5人の著名ゲームクリエイターが参加、モバゲースマホ版で配信へ


 AQインタラクティブ(AQI)とディー・エヌ・エー(DeNA)は、著名なゲームクリエイターが参加する新企画「スーパークリエイターズ」の実施に向けて、互いに協力することで基本合意に達した。本企画の概要について25日、都内で記者説明会が行われた。

左からクラフト&マイスターの船水氏、、マーベラスエンターテイメントのはしもと氏、AQIの許田氏、DeNAの守安氏、プロペの中 裕司氏、グラスホッパー・マニファクチュアの須田氏、comceptの稲船氏

 

日本のクリエイターの底力

 「スーパークリエイターズ」は、これまで数々の人気ゲームを提供してきたクリエイターが参加し、DeNAのスマートフォン向け「Mobage」でゲームを配信する、という取り組み。AQIがゲームパブリッシャーとなり、各クリエイターが開発したゲームを「Mobage」で年内にも配信する。この取り組みによるゲーム配信は、「Mobage」だけになるという。

許田氏

 冒頭、挨拶を行ったAQI代表取締役 執行役員社長の許田 周一氏は、今回の取り組みを「世界的に人気のあるゲームを手がけてきたクリエイターに、携帯向けソーシャルゲームへチャレンジしてもらうための企画」と紹介。その背景には、世界のゲーム業界において、日本を取り巻く環境が厳しさを増していることがある、とした同氏は、「“もう一度、日本のゲームクリエイターの底力を見せたい”という思いがクリエイター側にある。そこを汲みたいと思っていたところ、DeNAの力添えを得られた」と説明する。

 今回の会見で明らかにされた参加クリエイターは、国内外で実績を積んでいる人物、ということに加え、許田氏がかつて一緒に仕事をした経験がある、とのこと。ただ、声を掛けながらも準備が間に合わなかったクリエイター、あるいはまだ声を掛けていないクリエイターもおり、今後拡充を図る考えで、家庭用ゲーム機などで人気タイトルを輩出してきたクリエイターに対し、AQIが開発支援を行い、DeNAが環境を整えて浸透を図ったり、開発エンジンの提供、コンテンツ開発のコンサルティングを行う。

 挨拶の最後に、再び許田氏は「日本のゲームクリエイターの底力をもう一度を見せる」と述べ、過去20年以上にわたり、多くのユーザーを魅了してきたクリエイターによるコンテンツをソーシャルゲームでも展開すると意気込みを見せた。

 

市場拡大、海外進出を目指すDeNA

守安氏

 クリエイターたちの挨拶の後に登壇したDeNA代表取締役社長の守安 功氏は「子供の頃から慣れ親しんできたゲームタイトルの制作者に、Mobage向けゲームを作ってもらえるということで、一ゲームファンとしても非常に楽しみ」と今回の取り組みへの期待感を表明する。

 またDeNA社長という立場からも「意義があると思っている」と語る。これは現在、「Mobage」で利用できる仮想通貨「モバコイン」流通額が月間100億円規模、年間1200億円となり、他社を含めれば、ソーシャルゲーム市場は年間2000億円規模に達するなど、市場が急激に拡大していることが背景にある。守安氏が「今、日本で一番人気のソーシャルゲームだと思う」とする「怪盗ロワイヤル」(DeNAが開発)は、この1年間の売上が300億円で、「コンソールゲームパッケージが1本6000円だとすれば、500万本」として、コンソールゲーム市場に遜色ない規模、とした。

 また、これまではいわゆるフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)ユーザーが大勢を占めていたが、昨今の急激なスマートフォンへの移行を受け、さらに市場規模が拡大するとの見方を示し、スマートフォンではグラフィックやゲーム性が従来よりも格段に向上するとして、「ゲームとして面白くない、と思っていたユーザーをソーシャルゲームに引き込める」と分析する。

 さらに、スマートフォンでは海外でも同じAndroidやiOSの端末が利用されていることから、国内だけの展開に留まらず、海外にも進出できるとして「世界のユーザーに同じゲームを配信できる。我々にとってもチャンスが一気に広がっている。これまで売れるゲームを作ってこられた方々と世界に出て、世界ナンバーワンのプラットフォームを作っていきたい」と語った。

 

家庭用ゲーム機のノウハウをソーシャルゲームに

 参加するゲームクリエイターは、comcept代表取締役の稲船 敬二氏、グラスホッパー・マニファクチュアCEOの須田 剛一氏、プロペ代表取締役社長の中 裕司氏、マーベラスエンターテイメント執行役員COOのはしもと よしふみ氏、クラフト&マイスター取締役の船水 紀孝氏となる。いずれもテレビに繋げて遊ぶ家庭用ゲーム機、あるいは携帯ゲーム機など、いわゆるコンソール機と呼ばれる機器、あるいはゲームセンターなど業務用ゲーム機向けのタイトルの開発を中心に、豊富な実績と経験を持つ人物ばかりだ。

