石野純也の「スマホとお金」

楽天モバイルが発表した料金プラン「Rakuten Turbo」とは? その料金を徹底解説

 楽天モバイルが唐突に発表した「Rakuten Turbo」は、いわゆるFWA(Fixed Wireless Access)と呼ばれる分野のサービス。ホームルーターの「Rakuten Turbo 5G」と組み合わせて利用するためのもので、据え置きで使うことが前提になっています。こうしたサービスは、光回線を引けなかったり、一人暮らしなどで光回線を引くのが割高だったりするような場面で重宝されています。今回は、このRakuten Turboの料金を解説していきます。

楽天モバイルが1月26日に発表したホームルーターのRakuten Turbo 5G。専用料金のRakuten Turboで利用できる

光回線に近い料金設定、値引きの仕組みに分かりづらさが残る

 料金プランのシンプルさを売りにしている楽天モバイルですが、Rakuten Turboは既存のスマホ向け料金と比べると、やや複雑です。いわゆる定価と言える通常の金額は月額4840円。

 ただし、契約から最初の3年は1155円の割引が適用され、金額は3685円まで下がります。光回線は住んでいる住宅の形態によって料金が異なりますが、同じ楽天モバイルが提供する「楽天ひかり」の場合、マンションなどの集合住宅は4180円、戸建ては5280円かかるため、後者の場合は、Rakuten Turboの方が割安と言えるでしょう。特に最初の3年間は、Rakuten Turboの優位性が際立ちます。

料金は4840円だが、3年間割引が適用され、3685円まで下がる
料金水準は、光回線に近い。割引前の価格は、楽天ひかりのマンションプラン以上、ファミリープラン以下

 とはいえ、Rakuten Turboを契約しただけでは、通信ができません。利用には、このサービスとセットになる、Rakuten Turbo 5Gという端末も必要になります。

 こちらの価格は4万1580円。24回払いだと月々1732円、楽天カードのみの48回払いだと月々866円の端末代がかかります。実は、上記の割引は、3年合計で4万1580円。割賦が2年か4年、割引が3年と期間が異なるため、非常にややこしいことになっていますが、3年使ってならすと、端末代は実質無料、通信費は月額4840円になります。

Rakuten Turbo 5Gの本体価格は4万1580円。3年間受けられる割引の合計と同額だ。24回払いと48回払いを選べるが、後者は楽天カード限定

 ちなみに、2年の分割払いだと、最初の2年間は端末価格が割引額を上回ってしまいます。3年目は支払額が楽天モバイルの表記しているとおり、3685円ポッキリになりますが、4年目以降は正規の4840円に上がってしまいます。48回払いだと、3年間は4551円、4年目は5706円に上がり、5年目から4840円の通常料金だけになります。契約している年数で金額が変わってしまうのは毎月の支払いを管理しづらいため、やはり割引が3年なら、端末も3年の分割払いにしてほしかったのが正直なところです。

通信料と端末価格、割引の合計金額。分割払いの期間と割引期間が一致していないため、24回、48回のどちらも料金が年によって変動する。24回払いは4年目から、48回払いは5年目から正規料金のみに

 光回線との価格差は住宅の形態によりますが、金額には換算できない“手軽さ”があるのも、こうしたFWAサービスの魅力です。これは他社も同様ですが、光回線は、ケーブルを各家庭までつなげなければならず、どうしても工事に手間や時間がかかります。混雑時などは、申し込んでもすぐに開通ができないことも。これに対し、Rakuten TurboのようなCPEであれば、店頭やネットで購入して、電源につなぐだけ。配線不要ですぐに使い始められるのは、FWAのメリットです。

 もっとも、モバイルネットワークを利用しているため、光回線より速度は不安定になりがち。周囲に楽天モバイルのユーザーが集まってしまったときには、通常より速度が落ちてしまうことが考えられます。

 また、仕様上、モバイルネットワークはどうしても上りの速度が遅くなります。上りは端末側から電波を発しなければならず、出力に限りがあることに加え、歴史的経緯として、モバイルネットワークはどちらかと言えば、下り側に帯域なり時間なりが割り当てられてきたからです。Rakuten Turboも上りは最大で76Mbps。時間や場所によっては、スループットがさらに低下することが予想されます。利用時には、こうしたデメリットがあることも認識しておきましょう。

UN-LIMIT VIIより割高な謎の金額設定、ルーターの仕様は豪華だが……

 光回線と比べると妥当な金額のようにも思えるRakuten Turboですが、同じ楽天モバイルの提供する「UN-LIMIT VII」と比べると、少々割高感があるのも事実です。

 Rakuten Turboは最初から無制限、UN-LIMIT VIIは20GBを超えると次は無制限になりますが、前者が4840円なのに対し、後者は3278円と、1562円も割安です。Rakuten Turboの割引後料金である3685円と比較しても、まだUN-LIMITの方が407円安い計算。しかもUN-LIMIT VIIは、これが正規の料金のため、4年目以降もずっと3278円で使えます(プラン変更で値上げしなければ)。

