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モバイルSuica、はじまる
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、PDAに至るまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindowsXP基本編完全版」「できるVAIO 基本編 2004年モデル対応」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。asahi.comでも連載執筆中


 昨年11月に詳細が発表されたJR東日本のモバイルSuicaがいよいよ1月28日に開始された。詳細発表時にはいろいろと報じられたが、おサイフケータイを利用した交通系サービスの本命として、期待されている。今回はモバイルSuica実現までの道のりと導入時の問題などについて見てみよう。


紆余曲折を経たモバイルSuica実現への道

利用イメージ

 「ケータイで電車に乗る」――そんなことにリアリティを覚えたのは、今から約3年前の2002年秋。本誌記者とともに、イベント取材で香港に出かけたときだ。香港では非接触ICカード「FeliCa」を利用した「Octopus(オクトパス)」というサービスが提供されており、あらかじめOctopusカードに現金をチャージしておけば、改札口にかざすだけで地下鉄に乗ることができ、駅構内などにあるコンビニエンスストアの支払いなどにも利用することができた。このOctopusには通常のカード以外に、ノキア製ケータイの着せ替えボディや腕時計型が販売されており、スタッフと「日本でもケータイで電車に乗れる日が近いかも……」と話していた。

 その翌年となる2003年10月。早くも筆者と記者の予想は、現実味を帯びてくる。NTTドコモとソニーがフェリカネットワークスを設立し、FeliCa搭載ケータイを利用したフィールド実験が開始されたためだ。当時、FeliCa搭載ケータイが想定していたのは、電子マネーやクーポン、会員証、社員証などだったが、フィールド実験にはJR東日本も参加しており、ロードマップの先には「ケータイで電車に乗る」ということも考えられていた。その後、2004年4月にJR東日本から「2005年度後半にモバイルSuicaのサービスを開始したい」という意向が明らかにされ、2005年に入って、NTTドコモ、auとともに、相次いで正式にサービス開始を発表している。特に、auは当初からモバイルSuicaを「FeliCa搭載ケータイの本命サービス」と捉えており、当初から記者会見などでも「モバイルSuica開始に合わせて、端末を投入したい」表明していた。

 ただ、関係者の話によれば、モバイルSuica実現には技術的な面も含め、さまざまな紆余曲折があったようだ。たとえば、当初、JR東日本から求められた端末に対する要件に、「FeliCa搭載ケータイを表裏どちら向きでも改札機を通過できるようにして欲しい」というものがあったという。一般的な折りたたみデザインの端末なら、電池カバー側とサブディスプレイ側のどちらを改札機にかざしても通過できるようにして欲しいというわけだ。しかし、現在のケータイには通信や通話のための複数のアンテナが内蔵されているうえ、機種によってはBluetoothなどの通信機能、テレビやFMラジオなどの回路などが内蔵されており、FeliCa用アンテナとの干渉を抑えることが難しく、見送られたという。


対応機種を巡る駆け引き

902i

 ドコモの902iシリーズ。一番左のD902iのみモバイルSuica非対応となってしまった
 こうした端末に関連する部分では、JR東日本と各携帯電話事業者の間でさまざまな交渉や駆け引きがあったと言われており、その一端はサービスが開始された現状からもうかがい知ることができる。

 すでに報じられているように、昨年11月14日にモバイルSuicaのサービス内容が発表された段階では、NTTドコモのFOMA端末7機種、auのWIN端末2機種がモバイルSuica対応ということになった。このうち、W32Sについてはバージョンアップが必要で、実質的には預かり修理と同じ作業を受けなければ、モバイルSuica対応端末として利用することができない。今年に入り、NTTドコモとauから2006年春商戦向けモデルが発表され、原稿執筆時点ではFOMA端末9機種、WIN端末3機種がモバイルSuica対応とされている。

 ユーザーから見れば、FeliCa搭載ケータイは通常の端末に非接触ICのFeliCaを搭載するだけと考えがちだが、実はそれほど簡単なものではない。1つのチップを搭載するだけなら、それほど難しいことではなさそうだが、FeliCa搭載ケータイの場合、リーダーライターと通信するためのアンテナを内蔵したり、端末の他のアプリケーションと連動させるようにしたりなど、今まで以上の端末の作り込みが必要とされる。

