【Mobile World Congress 2014】

日本の電子マネー、モバイル決済を語るKDDI小野寺氏

キーノートセッションに登壇した、KDDIの小野寺会長

 Mobile World Congressの2日目にあたる25日(現地時間)には、「Moving Money: Rethinking Transactions」と題したキーノートセッションが開催された。ここでは、各国のモバイルによる決済事情が紹介された。日本からは、KDDIの代表取締役会長 小野寺正氏が登壇。日本の電子マネー事情や、同社が発表した「au WALLET」についての取り組みが紹介された。

日本の電子マネーやモバイル決済を紹介する小野寺氏

携帯電話の中にあらゆるサービスが収まるという「パーソナルゲートウェイ構想」

 小野寺氏はまず、9年前に掲げていた「パーソナルゲートウェイ構想」を振り返る。これは、「ポケットに入るものが、ハンカチ以外すべて携帯電話に収まる構想」だ。現在のスマートフォンを見ると、こうした要素はほぼすべてが実現している。こうした状況を指し、小野寺氏は「私の予言は現実のものとなっている」と語る。

 続けて紹介されたのが、日本の電子マネー市場の状況だ。小野寺氏によると、「日本の電子マネーはクレジットカードより決済額が大きい」といい、同様にアメリカやイギリスではデビッドカードが、中国では銀聯(ユニオンペイ)が一般的であるとした。一方で、決済手段についてはまだ統一が完全に図られたわけではない。日本ではFeliCaが、他の地域では場所によってはMifareが一般的で、地域をまたがることはできない。ここに「互換性を持たせるため、当社はNFCを推進している」といい、同日発表されたアジアキャリアとの「ASIA NFCアライアンス」を設立する意図が語られた。

日本の電子マネー事情が小野寺氏によって語られた

キャリア決済、相対的に低下

 モバイルでの決済に関しては、「フィーチャーフォンが全盛だったころはキャリア決済が有効に機能しており、ほとんどのモバイル決済はデジタルコンテンツに使われていた」と語る小野寺氏。一方で、「スマートフォンでは無料のサービスやアプリが増え、60%のユーザーが有料サービス、有料アプリを使ったことがない」というデータを紹介した。こうした状況を指し、「キャリア決済の地位が相対的に低下している」という。

フィーチャーフォン時代はキャリア決済が支配的だった
スマートフォンが普及し、キャリア決済の比率は相対的に低下した

3M戦略の位置づけ

 とは言え、ARPUの上昇にも限界がある中、「キャリアがダムパイプ(土管)になるのは避けなければならない」。これに対してKDDIが打ち出した対策が、「マルチユース」「マルチデバイス」「マルチネットワーク」の頭文字から取った「3M戦略」となる。その成果として小野寺氏は「auスマートパス」を挙げ、現時点で800万会員を超えていることを説明した。

3M戦略や「auスマートパス」を解説
au IDの進化として、「au WALLET」が紹介された

 また、「バーチャルとリアルをau IDで融合する」取り組みとして、2月に発表した「au WALLET」を挙げ、「KDDIのネットワークを使うユーザーに新しいプリペイドカードを発行し、リアルなショップで利用できる」と、その特徴を解説した。こうした取り組みの紹介を通じて、「通信産業の進むべき道」を示したというわけだ。

FeliCaの反省を活かしNFCを推進

キーノートでも地域ごとに異なる電子マネーの課題が指摘されていた。KDDIがNFCを推進するにあたってアライアンスを重視するのには、こうした問題意識も働いているようだ

 キーノート後に行われた囲み取材では、おサイフケータイにFeliCaを導入したことの問題点や、NFCを推進する意図が小野寺氏から語られた。同氏によると、キャリアにとってFeliCaは導入するメリットが薄く、ビジネスモデルが不在になっているという。

「(おサイフケータイの問題は)やるときから分かっていた。要するに、当時はそれなりの値段がするFeliCaチップを我々の負担、最終的にはエンドユーザーの負担で載せたが、我々には何のメリットもない。私はあのビジネスはおかしいと思っている。たとえば、Suicaもカードを買えばデポジットを取られる。それと同じようなシステムを導入しないと問題は大きいと思っていた」

 FeliCaをキャリアが推進しづらいのは、「ソニーさんとドコモさんがすべてを作ってしまったこと」に理由があると語る小野寺氏。

「実は出井さん(当時・ソニー社長)から、うちも入れる約束はもらっていた。ところが、ファイナルにはそうならなかった。3キャリア全部が入っていれば誰も文句は言わなかったが、今の状況では(KDDIとしてやる)意味がない。もうちょっとオペレーターが協調すべき」

 もちろん、現実問題として、FeliCaが普及している中、「それを止めるわけにはいかない」(同氏)。おサイフケータイをスマートフォンで続けているのには、こうした判断が働いているという。au WALLETがプラスチックカード発行になったのも、「ああいう形でやらざるをえない」とする。

 一方で、NFCの決済については「あると思う」と前向きで、先に挙げたように海外キャリアとの連携も進めている。小野寺氏は「日本、香港、台湾とアライアンスを組んでやるのもまさしくそこにある。インターフェイスを全部合わせないと日本で使えて海外で使えないし、それはおかしい」とし、共通プラットフォームの導入でユーザーの利便性を高める必要性を語った。

石野 純也