900MHz帯割当でイー・アクセスが公開討論会、要望書も提出


 「イー・モバイル」ブランドでデータ通信サービスを展開するイー・アクセスは3日、新たな携帯電話向け周波数帯となる900MHz帯の割当について、総務省へ要望書を提出した。あわせて同社では、有識者を招いて公開パネルディスカッションも開催した。

 

LTEの導入、他社へのネットワーク提供を要望

イー・アクセスのガン氏

 電波を使うサービスである携帯電話やモバイルデータ通信では、数年に一度、新たな周波数帯が用意され、既存事業者、あるいは新規参入事業者に割り当てられる。近い将来に予定されているものとしては、900MHz帯が2012年、700MHz帯をその後、早期に利用できるよう、制度整備が進められる見込み。

 これらの周波数帯に対して、携帯電話各社は「利用したい」と総務省の調査で意向を示しており、イー・アクセスでは9月中旬に報道関係者向け説明会を開催して、900MHz帯の獲得に意欲を示し、競争政策を重視するよう訴えた。

 今回提出された要望書は、同社の主張に沿った内容で、今後、900MHz帯の割当方針が定められることに向けて「次世代技術のLTEを早期に全国で普及させること」「新規・新興事業者やMVNOを含めた競争の促進」を訴えている。また、複数の事業者が立候補した場合、審査基準として「LTEサービスの人口カバー率」「MVNOユーザーの自社の全ユーザーに対する比率」「SIMフリー端末の自社の全ユーザーに対する比率」「提供するエンドユーザー料金とMVNO料金の水準」の4点を掲げ、事業基盤やユーザー数など大手が自然と優位になるような基準は避けるよう求めている

 3日、公開パネルディスカッションの前に説明を行った同社代表取締役社長のエリック・ガン氏は、審査方法として、2013年度末~2016年度末まで、各社の計画を比較して、より優位な事業者を選ぶべきと説明した。

LTE導入、競争促進を主張4つの審査基準を提言

 

構造が変わったケータイ業界

 Webサービス「ニコニコ生放送」でも中継された公開パネルディスカッションは、日本の通信競争政策をテーマにしたもの。インターネット総合研究所代表取締役所長の藤原洋氏、iモードを牽引した、慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏がパネラーとして参加した。

インターネット総合研究所の藤原氏

 これまでの競争政策について、藤原氏は「前例・実績重視で、その分リスクも少なかったが新規参入も少なかった。一方、メリットとしては、2000年の欧州における3G向け電波オークションブームに巻き込まれなかったことが挙げられる」とコメント。かつてNTTドコモに在籍していた夏野氏は「どこに所属していたか、関係なく発言したい」と前置きした上で、「最初は700MHz帯だけ論じられていたが、私が900MHz帯も利用できるのでは、と最初に指摘した。海外との協調という面でも、900MHz帯はプラチナバンド。ただし、そうした事情は700MHz帯にはない。900MHz帯とは分けて考えるべきではないか」と指摘する。

 経済産業省や資源エネルギー庁での勤務経験を持つ岸氏は「競争政策自体は前向きな評価をしていいと思う」と指摘。同氏がかつて関わった分野の1つである電力は、部分的な自由化に留まり、電力会社の選択肢が少ないが、通信分野は新規参入も定期的にあり、料金も年々下がったことから競争政策が機能してきた、とする。ただし、既得権益化、国際標準との兼ね合いといった課題があるとして、割当の考え方も進化する時とした。
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元官僚としての視点も交えた岸氏

 携帯電話業界で、ここ数年、最も話題となっているスマートフォンの影響について、夏野氏は「スマートフォンの登場で大きく変わったのは、通信産業の進化が全てシリコンバレーに握られたこと」と述べ、業界の主要プレーヤーが変化し「各社の端末発表会は、アップルかグーグルの話になってきているのは事実」とする。またスマートフォンでは、ユーザー保護の考え方、通信量に関する考え方などは、従来の通信業界の常識ではなく、インターネット業界の常識が主流になっているとして、進化のスピードにキャリア(携帯電話事業者)やメーカーはついていけず、特にキャリアは土管になるしかないと語った。

