第582回:IGZO液晶とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 IGZO(アイ・ジー・ゼット・オー)とは、インジウム、ガリウム、亜鉛から構成される酸化物半導体のことで、IGZO液晶とは、シャープが開発した、このIGZOを薄膜トランジスタ(TFT)に使用した液晶パネルのことです。名称は、このインジウム(元素名:In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)の酸化物(O)のI、G、Z、Oからつけられています。


IGZO液晶ディスプレイ (6.1インチ、2560×1600ドット、498ppi 2012年6月公開)

 

 2011年4月に実用化を発表したこの液晶パネルでは、次世代の液晶パネルとして、従来のアモルファスシリコンを使用した液晶に比べ、明るく、消費電力が低くなり、さらなる高精細化(高解像度化)もできるようになると期待されています。

 現在、液晶ディスプレイでは、一般的に薄膜トランジスタ(TFT)が構成材料として使用されています。その中でも一般的にはアモルファスシリコン(a-Si)や低温ポリシリコン(LTPS)がよく利用されており、シャープでも、これまでも低温CGシリコン液晶などの技術で、高性能な液晶パネルを作ってきました。が、このIGZOによって一段レベルアップした高性能パネルが一般化されることが期待されています。

 このIGZO液晶を採用した携帯電話は、2012年9月現在まだ発表されていませんが、今後さまざまな製品に搭載されることが期待されています。

 

より精細により低消費電力に

 IGZO液晶は、次世代液晶パネルに必要とされるさまざまな性能を満たしてくれる可能性を持っています。

 まず、薄膜トランジスタの小型化。IGZOトランジスタは電子移動度が高く、これまでのアモルファスシリコンと比較して20~50倍程度の移動度があり、このため液晶パネル上のTFTも非常に小型化、そして、これに電力を供給する電線も細線化できます。

 これによって、これまでと同等の透過率であれば約2倍の高精密化が可能になります。液晶ディスプレイが高精密化すると、画面の画素が非常に細かくなり、肉眼では画素ひとつひとつが見分けられないほどの高精細化が可能になります。

 また、逆に画素のサイズが従来品と同じであれば、開口部が非常に広くなるため、非常に明るい液晶ディスプレイを作ることも可能になります。

 「OFF性能」が高いというのも特徴のひとつです。特にモバイルデバイスでは、電池の持ちがよいか悪いかは、その機種の評価を非常に大きく左右します。現在、モバイルデバイスが搭載されている部品の中で、日常的に最も電力を使うのがディスプレイで、消費電力の中で大きな部分を占めます。

 IGZO液晶は、アモルファス液晶などに比べてOFF性能が高く、動画像1フレーム中に駆動を休止することが可能になっています。駆動期間が短ければそれだけ電気を流さなくてはならない時間が短くなるわけですから、この「休止駆動」と呼ばれる駆動方式を使えば、従来の液晶ディスプレイと比べても、時間当たりで非常に低い電力で使用することが可能になるわけです。
 
 さらに、IGZO液晶には、タッチパネルの高性能化が可能になるというメリットもあります。これは、先ほどの「休止駆動」によるもので、トランジスタを液晶の駆動に使っている限りその漏れ電流がノイズとなりタッチパネルの検出にも障害となります。そのうえで、従来のタッチパネルはノイズを差し引いてパネルのタッチ操作を検出していますが、どうしても誤差が出てきてしまいます。

 しかし、液晶の駆動を休止し、電流を流さなくてもOFFにできる時間があるのなら、この休止時間中にタッチパネルが指のタッチによる静電容量を把握すれば、トランジスタが使う電流のノイズに邪魔されずにタッチを検出でき、よりスムーズに指のタッチやタッチ位置などを検出することができるわけです。

 ちなみにシャープでは、IGZO液晶の製造工程について、アモルファスシリコンTFT液晶とプロセスに大きな変更を加えずに対応できるとしており、低温ポリシリコン液晶のようにマザーガラス(液晶ディスプレイを作るためのガラス基板)の大きさに制約はなく、コスト面でも有利としています。


 




(大和 哲)

2012/10/2 12:00