【Mobile World Congress 2014】
KDDI 山本氏に聞く海外戦略
(2014/2/26 12:45)
スペインのバルセロナで開催されているMobile World Congress(MWC)の会期中、KDDIと台湾の中華電信、香港のHong Kong Telecommunications、韓国のSK Planetは共同でモバイルNFCを使ったサービスの普及と拡大を目的とした「ASIA NFCアライアンス」の設立を発表し、Mobile World Congress内でレセプションを行なった。レセプションにはKDDIから商品統括本部長 執行役員の山本泰英氏が出席している。
また、Firefox OS関連の取り組みでも、KDDIでFirefox OS端末を担当している商品統括本部 商品企画部 商品戦略3グループリーダーの上月勝博氏がバルセロナを訪れており、Firefox OSのカンファレンスに出席している。
今回、バルセロナ滞在中に山本氏と上月氏にインタビューする機会を得たので、海外を含めたKDDIの戦略について話を伺った。
コラボ端末からファブレットまで「選べる自由」
――KDDIはMobile World Congressには出展していません。KDDIとしてバルセロナに来た目的は、ASIA NFCアライアンスとFirefox OSの2つなのでしょうか。
山本氏
もちろん、それ以外にも商談などがありますが、こちらから公表する内容としては、その2つになりますね。
――Mobile World Congressというと、ネットワーク側の設備や技術も展示されていますが、世界中のメーカーによるスマートフォンも展示されます。KDDIでは端末のラインナップはどのように構成しているのでしょうか?
山本氏
大きな話ですが、「選べる自由」をキーワードにしています。定番的なスマートフォンから1月に発売した「LG G Flex」のような個性的なスマートフォンまでをそろえ、選べる自由をご体感いただこうと考えています。
――秋冬モデルは定番的な端末が多かったのに対し、春は隙間を埋めるような端末という印象を受けました。
山本氏
そういう見方もできますね。でも秋冬で見てもらいたいのは「isai」のUIです。あれは「うるさくない」と言うとほかのメーカーに申し訳ないけど、静かなUIになっています。
――isaiのようなコラボモデルは今後も継続するのですか?
山本氏
そのように考えています。
――最近は海外から積極的にグローバル端末を取り込んでいる印象も受けます。たとえば「LG G Flex」もそうですし、「Xperia Z Ultra」などもそうです。isaiのような日本で仕込んだ端末と海外のグローバル端末、それぞれ異なった視点で調達しているのでしょうか?
山本氏
視点が異なるというより、結果的に違ったものになっている、ということも多いかと思います。ファブレットという言葉が根付くかは別として、大きい端末には絶対的な差があります。
――現在はisaiに注力しているようですが、大きめの端末がありつつ、一方でコンパクトなものも展開しています。端末の大中小、どこがボリュームゾーンだと考えていますか?
山本氏
世界的にスマートフォンの画面は大きくなる一方でした。しかしいまは一段落して、大きければよいというほどではない動きになっています。そういった意味では、シャープのコンパクトな狭額縁モデル、あれはシャープと突っ込んだ話をしました。
――アジア圏はファブレットの人気が高いと言われています。しかしそれ以外の地域はそうでもありません。どっちに向かうのでしょう。
山本氏
GALAXY Note 3は女性ユーザーが多いようです。男性はカバンを手に持っていることが多いので、片手でスマートフォンを使う人が多いのですが、女性はカバンを腕にかけてしまうので、両手が使えるので、ファブレットが人気のようです。
小さいから女性向けで、といったざっくりしたことではなく、シーンなどをよく分析すると、大きくても女性が使いやすい、というのが出てくると思います。
Firefox OSは「新しさを実感できるプラットフォーム」に
――Mobile World Congressの話に戻りますが、昨年にMozillaのFirefox OSが発表されてから1年経ちました。Firefox OSは2014年度中という話ですが、最新の情報をお伺いできるでしょうか。
山本氏
基本的に前回の田中の発表から新しい情報はありませんが、基本は“ギーク”な人にまったく新しいデバイスを、と考えています。
――海外で発売されているFirefox OSスマートフォンはAndroidライクなフォルム・使い方という印象です。KDDIも同様の方向性を狙うのでしょうか?
山本氏
「第3のOS」という平面的な話ではなく、まったく違った次元のOSとして、新しいプレーヤーが入ることで実現する新しいこと、それを実感・体感できるプラットフォームにしたいと考えています。
――当初ライバルと思われていたTizenは(NTTドコモの発表・発売延期で)若干つまづいた感があります。Firefox OSはオンスケジュールで進んでいますか?