 こうした点については、岸氏も「インフラレイヤーに留まらず、その上のプラットフォームレイヤー、端末レイヤーが融合しているのがアップルに代表される世界。ただ、日本メーカーもプラットフォームレイヤーでは頑張れる余地があるはず」と述べ、通信事業者も自社インフラを用いる他のプレイヤーに良い影響を与えられるような考え方が必要とした。

 

事業者の“本音トーク”を引き出せ

夏野氏の指摘は多岐に渡った

 スマートフォンの増加は、通信量の増加を招き、一部では「定額制がなくなるのではないか」といった声も挙がることについて、夏野氏は「通信各社は、トラフィック増加はわかっていたはず。スマートフォン以前は、トラフィックがあまり増えないようコントロールされていたが、スマートフォンを導入するということはネットワークとのバランスを通信事業者自らが拒否した、放棄したということ」と指摘し、定額制を廃止したり安易に値上げしてユーザーに負担させるような考え方は慎むべきとした。今後の新方式導入についても、高速なサービスでは従来より高額な通信料が実現する、といった考え方では普及しないと警告し、「事業計画でどういう料金水準にするかクリアにしてもらわないと」と述べた。料金面に関しては岸氏も「トラフィックを各社は予測しているはずで、予見できなかったので定額制を辞める、という話の進め方では理解を得にくい」とした。

 同氏は、総務省の参入意向調査では、各社が新たな周波数帯をLTE、あるいはHSPA方式で使う、と示していることについて「ぜひ本音を」とする。これは、新たな周波数を求める各社の意向の背景には、スマートフォンの増加によりトラフィックの急増があり、早急な対策を実現するには、LTEなど今後普及させる方式ではなく、現在導入済の方式で活用したい――というのが“各社の本音”という分析だ。夏野氏は「たとえばソフトバンクモバイルは3Gとして(900MHz帯が)欲しくて仕方ないわけで、LTEは将来(の導入)かもしれない」と述べ、割当済の周波数を含めて、サービス全体をどう形づくっていくか、各社から“本音の提案”を引き出すべきとした。

競争促進の重要性を訴えた千本氏

 これに対し、イー・アクセス代表取締役会長の千本 倖生氏は「既存サービスの延長線上ではなく、明確に世界最先端のワイヤレスブロードバンド環境を整備したい。(夏野氏が指摘した既存方式での活用は)対立した概念になっている」と述べた。

 900MHz帯でLTEを率先して導入するかどうか、といった議論に関して、藤原氏は「かつては欧米主導の経済だったが、現在は新興成長国にシフトしてインド人や中国人との付き合いが増えてきた。その中で、彼らは日本に対して『最先端の使い方を日本でやって欲しい』と求める」と説明し、世界のテストベッド(試験環境)としての役割が求められているとする。特に日本の消費者は目が肥えており、日本発のプロダクトやサービスについては、新興国市場でもニーズが高いとした。

 このほか、900MHz帯の割当に関して、イー・アクセスではMVNO(仮想移動体通信事業者)やMNO(移動体通信事業者)と、他社に対してネットワークを開放することを重視し、さらには端末もSIMロックフリーのものを一定比率、用意すべき、と主張している。このうち、SIMロックフリーについて夏野氏は「空回りしているよう」と表現して、店頭でのロック解除が煩雑など、事実上、日本では機能していないと指摘する。SIMロックフリーの議論の前提の1つとなる、海外の動向についても「欧州ではSIMロックフリーが主流と言う人もいるがプリペイドが中心で、ポストペイドはほとんどSIMロックフリーではない。こうした認識がないまま総務省で議論が進められたのは情けない」とした。また夏野氏は、トラフィック対策の一環として活用されるWi-Fiについて、「携帯各社のサービスをパブリックなものにして、サインインなどを不要にすれば、日本はWi-Fi大国になる。新たなサービスも考えられるし、(災害時などにおける)セーフティネットになる」とも述べた。

 




(関口 聖)

2011/10/3 18:56