「IS03」開発者インタビュー

普通の人が普通に使えることを目指したスマートフォン


IS03

 auからシャープ製のAndroidスマートフォンの「IS03」が発売される。夏モデルのIS01はフルキーボード搭載でノートパソコンのような形状と、スマートフォンの中でもかなり尖った製品だったが、IS03は、Androidスマートフォンとしては初めておサイフケータイに対応するなど、日本のケータイとAndroidスマートフォンの良いところ取りをした、これもまた意欲的な製品に仕上がっている。

 今回はこのIS03については、開発を担当したシャープの通信システム事業本部 パーソナル通信第三事業部 商品企画部の高橋洋之氏と中田尋経氏に話を伺った。

普通の人が普通に使えるスマートフォン

――まずはIS03の開発コンセプトからご紹介をお願いします。

シャープ高橋氏

高橋氏
 iPhoneやXperiaの登場により、世間一般でのスマートフォンの認知度が向上しました。しかしまだ、購入まで踏み込めていない人も多くいます。ここで何が足りないかを調査し、2つの問題点・不満点があると考えました。

 1つは、スマートフォンでどういったことができるようになるのか、まだ理解できていない人がいるということです。今までのケータイはわかるけど、スマートフォンは難しい、というイメージを持たれているのでは、と考えました。

 もう1つは、人から借りたり店頭で触ったりして、スマートフォンに魅力は感じているものの、フィーチャーフォン(従来の携帯電話)でできていたこと、使えていた機能がスマートフォンでは使えず、2台を持ち歩くのはイヤ、と考えている人がいるということです。かといって、現状のスマートフォンでは、利便性の面からフィーチャーフォンから乗り換えるところまでは踏ん切りが付かないのでは、と考えました。

夏モデルのIS01

 IS01はアーリーアダプター向けの商品でしたので、今までのスマートフォンにもない特長を付けてデビューしました。これまで、スマートフォンを購入するのは、モチベーションの高い人たちでした。IS01はその中でもハイエンド志向で、Androidを知っていて、ブログやSNS、Twitterなどのコミュニケーションでキーボードを必要とするような、いわば上級者が満足できるような商品として作りました。しかし、次のステップとなるIS03では、普通の携帯電話ユーザーの方に、普通に使っていただけるスマートフォンを目指しました。

 まず、スマートフォンだからできることを感じてもらいたい、と考えました。たとえば写真付きのTwitter投稿など、スマートフォンならば簡単にできます。

 次に、ケータイの使い勝手をそのままに使いこなせるようなユーザビリティを追求しました。一般の人が安心して1台持ちで使ってもらえること、この部分から開発がスタートしています。

IS03には3色のカラバリが用意される

――普通の人に使ってもらえる、ということですが、具体的なターゲット層は?

中田氏
 20~30代前半の、高機能なケータイを使いこなしている人をターゲットとしました。ブログなどでもケータイを使いこなしている女性にもお使いいただきたいと考え、コンセプト・デザインともに男女両方に受け入れていただけることを目指して取り組みました。

 たとえば、まず女性が使うとなると、幅が大きすぎると片手で持てなくなります。一方でタッチパネル操作なので、あまり小さい液晶を使うと、操作性が失われてしまいます。いろいろなサイズのモックアップを試作し、IS03の幅は63mmに設定しました。液晶部分については、このサイズの中で最高のもの、ということで、ダブルVGA(960×640ドット)の液晶を採用しました。

――デザインもほかのスマートフォンと違うテイストですね。

中田氏
 先進的なユーザー様にも気に入っていただけるデザインを目指しました。しかしAndroid端末は、似たような形状となりがちで先進性・独自性が表現しにくくなります。そこで、どこから見てもこの端末だとわかるようなデザインを目指しました。

 また、今までのスマートフォンにシャッターボタンや赤外線などいろいろなものをただ付け加えていくと、デザインが煩雑になりがちです。そこで出っ張りは極力落としていこう、と考えました。たとえば背面は全体的にフラットにして、カメラ部分に若干の厚みがありつつも、赤外線などを一緒にまとめています。

IS03の背面

――背面のデザインは、シャープらしさが出ていますね。

中田氏
 まずはカメラの高性能さを訴求しつつ、それでいて出しゃばらないようにデザインしました。ロゴなども、カメラを撮るときの方向で読めるよう、横方向に印刷しています。背面にはカメラ以外にもスピーカーやモバイルライトなどの要素もありますが、ゴテゴテしすぎるとスマートではなくなるので、赤外線の窓を黒くしたり、丸いデザイン要素でまとめています。

――カメラはスマートフォンとしてはCCDを採用するなど力が入っているように見えます。

中田氏
 カメラについても、最高のスマートフォンにふさわしい性能を実現したいと考え、CCDを搭載しました。たとえばTwitterに投稿するときは、暗い室内で写真を撮るようなことも多いと思います。そういったことにも対応しよう、と考えていました。そこで、9.6メガのカメラデバイスを新たに開発し、搭載しました。

