レビュー
「9.7インチiPad Pro」ファーストインプレッション
「9.7インチiPad Pro」ファーストインプレッション
持ち運びしやすいが、やはりプロ向けのツール
(2016/4/1 11:30)
ここ数年、iPadは秋に新製品が発表・発売されることが多いが、今年は春に「9.7インチiPad Pro」が発表・発売された。春のiPad発売は、2012年発売の第3世代iPad以来だ。
9.7インチiPad Proは、同時発表された「iPhone SE」同様の「既存モデルのサイズ違い」という位置づけだが、やや安価な値付けとなったiPhone SEとは異なり、スペックや機能が強化された、より高価な上位モデルとなっている。
今回は9.7インチiPad Pro(64GB/ローズゴールド/SIMフリー版)を購入できたので、ほかのiPadとの違いを中心にファーストインプレッションをお届けする。
デザインはほぼiPad Air 2と同じ
9.7インチiPad Proのサイズ・重さは、iPad Air 2と同じだ。大きさは240×169.5×6.1mmで重さはWi-Fiモデルで437g、Wi-Fi+Cellularモデルが444gとなっている。
しかし、これはカタログスペック上での話で、筆者が購入したWi-Fi+Cellularモデルをキッチンスケールで計測したところ、460gだった。筆者が買った個体が特別なのか、カタログスペックが間違っているかは不明だ。同じキッチンスケールでiPad Air 2(Wi-Fi+Cellularモデル)を計測すると446gなので、14gほど重たくなっている。
デザインはiPad Air 2とほぼ同じだが、12.9インチiPad Pro同様、上端側にもスピーカー穴が追加されているので、見分けは付けやすい。Wi-Fi+Cellularモデルのアンテナ回りのデザインも異なっている。また、9.7インチiPad ProはiPadシリーズでは唯一、ローズゴールドのカラーバリエーションが用意されている。
iPad Air 2向けのジャケットケースなどの周辺アクセサリーも流用しやすそうだが、iPad Air 2向けのSmart CoverやSmart Caseは流用できない。上端にiPad Air 2にはないスピーカー穴があり、サードパーティ製のジャケットケースを流用するとふさがれる可能性もあるので注意が必要だ。
別売りのキーボード内蔵カバー「Smart Keyboard」の重さは実測で230g。本体の半分くらいの重さで、合わせると実測で690gになった。たいていのノートパソコンよりは軽いが、軽さのアドバンテージは小さくなってしまう。
ディスプレイサイズもiPad Air 2と同じ。でも性能アップ!
ディスプレイサイズは9.7インチで解像度は2048×1536ドット。iPad Air 2とまったく同じだ。
ディスプレイは性能が強化され、色域が広がり、環境光に合わせ色味を調整するTrue Toneという機能が追加された。写真レタッチなど、色味を厳密に表示させたいプロユースを意識しての仕様だろう。この部分については、12.9インチiPad Proより9.7インチiPadの方が優れている。
12.9インチiPad Proのディスプレイは、解像度は2732×2048ドットと、サイズ・解像度ともに大きい。しかし12.9インチiPad Proは、解像度に対応していないアプリは単純拡大表示になる。拡大表示になると、キーボードなどのUIも無駄に拡大されてしまうので、意外と使いづらい。そういった意味で、互換性に問題の無い9.7インチiPad Proは使いやすい面もある。
iPadシリーズ唯一の12メガピクセルカメラ搭載
プロセッサーは12.9インチiPad Proと同じ、A9Xチップを採用している。といっても、まったく同じではなく、アップル公式の比較表によると、若干12.9インチiPad Proの方が高速となっている。
App Storeで販売されてるアプリ「Geekbench 3」によると、プロセッサー自体はほぼ同クロックだが、システムメモリー容量が12.9インチiPad Proだと3.89GB、9.7インチiPad Proだと1.92GBとなっていて、ベンチマークでもそこで差がついている。
