レビュー

「9.7インチiPad Pro」ファーストインプレッション

「9.7インチiPad Pro」ファーストインプレッション

持ち運びしやすいが、やはりプロ向けのツール

Smart Keyboard(別売り)装着の9.7インチiPad Pro

 ここ数年、iPadは秋に新製品が発表・発売されることが多いが、今年は春に「9.7インチiPad Pro」が発表・発売された。春のiPad発売は、2012年発売の第3世代iPad以来だ。

 9.7インチiPad Proは、同時発表された「iPhone SE」同様の「既存モデルのサイズ違い」という位置づけだが、やや安価な値付けとなったiPhone SEとは異なり、スペックや機能が強化された、より高価な上位モデルとなっている。

 今回は9.7インチiPad Pro(64GB/ローズゴールド/SIMフリー版)を購入できたので、ほかのiPadとの違いを中心にファーストインプレッションをお届けする。

デザインはほぼiPad Air 2と同じ

 9.7インチiPad Proのサイズ・重さは、iPad Air 2と同じだ。大きさは240×169.5×6.1mmで重さはWi-Fiモデルで437g、Wi-Fi+Cellularモデルが444gとなっている。

 しかし、これはカタログスペック上での話で、筆者が購入したWi-Fi+Cellularモデルをキッチンスケールで計測したところ、460gだった。筆者が買った個体が特別なのか、カタログスペックが間違っているかは不明だ。同じキッチンスケールでiPad Air 2(Wi-Fi+Cellularモデル)を計測すると446gなので、14gほど重たくなっている。

正面
背面
右側面。音量ボタンとSIMカードスロットがある
左側面。Smart KeyboardのためのSmartコネクターがある
下端。従来のiPad同様のLightningコネクター
上端。スピーカー穴が新設されている
上端部。下がiPad Air 2、上が9.7インチiPad Pro

 デザインはiPad Air 2とほぼ同じだが、12.9インチiPad Pro同様、上端側にもスピーカー穴が追加されているので、見分けは付けやすい。Wi-Fi+Cellularモデルのアンテナ回りのデザインも異なっている。また、9.7インチiPad ProはiPadシリーズでは唯一、ローズゴールドのカラーバリエーションが用意されている。

 iPad Air 2向けのジャケットケースなどの周辺アクセサリーも流用しやすそうだが、iPad Air 2向けのSmart CoverやSmart Caseは流用できない。上端にiPad Air 2にはないスピーカー穴があり、サードパーティ製のジャケットケースを流用するとふさがれる可能性もあるので注意が必要だ。

 別売りのキーボード内蔵カバー「Smart Keyboard」の重さは実測で230g。本体の半分くらいの重さで、合わせると実測で690gになった。たいていのノートパソコンよりは軽いが、軽さのアドバンテージは小さくなってしまう。

ディスプレイサイズもiPad Air 2と同じ。でも性能アップ!

 ディスプレイサイズは9.7インチで解像度は2048×1536ドット。iPad Air 2とまったく同じだ。

True Toneはオン/オフ切り替えが可能

 ディスプレイは性能が強化され、色域が広がり、環境光に合わせ色味を調整するTrue Toneという機能が追加された。写真レタッチなど、色味を厳密に表示させたいプロユースを意識しての仕様だろう。この部分については、12.9インチiPad Proより9.7インチiPadの方が優れている。

 12.9インチiPad Proのディスプレイは、解像度は2732×2048ドットと、サイズ・解像度ともに大きい。しかし12.9インチiPad Proは、解像度に対応していないアプリは単純拡大表示になる。拡大表示になると、キーボードなどのUIも無駄に拡大されてしまうので、意外と使いづらい。そういった意味で、互換性に問題の無い9.7インチiPad Proは使いやすい面もある。

iPadシリーズ唯一の12メガピクセルカメラ搭載

 プロセッサーは12.9インチiPad Proと同じ、A9Xチップを採用している。といっても、まったく同じではなく、アップル公式の比較表によると、若干12.9インチiPad Proの方が高速となっている。

 App Storeで販売されてるアプリ「Geekbench 3」によると、プロセッサー自体はほぼ同クロックだが、システムメモリー容量が12.9インチiPad Proだと3.89GB、9.7インチiPad Proだと1.92GBとなっていて、ベンチマークでもそこで差がついている。

9.7インチiPad Proのベンチマーク結果
12.9インチiPad Proのベンチマーク結果
9.7インチiPad Pro(左)はカメラ部が盛り上がっている(右はiPad Air 2)

 逆に9.7インチiPad Proの方が高性能なポイントもある。たとえばカメラはiPhone 6s/6s Plus/SEと同等の12メガピクセルカメラで、Live PhotosやFocus Pixelsの高速AF、4Kビデオなどに対応する。ただし、カメラ部はほかのiPadと異なり、iPhone 6s/6s Plusのように出っ張っている。インカメラはほかのiPadは1.2メガピクセルだが、9.7インチiPad Proは5メガピクセルだ。