――カメラはどのような機能が搭載されているのでしょうか。

シャープ中田氏

中田氏
 画像処理エンジンにはProPixを採用し、高感度のISO12800モードもあります。スマイルシャッターなどの機能も搭載しています。顔認識モザイク加工もあるので、ブログなどにアップロードして楽しみやすいようになっています。

 カメラを使った機能としては、名刺リーダーや情報リーダーも搭載しています。今までのフィーチャーフォンにも搭載していましたが、スマートフォンならばもっと必要な機能になるだろう、と考えました。この便利さを実感していただければと思います。

 画像をブログなどにアップロードするときも、従来のフィーチャーフォンでは導線としてわかりにくい部分もありましたが、そうした操作も、タッチだけでできるような利便性を追求しました。

 ムービーに関しては、HDサイズ、1280×720ドットまで対応しています。フォーマットはMPEG-4なので、パソコンでそのまま楽しめます。

 あと特徴的なのは、側面に半押し対応のシャッターキーを搭載したことです。ラウンドフォルムの中で搭載するのは機構的に難しいところもありましたが、がんばって搭載しています。

おサイフケータイや赤外線、ワンセグなど日本的機能を搭載

――カメラだけでなく、赤外線やおサイフケータイなど、裏面にはさまざまなものが搭載されていますね。

カメラ周辺に赤外線通信ポートやFeliCaのアンテナを内蔵する

中田氏
 若いユーザーさんに「スマートフォンに買い替えない理由」をアンケートすると、赤外線機能がないことが挙がります。赤外線通信機能は、プロフィール交換や写真の交換にも使え、日本のケータイの文化として広く普及していて、外すことができないと考えました。

 また、おサイフケータイの搭載も必須だと考えました。今の日本では、おサイフケータイはコンビニでもファーストフードでも公共交通機関でも幅広く使える機能です。広く社会に浸透しているものは、何としても取り込みたいと思ったのです。おサイフケータイをなんとかAndroid端末に搭載できるよう、Google様・フェリカネットワークス社様ともセキュリティなどの分野で相談しながら進めました。

 日本の機能としては、ワンセグにも対応しています。やはりワンセグは、屋内でも視聴できないと意味がありませんが、そのためにはアンテナの感度を高めるような設計が必要になります。これが難しく、技術陣には苦労をかけました。

――赤外線通信を搭載するのは、スマートフォンとしては珍しいですが、どのようなことができるのでしょうか。

中田氏
 アドレス帳や写真の送受信など、基本的なことが一通りできるようになっています。

――このほか、独自の機能は?

中田氏
 FMトランスミッターや歩数計なども搭載しています。IS01で好評だったモリサワフォントも搭載しています。辞書も明鏡国語辞典、ジーニアスの英和・和英辞典を搭載しているので、電子辞書としてもお使いいただけます。

 このほか、通知LEDも搭載しています。ディスプレイがオフの状態でも、暗いところでは通知LEDが光ることで、明るいところではメモリ液晶でステータスを確認できます。

画面下にあるメモリ液晶は常時表示になる

――このメモリ液晶、とても便利ですね。この上側が普通の液晶で下にメモリ液晶が付くコンビネーション液晶、このデバイスはIS03のために作ったのですか?

中田氏
 以前からデバイスの研究はしていて、原理的には製品化が可能とわかっていたのですが、どのモデルでこのコンビネーション液晶を採用して製品化するか、社内でずっと検討していました。今回IS03をデザインしたとき、ここでこのコンビネーション液晶の良さが活かせるのでは、と考え、今回、初めて実用化しました。

――ディスプレイがオフの時、メモリ液晶部分には何が表示できるのでしょうか。

中田氏
 常時、時刻や日付、電池残量、着信やマナーのステータスが表示されます。歩数計を設定しておけば、シャッターキーを押すことで、歩数も表示させられます。

――Androidは標準でサブディスプレイをサポートしていませんが、このサブディスプレイを使ったアプリを作ることはできるのでしょうか? Twitterの新着なども通知表示されると便利だと思うのですが。

中田氏
 今後の課題として、検討したいと考えています。

「フィーチャーフォンと同じ感覚」に志向したユーザーエクスペリエンス

――ソフトウェア面で、標準のAndroidと違う部分は?

