インタビュー

「Galaxy S8/S8+」商品企画担当者インタビュー

バッテリー問題を乗り越えてGalaxyが向かう先

 サムスンが3月末に発表したフラッグシップモデルのAndroidスマートフォン「Galaxy S8」と「Galaxy S8+」は、側面がカーブしたGalaxy S6 edge、Galaxy S7 edgeからコンセプトを一新し、さまざまな挑戦により次世代のスマートフォンのあり方を模索した意欲的な端末だ。

 本誌では、韓国・水原市にある同社の開発拠点で開発陣にグループインタビューを行う機会を得た。今回は商品企画担当者へのインタビューの模様をお伝えする。

グローバル商品企画グループ Senior Professionalのチェ・スンミン氏(左)、ヤン・ヒョンヨン氏(右)

Galaxyに期待される「新しさ」とは

――GalaxyシリーズはS6でデザインを大きく変えました。S8/S8+ではホームボタンを無くすなど、それに匹敵するような変化がありますが、なぜこのタイミングでまた変えてきたのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 私はS6を担当していたのですが、当時もフルモデルチェンジすることで、革新的で、市場ではチャレンジャーとしての期待感から評価をいただきました。S7は時にはその進化を完成させるということで取り組みました。新しいチャレンジをした後、トレードオフなどがあったのを完成させるというコンセプトでS7をやりました。S6が出て2年が経過したので、やはり市場としては新しいチャレンジをサムスンに期待しているということを考え、今までスマートフォンは全部同じ形をしているよね、まず見た目から考えてみようというコンセプトの下で企画を始めました。

――「Unbox Your Phone」というコンセプトは、どういう狙いで掲げられたのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 今回搭載しているインフィニティディスプレイは、画面を見た時に既存の枠を超えていくというような意味、無限を実現するということで、そのような名前を付けました。そういう枠を打ち破っていくという意味で、Unbox Your Phoneという打ち出し方で訴求しています。

――S8とS8+と、2つのサイズを用意したのはなぜでしょうか。

チェ・スンミン氏
 既存のS7のシリーズでも同じだったのですが、理由としては、さまざまな市場調査などを行って、コンパクトサイズを望む方、大画面を望む方といういろいろな層の方がいらっしゃいますので、その層に合わせて2つのサイズを用意しました。

――ホームボタンが無くなりましたが、Galaxyシリーズの象徴的な部分として残すというような議論は無かったのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 やはりそこは弊社でも一番悩んだポイントです。ホームボタンはGalaxyの象徴的な存在だったので、社内でもそうですし、社外からもいろいろとお声をいただいています。ユーザーがどういう風に受け止めるかについてはすごく悩んだのですが、ホームボタンをソフトキーに変えた代わりに感圧センサーを搭載したことで、今までと同じ使用体験を提供できるように考慮しました。

――感圧センサーの部分に指紋認証技術を実装することは難しかったのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 当然、技術的に対応可能かどうかは検討したのですが、そこは現実的な部分もあり、弊社で最善と考えられる形で実装しました。

――背面の指紋センサーには指が届きにくいのですが、これは虹彩認証を使ってほしいというメッセージなのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 生体認証については顔認証や虹彩認証などいろいろな方法のものを搭載していますが、指紋センサーの位置は既存端末のHR(心拍)センサーが同じ位置に搭載されていましたので、ユーザーが使い慣れている位置だと考えています。

バッテリー問題は繰り返さない

――Note7のバッテリー問題を踏まえて、どのような対策を行ったのでしょうか。検査の強化のほかに、端末として何か対策はとられているのでしょうか。

ヤン・ヒョンヨン氏
 まずNote7の問題については、日本では発売されていませんが、グローバルで懸念をいただいている点は、弊社としては大変申し訳なく思っています。バッテリーの安全性検査などもありますが、設計の面でもバッテリーの問題を分析して、同じことが起きないように変更を行い、実装しています。ですから、安全にお使いいただけると考えています。

――具体的には何を変えたのでしょうか?

