KDDIが東日本大震災の状況説明、今後の見通しも明らかに


KDDIの田中氏

 KDDIは、「東日本大震災への対応状況と今後の見通しについて」と題して報道関係者向けの説明会を開催した。3月11日に発生した地震から約1カ月、代表取締役社長の田中孝司氏よりKDDIの通信状況や対応策、今後の見通しなどが説明された。

 田中氏は冒頭、被災者に哀悼の意を示し、現在もテレビなどを通じて被災地の映像を見るたびに心が痛むなどと話した。また、震災によりKDDIの携帯および固定網に影響が出たことについて陳謝するとともに、まず、4月7日23時32分頃に発生した宮城沖を震源とする震度6強の地震による影響を説明した。

4月7日23時32分の宮城沖地震の影響

 8日10時現在、auの基地局512局に障害が発生している。これは主に地震に伴って発生した停電による影響で、512局のうち486局が停電によりダウンしている。基地局には非常電源装置が用意されているが、その動作時間は約3時間となっている。移動電源車両が16台出動し、このうち3台が稼動している。

 田中氏は、停電が長引き移動電源車などでのバックアップが難しくなると、停止する基地局数はさらに増えるとの見方を示した。回線故障による基地局停止は26局とした。

 基地局の停止などにより、青森県、秋田県、岩手県、山形県、宮城県の一部において、auの携帯電話サービスが利用できない地域がある。法人向けのIP-VPNサービスや固定通信サービスにおいても停電の影響が出ている状況という。

震災への対応

 東日本大震災においてKDDIでは、緊急時のマニュアルに従い、災害対策本部の立ち上げフェーズ、情報収集フェーズ、復旧フェーズ、復興フェーズの4つに分けて対応中という。

 3月11日14時46分に地震が発生すると、15時10分に災害対策本部および、現地災害対策本部を設置された。災害対策本部長には社長の田中氏が就き、その下に運用対策本部、情報システム対策本部、現地対策本部が置かれた。

 11日16時、被災したKDDIのネットワークの状況を把握するとともに、車載型基地局や移動電源車の出動を指示し、16時50分には車載型基地局と移動電源車が現地に出発した。

 復旧フェーズとなった12日の6時半、東北で基幹網となる光ファイバーが切れたことで寸断された国内向けサービスの迂回措置が完了。翌13日の午前3時21分には、宮城県の岩沼小学校において車載型基地局の1台目が設置された。13日より公共機関などへの電話機の貸し出しが始まり、14日には燃料や救援物資が現地に運び込まれた。15日、国際サービスの迂回措置も完了した。

 3月29日になると、第1回目の対応状況の報告があった。この時点で通信機能の約9割が復旧していた。4月7日12時の段階では、携帯電話約91%、固定通信の約99%が復旧した。KDDIでは、4月末までに携帯網を約96%復旧させる予定だ。田中氏は、災害前とほぼ同等のエリアがカバーされるとしており、5月からは復興フェーズとして、新たな基地局を建設していく方針を示した。

 なお、震災で停止した基地局の76%は、停電によるものだ。それ以外の24%が津波や原発などによるもの。災害時にネックになったのは、ガソリンだったという。ネットワークセンターの自家発電に要する重油や軽油は、緊急時に供給する体制が整っていたものの、取り扱いの難しいガソリンについてはこうした体制が築けていなかった。物資輸送などのためにグループ会社で関係のあったところから、1缶20Lのガソリンをピストン輸送するとともに、金沢や大阪からもタンクローリーで燃料を調達したという。



震災の影響

 田中氏は、4月7日12時時点における、詳細な携帯サービスの状況も説明した。なお、この数値には4月7日23時の宮城沖地震の影響は反映されていない。前述した宮城沖で発生した地震の影響とは、多くは重複していないとのこと。

 KDDIには、東北地域全体で約3000局の基地局がある。7日12時現在、停止している基地局は岩手県で44局、宮城県で91局、福島県で41局となる。車載型基地局は11台中6台が、フェムトセル基地局は9台が稼動している。

