インタビュー

付加価値で選ばれる格安SIMへ――「OCN モバイル ONE」の新コースが狙う先

 NTTコミュニケーションズは、同社のMVNOサービス「OCN モバイル ONE」において、2019年11月20日より新コースの提供を開始する。(記事中の価格は税別表示です)

 新コースでは、音声対応SIMの利用を前提に、月額1180円の1GB/月コースを用意。OCN光利用のユーザーの場合は、OCN光モバイル割適用で月額980円で利用できる。従来から存在していた3GB/月コースは1480円、6GB/月コースは1980円、10GB/月コースは2880円、20GB/月コースは4400円、30GB/月コースは5980円へ全体的に値下げとなった。(※いずれも音声SIM利用時の月額基本料)

左=藤原康行氏 右=木藤暢俊氏

 このほか特徴的なのは、低速通信(節約モードON時の通信を含む)の通信速度に「低速通信の利用制限」という新たな仕組みが設けられたことだ。基本通信容量の半分以上の低速通信を行った場合、さらに速度制限が実施される。たとえば、月3GB/月コースの契約の場合、低速通信を1.5GB以上使用すると、次月まで低速通信(節約モードON時の通信を含む)に速度制限がかかる。

 なお、追加容量の購入はアプリからの購入の場合、500円で1GBとなる(通常は500円で0.5GB)また、新コースについては最低利用期間なし、解約違約金なしで、さらに、12カ月間限定で「OCNでんわ 10分かけ放題オプション」が通常月額850円が300円となるキャンペーンも行われる。

新プラン一覧表

 高品質な低速通信で一部から根強い支持があるOCN モバイル ONEが、今回の新コース提供に踏み切った理由や経緯を、OCN モバイル ONEサービスを担当する藤原康行氏と木藤暢俊氏に聞いた。

「低速最強」からの路線変更へ

――ずばり、今回の新コースで一番訴求したいポイントとはなんでしょうか?

木藤氏
 価格を値下げしたことですね。違約金もいただきませんし、かけ放題もキャンペーンで割引しました。また、「低速通信の利用制限」などを導入し、通信品質を改善した新コースに、今まで格安スマホを使っていなかったお客様にも注目してもらえればと思います。

――10月は電気通信事業法の改正がありました。これによってどのような変化が起こると見ているのでしょうか? そしてそれはどのように新コースに反映されたのでしょうか?

木藤氏
 OCN モバイル ONEはこれまで、端末セット販売を強みとしてきました。世間にも端末の豊富さや初期費用が抑えられる選択肢として認識していただいていると思っています。今回の事業法改正での大きなポイントは、違約金が1000円になったことだと思っています。

 現状では影響がまだ出てきていませんが、違約金が安くなる分、ユーザーの流動性が高まると見ています。そういった中で、サービスの魅力を維持するためには、端末セットの強みは残しつつ、通信回線の品質や回線価格の見直しも必要だと思いました。

 今回、特に注力したのは、3GB/月コースと新設の1GB/月コースです。3GB/月コースというと、MVNOでは一番の主力コースです。我々は日次コースも出しておりますが、多くのユーザーにとっては「1日○○MB使える」というのは馴染みがなく、「月に○○GB使える」というのが分かりやすい環境になってきています。我々は日次コースとともに3GB/月コースも1800円で提供していましたが、他社では3GBで1600円が主流で、それ以下というところもあります。

 このため、OCN モバイル ONEの月次コースは格安スマホを検討するお客様に魅力的に映っていなかったと思っています。ここを見直したいと思ったのが、今回新コースの一番のポイントです。

 加えて、事業法改正を機に、MNOからMVNOへ乗り換えるお客様がこれまで以上に増えると思われます。そういったユーザーの受け皿になるのが、新設の1GB/月コースです。MNOをお使いお客様の中でもライトユーザー層は1GBで十分という方が多いのです。そういった方がMVNOに移ってもらい、安さをしっかりと実感してもらえる料金設定にしたいと思いました。

――日次コースはOCNモバイルONEの特徴でもあると思います。ユーザーにも受け入れられていたのかなと思っていましたが、今後は同様のプランはなくなってしまうのでしょうか?

