「モバイルプロジェクト・アワード2010」受賞者に聞く

女子高生のニーズをくみ取ってブレイクした「楽プリショット」


 ケータイ業界では、一般的に「10代はほとんどコンテンツにお金を出さない」と言われている。キャリアなどが示すデータにもその傾向が表れており、主な利用者は20代、30代に集中している。そのような状況の中、月額294円で100万に近い有料会員を抱えるサイトがある。しかも、主な利用者層は女子高生だという。それが、「楽プリショット」だ。サイフのヒモが最も固いと思われがちな10代の女性に支持される理由はどこにあるのか。同サイトを運営するフリュー ソーシャルネットワーク部の榎本雅仁氏と、モバイル事業部 開発部の盛岡尚記氏に、楽プリショット成功の秘訣や今後の展開を聞いた。


フリュー ソーシャルネットワーク部 榎本雅仁氏フリュー モバイル事業部 開発部 盛岡尚記氏

プリントシール機とケータイコンテンツが融合

プリントシール機の写真
楽プリショットのトップページ

 街角のゲームセンターで、プリントシール機を目にしたことがない人はいないだろう。今や、プリントシール機は、映画館や観光地にも置かれるほど、メジャーな存在になった。フリューは、モバイル事業だけでなく、業務用ゲーム機も手がけており、このプリントシール機市場でも高いシェアを誇っている。

 そこで撮った写真を、ケータイで保存するためのサイトが楽プリショットだ。元々は独立したサイトとして企画を進めていたが、2003年ごろに「撮った写真をデジタルデータとして提供すれば、ユーザーの満足度が上がるのではという話が出た」(榎本氏)こともあり、同社の強みであるプリントシール機との連動を検討。「ケータイに画像を転送するサービスを実験的に始めた」(同氏)という。当初は、「4つラクガキした中から1枚を選んでサーバに送ると、画像がもらえる」(同氏)という仕組みで、あくまでプリントシール機の付加価値的な存在だった。

 プリントシール機とケータイサイトのユーザーが近かったこともあり、同社はこの企画を本格的にスタートさせる。「最初は1枚だけだったものを、元画像も含めて送れるようにした」(同氏)と、サービスを拡充。ラクガキ機能も備えるなど、サイト側の機能も強化した。この間、ケータイの通信事情も劇的に変化している。2003年11月にはauが、パケット定額制の「EZフラット」を開始。翌年にはドコモやボーダフォン(現・ソフトバンク)も、パケット定額制を導入した。同時に、第3世代ケータイの普及率も徐々に上がっていく。通信環境と通信料金の両面で、コンテンツ利用の“下地”が整い始めていたのだ。楽プリショットの会員数が伸びたのも、この頃だという。榎本氏は次のように話す。

「2003年当時は3Gケータイもまだ少なく、パケット代も気にしなければいけなかった。ケータイの画面も小さく、画像もきれいに見られない。ただ、環境が整ったことがプラスに働いた。2005年後半から2006年にかけて、会員が伸び始めている。それに合わせて、画質向上などの処理を改善した」(榎本氏)

 盛岡氏も口をそろえる。

「女子高生に、サービスがとけこんだのも、ちょうどその時期。プリントシール機で写真を撮ればケータイに送れるというのが、当たり前のようになってきたようだ」

 こうして、付加価値だったケータイとの連携は、プリントシール機の“標準機能”になっていく。「無料で1枚、残りの5枚がほしい場合は会員になってもらう」(榎本氏)というビジネスモデルもポピュラーになった。

プロフ、ブログとの連携で女子高生のニーズに応える

 とは言え、流行り廃りが激しいのが女子高生の世界。なぜ、フリューの楽プリショットは、長い間支持を集めているのだろう。この疑問に、榎本氏はこう答える。

「確かに女子高生は物事に対する好き嫌いがはっきりしている。シール機側でも、サイト側でもしっかりグループインタビューなどでユーザーのニーズを拾い上げ、ユーザーインターフェイスを改善したり、サービスを追加したりといった努力をしている」

 「ユーザーインターフェイスは、少しずつ変えながらユーザーの動きを見て、正解を絞り込んでいく」(盛岡氏)と、修正が素早くできるWebコンテンツの特性も活かしている。

 最近では、女子高生の間で一般的なプロフ(プロフィールサイト)やブログといったソーシャルメディアも意識している。「こうしたサイトにプリントシール機の画像を切り取ってアップしたいという声が多かった」(榎本氏)ことを受け、サイト側にFlashを使って画像を切り取る機能を実装した。「アプリだとハードルが高いと思われてしまうので、Flashにして分かりやすさを重視した」(盛岡氏)という工夫が功を奏し、ユーザーにも好評を博している。シール機側で加工できることもあり、「凝ったラクガキ機能を搭載したこともあったが、あまり受けがよくなかった。トリミングしたり、回転させたりといったシンプルなツールが評価されている」(同氏)ようだ。

 盛岡氏の言う“分かりやすさ”は、サイトの隅々にも貫かれている。例えば、トップページのデザインもその1つ。女子高生向けサイトと聞くと、どうしてもゴチャゴチャしたレイアウトのものを想像してしまうが、楽プリショットは非常にシンプルで、どこに何があるのかが一目瞭然。「デコメサイトなどと一緒にしているところもあるが、ユーザーが求めているのはプリントシール機で撮った写真。そのため目的地まですぐに行ける作りにした」(榎本氏)というポリシーに従った結果だ。

試験的にスタートしたiPhone対応

 ユーザーの“嗜好の変化”にも機敏に対応している。9月にリリースした筐体には、iPhone対応機能を搭載した。女子高生とスマートフォン――相性が悪そうな組み合わせに思えるが、その状況にも変化の兆しが見え始めているという。榎本氏は「もう少し時間はかかると思うが」と前置きしながら、このように語る。

「グループインタビューでは、iPhoneを持っている女子高生を見たことはない。去年、一昨年は『iPhoneなんていらない』という声も多かった。しかし、大学生のカレシが持っていたり、大人の知り合いが持っていたりすることで、iPhoneに対する関心は高く、よさそうだと感じている。iPhoneに関する問い合わせも、少しずつ増えている。費用対効果にはシビアな層なので、今は落としどころを探っているのではないか。2年縛りがあったり、親がドコモなので変えられないという人もいるようだ」

 こうした変化を鑑み、フリューではまず試験的にiPhoneに対応。「筐体にボタンをつけ、ユーザーの数や、アクセス数を慎重に見ていいく」(同氏)という。ケータイとiPhoneで課金の仕組みなどが異なるため、「最初は1枚だけ画像を取得できる無料の部分だけをiPhoneに対応させた」(同氏)と、本格展開の準備をしている段階だ。これとは別に、「デコメサイトのiPhoneアプリ版を開発している」(盛岡氏)と、同社のケータイコンテンツを順次iPhoneに移植していく予定もある。

 「iPhone対応は、いいきっかけ」と語る榎本氏。今まではケータイだけがターゲットだった楽プリショットだが、「他のスマートフォンも含め、PCに近いところまで視野に入ってきた」という。“ケータイ専用サイト”は、既存ユーザーがスマートフォンの購入をためらう理由の1つ。楽プリショットのように、若者文化に深く根ざしているものも多く、それを捨てろというのは無理があるだろう。一方で、フリューのように、その壁も徐々に取り払おうとしている会社も少なくない。スマートフォン片手にプリントシール機に並ぶ女子高生をゲームセンターで見かける日も、そう遠くはないのかもしれない。



 



(石野 純也)

2010/10/20 12:11