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クラウドは人類最大の資産になる――ソフトバンク孫氏が講演

「SoftBank World 2013」が7月23日、24日の2日間にわたって開催

 ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏は23日、都内で開催されている同社グループ主催の法人向けイベント「SoftBank World 2013」において、「世界に挑む」というタイトルで基調講演を行い、グローバルマーケットに斬り込む姿勢を鮮明にした。同社は7月11日に米スプリント・ネクステルの買収を完了し、子会社化。チャイナモバイル、米ベライゾン・ワイヤレスに次ぐ世界第3位の売上高を誇る通信事業者となり、これを足がかりに、パートナー企業とともに世界中の国・地域に向けた大胆な事業展開を積極的に進めていく方針だ。

2018年にはCPUが脳を超える

世界への挑戦を高らかに宣言した孫 正義氏
7月11日、ソフトバンクは米スプリント・ネクステルを買収

 基調講演の冒頭から、孫氏は米スプリントの買収によるソフトバンクグループの売上高世界第3位への躍進を大きくアピールした。携帯電話事業者としてのソフトバンクモバイルは、日本国内ではユーザー数、売上ともに3位となっているが、ソフトバンクグループとしてはウィルコム、イー・モバイルも含めると2位になる。しかしながら、「国内で2位か3位かという議論はもうどうでもいい」と言い切り、世界30カ国に通信拠点をもち、165カ国にネットワークが広がる米スプリントの強みを活かして「世界へ打って出る」とした。会場に集まったパートナー企業らに対しては、「ソフトバンク・スプリント連合軍で、みなさまの世界へのさらなる挑戦を支援していきたい」と語った。

 次に、同氏は300年後に世界がどうなるかという予測について持論を展開。まず2018年にはコンピューターに搭載されるCPUのトランジスタ数が人間の脳細胞の300億個を超え、2100年には1垓(1兆の1億倍)個に、2300年にはその3乗倍になるとした。これほどまでの高性能化が進めば、コンピューターは人間の脳をはるかに超える能力を持ち得ることになり、未来を洞察したり、物事を発明することも可能になるという。

 さらに、何らかのチップを頭部に貼る・埋め込むだけで、頭の中で想像すればテレパシーのように遠くにいる人と通信できるようになり、医療の劇的な発達などで平均年齢は200歳に到達するだろうと話す。突飛な発想で絵空事のようであり、孫氏自身も「ほとんどSFの世界」と認めつつも、この300年後を想像してからであれば、自身が3年前に作った「新30年ビジョン」の内容は当たり前すぎるものになるだろうと話した。

 たとえば2040年のコンピューターは、現在と同じ値段でCPUのトランジスタ数とメモリ容量が100万倍に、通信速度は300万倍になると予測。現在の3万円程度の端末で保存しておけるデータ量は動画換算で8時間分だが、2040年にはこれが3万年分となる。ここまで処理能力や記憶容量があれば現在のクラウド環境は不要になるのではないかと思われるかもしれないが、同氏によればそれは「大間違い」。通信が300万倍になることにより、ローカルとクラウドの境目がなくなり、あらゆるものがライフログとして記録され、クラウドに保管される時代が到来するという。

 Google Glassのようなメガネ型の端末がクラウドなどと連携し、目の前で話している人の言葉を自動翻訳できるほか、世界中の人々とネットワークでつながり、離島などに住んでいても医者による詳しい診断を受けられる。このようにコンピューターとネットワークのさらなる発達によって「クラウドは人類最大の資産になるだろう」と断言した。

ベライゾン・ワイヤレスに次ぐ世界第2位に
スプリントは30カ国に拠点をもち、165カ国にネットワークを展開している
2018年にCPUのトランジスタ数は脳細胞の300億個を超え、2300年には1垓の3乗倍に達するという
300年後、脳型コンピューターやロボットが出現し、テレパシーのような通信を実現。平均寿命は200歳に……
2040年頃、CPUのトランジスタ数は現在の100万倍、通信速度は300万倍になると予測
処理速度、通信速度の発達により端末とクラウドが融合し、ライフスタイルも大きく変化
自動翻訳や遠隔医療も進化する

ビッグデータとクラウドの活用例を提示

 前半の刺激的な内容とは打って変わり、後半になるとソフトバンクと取引のある、もしくは取引を望むパートナー企業に向けた現実的なメッセージや事例解説がメインとなった。

 まず、ソフトバンク自身がすでにビッグデータとクラウドを資産として活用し始めていることを紹介。ビッグデータについては、オリジナルのスマートフォンアプリを用いて1カ月あたり7.5億件、計300億レコードもの膨大な“つながりやすさ”に関する情報を収集していることを例として挙げた。

 ユーザーのスマートフォンの利用状況を解析することで、基地局を整備する際の参考情報として役立てているほか、必要最小限の投資で効果的な結果を得ることにつながり、これが最近の「つながりやすさNo.1」に結びついているとした。しかも、収集した情報は自社端末のものに限らないため、他社の特定の端末における“つながりやすさ”も、他社以上に正確に把握していると胸を張った。

 さらに、Twitterのツイート1億2000万件というビッグデータを解析し、ユーザーの“つながる実感があるか”を調査した実例についても合わせて紹介した。ソフトバンクの携帯電話はつながらないというイメージが先行していたことから、“つながる”と実感してもらえるまでには時差が生じてしまう。その時差を測定するために、2013年3月~7月にかけてツイートを収集した後、独自に自然言語処理を行い、ポジティブとネガティブに分けてグラフ化することによって“感情”を視覚化。同社の改善計画に活用しているという。

 一方、同社のクラウドに対する取り組みは、iPhoneおよびiPad発売後に同社全社員に各端末を無償で配布したところから本格的に始まっているとした。全社員がiPhoneとiPadでクラウドを活用し、法人営業の1社員あたりの訪問件数が2.5倍になるなど、それまでにないビジネスの広がり、生産性の向上を、クラウドとiPhone/iPadで実現できた点を強調した。

 ソフトバンクがクラウドや、クラウドを活用できるデバイスをクライアント企業に導入した事例も披露した。JR東日本にiPad mini 7000台を導入したほか、中外製薬、ミサワホーム、三和シヤッター、アートネイチャー、タマホームなどにおいても大量の端末導入を支援。航空会社のANAにGoogle Appsのアカウント4万9000件を導入したことも実績として挙げた。いつでもどこでも業務を遂行できるクラウドとデバイスの組み合わせがワークスタイルの変化を生み、これからは世界をまたいで活用されるようになると指摘した。

 最後に孫氏は、自身が5月にツイートした「挑戦することで見えてくる景色がある」という言葉を引用しつつ、会場に詰めかけたパートナー企業らに向かって「さらなるデジタル化を進めて世界へ一緒に挑戦していきたい」と述べ、同社の意気込みを示すメッセージビデオを流して講演を締めくくった。

ビッグデータを活用し“つながりやすさ”を視覚化。基地局の整備に役立てている
1億2000万件のツイートを自然言語処理にかけて分析した
ソフトバンク全社員に対してiPhoneとiPadを発売1カ月後には無償配布し、クラウドとともに活用してきた
JR東日本などに大量のiPadを導入した実績を紹介
こういったデバイスとクラウドを組み合わせることにより、いつでもどこでもワールドワイドにビジネスを広げていける
ANAに4万9000ものGoogle Appsアカウントを導入するなど、クラウドサービスによる支援も
最後に「世界中の人々のワークスタイルを変革したい」とパートナー企業らにアピールした

日沼諭史