UN-LIMIT VIIは上限でも3278円。しかも国際ローミングやパートナー(KDDI)回線まで利用でき、Rakuten Linkを通じた音声通話も無料だ

 用途が違うとはいえ、どちらもモバイルネットワークであることに変わりはなく、容量は無制限です。確かに、通常の楽天モバイルには、いわゆるホームルーターがラインナップされていないため、Rakuten Turbo 5Gを使おうと思ったらRakuten Turboを契約するしかないのですが、端末の違いだけでここまで料金が変わってくるのは腑に落ちないところ。UN-LIMIT VIIのSIMカードを、別のところで買ってきたSIMフリーのホームルーターに挿せば、安く使えてしまうからです。

 楽天モバイルにも、持ち運び可能なモバイルWi-Fiルーターがラインナップされており、セット値引きで実質0円になっている製品もあります。確かにホームルーターは、サイズが大きいぶん、接続できる機器が多かったり、電波のつかみがよかったり、さらにはWi-Fiのスペックが高かったりといったメリットはありますが、特に一人暮らしで身の回りのスマホやPC、タブレット程度をネットにつなぎたい場合には、モバイルWi-Fiルーターで十分だったりもします。通信費の高さを補えるほどの魅力かと聞かれれば、そうではないのが実情と言えるでしょう。

楽天モバイルは、モバイルWi-Fiルーターもラインナップしている。一人暮らしなどで、それほど家が広くなければこちらでも十分だ
Rakuten Turboのスペック。確かに機能的には、モバイルWi-Fiルーターより豪華だが、そのぶん通信料が高くなるのはげせない

 しかも、Rakuten Turboには、他社のホームルーター向け料金プランにあるような「セット割」が存在しません。UN-LIMITとRakuten Turboを2回線契約しても、単に料金が足し算になるだけというわけです。これなら、仮に楽天モバイル回線でホームルーターを持ちたいとしても、UN-LIMIT VIIで十分と言えるでしょう。楽天モバイルは、1人あたり契約できる回線数の上限を10回線まで引き上げたばかり。一般的なユーザーであれば、スマホとルーターをともにUN-LIMIT VIIで契約した方が安くついてしまいます。

 料金設計的に、新規のユーザーはもちろん、既存の楽天モバイルユーザーが持つメリットが乏しくなっていると言えるでしょう。Rakuten Turboは、光回線の料金や他社のホームルータープランの料金に引っ張られすぎているような気がしてなりません。大胆な価格設定で攻めている“楽天モバイルらしさ”が薄いと言い換えることもできそうです。

他社のケースは? セット契約のモチベーションを上げる割引も必要か

 他社の場合、ホームルーターの料金は、スマホより安いのが一般的。しかも、スマホと一緒に持つと、光回線と同等とカウントされ、割引が適用されます。そのキャリアを契約していないユーザーが新規で契約してもよし、既存のユーザーがセット割を目的に1回線追加してもよしといった形で、選びやすい料金体系になっていることが多い印象です。

 たとえば、ドコモの場合、「home 5G」の料金は「home 5G プラン」になり、スマホ向けの「5Gギガホ」とは別建てになっています。home 5G プランの料金は4950円。Rakuten Turboよりわずかに高めですが、その差は110円で、ドコモ回線としては割安感があります。これに対し、5Gギガホは各種割引適用前で8415円。5Gギガホを契約したSIMカードはルーターにも挿せますが、この金額だと、あえてそれをする必要はなくなります。

ドコモのhome 5G プラン。スマホ向けの5Gギガホより金額は安く、4950円に設定されている

 しかも、「home 5G プラン」を契約すると、「home 5G セット割」の対象になり、「ギガライト」などを含むギガプランが最大1100円割引されます。既存のドコモユーザーが契約するなら、他社のホームルーターよりもhome 5Gを選んだ方がいいというわけです。5Gギガホとhome 5G プランの合計額は、割引適用後で1万978円。対するUN-LIMIT VIIとRakuten Turboの合計は8118円(4年目以降)と、まだ楽天モバイルの方が割安ですが、スマホ用の料金プラン同氏を比較した際の圧倒的な金額差ではなくなってしまいます。

スマホとセットで持つと、月1100円の割引が適用される。家族が多ければ、そのぶん適用額が上がるのも魅力だ

 KDDIやソフトバンクも、こうした構造は同じ。細かな金額の違いはありますが、ホームルーター向けの料金はスマホ向けより安く、主回線であるスマホ向け料金プランとのセット割も適用されます。キャリアによっては、家族割引の適用範囲が広く、ホームルーターを1台契約するだけで、家族だけでなく、離れて住む親族まで割引されるメリットもあります。

 こうした結果になってしまうのは、皮肉なことにUN-LIMIT VIIが安すぎるためと言えるかもしれません。ただ、楽天ひかりにも、楽天モバイルとのセット契約で1年目の料金が無料になる割引があり、Rakuten Turboよりもセット契約のモチベーションが高くなる設計です。固定回線の代替としてサービスを打ち出すのであれば、やはりこのようなセット割も用意しておくべきだったような気がしています。

実は楽天ひかりも、キャンペーンでUN-LIMIT VIIとのセット割引を提供しており、固定回線側の料金が1年無料になる
石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya