【WIRELESS JAPAN 2009】
KDDI拮石氏、Rev.Aマルチキャリア化やLTEへの意欲示す


KDDIの拮石康博氏

 「WIRELESS JAPAN 2009」の併催コンファレンスとして23日、KDDI 技術渉外室企画調査部 標準戦略グループ 課長補佐の拮石(はねいし)康博氏による講演が行われた。「次世代に向けた取組み」をテーマに、データ系トラフィックが急増する現状の分析、auが今後計画するEV-DO Rev.Aマルチキャリア化およびLTEについて解説した。

携帯電話トラフィックは4年で約5倍に?

 拮石氏はまず、携帯電話加入者数の増加、着うたをはじめとしたサービスの多様化、高音質・高画質の追求によるコンテンツ自体の大容量化の3要素によって、携帯電話トラフィックが年々増加ししている現状を改めて解説した。加入者数が1億台を突破したこともあって個人向け市場はやや鈍化傾向を見せているものの、法人向けサービスやテレマティクス、機械対機械の通信などによってトラフィック自体は今後も増加していくとみられる。

 また「PCで流行ったサービスはいずれケータイでも流行る」(拮石氏)傾向があることから、ADSLやFTTHなど固定通信サービスのトラフィックも注視する必要があるという。現在固定はHTTPおよびストリーミングの利用が増加し、一時期問題となったP2Pのトラフィックは相対的に減少。動画配信サービスの利用増が背景にあると拮石氏は分析する。

 携帯電話のトラフィック自体も増加しており、直近3年で約2倍へと増加。YouTubeやニコニコ動画などを携帯電話から利用するケースが増えたと見られる。なお一部のヘビーユーザーが帯域を占有する傾向は、固定・携帯電話双方とも顕著だという。

 ITU-R(国際電気通信連合 無線通信部門)や国内通信事業者各社のトラフィック予測では、2008年と比較して2012年には約5倍、2015年には約10倍という数値も示されており、これだけの増加に耐えうる次世代通信規格の導入は必要不可欠という。逆に「次世代規格への期待自体が、トラフィックを押し上げている側面もありそうだ」と拮石氏は語る。


固定系通信と携帯電話のトラフィック比較将来のトラフィック需要予測。2008年から2012年の4年間で約5倍と見込まれる

EV-DO Rev.Aマルチキャリア化、そしてLTEへ

au携帯電話の技術的変遷

 auでは2002年導入のCDMA2000 1X(3G)を皮切りに、2003年のEV-DO Rev.0、2006年のEV-DO Rev.A(ともに3.5G)へとネットワークを強化。通信事業者の命題とも言えるビットあたり単価の低廉化、さらにデータ通信速度の向上を図っている。また2012年のLTE(3.9G)開始を表明しており、さらに将来にはIMT-Advanced(4G)を見据える。

 また2009年の現段階ではEV-DO Rev.Aのマルチキャリア化を目指している。EV-DO Rev.Bで含まれる仕様の一部を先取りし、基地局のソフトウェアアップデートで対応できる部分を取り出したサブセット仕様という。auでは下り3.1MbpsのEV-DO Rev.Aを最大3キャリア束ね、最大9.3Mbpsの高速通信を実現したいという。処理能力的には5~10%程度の改善を見込む。なおマルチキャリア化は、情報通信審議会での技術報告や審議を現在待っている段階だ。

 auが導入予定のLTEは、「北米の主要なCDMA2000系通信事業者がUMBではなくLTEを選択したため」(拮石氏)、グローバルスタンダードになることが明確になったという。このためコストや汎用性などのメリットも大きいと考えられる。

 LTEは新規格である以上、急激なサービスエリア拡大が難しい。auでも、現在のEV-DO網とのシームレスなハンドオーバー技術を盛り込み、データ通信用に利用する計画だ。一方の音声通信については、拮石氏が「本格的VoIPへの完全移行は予定しておらず、引き続きCDMA2000 1X網を利用する」と説明している。


EV-DO Rev.Aマルチキャリア化の概要LTEではEV-DO網とのハンドオーバーが必要に

フェムトセルなど将来技術への取り組みは

 このほかauでは、フェムトセルや無線LANを利用した通信環境強化策についても乗り出している。「アンケートによれば、携帯電話をもっとも頻繁に利用する場所は自宅。室内の通信環境をより向上させることがますます重要になる」と拮石氏も重要性を認める。

 フェムトセルは高層マンションにおける圏外対策などに有効とされるが、決して万能ではない。「マクロセル(本来の基地局)からの干渉のほか、フェムトセル経由で通話品質が落ちてしまっては利用者に受け入れられないだろう」と語り、技術的課題の多さもうかがわせた。最大の懸念としているのが、完全な圏外ではない弱電界エリアでの干渉。法律で定められている緊急通報時(110番・119番など)の位置情報送信も検討が必要という。なお今年度後半にはユーザートライアルを実施する計画だ。

 またIMT-Advancedなど将来の技術についても着実に研究を進める。携帯電話網やWiMAX、無線LANなど異なる無線方式を統合して空きスロットを融通しあう「コグニティブ通信」、単一のハードウェア上で異なる無線方式をソフトウェアで実現する「ソフトウェア通信」の可能性などにも言及した。

 講演終盤では、KDDIがたびたび主張する「アンビエント社会」についても改めて解説。「携帯電話の登場などによって『(ITを)いつでも・どこでも・誰でも』のユビキタス社会はほぼ完成しつつある。それを押しすすめたのが『今だから・此処だから・貴方だけ』のアンビエント社会」と拮石氏は語る。

 アンビエント社会が描く未来像として、新型インフルエンザ問題への対処も例示。携帯電話のGPS機能を使った感染者の足跡調査、さらにニアミスした人物の特定などは技術的には十分可能だとした。ただし、これほどのプライシー情報を携帯会社が知り得るという不安を払拭することははもちろん、社会的同意が欠かせないとも付け加えている。


フェムトセルの課題ユビキタス社会とアンビエント社会の違いとは



(森田 秀一)

2009/7/23/ 16:03