山本氏
まったくもって無風ということは決してなく、担当の上月は毎日Mozillaと話をしながら進めています。
上月氏
Androidもいろいろありましたが、こちらも茨の道です。でも新しいモノはいつもこんな感じなので「相変わらず」ということです。Firefox OSはテレビなどにも採用されることが決まっています。モメンタムとして順調に人が集まっているかな、と考えています。製品を出さないとエンドユーザーには伝わりませんが、2014年度中に出したいと考えています。
進捗としては、オープンなプラットフォームなのでコントリビューション(貢献・提供)しながら、ということになりますが、セキュリティの向上などに取り組んでいます。新しいプラットフォームなので、設計はよく考えられていますが、KDDI研究所などにも検証に参加してもらって、工夫した方が良いという部分は提言し、支持をいただいています。
――Firefox OS端末はすでに海外では発売されていますが、そうした発売済み端末から持ってくるものはあるのでしょうか。
上月氏
日本は品質など、いろいろなものが異常に高いことも特徴です。ハイエンド端末ならば日本でも使えると思いますが、新しいOSなので楽観視はできないと考えています。
山本氏
たとえば電話帳の読み仮名は日本だけの文化です。そういったかゆい部分にも努力しないといけません。
――確かにほかのスマートフォンプラットフォームも、最初は大変でしたね。
上月氏
そういったところ、地味なところですが、人任せにできないので。
――Androidの経験があることで、最初から見えているポイントもあるのではないでしょうか。電話帳もそうですが、たとえば簡易留守録とかも。
上月氏
留守録は大変でしたね。とくに安心・安全の部分を中心に、フレームワークを変えないといけない部分も出てきます。いくらギーク向けでも、安心・安全は担保してから出したいと考えています。
NFCの普及、海外では“かざす文化”の広がりがカギ
――もうひとつのテーマとしてNFCがあります。Mobile World Congressでは去年からNFCを大々的に採り上げはじめ、ゲートとかにも使っていますが、まだ「来ている」感じがしないです。日本ではFeliCaのおかげで非接触ICは身近ですが、そういった意味では日本と欧米ではギャップが大きいのでしょうか。
山本氏
やはり日本のFeliCaって凄いです。凄い基盤を築きました。ユーザーシーンの中で、かざすという行為が凄く自然になったのはFeliCaの効果が大きいです。海外は“かざす文化”は、あまりありません。
――おサイフケータイのイメージがあるので、非接触IC通信は決済のイメージが強いです。しかしNFCの実用例では機器連携が多い。こうした機器連携のアクセサリをauがセールスポイントにする、というのはあり得ますか?
山本氏
差別化になると思いますよ。たとえばiPhoneは3社が扱っていますが、「このアクセサリがあるからauで買おう」とか、そういった雰囲気作りが大事だと考えています。
――「auだからこのアクセサリが使える」というのが出てきそうですか?
山本氏
実際には難しいと思います。逆にauから買ったアクセサリがどこのiPhoneでも使えるのが自然です。独占販売期間とか、ソフトやアプリでスマートパスと連携できるとか、そういったことができれば、と思います。
端末開発やLTEローミングで海外との連携を図る
――最近、日本のスマートフォンは端末として完成に近づいたかな、とも思っています。あとは海外との連携はどうでしょうか。NFCでアジアと連合を組まれますが、それ以外のサービスや端末の分野で海外と連携するというのは?
山本氏。
やっていかないといけませんね。HTCはよい例です。「HTC J」としてau向けに端末を作りましたが、その後HTCにより台湾や香港でも販売されました。あのようなことをやりたいですし、サービスやNFCとかもそうですけど、「あ、これってよいじゃん、みんなで使おう」というのはやっていきたいですね。
――たとえば防水端末、日本ではずっとやっていますが、去年Xperiaのグローバルモデルも防水になって話題になりました。日本はガラパゴスと言われつつも、リードしている部分もあります。
山本氏
日本から発信するのは良いと思います。アメリカでも防水端末がないわけではありません。しかし防水端末が自然になってはいません。こうした端末とかの部分も含め、大きな意味でアライアンスを組み、世界の中で気持ちよさを一緒に体験できるようなことができても面白いかも知れませんね。
――オリンピックもあり、海外の人が日本に来るという機会が増えてくると思います。そのとき、日本滞在者にauのネットワークを、というのは?