逆に9.7インチiPad Proの方が高性能なポイントもある。たとえばカメラはiPhone 6s/6s Plus/SEと同等の12メガピクセルカメラで、Live PhotosやFocus Pixelsの高速AF、4Kビデオなどに対応する。ただし、カメラ部はほかのiPadと異なり、iPhone 6s/6s Plusのように出っ張っている。インカメラはほかのiPadは1.2メガピクセルだが、9.7インチiPad Proは5メガピクセルだ。
12.9インチiPad Pro同様、4つのスピーカーが内蔵されていて、従来のiPad内蔵スピーカーに比べると格段に良い音を響かせてくれる。とくに横画面表示時、高いステレオ効果を発揮する。映画や音楽をじっくり楽しむなら、外付けのスピーカーやヘッドホンを使いたいところだが、ちょっとYouTubeを見るくらいなら、わざわざスピーカーをつながないでもいいかな、と感じる。
12.9インチiPad Proと同じApple Pencil対応
Apple PencilはiPad Proシリーズ専用のスタイラスだ。別売りで、税別1万1800円と、けっこうイイお値段がする。Lightningコネクターを挿したiPad ProとBluetoothペアリングされる仕組みだ。普通にアイコンタップなどもできるが、対応アプリでは筆圧や傾きなども検知してくれる。
Apple Pencilは主にグラフィック寄りのクリエイティブ用途向けのデバイスだ。先日、絵描きな友人にちょっと12.9インチiPad Proの「Adobe Sketch」アプリを試してもらった。その友人曰く、一般的な液晶ペンタブレット(一般的といっても10万円くらいする)と比較しても、レスポンスや精度、ペン先と表示のギャップ、ペンの滑りなどは悪くないらしい。品質面でもプロ向けデバイスと遜色がないようだ。
筆者は絵の才能はからっきしだが、それでも数カ月間12.9インチのiPad Proを使っていて、仕事でApple Pencilを使う機会は何度もあった。
たとえば書籍の校正作業(原稿の入った紙面をチェックして、訂正の赤字を入れる作業)では大活躍だった。MacとiPadで同期できる「PDF Expert」などを使えば、「iPadで赤字入れ」→「Macで足りないテキスト執筆」という作業が非常にスムーズに行えた。
Apple Pencilは万人が必要とするデバイスではないと思うが、仕事で使っても満足できるだけの精度と使いやすさ、品質となっている。仕事で使うならば、買う価値のあるデバイスだ。
Smart Keyboard対応だけど、日本語入力の実用性はイマイチ
9.7インチiPad Proは12.9インチiPad Pro同様、側面に接触端子があり、そこに専用キーボード付きカバー「Smart Keyboard」を装着できる。
キーボードの大きさは12.9インチに比べると9.7インチはやや小さく、キータッチもペコペコしているが、それでもタッチタイピングできるサイズだ。
しかし、「これがあればノートパソコンみたいになる」という考えは、少なくとも日本語を入力するのであれば通用しない。iOS標準の日本語入力機能は、少なくとも文筆業である筆者にとって、物足りなさを感じるクオリティである。
iOS標準の日本語入力機能は、変換精度も高い方ではないが、オフにできない推測変換が邪魔になることがある。意図しない文字が勝手に入力されないように、いちいちチェックと操作をしないといけないからだ。文章を考える→キーボードを叩くという作業に割り込みが入り、マッハの勢いでストレスがたまっていくのだ。
iOSも「ATOK」などサードパーティ製の文字入力アプリをApp Storeからダウンロードできるが、現行のiOSではサードパーティ製文字入力アプリは外部キーボードを利用することができない。
特殊な例として、独立した文字入力システムが組み込まれているメモアプリ「ATOK Pad」は、Smart Keyboardを利用できる。このアプリは推測変換をオフにできるので、キーボードでの高速文字入力も快適だが、純粋なテキスト入力以外には使いにくい。
Office系アプリやメールアプリ、チャットアプリ、ブラウザなどの日本語入力では、やや残念なiOS標準の日本語入力機能に頼らざるを得ないので、「iPad ProとSmart Keyboardがあればノートパソコンが要らない」なんていうことは、あまり期待しない方が良い。
そもそも9.7インチiPad Pro(6万6800円〜)にSmart Keyboard(1万6800円)を足すと、そこそこの値段になるので、Windowsのノートパソコンやタブレットは買えてしまうし、合わせた重さも690gと、ノートパソコンに対して圧倒的に軽いわけでもない。