中田氏
 「今まで通常の携帯電話を使っていた人が、同じ感覚で使えるように、電話やメールを同じ感覚で使えるように」ということをテーマとしています。

 まずメールについてですが、IS01のときはアーリーアダプター向け製品だったこともあり、PCメール、EZwebのEメール、Cメールをひとつのメールアプリでご利用いただいていました。しかし携帯電話から買い換えられるユーザーの方は、EZwebのEメールとCメールの利用が中心になると思われます。そこで、これら二つをまとめたメールアプリを搭載しました。プロバイダのメールやGmailには、それぞれAndroidが標準搭載するアプリをお使いいただきます。

 続いて電話機能についてですが、こちらは電話のアイコンをタップすることでソフトテンキーが表示され、発信できます。発着信履歴もケータイと同じ感覚で使えます。電話帳を呼び出す場合も、電話帳のアイコンをタップするとずらっとリスト表示され、かけたい人を選んで発信します。通常の携帯電話と同じような感覚でお使いいただけます。

――メールはどのように使えるのでしょうか。

iWnnにはシャープ独自の拡張が加えられている

中田氏
 アプリを起動すると、受信メールのフォルダが開きます。このフォルダはCメールとEメールが統合されていて、Cメールだけ[C]というアイコンがつきます。Cメールに返信するときは自動でCメールになりますが、メール作成時にはCメールかEメールか切り替えられます。

 文字入力も、IS01から進化しています。デコレ絵文字や絵文字の入力も可能です。基本はフィーチャーフォンと同じようなテンキー入力です。QWERTYのソフトウェアキーボードも用意していますが、フィーチャーフォンから移行してくるユーザーを考えると、テンキーからの入力が標準だと考えました。

 日本語入力にはiWnnを使っていて、フリック入力やワイルドカード変換にも対応しています。また、シャープがこれまでケータイShoinで培ってきたノウハウも投入しています。たとえば数字を入力するとき、通常は入力前に入力モードを切り替えますが、IS03のiWnnではひらがなモードで数字を入力し、変換できるようになりました。ひらがなモードで「あ(1)、わ(0)、あ(1)、な(5)」と入力すれば、「10:15」や「10時15分」、「10月15日」等が変換候補に出てきますので、日時の入力も簡単にできます。絵文字についても、カテゴリー別で簡単に選べるようにしています。このあたりは携帯電話に慣れている人がそのまま使えるなじみやすいものに仕上がっているかと思います。

――ホーム画面など、基本的な部分も標準のAndroidとだいぶ異なっていますね。

IS03のお知らせパネル
IS03のホーム画面。使い方は標準のAndroidと大きな違いはない

中田氏
 ホーム画面まわりは、KDDI様向けAndroid端末共通の特徴ですが、Ocean ObservationsのUIが使われています。ホーム画面は10面まで増やせますが、基本は通常のAndroidと同じです。特徴的なのはアプリのメニューです。標準のAndroidではアプリのアイコンが縦にずらっと並びますが、IS03では3×4のアイコンを並べられるページを切り替える形式で、ここもアイコンの並べ換えなどが可能になっています。

 また、シャープ独自の仕様としては、「お知らせパネル」を搭載しています。画面上のピクトエリアには、新着メールなどの通知アイコンが表示されますが、ここのピクトエリアをタップすると、「お知らせパネル」が引き出されてきて、通知情報に加え、バッテリーや電波、マナーモードなどのステータスが表示されます。さらにマナーモード切替とベールビュー、起動中アプリ一覧表示といったシャープ独自機能のボタンも用意されています。

 起動中アプリ一覧表示は、ホームボタン長押しでも呼び出せ、アプリの切替や終了もできます。

 マナーモードの切り替えは、ロック状態でボリュームキーの下を長押しすることで切り替えることもできます。メモリ液晶にステータスが表示されるので、ディスプレイをオンにしないでもステータスを確認しつつモードを切り替えられます。

IS03のアプリメニュー。au独自の拡張が加えられているいわゆるタスクマネージャー的な起動中アプリ一覧表示

――アイコンは3×4の並びなのですね。他社のスマートフォンでは4×4が多いかと思いますが。

中田氏
 タップのしやすさを一番に考えました。IS03の画面サイズで、指での押しやすさを考え、いろいろなサイズを検討した結果、このバランスにしました。

――IS03はAndroid 2.1を搭載して発売されますが、今後のAndroid 2.2への対応の予定は?

中田氏
 既にKDDI様から表明されている通り、対応する予定です。

――フィーチャーフォンからIS03に移行するとき、アドレス帳はどのように移行させれば良いのでしょうか。

中田氏
 赤外線かmicroSDが使えます。このどちらかの方法でフィーチャーフォンから電話帳を写し取ってしまえば、あとはGoogleのサービスと同期させることができます。

――細かいポイントですが、IS01に比べて内蔵ストレージが少なくなるなど、仕様に差がありますね。

中田氏
 内蔵ストレージは、Android標準に準拠するようにしました。ユーザーが使うデータはカードに、スケジュールやアドレス帳は内蔵メモリに保存します。できる限りAndroid標準のやりかたに準拠し、シンプルにしようと考えました。

――KDDIのフィーチャーフォンは防水ラインナップになっていますが、防水スマートフォンは?

中田氏
 課題は多いですが、個人的にはやりたいと思っています。今冬のスマートフォンは、一般の方に「スマートフォンって、けっこういけるじゃないか」と思ってもらえる機会だと思っています。これを機に市場が広がれば、と考えています。

――ありがとうございました。



(白根 雅彦)

2010/10/29 16:21