山本氏
CDMAがある意味、障壁になっているとも言えます。やっていることがチグハグになってしまいますが、Wi-Fiのアクセスポイントを一所懸命に設置し、会社としては頑張っています。木に竹を接ぐ対応かも知れませんが、LTEがメインになれば、多少の“方言”はあるかも知れませんけれど、ローミングインは是非ともやりたいと思います。
――技適マークが付いていない端末には日本のSIMカードは挿せない、などの問題があります。ここは変化が必要かな、とも思います。
山本氏
あり得るかも知れません。議論はされていませんが、やはりローミングアウトだけ一所懸命なのは不実です。そこは気持ちを持って対応しないといけないと思います。ローミングは深いですよね。
ローミングをうまく使うという意味で、アジアでいろいろな実験をして、ほかの地域にも、という展開も考えられます。アジアの結果があるなら説得力もあります。
ウェアラブルに注目、米国・西海岸で調査も
――現在はMobile World Congressの開催前ですが(インタビュー時)、海外で面白そうだと思っているモノやサービスはありますか?
山本氏
個人的にですが、米国・西海岸のウェアラブルは凄いですね。なんでこんなものが、と。ネット上のクラウドファンディングでお金が集まるというのが凄い。僕も「SHINE」(au+1 collectionで販売されている活動量計)をつけています。ウェアラブルにはライフログとノーティス(通知)があって、この2つが微妙なバランスを取っていますね。
――auではGALAXY Gear(初代)も扱われていますね。
山本氏
過渡期にはいろいろな製品が登場します。ライフログに絞った製品もあれば、サムスンさんみたいに何でも入れているものもある。遠くない将来、ここにモデムが入りますよね。
――そこは技術革新でサイズが劇的に変わる可能性がありますね。
山本氏
やはり曲がる液晶が安くなってきたら、ずいぶん世界が変わってくると思います。
――ウェアラブル製品の革新速度は上がっているとお考えですか?
山本氏
なんというか、習熟というかこなれたというか、トンでもないモノも出ていますが、トンでもないモノがトンでもなかったモノになりましたね。「これってトンでもなかったアレの進化版なんだ」というように。
――Bluetoothヘッドセットは1万円を切ったあたりからこなれてきて、受け入れられるようになりました。そういったトリガーがウェアラブルにもありそうですね。
山本氏
よく(社長の)田中と話をして、僕がモノを仕入れてきて田中に使ってもらうのですが、たいていは3日持たないのです。「お願いだから1週間使ってくれ」と言っているのですが。ライフログがちゃんと蓄積しないと、ウェアラブルの妙ってのがわからない、3日でやめるとウェアラブルって面白くないですが、1週間以上使えば、面白くなってくる。
ここも技術の進化で使い勝手が変わってくるとは思います。スケジューラにつながるとか、必ずアプリが変わっていきます。去年の活動量計は走ったことしかわからず、毎日しっかり寝ていることになっていたのが、センサーや解析技術の進化で、自分がやったことがキレイに過去のスケジューラと重なったりする。そうなると、次のスケジュールで空き時間があるからこれをしましょう、みたいなレコメンドもできるようになります。
――運動不足のときなどに良さそうですが、しかし毎日忙しいときにレコメンドされるのはイヤかも知れませんね。
山本氏
アメリカなんかだと問題なさそうですが、日本だとうっとうしいと言われます。日本向けのレコメンドのやり方があると思います。
――ずいぶん具体的ですが、実際に提供するサービスのイメージがあるのでしょうか?
山本氏
いや、そこはまだですが、こういったものが西海岸で出ているな、と。
――日本ではベンチャーを支援されていて、西海岸でも支援をされています。狙いはそういったところなのでしょうか?
山本氏
高橋誠(KDDI専務)がインキュベーション部隊をダウンタウンに持ち、会社を買ったり出資したりしています。イベントなんかもやっています。それとは別に、僕のところの部隊を1人、ダウンタウンではなくサニーベール、研究所のところに寄せて、ウェアラブルの面白いのを持ってこい、っていうのをやらせています。
1人だけなんで、小さな一歩ではありますが、しっかりと選んだ人材を送るのは大変です。KDDIが西海岸に興味を持っているという具体例ですね。
――西海岸で見つけたウェアラブル製品などは、そのまま持ってくるのでしょうか。それともisaiのように日本向けにカスタマイズするのでしょうか。
山本氏
両方あると思います。グローバルな定番をやるのも、じっくり煮て焼いて出すのもある、と。また、ここでも選べる自由というのが根底にあります。
――本日はお忙しいところありがとうございました。