ヤン・ヒョンヨン氏
 技術的な部分は企業秘密もあり詳細はお伝えできませんが、2月の発表会を行った際に説明したような問題点は十分改善しておりますので、ご理解いただければと思います。

インカメラのトレンドをキャッチアップ

――カメラはS7と大きく変わっていないようですが。

チェ・スンミン氏
 メインカメラはハードウェア的にはS7のものと同じですが、そもそもS7のデュアルピクセルカメラはとても好評をいただいており、ハードウェアを維持しつつ、ソフトウェア的にマルチフレーム撮影などを強化することで、よりよい写真を撮れるようにしようと考えました。

 最近のトレンドとしてインカメラが大事になってきていますので、そこを5メガから8メガのオートフォーカスに対応したカメラを搭載することで、基本機能をより強化したという考え方です。

――フロントカメラを強化したとのことですが、ビューティー関連の機能には変化が無く、ステッカー機能が追加されています。SnapchatやSNOWなどのアプリで実現できるのに、なぜこうした機能を搭載したのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 SnapchatやSNOWなど、いいソリューションがあるというのは認識していますが、アプリをインストールして使用することをハードルとして感じるユーザーもいらっしゃるので、端末の機能としておくことで、より多くのユーザーに使ってもらいたいと考えて搭載しました。

――デュアルカメラは意識しなかったのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 デュアルカメラを搭載したスマートフォンが出ているということは弊社でも十分に認識はしていますが、根本的に一番いい写真が撮れるのはどれか、ということで悩みました。デュアルカメラは、低照度でもきれいな写真を撮れるのか、という部分で技術的に満足できないと評価しました。デュアルカメラならではの特長もあるので、技術が追い付いた時点で搭載しようと考えています。

「18.5:9」に辿り着いた背景

――縦長のアスペクト比を持つスマートフォンは世の中に定着していくと考えていますか。

チェ・スンミン氏
 弊社の予想では、弊社がこのような取り組みを行うことで、ほかのベンダーもついてくるのではないかと考えています。縦長になった理由としては、スマートフォンのトレンドを見るとリストビュータイプのアプリが多いということがあります。例えば、ブラウザだったり、SNSだったり、メッセンジャーだったり、リストビュータイプのアプリが多かったのでそういう部分を強化したいという意味と、動画などでも映画で21:9というハリウッド映画のトレンドがありますので、映画をより大きな画面で見ていただくということが必要だと考えていました。そういうユーザーのニーズの中で、大きいディスプレイは望むが、やはりコンパクトな端末が欲しいという選択肢の中でこういう形状になっていくというのは、今後のトレンドになっていくと考えています。

(左から)Galaxy S8とGalaxy S8+

――18:9など、ほかのアスペクト比もあるが、なぜ18.5:9にしたのでしょうか。また、コンポーネントが先にあったのか、商品企画側からリクエストを出してコンポーネントを用意したのか、どちらなのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 まずユーザーが今の端末のサイズを超えてほしくないというニーズがありました。そのサイズを維持しながら、どういう比率でディスプレイを最大限に表現できるかというのを考える中で、現在のような形になりました。なぜ18.5:9なのかという質問に対しては、以前、スマートフォンがなぜ16:9の比率に変わったのか、という質問と同じだと考えています。16:9に変わった理由としては、米国でテレビコンテンツの4:3とハリウッド映画の21:9を両立できる比率として16:9というトレンドが出てきました。現在は16:9のビデオコンテンツと21:9のハリウッド映画のコンテンツなどの比率がトレンドとしてあるので、そこを先ほどのロジックと同じようにその間をとった18.5:9という比率で実装しました。ディスプレイの方をこの比率にあわせてベンダーに発注して作り上げました。

――18.5:9のディスプレイの搭載を検討したのはS8からなのでしょうか。それとも、もっと前から考えていたのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 正確にはS8を企画する段階で、新しく何ができるのかという企画の考えの下できあがった比率なので、S8からになります。端末の形状に関しては、ずっと以前からいろいろなタイプの形状で悩んでいました。その中にこういう形状のものもあったのですが、S8を企画する上でこれがベストだということで採用しました。

――日本のメーカーもかつて縁がないモデルを作っていましたが、強度の面で不安をかかえていました。今回のモデルの強度は大丈夫なのでしょうか。どの程度検証されているのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 不良率については弊社でも十分考慮しています。基本的には、既存の端末の水準は十分に維持していると思います。一番心配されるのは落下の問題だと思うのですが、ガラスの素材としてGorilla Glass 5を搭載して強化しています。エッジの部分がよく壊れるという問題があるのですが、その部分では特殊なポリッシングを施すことで落下に耐えるようにしました。

――大画面へのニーズがある反面、これ以上大きな端末を持ちたくないということで、今回縦長にしたということですが、ユーザーとしてはさらに大画面で使いたいとなると、端末はどんどん縦に長くなるということになるのでしょうか。そこには限界があるのでしょうか。

チェ・スンミン氏
 2つのニーズは当然あるのですが、詳しくは公表できませんが、弊社なりにロジックを作って、ある程度の限界点を考えています。例えば、中東では一定サイズ以上の端末はスマートフォンではなく、タブレットとして扱われるという国の事情などもあるので、そういう部分までを踏まえてスマートフォンのサイズの基準を弊社なりに定めています。

――ありがとうございました。