木藤氏
 今回発表の新コースのラインナップには含まれていません。ただし、従来からのコースも引き続き提供しますので、そこで日次コースを選んでいただける方が多ければ、またサービスの見直しをしていきたいと思っています。

 もちろん、従来からのコースをお使いいただいているお客様は、そのまま継続していただいてかまいませんし、新コースに変更していただいてもかまいません。

安さ+回線品質+端末セット販売も

――皆さんの中で、ベンチマークとして見ている競合他社などはあるのでしょうか?

木藤氏
 端末セット販売をしているMVNOは注視しています。我々の強みもやはりそこにありますから。

 改正法での規制対象となる主要MVNOの中では、端末を最安値で提供することを引き続き努力していきたいと思っています。市場においては、今回の新コースの料金よりも安いMVNOは存在しますが、我々の強みとしてもやはり、端末セット販売の強みは残しつつ、月額の値下げのほか、回線品質の改善も図っていくために、今回の価格設定をしたつもりです。

藤原氏
 MVNOを選ぶ基準は、安さに加えて通信速度の速さも影響してくると思います。高速通信では「ほかのMVNOよりもOCN モバイル ONEのほうが速いよね」と言われるレベルを目指して頑張っていきたいと思っています。

――なるほど、ではこれからも端末セットでお得になる選択肢は残されるんですね。ユーザーとしては回線速度もたしかに気になるポイントです。ちなみに、新コースの品質改善が一番体感できるのはどういったケースでしょうか?

藤原氏
 夕方以降でしょうか。夕方になると回線速度の低下を感じるお客様は多いのではないかと思います。そういった中でも「OCN モバイル ONEは日中と変わらない速度が出る」というくらいの体感品質にはもって行きたいですね。

――ということは、今回は単なる新コース導入ではなく、回線にも変更があったということでしょうか?

藤原氏
 新コースと従来からのコースでは、接続するAPNが別になり、帯域も別々で用意をしています。新コースでは、低速通信の利用制限など、制御方針が従来からのコースと異なるため、お客様が体感する速度の違いは出てくるかもしれません。

低速通信の利用制限は公平さを期すために

――低速通信の利用制限は、ユーザー視点からするとちょっとよく分からないかもしれません。どのような考え方なのでしょうか?

木藤氏
 確かに従来からのコースは「低速最強」と言われることは多いのですが、多くのお客様が低速通信を行っているわけではありません。

 我々は低速通信の「節約モード」を提供していますが、頻繁に切り替えて利用している方は全体の10%にも満たないのです。しかし、節約モードをオンにしたまま、契約したコースの通信容量をはるかに超過した通信を行う方がごく少数いらっしゃいまして、トラフィックのかなりの部分を占有し、多くのお客様の回線品質に影響を与えることがありました。


 低速通信の利用制限は、あくまですべてのお客様に公平に使ってもらえるようにという仕組みで、通常の高速通信をメインにご利用されている多くのお客様は(全体の品質が向上することで)より高速に使えるようになる想定です。

――ある意味では「かしこく」使っているユーザーもいらっしゃると。今回の施策は全体のバランスを考えた上での措置という見方もできますね。低速通信に速度制限がかかった場合、どの程度遅くなるのでしょうか?

藤原氏
 一応、LINEは使えるくらいです。最低限のコミュニケーション手段としての使い勝手は確保しています。しかし、動画はちょっと厳しいかもしれません……。もちろん、音声通話には全く影響ありません。

――これまで、低速通信の制御とはこれまであまり耳にしたことがない施策ですが、決定するまでの過程はどのようなものだったのでしょうか?