 12.9インチiPad Pro同様、4つのスピーカーが内蔵されていて、従来のiPad内蔵スピーカーに比べると格段に良い音を響かせてくれる。とくに横画面表示時、高いステレオ効果を発揮する。映画や音楽をじっくり楽しむなら、外付けのスピーカーやヘッドホンを使いたいところだが、ちょっとYouTubeを見るくらいなら、わざわざスピーカーをつながないでもいいかな、と感じる。

12.9インチiPad Proと同じApple Pencil対応

Apple Pencil

 Apple PencilはiPad Proシリーズ専用のスタイラスだ。別売りで、税別1万1800円と、けっこうイイお値段がする。Lightningコネクターを挿したiPad ProとBluetoothペアリングされる仕組みだ。普通にアイコンタップなどもできるが、対応アプリでは筆圧や傾きなども検知してくれる。

 Apple Pencilは主にグラフィック寄りのクリエイティブ用途向けのデバイスだ。先日、絵描きな友人にちょっと12.9インチiPad Proの「Adobe Sketch」アプリを試してもらった。その友人曰く、一般的な液晶ペンタブレット(一般的といっても10万円くらいする)と比較しても、レスポンスや精度、ペン先と表示のギャップ、ペンの滑りなどは悪くないらしい。品質面でもプロ向けデバイスと遜色がないようだ。

Apple PencilはLightningコネクターで充電する

 筆者は絵の才能はからっきしだが、それでも数カ月間12.9インチのiPad Proを使っていて、仕事でApple Pencilを使う機会は何度もあった。

 たとえば書籍の校正作業(原稿の入った紙面をチェックして、訂正の赤字を入れる作業)では大活躍だった。MacとiPadで同期できる「PDF Expert」などを使えば、「iPadで赤字入れ」→「Macで足りないテキスト執筆」という作業が非常にスムーズに行えた。

 Apple Pencilは万人が必要とするデバイスではないと思うが、仕事で使っても満足できるだけの精度と使いやすさ、品質となっている。仕事で使うならば、買う価値のあるデバイスだ。

Smart Keyboard対応だけど、日本語入力の実用性はイマイチ

Smart Keyboard

 9.7インチiPad Proは12.9インチiPad Pro同様、側面に接触端子があり、そこに専用キーボード付きカバー「Smart Keyboard」を装着できる。

 キーボードの大きさは12.9インチに比べると9.7インチはやや小さく、キータッチもペコペコしているが、それでもタッチタイピングできるサイズだ。

 しかし、「これがあればノートパソコンみたいになる」という考えは、少なくとも日本語を入力するのであれば通用しない。iOS標準の日本語入力機能は、少なくとも文筆業である筆者にとって、物足りなさを感じるクオリティである。

12.9インチiPad Pro向けのSmart Keyboard(下)に比べるとやや小さいが、タッチタイピングには十分なサイズ感

 iOS標準の日本語入力機能は、変換精度も高い方ではないが、オフにできない推測変換が邪魔になることがある。意図しない文字が勝手に入力されないように、いちいちチェックと操作をしないといけないからだ。文章を考える→キーボードを叩くという作業に割り込みが入り、マッハの勢いでストレスがたまっていくのだ。

 iOSも「ATOK」などサードパーティ製の文字入力アプリをApp Storeからダウンロードできるが、現行のiOSではサードパーティ製文字入力アプリは外部キーボードを利用することができない。

ATOK Pad。筆者は仕事で大活用している

 特殊な例として、独立した文字入力システムが組み込まれているメモアプリ「ATOK Pad」は、Smart Keyboardを利用できる。このアプリは推測変換をオフにできるので、キーボードでの高速文字入力も快適だが、純粋なテキスト入力以外には使いにくい。

 Office系アプリやメールアプリ、チャットアプリ、ブラウザなどの日本語入力では、やや残念なiOS標準の日本語入力機能に頼らざるを得ないので、「iPad ProとSmart Keyboardがあればノートパソコンが要らない」なんていうことは、あまり期待しない方が良い。

 そもそも9.7インチiPad Pro(6万6800円〜)にSmart Keyboard(1万6800円)を足すと、そこそこの値段になるので、Windowsのノートパソコンやタブレットは買えてしまうし、合わせた重さも690gと、ノートパソコンに対して圧倒的に軽いわけでもない。

地味にすごい9.7インチiPad ProのLTE-Advanced

 9.7インチiPad ProはiPadシリーズとしては初めて、最大300Mbpsの「LTE-Advanced」に対応している。キャリアアグリゲーションにも対応し、対応バンド数も23種類で、もちろんCDMAも使える。現状、最多の通信方式に対応するiOSデバイスだ。

