロングライフの駆動が実現できたという。例えば、Wi-Fiでのブラウジングでは14~15時間、LTEでのブラウジングでは12~13時間の利用が可能で、従来モデルとの比較では、iPhone 7はiPhone 6sよりも2時間、iPhone 7 PlusはiPhone 6s Plusよりも1時間、バッテリー駆動時間が延びるとした。
最後に、iPhone 7とiPhone 7 Plusの価格と容量などが発表された。まず、iPhone 7は649ドルからで、iPhone 7 Plusは769ドルからで、容量はいずれの機種も32GB、128GB、256GBがラインナップされる。ただし、いずれも新色のジェットブラックは128GBと256GBモデルのみをラインナップする。予約は9月9日にスタートし、販売は9月16日からと発表された。
iPhone SEや、従来のiPhone 6sとiPhone 6s Plusも継続して販売される。また、従来モデル向けのiOS 10も、9月13日から配信が開始されることも明らかにされた。
ハンズオンで試したiPhone 7とiPhone 7 Plus
Special Eventのプレゼンテーション終了後、同じ会場内の別のホールにはハンズオン(タッチ&トライ)のコーナーが設けられ、発表されたばかりのiPhone 7とiPhone 7 Plus、Apple Watch Series 2を短い時間ながら試すことができた。
まず、端末を手に取ったときの印象だが、サイズそのものは基本的に従来のiPhone 6sとiPhone 6s Plusと変わらないため、あまり違いはわからない。ただ、電源キーを押し、画面を点灯すると、ディスプレイが一段と明るくなったことがわかる。
端末を手にして、操作をはじめるとき、もうひとつ驚くのが新たに設計されたホームボタンだ。これまでのiPhoneはホームボタンがいわゆる押し込むタイプの物理的なボタンになっていたのに対し、iPhone 7とiPhone 7 Plusのホームボタンはホームボタン部分が凹んでいるのみで、この部分を押してもボタンが沈み込むようなことはない。その代わり、ハプティクスによる反応があるため、実際に押したことが指先でわかるしくみになっている。ちなみに、このホームボタンの反応は設定画面内でカスタマイズすることができる。
次に、外見上のデザインだが、やはり、注目されるのはジェットブラックと呼ばれる光沢仕上げのボディだろう。実際に見ると、非常に美しい仕上がりで、ピアノや日本の漆器を彷彿させる光沢感と質感があり、今までにない高級感を漂わせている。当然のことながら、その分、指紋などが目立つことになるが、常にクリーナーなどで拭きながらでも使いたくなるような上質感がある。
FeliCaを搭載したApple Payについては、米国での発表ということもあり、実際に搭載したモデルを見ることはできなかったが、Suicaは実際のカードをiPhone 7やiPhone 7 Plusにかざすと登録でき、改札では指紋センサーによるロック解除をしなくても通過できるようになる仕様だという。
ワイヤレスイヤホンのAirPodsも試すことができたが、実際の登録もプレゼンテーションで見たとおりの簡単さで、AirPodsのケースを開け、iPhoneに近づけると、登録画面がポップアップで表示される。耳への装着についてもセンサーが内蔵されているため、装着したことを認識し、動作が始まるというしくみのようだ。
音楽再生時に片方を外すと、再生が止まり、耳に戻すと、再生が再開するという動作も確認できた。今までのワイヤレスイヤホンやヘッドホンにはなかったスタイルの使い方が可能であり、ぜひ、既存のiPhoneユーザーにも試して欲しいアクセサリーのひとつだ。
Apple Watch Series 2については外見こそ、大きく変わらないものの、やはり、GPS搭載により、ジョギングやウォーキングを楽しむユーザーには大きな魅力になりそうだ。アプリなどもGPS対応を前提にバージョンアップされており、ランナーにとっては楽しみが増える
デバイスになるだろう。
防水については従来のApple Watchが防滴仕様だったため、あまり大きな違いがないように考えるかもしれないが、水泳やサーフィンのときでも装着したままでかまわないということは、今後、新しいアプリやサービスが登場してくることも期待できる。
最後に、会場には各携帯電話会社の関係者も来場していたが、JR東日本の小縣方樹副会長にお会いし、少し話をうかがうことができた。
「発表のイベントで、Suicaが表現され、良かった。他にもスーパーマリオなど、日本に関係するものが多く、非常に楽しかった。JR東日本は1日に1700万人が利用する世界最大の鉄道会社だが、これまで展開してきたSuicaのサービスをiPhoneの上で、Appleと共に、一から構築できたことを非常にうれしく思う」と小縣氏はうれしそうに語っていた。
JR東日本のSuicaは3年前に他の鉄道会社との相互運用をスタートしており、国内の鉄道や物販のインフラとして、すっかり定着している。駅で言えば、4700駅以上、バスは3万台で利用することができ、日本中で使うことができる。これがiPhoneでも利用できるようになることで、さらにユーザーの利便性を高められることに大きな期待を寄せているという。小縣氏は「日本人はiPhoneが好きですよね。ボク自身もiPhone、iPad、Apple Watchが好きで、常に使っているんですよ」と語り、自分のApple Watchなどを見せながら、にこやかに語っていた。
今回のApple PayによるSuicaサービスは、これまで携帯電話やスマートフォンで利用されてきた「モバイルSuica」をベースにしているものの、内容的にはまったく別のサービスとして構築されているという。たとえば、Suicaの定期券をiPhoneで読み取り、取り込むことができるが、その結果、カード側のSuicaの定期券は使えなくなり、iPhoneのみで利用できるようになるという。こう表現すると、スキミングなどの心配があるかもしれないが、実際にはSuicaと紐付けられたユーザー情報などを登録する必要があり、セキュリティはしっかりと担保されている。実際のサービスインは10月になるが、今後が楽しみなサービスであり、JR東日本としても積極的にプッシュしていきたいと話していた。
今回のAppleのSpecial Eventはこれまでのものと違い、小縣氏が語っていたように、まるで『Japan Day』とでも呼びたくなるほど、日本との関わりが深いトピックにあふれたイベントだったと言えるだろう。アップルがこれだけ積極的に取り組んできたことは、日本のユーザーとしても非常にうれしいものであり、今後の展開がさらに楽しみになってきたと言えそうだ。
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