 こうして開発されたFeliCa搭載ケータイは、フェリカネットワークスが実施している通称「FeliCa検定」と呼ばれる試験をクリアして、はじめてFeliCa搭載ケータイとして認められる。FeliCa検定ではその端末が技術的な仕様を満たしているか、正しくリーダーライターと通信ができるかといったことが調べられているそうだ。モバイルSuica実現にあたっては、これに加え、新たに通称「Suica検定」と呼ばれるものも開始され、その試験をクリアしなければ、モバイルSuica対応ケータイとして認められないという状況になっている。

 各携帯電話事業者やメーカーはモバイルSuicaの正式サービス開始を目指し、フィールドテストなどで得られたノウハウを活かしながら、端末の開発を続けていたようだが、その最中、FeliCa検定とSuica検定にパスしながら、JR東日本から「対応機種として認められない」と指摘されてしまった機種がいくつか出てきたという。こうした事態が起きたのは、端末開発のプロセスにおいて、Suica検定を行なう時期が早く、試作機で試験を行なわなければならず、量産品とのバラツキが生じてしまったからだ。


W32S

 auのW32S。モバイルSuicaを利用するためには、預かり修理によるバージョンアップが必要
 前述のW32Sもこれに似たトラブルで、市販された端末をJR東日本がチェックしたところ、試験を受けたときの端末と特性などに違いが見られたため、「このままでは対応機種として認められない」ということになり、端末の改修を余儀なくされたわけだ。

 また、関係者の話によると、当初はNTTドコモのFOMA端末も901iSシリーズの数機種しか対応機種と認められなかった時期があったそうだ。しかし、昨年11月14日の発表では前述の通り、FOMA端末7機種が対応機種として認められている。詳細は定かではないが、本誌に掲載されたインタビューで、JR東日本は「当初、自動改札機を改修する予定は無かったのですが、より多くの機種をモバイルSuica対応にしたいと考え、改修することにしました」とコメントしており、おそらくこの改修によって、FOMA端末の対応機種が増えたのではないかと推察できる。

 こうしたいくつかの問題が起きた結果、現在ではFeliCa検定にSuica検定に相当する項目が含まれ、それをパスすることが条件となっているが、最終的な対応機種はJR東日本の判断に委ねられている。auが1月18日に発表した新機種には、FeliCa搭載ケータイが3機種あり、現時点ではそのうち、W41Sのみが対応機種としてアナウンスされているが、残りのW41HとW41CAについては、端末の発売日前後に対応か否かが発表される見込みだ。

 同じFeliCa搭載ケータイなのに、モバイルSuicaについては、なぜ対応機種と非対応機種が存在したり、異なる検定が存在することになったのだろうか。これは従来のFeliCa対応サービスとモバイルSuicaでは、実際の利用シーンが大きく異なるためだ。電子マネーのEdyや会員証、社員証といったサービスを利用するときは、FeliCa搭載ケータイをリーダーライターにかざし、認証ができれば、決済が行なわれたり、会員や社員であることが認識される。すでに、おサイフケータイを利用したことがある人なら、お分かりだろうが、店頭などでリーダーライターに端末をかざしたとき、すぐに認識されず、何度かリーダーライターにかざし直すといったことが起きる。

 しかし、これと同じことがモバイルSuicaで起きてしまうと、改札機をスムーズに通ることができなくなってしまう。利用者の少ない昼間や郊外の駅であれば、それほど大きな影響はなさそうだが、都心ではラッシュ時、1分間に60人以上が通過することもあるため、モバイルSuicaの認識にちょっとしたタイムラグが生じるだけで、スムーズな人の流れを寸断してしまう。これを避けるために、JR東日本はモバイルSuica対応ケータイに改札機の通過性能を求めていたわけだ。

 JR東日本が行なった通過性能試験の詳細は明らかにされていないが、FeliCaを認識する反応速度はコンマ数秒以下が求められていたという。試験内容も端末に内蔵されたFeliCaとアンテナの電波特性などを計測するだけでなく、端末を自動的にリーダーライターに通過させる機械でのテスト、人間の手で実際に改札機を通過するテストなども行なわれている。しかも通話中や通信中でも正常に改札機を通過できることが求められたそうだ。


新サービスのためにユーザーが受ける不利益

ビューカード

 現在のところ、モバイルSuicaを利用するには、ビューカードが必要となる
 モバイルSuicaのサービス開始によって、ユーザーは「ケータイで電車に乗る」というサービスが利用できるわけだが、冷静に見てみると、モバイルSuicaのサービス開始にはいくつかの問題点がある。

 まず、対応機種の問題だ。前述のように、モバイルSuicaを利用できるようにするため、JR東日本や各携帯電話事業者はたいへんな苦労をしながら開発してきた。しかし、ユーザーは対応機種の話を耳にしたとき、「あれ? おサイフケータイなのに、モバイルSuicaはできないの?」と考えてしまうはずだ。iモード端末でのモバイルSuica提供が発表された昨年2月、NTTドコモは対応機種について、「フィールドテストで精査する予定だが、既に販売済の900iや901iシリーズでも利用できるようにする」とコメントしている。506iCシリーズについては、iアプリの容量やセキュリティ面の仕様が異なるため、対応機種にならないことはある程度、予想されていたが、900iや901iCシリーズも全滅のうえ、最新の902iシリーズでもD902iが非対応となってしまったのは、非常に残念な点だ。

 なかでも不利益を被ったのは、発売直後にD902iを購入したユーザーだろう。D902iは昨年11月11日に販売が開始され、その3日後の11月14日にJR東日本から非対応が発表されている。つまり、発売初日から数日間に購入したユーザーは、モバイルSuica非対応を知らずに買ってしまった可能性があるわけだ。企業間のやり取りのことなので、詳細はわからないが、NTTドコモは11月11日の発売、あるいは発売を発表した11月9日の時点で、D902iのモバイルSuica非対応を何らかの形で知っていた可能性が高い。それをユーザーに伝えずに販売を開始してしまったのは、事業者の姿勢として疑問が残る。発売を数日ずらすか、知らずに購入したユーザーをフォローすべきではなかっただろうか。現に、一部の販売店では「D902iがモバイルSuica非対応とは知らずに購入した」という苦情が寄せられているという。「事前に調べなかったユーザーが悪い」という声もあるだろうが、期待していた、あるいは信用していたユーザーを裏切ってしまった感は否めない。


 バージョンアップで対応可能なW32Sについてもやや不満が残る。auとソニー・エリクソンはモバイルSuicaサービス開始の1月28日に後継機種のW41Sを発売し、何とか格好を整えたように見えるが、改修が必要なことが発表される前に、W32Sを購入してしまったユーザーとしては、納得できない部分もあるだろう。なぜなら、W32Sの改修では事実上、預かり修理と同じ程度の時間が掛かるうえ、利用中のEZアプリ(BREW)が消去され、利用中のICカードアプリも改修後に再インストールしなければならないなど、かなり手間が掛かるからだ。なかには「面倒だから、対応端末に買い換えた方が早いかも……」と考えるユーザーもいそうだが、現状では利用が一定期間を経過しなければ、端末を安価に機種変更することができない。つまり、手間を覚悟で改修を受けるか、高い金額で機種変更をするか、安価に機種変更できる半年先までモバイルSuicaの利用を見送るかの3つから選択しなければならないわけだ。端末の販売には販売奨励金という仕組みが絡んでいるため、簡単に対処できないことは理解できるが、今回はW32Sに限り、特例的に短期間でも安価に機種変更ができるような施策を検討しても良かったのではないだろうか。

 そして、JR東日本のサービス内容に対する姿勢にも疑問が残る。実際に利用するときの注意事項については、本誌記事でも紹介されているので割愛するが、導入時の不満としてあげられるのが利用できるクレジットカードだ。モバイルSuicaはご存知の通り、JR東日本や提携会社が発行するビューカードを用意しなければならない。ビューカードはJR東日本のエリアで発行されているクレジットカードであるため、単純に比較はできないが、発行枚数は国内のベスト20に入る程度でしかない。JCBやVISA、Master、UFJニコス、セゾンといったクレジットカードに比べれば、発行枚数で譲る面があることは確かだ。筆者もビューカードを持っていないため、今回のモバイルSuica利用のために、新たにビューカードを作ったが、これでは何のためのおサイフケータイなのかが今ひとつわからなくなってくる。