稲船氏

 前週、グリー向けコンテンツの開発会見に登壇したばかりの稲船氏は、かつてカプコンに在籍し、「ロックマン」「バイオハザード 2」「ロストプラネット」などをプロデュース。今回“スーパー”と名付けられたクリエイターの一員に選ばれて良かった、と率直に語った同氏は今回の取り組みを「新たな一歩」と評価。現在のソーシャルゲームの状況を「まだ過渡期で、こういったメンバーの力で変わるだろうし、変わらなきゃいけないと思う」と述べ、コンソール機向けタイトルで培ったノウハウを活かしたソーシャルゲームの開発を行うとする。この取り組みで提供するゲームタイトルの仮題が「JJ・ROCKETS(ジェイジェイ・ロケッツ)」と紹介し、「これまでの法則で十億、二十億かけてもソーシャルゲームにはならない。スーパークリエイターズにユーザーは何を求めるのか。稲船らしいゲームを求めている方がいっぱいいるだろう。それでソーシャルとして成り立っているもの。ただし、それがコンソールゲームとは違うと言う方向に持っていきたい」と決意を表明した。また「JJ・ROCKETS」の内容については、「僕自身アクションゲームが大好きです」と語ったほか、同氏自身がキャラクターデザイン出身ということで、キャラクターを重視するとコメント。「そこはソーシャルゲームは弱く、何かの真似が多い。そこもスーパークリエイターズが解決できるのではないか」(稲船氏)とした。

 

須田氏

 続いて挨拶した須田氏は、「スーパーファイヤープロレスリングIII FINAL BOUT」のディレクターなどを勤め、独立後は「ノーモア★ヒーローズ(NO MORE HEOES)」シリーズを手がけた人物。「日常の中で(コンソール)ゲームするが、日常の隙間を埋めるのがソーシャル」として、現状はゲームクリエイターの活躍の場が広がっていると指摘。「スーパークリエイターズ」では、ノーモア★ヒーローズシリーズを今冬に提供予定とのことで、「(同タイトルでは)殺し屋が主人公。どこまで表現できるか1つの課題で挑戦。たくさん血の出るソーシャルゲームを目指して展開したい」としたほか、須田氏個人は「ガンダムロワイヤル」に夢中として、現在実施されているキャンペーンでは「モバコイン200円分でジ・オ(Zガンダムに登場するモビルスーツ)と対戦できる。これがガンダムファンの心をくすぐる」と述べ、そのゲームバランスなどを学ぶと語った。

 

中氏

 欧米などで高い人気を得た「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」、人気RPGの「ファンタシースター」シリーズを手がけた中 裕司氏は「10年前にファンタシースターオンラインを出して、ネットワークゲームの苦労も楽しみも味わった。ここ数年、ネットワークゲームはちょっと退いていたが、今回チャレンジしてみようと思った」と語る。同氏がiPhone/iPad向けに提供するゲーム「PD -prope discoverer-」は、ゲームエンジンの「Unreal Engine」を用いており、総合ランキング1位を獲得。スマートフォンでのグラフィック表現に期待する中氏は、今回の取り組みとは別に「(ゲームエンジンの)Unityを使って4タイトルほどアプリを出す」として、スマートフォンという新たなプラットフォームが面白くなってきたとする。今回の取り組みについてはタイトル名が明らかにされなかったものの、「位置情報連動型の育成型の冒険をするようなゲーム」(中氏)を構想中という。現在育児中という同氏は、2歳の子供とのやり取りで感じるおもしろさをソーシャルゲームに盛り込めないか、として、機会があれば「位置情報連動型の育成型の冒険をするようなゲーム」に続き、さらにもう1本の開発を進める意向も示した。

 

はしもと氏

 「牧場物語」シリーズや「ルーンファクトリー」シリーズを手がけた、はしもと よしふみ氏は「ソーシャルゲームで牧場物語っぽいものが出てきて、“本気でやらないのか”と言われてきた」と述べ、「スーパークリエイターズ」では牧場物語シリーズを今冬にリリースするとした。これまでのコンソールゲームでは「クリスマスのイベントを真夏にプレイしたりする」として、通信機能を活かして、季節や天候をゲーム内容と連動させながら継続的にプレイできるゲームを目指すという。

 

船水氏

 アーケード向けの「ストリートファイター」シリーズや、「モンスターハンター」のプロデュースなどを行ってきた船水紀孝氏は「今までやってきたことを大分違うのかなと思うが、これまでの作り方を素直にやっていこうかと思っている、とはいえ、何か考えた方が良いかなと思ったので、スマートフォン向けに作る上で『生(なま)ゲー』というキーワードを考えた」と説明する。この「生ゲー」では、新鮮さや旬のもの、ライブ感といった意味を込めたとした同氏は「ソーシャルゲームはアーケードゲームの感覚に近いのかなと思っている」と述べて、日々変わるユーザーの好み、難度設定を活かして行ければ、と語っていた。

 




(関口 聖)

2011/7/25 19:45