富士通と名大、振り込め詐欺を防止する過信状態の検出技術


 富士通と名古屋大学は、通話の会話を分析し考察能力の低下に気づいていない“過信状態”を自動で検出する技術を共同開発した。振り込め詐欺の誘引通話を検出し、詐欺を防止する実証実験も実施される。

 今回開発された技術は、会話の内容をリアルタイムに分析することで、音声認識による特定キーワードの検出に加えて、被害者が過信状態に陥っている時にみられる声の調子の変化を検出するというもの。キーワード検出と過信状態の検出を組み合わせることで、振り込め詐欺誘引通話における過信状態の検出率は90%以上、誤検出は約10%と、高い精度を実現している。また、過信状態を検出する技術は世界で初めてとしている。

 実験においては、固定電話にマイクなどを取り付け、パソコンと組み合わせて検出する装置のほか、同じ機能を実現するAndroidスマートフォン用アプリも用意。どちらも、会話の内容で振り込め詐欺誘引通話を検出すると、会話の終了後に検出結果として注意喚起を行うほか、あらかじめ登録した家族などのメールアドレスに注意喚起のメールを送信する。分析に利用された会話のデータは、分析後には消去される仕組みで、パソコン、スマートフォン版ともにネットワークを介さず単体で動作するようになっている。

 今後実施される実証実験では、9月まで警察大学校、名古屋銀行と協力して行われる。ここでは、キーワード検出に使用される語彙が警察大学校などから提供されるほか、模擬通話で検出率などを評価していく。


行動モデルを利用する開発された技術の概要
パソコンの検出ソフトの内容声の調子は、通常状態と比較して差を検出する
過信状態の検出率は90%以上という今後の実証実験では固定電話とスマートフォンを利用

 

 19日に行われた記者向けの説明会では、会話の内容から「示談」「請求」といった言葉をリアルタイムに検出していく様子がデモンストレーションとして示されたほか、好ましくない情報が過剰に与えられ、被害者の声が通常の状態とは異なる調子になっていることを過信状態として検出する様子も披露された。


名古屋大学情報科学研究科 教授の武田一哉氏富士通 モバイルフォン事業部先行開発統括部 部長付の松尾直司氏
固定電話と組み合わせたパソコンの検出ソフトの動作の様子。リアルタイムにキーワード検出が行われている最中スマートフォンアプリの動作の様子。会話が終わると分析される。デモでは、分析時間は数秒程度だった

 

 出席した名古屋大学情報科学研究科 教授の武田一哉氏は、「状況を抽出する技術」と過信状態の検出技術が持つ意味を説明し、「行動を数式化するなど、行動支援の仕組みが作れる」とした。また、言語には表れない心理状態など(非言語情報)を数値化することで、「その人のやり方や状態を検出するというもの。キーボードの打ち方、押し方といったその人らしさをインターフェイスに使えば、人間と機会の間が、よりミスマッチの無い状態になるだろう」と期待を見せた。

 富士通 モバイルフォン事業部先行開発統括部 部長付の松尾直司氏からは技術的な説明が行われた。松尾氏によれば、キーワード検出だけでは誤検出が30%程度に増え、詐欺ではない契約関係の通話で特に誤検出が増える傾向にあったという。過信状態の検出にめどがついたことで、大規模な実証実験が行われることになったが、実用化のめどについては「現時点では、そこまで至っていない」とした。また、実験や開発内容についても、ひとまずは振り込み詐欺の防止に向けたものに集中していく方針が明らかにされた。

 




(太田 亮三)

2012/3/19 14:20