【WIRELESS JAPAN 2009】
イー・モバイル、来年導入のDC-HSDPA技術を解説


イー・モバイル 次世代モバイルネットワーク企画室長の諸橋知雄氏

 「WIRELESS JAPAN 2009」2日目の「3.9G/LTE & 4G ネットワークインフラ構築フォーラム」でイー・モバイルは、同社次世代モバイルネットワーク企画室長の諸橋知雄氏が登壇し、来年9月の導入に向けて準備を進めている「DC-HSDPA」(デュアルセルHSDPA)などの新たな通信技術について説明した。

 同社は2007年3月のサービス開始当初、下り最大3.6Mbps/上り最大384kbpsでサービスを開始した。その後、同年12月に下りを最大7.2Mbpsへと高速化し、2009年4月には上り最大5.8MbpsのHSUPA、そして今月には下り最大21MbpsのHSPA+と、次々に新しい通信技術を導入してきた。

 3GPPでの標準化作業完了から、同社によるサービスインまでの期間は次第に短くなっている。例えば、下り最大7.2MbpsのHSDPAは2002年6月の「3GPP Release 5」に盛り込まれた仕様であり、標準化からサービス開始までは5年6カ月を要していることになる。これが、上り最大5.8MbpsのHSUPA(同Release 6)は2005年6月の策定から4年2カ月、HSPA+(同Release 7)は2007年12月の策定からわずか1年7カ月で商用サービス化にこぎ着けている。諸橋氏は「技術開発サイクルはどんどん短くして、お客様のニーズに応えていくのが当社としての使命」と話し、標準化された技術については今後もいち早くキャッチアップしていきたいとの意向を示した。

 次に導入するDC-HSDPAは、隣り合う2つの周波数帯域を1台の端末で同時に受信することで、伝送速度を2倍にする技術だ。これまで同社に割り当てられている周波数は5MHz幅の1波のみだったが、今年6月に3.9G移動通信システム用の帯域として10MHzが新たに割り当てられた。この帯域はすぐに3.9G、すなわちLTEのために使わずとも、それに向けて段階的に高度化技術を導入しながら利用していくことが認められている。このため、同社はまずこの新規獲得枠ではDC-HSDPAによる3.5Gシステムの高度化を行いながら、LTEの準備も並行して進め、時期を見てLTEを本サービスとして導入するというシナリオを描く。

相次いで新技術を投入しており、3GPPでの標準化作業完了からサービスインまでの期間も短くなっている現在使っている周波数の直下で新たに10MHzを獲得。いきなり3.9Gを導入せず、段階的に高度化していくシナリオも認められている

 新規獲得枠の10MHzは、現在使用中の5MHzに隣接する周波数のため、サービス提供にあたっては現在の設備とかなりの部分を共有できるとしている。DC-HSDPA技術自体の導入も既存システムの拡張で対応できるため、この高度化に必要なコストは低い。同社は「できるだけ設備を安く構築し、サービスを安く提供することを念頭に置いている」(諸橋氏)といい、そのコンセプトの中で今導入できる最適な技術がDC-HSDPAということになる。

 DC-HSDPA導入後の下り最大速度は、間もなく開始されるHSPA+の2倍にあたる42Mbpsとなり、これは5MHz幅、2×2 MIMOを使用した場合のLTEとほぼ同じ下り速度だ。同等の速度が得られるのであれば、急いでLTEを導入するより、すぐに安くスタートできるDC-HSDPAを導入するのは自然な選択だ(ただし、LTEのほうが周波数利用効率は良い)。なお、上りの伝送にはどの方式を使っても良いが、諸橋氏は「最大5.8MbpsのHSUPAと組み合わせるのが一般的な使い方ではないか」としている。

 DC-HSDPAを導入すると、「広帯域スケジューリング」の効果により伝送効率が上がるという副次的なメリットもある。2つのチャネルを同時に利用するため、仮に片方のチャネルの電波の状態が悪くなった場合、そのチャネルを良好な状態で使える別のユーザーがいれば、一時的にユーザー間でチャネルを融通することができる。これによってユーザー全体で見た場合のスループットが上がり、1セクタに収容するユーザー数が30以内の場合、7~25%のセクタスループット向上効果が期待できるという。

DC-HSDPAでもベーシックなLTEのスペックには追いつくことができる(DC-HSDPAの占有周波数帯域幅「5MHz」は「5MHz×2」の誤記)デュアルセル化の副次的なメリットとして、広帯域スケジューリングによるセクタスループット向上効果が期待できる

 また、HSPA+に2×2 MIMOを導入することで、DC-HSDPAと同じ42Mbpsを実現するという方法も考えられる。しかし、MIMOの効果は通信品質に大きく左右されるため、S/N比が少しでも悪くなるとMIMOの効果が落ち、速度が下がる。これに対してDC-HSDPAは物理的に倍の帯域を使用することで高速化しているため、より幅広い環境で、規格上の理論値である42Mbpsに近い速度が期待できるとしている。

 今後の拡張の可能性としては、DC-HSDPAに2×2 MIMOを組み合わせることで、42Mbpsの倍となる最大84Mbpsまで高速化する技術や、上りも2チャネルを利用することで倍速化する「DC-HSUPA」、隣接しない離れた2つのチャネルを使って倍速化する「DB(デュアルバンド)-DC-HSDPA」などがあり、それぞれ3GPP Release 9の標準化作業の中で仕様検討されているという。

MIMOによる高速化(グラフ中の破線)は受信品質に大きく左右されるので、理論値に近い速度が得られる環境が少ない3GPP Release 9でDC-HSDPAの拡張も検討されている

 LTEについて同社は「グローバルな開発状況を見据えて対応する」といった表現にとどめており、具体的な導入時期については言及していない。しかし将来必ず移行の時期は訪れるため、フィールド環境におけるテストは行っている。昨年12月から半年間にわたって都内港区にLTEの実験局を設置したが、これは都心エリアとしては初のLTE実証実験だという。主にMIMOの導入効果を検証し、基地局から半径500メートル程度の距離であれば速度向上が確認できたとしている。

 LTEのさらに先にある次世代通信システムの4Gについて、今のところ同社は特別な動きは見せていない。ただし諸橋氏は講演の結びで、「3.9Gに属する技術はLTEにほぼ一本化できている状況なので、4GもLTE-Advancedに一本化されることが望ましいとみなさん考えているのではないか」とコメントし、4Gにもいくつかの通信方式が提案されるが、その中でもLTEの後継技術が最も有力との見方を示した。

港区新橋、虎ノ門、芝の各地区にLTE実験局を設置して評価を行ったおおむね500メートル以内であればMIMOの効果が確認できた。図中の数値は、1以上であれば「効果あり」、1.5以上であれば「顕著な効果あり」を意味するという

 



(日高 彰)

2009/7/24/ 13:01