日本ではauとAlwaysOnline、GigSkyの3社を選べるが、国内ではauがオススメ

 さらに日本で販売される9.7インチiPad Proは、初めてApple SIMを内蔵している。別売りのApple SIMを買うこともなく、SIMカードスロットがカラッポの状態でも、Apple SIMの機能を使うことが可能となっている。

 Apple SIMはアップルが提供するiPad専用(iPad Air 2以降が対応)のSIMカードで、これを挿していると、iOSの設定メニュー内から任意のキャリアのデータプリペイド契約を購入できる。選べるキャリアは限られているが、日本ではauの「LTEデータプリペイド」相当のプランを購入できる。しかもデータ契約がない状態でも、モバイルネットワーク経由で契約可能なので、出張先で急遽ネットが必要になった、みたいなときにも即座に対応できる。

設定画面でプリペイド購入できる。Wi-Fiも不要だ

 auのプランは1500円/1GB(期限1カ月)なので、MVNOに比べるとややギガバイト単価は高いが、SIMカード代や手数料が要らないので、利用頻度によっては割安になることもある。

 Apple SIMがあると、海外旅行時、現地でプリペイドSIMカードを購入する手間を省ける。現地キャリアの通常プランをそのまま買えるのは、日本とアメリカ、イギリスくらいだが、そのほかの国ではローミング専門の「GigSky」か「AlwaysOnline Wireless」のサービスを購入できる。どちらもローミングなのでやや高めではあるが、短期滞在時や現地SIMカードを調達できなかったとき、あるいはSIMカードを買いに行くまでの予備としては便利である。

ドコモのSIMカードを挿した状態でも、「新規プラン追加」からauのプリペイドを買える。ドコモは実効で下り約40Mbpsと、CAの効果が出ているようだ
auのネットワークではTD-LTEの効果か、下り最大で70Mbps程度もマークした

9.7インチで持ち運びしやすいが、やはりプロ向けのツール

 個人的には、iPad Proは「業務で使うから買う」人向けのデバイスだと思う。とくにApple PencilはiPad Pro専用なので、グラフィック系の業務などで必要なら、iPad Proを選ぶしかない。あとは12.9インチと9.7インチのどっちにするかだけだ。

 イラストレーターやデザイナーなど、画面の広さが絶対的に必要な仕事をしているなら、12.9インチの大きさは圧倒的に便利だ。しかし12.9インチiPad Proは覚悟が必要なくらい大きくて重いので、よほど大画面が必要でない限り、9.7インチで良いと思う。

 Apple Pencilが不要というのであれば、iPad Proを選ぶ意義は希薄で、同サイズのiPad Air 2という選択肢も出てくる。9.7インチiPad Proの性能も魅力的だが、iPad Air 2の性能もかなりのもので、現状の一般的なアプリで性能不足を感じることはほとんどない。

iPad Air 2(2014年10月発売)のベンチマーク結果。iPad Proとは体感できる差はほぼない
iPad mini 4(2015年9月発売)のベンチマーク結果。小さいのにデキるヤツだ
ついでにiPad Air(2013年11月発売)のベンチマーク結果。まだまだ現役性能だ
第3世代iPad(2012年3月発売)になると各処理がかなり重いものの、ウチでは稼働中だ
下から12.9インチiPad Pro、9.7インチiPad Pro、iPad mini 4。12.9インチはかなりデカく見えるが、実際かなりデカい

 そしてiPad Air 2でも良いとなると、ほぼ同性能で7.9インチのiPad mini 4も選択肢に入ってくる。iPad mini 4ならちょっと大きめのジャケットのポケットにも入るので、可搬性は非常に高い。

 Wi-Fiモデルで比較すると、9.7インチiPad Proは32GBモデルで6万6800円、同128GBモデルは8万4800円、iPad Air 2は64GBで5万5800円、iPad mini 4は64GBで5万3800円だ(単純に比較できる同一容量モデルが存在しないことに注意)。Apple Pencilも買うとなると、差額はさらに大きくなる。

 もちろんApple Pencilを使わなくても、9.7インチiPad Proを選ぶのはアリだと思う。少しでも良い性能のiPadを選べば、それだけ長い期間、最新のiOSを快適に使える。4年に渡って使い続ければ、結果としてコストパフォーマンス的に安く付くことだってあり得る。

 どのiPadを選ぶかというバランスは、使う人次第だ。iPadのパフォーマンス不足はあとからだとどうしようもないが、財布のパフォーマンス不足は1カ月ほど節約モヤシ生活をすればなんとかなる、という考え方もある。迷うくらいなら上位機種を買ってしまった方が良いかも知れない。ちなみに現在アップルストアでは24回払いの「Appleローン」が金利0%で利用できる。くれぐれもご利用は計画的に。

白根 雅彦