 震災発生時、最大で95%の通信規制、東北6県で1933局の基地局が停止したが、7日12時現在、通信規制はなく、停止している基地局は176局まで減少した。トラフィックは音声が通常の8倍の発信、データ通信は通常の5倍程度に上昇した。音声は繋がりにくい状況になったが、データ通信についてはほぼ繋がっていたという。

 携帯電話の基地局は、目視はできないもののアンテナから電波を地上に降り注いでいる。KDDIでは、4月末までにこうした基地局のアンテナを上向きに調整することで電波をより遠くに飛ばし、1つの基地局のカバーエリアを拡大する大ゾーン化を図る。また、回線の切れた部分を衛星回線を使って迂回接続したり、暫定的に小型基地局なども設置していく方針だ。

 なお、新設する基地局は新800MHz帯および2GHz帯に対応したものとなる。修理で対応できる基地局については旧800MHzでも運用していく。現実的な問題として、通常の8倍の音声トラフィックに対応するインフラを構築していくのではなく、データ通信のカバー範囲を増やしていくような施策がとられるようだ。なお、KDDIではSkype社とともに、先着10万人に対して、Skypeと固定や携帯電話などの通信料が、最大1カ月間無料となるクーポンを提供している。



福島原発

 7日12時までに停止している176の基地局設備のうち、約30局は福島原発のエリアにある。福島原発の20km圏についてはほぼ復旧できている状態という。原発エリア内の状況についても説明があった。

 福島原発のエリアは通信圏外だが、東京電力の依頼により屋内設備については施設内で携帯電話が利用できるとのこと。これは、原発施設内で携帯電話が利用できなければ作業に支障が出るための措置で、電源を入れればすぐに利用できる状態で移動基地局が提供されているという。通常、フェムトセルのような小型基地局であっても電波法上、電源ONを利用者が行うことはできない。今回は政府からの要請もあって提供されているようだ。

被害状況を写真で説明

 田中氏は、基地局や局舎、基幹網である光ファイバーへの被害などを写真を交えて紹介した。仙台の局舎では、津波によって流されてきた松林が局舎に突っ込んだことで設備に被害が出た。

 また、現在は復旧しているものの、東北道や常磐道の地下に敷設されている光ファイバー網が切れたほか、海底ケーブルについても断線した。

 東北エリアには182のauショップがあり、このうち11店舗が全壊、要修理の店舗は42店舗となった。原発付近で営業を停止している3店舗を含め合計16店舗が営業を停止しているという。

 このほか被災地では、携帯電話の無料充電サービスや端末の貸出、利用料支払いの延期や端末修理の減免措置などがとられている。



「KDDIは通信事業者」と田中氏

 KDDIの基幹網である光ファイバーは3つのルートがある。海底ケーブル、高速道路地下のケーブル、電力会社敷設のファイバー網のうち、今回の震災において、海底ケーブルと地下ケーブルが切れてしまった。田中氏はリスクに対する見直しがもう一度必要との認識を示した。現時点では新潟と秋田へ固定網を敷くことが検討されているという。

 また、夏場に向けて電力需要が増すと予想されていることについて、社内で検討を進めているとした。震災による被害額については集計中としたが、KDDIとして100~500億円の被害規模になるとした。詳細については、4月の決算発表会で語られるという。

 田中氏は、「KDDIは通信事業者。通信をちゃんと提供し続けることが重要であると認識した。今回、初動も早く、復旧に向けて順調に進んでいると認識しているが、しかしながら、震災の影響は非常に大きいもの。物資などへの準備など、もっともっとやっていかなければならない」と、語った。被災地では、未だ余震が続いている状況で、4月7日23時には震度6強の地震も発生している。KDDIでは、引き続き早期復旧、そして復興に取り組んでいく方針だ。



 



(津田 啓夢)

2011/4/8 15:40