 本来、おサイフケータイは端末にクレジットカードや会員証の機能を持たせることにより、本物の財布を持ち歩いたり、カード類を入れておいたりする必要がなくなることがメリットであるはずだ。にも関わらず、新たにクレジットカードを作らなければならないというのは、本末転倒ではないのだろうか。余談だが、同じことはNTTドコモの「iD」にも言えることだ。

 JR東日本も1つの企業であるため、自社ブランドのクレジットカードを普及させたいという意図は理解できる。しかし、鉄道というインフラストラクチャを担う企業として、モバイルSuicaというサービスを利用するために「must」、つまり、必須条件にしてしまったのはいかがなものだろうか。「各社のクレジットカードが利用できます。でも、ビューカードをご用意いただければ、こんなメリットがあります」というのが本来のあるべき姿ではないだろうか。JR東日本は将来的に他社のクレジットカードを利用できるようにすることも示唆しているが、できるだけ早く改善を望みたい点だ。



 対応端末を購入し、ビューカードを用意できてもまだ手間は掛かる。本誌記事でも紹介しているように、利用開始には端末へのアプリのダウンロード、会員登録など、いくつかのステップを踏まなければならない。他のサービスに比べれば、パソコン向けホームページなどでのガイドが公開されているため、比較的、環境は整っているという見方もできるが、ケータイのアプリ機能が何なのかがわからないようなビギナーにとっては、かなり敷居の高い手順が待ちかまえていると言って差し支えないだろう。JR東日本にはもう少し幅広いユーザー層に向けたわかりやすい解説を期待したいところだ。

 また、実際の利用でも不満に感じる部分がいくつかある。たとえば、電池が切れたときの対応もその1つだ。モバイルSuicaはFeliCa搭載ケータイの構造上、バッテリーが完全に放電してしまうと、FeliCaを認識できなくなるため、改札機を通過することができない。放電したタイミングが改札機を出る前(乗車中や駅構内)だった場合、利用区間がわからなくなってしまうため、JR東日本では「利用区間の運賃を全額支払うことになる」としている。鉄道というサービスの決済であるため、そういったルールを設けることはしかたないが、各駅にACアダプタを用意したり、充電スタンド(カラオケボックスなどでもよく見かける)を設置するという工夫はできないのだろうか。FeliCaを認識させる程度の充電であれば、ほんの1分程度しか掛からないはずであり、現時点で対応機種とされているFOMA端末とWIN端末は、それぞれACアダプタが共通仕様になっているため、1つずつ用意すれば対応できる話だ。エキナカでビューカードの申し込みやケータイを販売する店舗の準備ができたのに、モバイルSuicaユーザー向けに「充電スタンド」を用意するくらいのことができないのだろうか。


期待は大きいが、課題も多い

 モバイルSuicaというサービスは、ケータイ業界にとって、ワンセグや音楽再生などと並んで、今後、普及が期待されるサービスだ。モバイルSuicaそのものはJR東日本のサービスであるため、他地域にはあまり関係がないように考えられがちだが、Suicaと同じように、FeliCaを利用した交通系サービスは全国で提供されている。東京でも私鉄などで利用できるパスネットのFeliCa版「PASMO(パスモ)」が2007年3月に開始される予定だ。順調に普及が進んでいけば、これらの全国各地のサービスもFeliCa搭載ケータイで実現される可能性が高く、そう遠くない将来には「ケータイだけで、いろいろな電車やバスに乗れる」時代が来るのかもしれない。ただ、そのためにはここで指摘したものも含め、関係各社がクリアしなければならない課題が多いことも忘れてはならない。



URL
  モバイルSuicaのサービス概要(JR東日本)
  http://www.jreast.co.jp/mobilesuica/

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(法林岳之)
2006/02/01 14:16

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