地味にすごい9.7インチiPad ProのLTE-Advanced
9.7インチiPad ProはiPadシリーズとしては初めて、最大300Mbpsの「LTE-Advanced」に対応している。キャリアアグリゲーションにも対応し、対応バンド数も23種類で、もちろんCDMAも使える。現状、最多の通信方式に対応するiOSデバイスだ。
さらに日本で販売される9.7インチiPad Proは、初めてApple SIMを内蔵している。別売りのApple SIMを買うこともなく、SIMカードスロットがカラッポの状態でも、Apple SIMの機能を使うことが可能となっている。
Apple SIMはアップルが提供するiPad専用(iPad Air 2以降が対応)のSIMカードで、これを挿していると、iOSの設定メニュー内から任意のキャリアのデータプリペイド契約を購入できる。選べるキャリアは限られているが、日本ではauの「LTEデータプリペイド」相当のプランを購入できる。しかもデータ契約がない状態でも、モバイルネットワーク経由で契約可能なので、出張先で急遽ネットが必要になった、みたいなときにも即座に対応できる。
auのプランは1500円/1GB(期限1カ月)なので、MVNOに比べるとややギガバイト単価は高いが、SIMカード代や手数料が要らないので、利用頻度によっては割安になることもある。
Apple SIMがあると、海外旅行時、現地でプリペイドSIMカードを購入する手間を省ける。現地キャリアの通常プランをそのまま買えるのは、日本とアメリカ、イギリスくらいだが、そのほかの国ではローミング専門の「GigSky」か「AlwaysOnline Wireless」のサービスを購入できる。どちらもローミングなのでやや高めではあるが、短期滞在時や現地SIMカードを調達できなかったとき、あるいはSIMカードを買いに行くまでの予備としては便利である。
9.7インチで持ち運びしやすいが、やはりプロ向けのツール
個人的には、iPad Proは「業務で使うから買う」人向けのデバイスだと思う。とくにApple PencilはiPad Pro専用なので、グラフィック系の業務などで必要なら、iPad Proを選ぶしかない。あとは12.9インチと9.7インチのどっちにするかだけだ。
イラストレーターやデザイナーなど、画面の広さが絶対的に必要な仕事をしているなら、12.9インチの大きさは圧倒的に便利だ。しかし12.9インチiPad Proは覚悟が必要なくらい大きくて重いので、よほど大画面が必要でない限り、9.7インチで良いと思う。
Apple Pencilが不要というのであれば、iPad Proを選ぶ意義は希薄で、同サイズのiPad Air 2という選択肢も出てくる。9.7インチiPad Proの性能も魅力的だが、iPad Air 2の性能もかなりのもので、現状の一般的なアプリで性能不足を感じることはほとんどない。
そしてiPad Air 2でも良いとなると、ほぼ同性能で7.9インチのiPad mini 4も選択肢に入ってくる。iPad mini 4ならちょっと大きめのジャケットのポケットにも入るので、可搬性は非常に高い。
Wi-Fiモデルで比較すると、9.7インチiPad Proは32GBモデルで6万6800円、同128GBモデルは8万4800円、iPad Air 2は64GBで5万5800円、iPad mini 4は64GBで5万3800円だ(単純に比較できる同一容量モデルが存在しないことに注意)。Apple Pencilも買うとなると、差額はさらに大きくなる。
もちろんApple Pencilを使わなくても、9.7インチiPad Proを選ぶのはアリだと思う。少しでも良い性能のiPadを選べば、それだけ長い期間、最新のiOSを快適に使える。4年に渡って使い続ければ、結果としてコストパフォーマンス的に安く付くことだってあり得る。
どのiPadを選ぶかというバランスは、使う人次第だ。iPadのパフォーマンス不足はあとからだとどうしようもないが、財布のパフォーマンス不足は1カ月ほど節約モヤシ生活をすればなんとかなる、という考え方もある。迷うくらいなら上位機種を買ってしまった方が良いかも知れない。ちなみに現在アップルストアでは24回払いの「Appleローン」が金利0%で利用できる。くれぐれもご利用は計画的に。