藤原氏
 2018年頃から実際のトラフィック状況を確認して、ごく少数のお客様が大量に通信容量を使っていて、大多数のお客様は契約容量以下しか使っていないという状況があることが分かりました。原因の調査を進めたところ、低速回線で接続し続けながら常に何かをダウンロードし続けるという使い方をされる方がいることが分かったのです。

 ただし、従来からのコースで低速に制限をかけてしまうと、現在、主に低速通信をご利用いただいているお客様にとって不便となってしまいます。そのため、社内で議論を重ねていく中で、従来からのコースはそのままに、別途新コースを設けることにしました。

容量追加は料金据え置きで容量倍増

――容量追加についてもシステムが変わりましたね。料金は据え置きで、容量が倍増していますが、どうしてこのような思い切った施策が可能になったのでしょうか? また、今回の容量追加の金額はアプリ上からの購入に限定されていますが、これはどういった理由からなのでしょうか?

藤原氏
 新コースのシステムでは、旧コースよりも回線全体の負荷のバランスが取りやすくなります。そのため、追加容量については従来よりも増やせると判断しました。

木藤氏
我々が提供しているのは、通信回線です。お客様の中にはアプリの必要性を感じられない方もいるかもしれません。

 しかし、アプリであれば、たとえば何らかのサービスの設定を簡単にできたり、手軽に自分の通信容量を確認したりできます。そこで、容量追加に関してアプリならではの要素を組み込むことにいたしました。

 また、サービスを提供する上でも、やはりお客様とコミュニケーションを取っていきたいと思っており、アプリの利用率をもっと向上していきたいです。

「10分かけ放題300円キャンペーン」の意図

――今回は通話でも12カ月間にわたりOCNでんわ10分かけ放題を月額300円(通常850円)というキャンペーンを行います。これの狙いはどういったものでしょうか?

藤原氏
 今は090発信の利用が減りつつあるのは事実です。ただ、それでもかけ放題には一定のニーズがあります。また、今後MNOから乗り換えしてくるお客様はかけ放題と親和性の高い方たちだと思います。

 そういった方々にOCN モバイル ONEを選んでいただくために、業界最安値でかけ放題サービスもある「OCNでんわ」の良さを体感してもらいたいです。通常の090発信と変わらない通話品質の良さを実感できます。

 300円という値段も「これなら入ってもいいかな」という価格設定を目指しました。従量制では少し通話しただけでも、300円は比較的すぐに到達してしまいます。月30回以上もしくは月15分以上電話するという方なら間違いなくオトクです。

今後の市場、そしてOCNの施策

――法改正もあり、市場は大きな変革の中にありますが、皆さんの中ではこれをどう捉えていらっしゃるのでしょうか?

藤原氏
 MVNOに興味を持っていても、「2年契約の途中だから……」と乗り換えを断念されていたライトユーザーの方にとって、法改正により乗り換えしやすい環境が生まれています。新コースは、普段使いの携帯電話回線として、従来よりもさらにお得感を感じやすいと思います。今後はそこに魅力を感じてもらえる方に積極的にプロモーションをしていきたいです。

――では新プランへ移行したいという既存ユーザーに対してはどのような形でアプローチにするのでしょうか?

木藤氏
 アプリなどで告知を行い、周知できればと思います。やはり新コースのほうが多くの方にとって満足いただける内容と自信を持っております。魅力を感じてもらえる方には移行してもらえるだろうと考えています。

――今後の戦略の土台を固めたのが今回の新コースといったところでしょうか。性急ではありますが「今後はこういうサービスにしていきたい」という方向性を教えていただきたいです

木藤氏
 業界的にはアライアンス先との連携など、通信以外のアピールポイントを持つところが多いです。通信品質の追求はもちろんですが、新オプションや新機能、そのほかサービスとのお得な連携など、通信以外の理由で我々を選んでいただける施策の展開を検討していきたいです。

藤原氏
 現在は、回線のみを提供している形ですが、たとえばスマートデバイスやその上で動くアプリケーションの展開なども考えられますし、eSIMについても検討を進めている状況にあります。「回線」に加えて「デバイス」「アプリケーション」をセットで提供しサービスを強化、より多くのお客様に選んでいただけるよう取り組んでいます。今後の我々にどうぞご期待ください。

――よくわかりました。本日はありがとうございました。