ケータイ用語の基礎知識

第605回:ハプティクス とは

 「ハプティクス」とは、人が手などを使い、触覚や力の感覚を通じて、情報を伝える技術、あるいはそうした学問のことを指す言葉です。「ハプティック技術」とされることもあり、日本語では、「触覚技術」と呼ばれることもあります。

 たとえば、ディスプレイを目で見て、画面上での表現で得られるもの、情報が“視覚効果”とすると、ディスプレイを押したり触れたりしたときに、硬く感じたり、ボタンを押したような感覚、あるいはざらざらした感じ、ぷにぷに感といった触覚効果、それらを実現する技術やこれを調査・研究する学問のことがハプティクスです。

 実用化されているハプティクスの例としては、携帯電話やゲーム機のコントローラに組み込まれたバイブレーターを使って、画面表示などにあわせて振動し、手に何らかの情報を伝える、といった仕組みが挙げられます。

 ハプティクスという分野では、米国のイマージョンという企業が多くの特許を持っています。同社は、タッチ操作に対するフィードバックとしてスマートフォンの端末メーカーへ、ハプティクスに関する技術やソフトウェアを提供していることでも知られています。

 Androidでも、ごく基本的な振動フィードバック機能が標準で搭載されています。しかし、より繊細なもの、高度なもの、あるいはダイナミック(動的)に振動や触感を制御する技術として、数多くの場面でイマージョンの技術が用いられています。

振動でタッチ感や押下感を再現

 スマートフォンやタブレット端末では、現在、いくつかの製品がハプティクスを取り入れたフィードバックを採用しています。たとえば国内メーカーではNECや富士通、パナソニックのハイエンドクラスのスマートフォンおよびタブレットで、海外メーカーではサムスンやLG電子などで導入されています。そのうちの1つである、NTTドコモのタブレットで、NECカシオ製の「MEDIAS TAB UL N-08D」は、イマージョンの技術による「HDハプティックス」を搭載しています。操作するときに、振動の強弱で、タッチした感触やボタンの押下感が再現されています。

 たとえば、振動を発生させる仕組みとしては、軸に質量の偏りを持たせたモーターで回転させる偏心回転質量(ERM)方式、直線的に動くモーターであるリニアモーターの要領でアクチュエーターを構成し共振を起こさせるリニア共振アクチュエータ(LRA)方式、電圧のオン・オフによって形状が変わる素材「ピエゾ素子」を使った最先端のピエゾ・アクチュエータ方式などがあります。

 指先は0~300ないし400Hz程度の周波数までを感じることができるので、その範囲で携帯電話の筐体を振動させます。たとえば、最新のピエゾ素子タイプのアクチュエーターを使用したハプティクスでは、50~300Hz程度の振動を可変でつけることができます。そして、単純な振動ではなく、微細な振動を組み合わせることによって、摩擦や凹凸などの触覚の違いを作り出すこともできます。

 イマージョンでは、Android端末にハプティクス技術を導入できるメーカー向けツール「MOTIV Integrator」を提供しています。また、アプリ開発者向けにはSDKも提供しており、ハプティクス対応Androidアプリが作りやすい環境整備も進めていて、実際にいくつかのハプティクス対応アプリがGoogle Playに登録されています。イマージョン自身もハプティクス対応Androidアプリを公開していて、たとえば、「Haptic Effect Preview」「Haptic Magic 8 Ball」などでは、インストールしたユーザーが手軽にハプティクスを体験できるようになっています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)